澤田直彦
監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 代表弁護士
IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「動画投稿サイトユーザーの著作権侵害に関するサイト運営者の責任とは」
について、わかりやすく解説します。
動画投稿と著作権侵害とは
動画投稿サイトに投稿された動画が他社の著作権を侵害するものであった場合のサイト運営者である貴社の法的責任を考える前提として、そもそもユーザーが著作権者の許諾なしに動画をアップロードしたユーザーの責任を確認しておきましょう。
ユーザーの投稿する動画は、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)と定義される著作物に該当するため(著作権法10条1項7号、2条3項)、その創作者である著作者(著作権法2条1項2号)は著作権を有しています。
具体的には、動画投稿との関係では著作物を自由に複製できる複製権(著作権法21条)やインターネット等で自由に配信できる公衆送信権(著作権法23条1項)の侵害が問題となり得ます。
そして、動画投稿サイトへの動画の投稿は、複製および公衆送信にあたりますから、著作権者の許諾なしに行うことは著作権侵害となります。そのため、著作権者の許諾なしに違法に動画をアップロードした場合にはユーザーが責任を負うことになります。
動画投稿サイトの運営者の責任
では、ユーザーが著作権侵害にあたる動画の投稿を行った場合、動画投稿サイトの運営者である貴社は如何なる法的責任を負うのでしょうか。
たしかに、著作権者の許諾なしに動画を投稿したのはあくまでユーザー自身であってサイト運営者ではありませんから、そのことから直ちに貴社が法的責任を負うことはありません。
しかし、著作権侵害にあたる動画が多数投稿され、著作権侵害の蓋然性を当然に予想でき、現実に認識していたにもかかわらず、当該動画を削除することなく放置していたような場合には、そのような放置行為が著作権侵害の不法行為にあたるとして法的責任を問われることになりますので注意が必要です。
ここで、重要な裁判例として知財高判平22・9・8判タ1389・324を事例に見ておくことにします。
事案は、音楽著作物の著作権等管理事業者であるXが、動画投稿サイトを運営していた株式会社Yに対し、多数の著作権侵害の動画が投稿されているにもかかわらず削除等の方策を講じずに放置し、Xの管理著作権物をYのサーバの記録媒体に複製し又は公衆送信する形で当該物の著作権を侵害したとして、差止めと損害賠償請求をしたというものです。
知財高裁は、「ユーザによる複製行為により、本件サーバに蔵置する動画の中に、本件管理著作物の著作権を侵害するファイルが存在する場合には、これを速やかに削除するなどの措置を講じるべきである」とし、Yはユーザーの複製行為を誘引して複製権を侵害した多数の動画が投稿されているのを知りながら削除等をせずに放置した行為によって著作権を侵害したと言えることから、Xの請求を認めました(Y敗訴)。
このように、著作権侵害の動画が投稿されているにもかかわらず、削除等の措置を講じずに放置した場合には、動画投稿サイトを運営する側も著作権侵害とされることがある点に留意してください。
なお、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法)3条1項は、動画投稿サイトの運営者が「情報の発信者」でなく、かつ、「当該関係役務提供者が当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知っていたとき」(同項1号)、あるいは、「当該関係役務提供者が、当該特定電気通信による情報の流通を知っていた場合であって、当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき」(同項2号)にあたらない場合には、上記情報の流通による責任を負わないとしています。
つまり、「情報の発信者」にあたらない動画投稿サイトの運営者が同項の要件を満たす場合にはユーザーの違法な動画のアップロードについて法的責任を負わないこととなります。
もっとも、上記裁判例は、動画投稿サイトの運営者であるYは著作権侵害を誘引・招来・拡大させ、かつ、そのことによって利益を得た者であるから、同項にいう「発信者」(プロバイダ責任制限法2条4号)にあたるとしており、Yについて上記の免責を否定しています。
このことからしますと、プロバイダ責任制限法による免責があるからと言って安心することはできず、上記の法的リスクを回避するための方策を講じることが重要となります。
リスク回避のための方策
以上を踏まえたうえで、動画投稿サイトの運営者が法的リスクを回避するための具体的な方策について、事前・事後に分けて紹介することにします。
まず、事前の方策としては、
②JASRAC等の著作権管理業者等から著作物の利用に関する包括的な利用許諾を得る、
③動画をアップロードする際に著作権侵害の動画を投稿できないというルールをポップアップで表示したり、フィンガープリント等を活用したりして権利侵害にあたる動画が投稿されないようにする
といったものがあげられます。
具体的には、
①に関しては、利用規約で著作権侵害の動画を投稿しないように明示的に注意喚起するという方法が考えられます。たとえば、次のような条項を利用規約や契約約款等に記載しておくとよいでしょう。
(禁止事項)
第1条 契約者は、本サービスを利用して、次の行為を行なわないものとします。
(1)当社もしくは他者の著作権、商標権等の知的財産権を侵害する行為、または侵害するおそれのある行為
※一般社団法人テレコムサービス協会「違法・有害情報への対応等に関する契約約款モデル条項」
2020年9月29日最終閲覧より引用
また、動画をアップロードする際に著作権侵害でないことをチェックマーク等で確認させるという方法も有効です。
②については、JASRAC等の著作権管理業者等から著作物の利用に関する包括的な利用許諾を得れば、たとえば、ユーザーがアイドルの音楽を使ってパフォーマンスをしたなどの動画をアップロードしても適法となります。
ただし、これらの団体は著作者自身の有する著作権は管理しているものの、他人が創作した表現を実演等する者に認められる著作隣接権までは管理していない点に注意が必要です。
たとえば、カラオケの音源を使用する場合、作曲者等の著作権者のほかに、当該楽曲を演奏したアーティストにも著作隣接権が認められているため、前者の権利のみを管理しているJASRAC等の許諾のみではなく、後者の権利を管理しているレコード会社の許諾も得る必要があります。
③に関しては、まず、動画をアップロードする際に著作権侵害等の違法動画の投稿を禁止する旨をポップアップで表示させることで、投稿者に注意を促して違法アップロードを抑止するといった方法が考えられます。
また、権利者にあらかじめオリジナルの映像や音声等のデータを登録してもらい、投稿動画が登録されたデータと同一内容や改ざんされたものかを自動的にチェックして違法な動画が投稿されないようにするという技術的な手法(フィンガープリント)を活用するという方法もあります。
これは、著作権者に提供してもらった映像や音声の波形を電子的にパターン化し、アップロードされた動画と照合して同一と判断された場合には自動的にアップロードさせないというシステムです。
もっとも、違法アップロードかどうかを自動的に識別して排除できる点は優れていますが、コンテンツの権利者がデータを提供しなければならない点に問題があります。
このように、違法な動画がアップロードされないように事前に方策を講じることが重要となりますが、あわせて違法な動画の投稿が事後的に明らかとなった場合の方策を検討しておく必要もあります。
事後の方策としては、
❺定期的にアップロードされている動画を確認して著作権侵害の疑いがある動画は削除する、
❻著作権侵害の動画を投稿したユーザーのアカウントを停止する
といったものがあります。
❺・❻の内容については明確かと思いますが、
❹について一言しておきますと、具体的には、権利者からの削除要請を受け付ける窓口を設け、著作権侵害の事実があるとわかった場合には速やかに削除するといった方策が考えられます。
この場合、権利侵害の有無を判断する方法としては、たとえば、権利侵害を申し出た者に対して著作権者であることを証明する書面の提出や侵害情報の特定に関する情報の提供を求めるといった方法が考えられます(具体的な内容については、プロバイダー責任制限法関連情報webサイト「プロバイダ責任制限法著作権関係ガイドライン」8ページ以下を参照)。
また、❺については、たとえば、国内のテレビ番組や映画等の作品が非公式に投稿されていれば著作権を侵害していると明確に判断できる場合が多いでしょう。
なお、海外の作品のように著作権侵害が明確に判断できない場合に投稿動画を削除すべきなのかも問題となります。
しかし、著作権侵害が疑われる場合には投稿動画を削除するのが得策です。
なぜなら、ウェブサイトの管理者がネット上に投稿された情報の削除や非表示措置を行っても、「他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由」がある場合、または、自己の権利を侵害されたとする者から侵害情報の送信を防止する措置(送信防止措置)を講じるように申出があり、発信者に送信防止措置を講じることに同意するかの照会をしたにもかかわらず、7日を経過しても発信者から送信防止措置に同意しない旨の申出がなかった場合には免責されるからです(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律3条2項)。
また、事前に利用規約や契約約款等で権利侵害のおそれがある場合には投稿を削除できると規定しておけば、契約によって当該規定に拘束力が生じるため、削除された者から訴訟されるリスクを低減することが可能です。
たとえば、下記のような条項が考えられます。
(情報等の削除等)
第3条 当社は、契約者による本サービスの利用が第1条(禁止事項)の各号に該当する場合、当該利用に関し他者から当社に対しクレーム、請求等が為され、かつ当社が必要と認めた場合、またはその他の理由で本サービスの運営上不適当と当社が判断した場合は、当該契約者に対し、次の措置のいずれかまたはこれらを組み合わせて講ずることがあります。
(1)第1条(禁止事項)の各号に該当する行為をやめるように要求します。
(2)他社との間で、クレーム等の解消のための協議を行うよう要求します。
(3)契約者に対して、表示した情報の削除を要求します。
(4)事前に通知することなく、契約者が発信または表示する情報の全部もしくは一部を削除し、または他社が閲覧できない状態に置きます。
※一般社団法人テレコムサービス協会「違法・有害情報への対応等に関する契約約款モデル条項」
2020年9月29日最終閲覧より引用
まとめ
本記事の内容をまとめますと、基本的には違法な動画を投稿したユーザーが法的責任を負うものの、著作権侵害にあたる動画が多数投稿され、著作権侵害の蓋然性を当然に予想でき、現実に認識していたにもかかわらず、当該動画を削除することなく放置していたような場合には、動画投稿サイトの運営者である貴社も責任を負う場合があることに注意してください。
そのため、ユーザーによる違法な動画のアップロードがないように事前の措置を講じ、仮に違法な動画投稿を発見した場合には削除等の対策を講じることが重要となります。
具体的な方策の内容については、下記の図をご参照ください。
また、各種ガイドラインは、総務省、「プロバイダ(サイト管理者等)の方へ」、2020年9月29日最終閲覧でまとめられておりますので、適宜ご参照ください。
事前の方策 |
①著作権侵害にあたる動画を投稿しないように注意喚起を行う ②JASRAC等の著作権管理業者等から著作物の利用に関する包括的な利用許諾を得る ③事前に権利侵害にあたる動画が投稿されないようにする(Ex. 違法な動画のアップロードをしないようポップアップで警告表示をする、フィンガープリントといった技術を活用する) |
事後の方策 |
❹権利者から著作権侵害との指摘を受けた動画を速やかに削除する →権利侵害を申し出た者の提出した証拠(プロバイダー責任制限法関連情報webサイト「プロバイダ責任制限法著作権関係ガイドライン」8ページ以下を参照)から判断、プロバイダ責任制限法3条2項による免責あり ❺定期的にアップロードされている動画を確認し、著作権侵害の疑いがある動画を見つけた場合は動画を削除する →テレビ番組や映画等で公開されている作品が非公式にアップロードされていないか等をチェック ❻著作権侵害の動画を投稿したユーザーのアカウントを停止する |
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