澤田直彦
監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所
代表弁護士
IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「著作権を引用するときに気をつけるべきポイント」
について、詳しく解説します。
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引用とは
著作権法上の問題
利用しようとしている写真が、第三者の著作物の場合には、この写真を利用するためには原則として著作者本人の許諾が必要となります。
【著作物かどうか】
利用している写真の内容によっては、著作物性がないものである可能性があり、その場合には著作権法の適用を受けません。
もっとも、弁護士を介さずに現場で個別に著作物性を判断するのは困難であるため、記事内で扱う写真はすべて著作物として扱うべきであると考られます。
また、自社の社員が職務上撮影した写真については、職務著作として会社に著作権が発生する可能性があり、この場合には会社がその写真を利用しても著作権法上の問題が生じることはありません。
他方で、第三者が撮影した写真についても、撮影者本人の許諾を得ている場合で、当該許諾の範囲内で利用する分には著作権法上の問題は生じません(著作権法第63条)。
例えば、有料画像についてお金を払って利用する場合やフリー素材を利用する場合も、許諾を得ているといえることになり、違法とはなりません。
次に、第三者の著作物であっても、著作権法に規定される「引用」(著作権法第32条)に該当するのであれば適法な使用となります。(公表されている論文、参考文献、報告書など)
- 著作権法 第三二条
公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。
たとえ他人の著作物であったとしても、この規定に従って引用する限り、当該著作物の著作者から利用許諾や著作権の譲渡を受けることなく無断で利用することができます。
そして、上記著作権法第32条1項に規定されている要件を整理すると
- 公表された著作物であること
- 公正な慣行に合致するものであること
- 報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものであること
の3要件を満たすことが必要となります。
以下、各要件の詳しい説明をしていきます。
公表された著作物であること
まず、1の要件は、「公表」されているかがポイントとなります。
著作物の公表とは、著作物が発行され、または著作権者の許諾を得て上演、演奏、上映等の方法で公衆に提示された場合をいいます(誰でもアクセスできるウェブサイトに掲載されている場合も含みます)。
公衆には、不特定の者のみならず、特定かつ多数の者も含むと規定されている(法2条5項)のですが、一般的に世に出回っている著作物であれば当該要件を満たすことになります。
プライベートな姿を盗撮した写真や友人間で記録のために撮影したものである場合には上記1の要件を満たさないこととなるので、注意が必要となります。
公正な慣行に合致するものであること
次に、2の「公正な慣行」については一般的な基準はなく、著作物の種類や引用の目的等に照らして、社会通念上妥当であるか否かにより判断されます。
報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものであること
3の「引用の目的上正当な範囲」について
この要件について、かつて判例は、「著作権法32条に規定する『引用』にあたるというためには、引用を含む著作物の表現形式上、引用して利用する側の著作物と、引用して利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ、かつ、右両著作物の間に前者が主、後者が従の関係があると認められなければならない」という明瞭区別性と主従関係という2要件をもって要件該当性を判断していました(最判昭和55・3・28、モンタージュ写真事件上告審(民集34巻3号244貢)。
もっとも、近時の裁判例の中には、条文の文言との関連性に乏しいことなどを理由として、上記2要件に言及することなく、他人の著作物を利用する目的のほか、その方法や態様(量的・質的)、利用される著作物の種類や性質、当該著作物の著作権者に及ぼす影響の有無・程度などを総合考慮して3の要件を判断しようという判断手法が用いられているものもあります(知財高判平成22・10・13、絵画鑑定証書事件(判時2092号135貢))。
つまり、この判断手法では、3の要件は、引用の「目的」、「効果」、「採録方法」、「利用の態様」等の要素を総合考慮して判断されることになります。
今回は、ニュース記事を配信・ウェブサイトに掲載する際の引用ということで、それが報道目的であるのであれば、当該目的は著作権法第32条1項で「引用の目的上正当な範囲」の一例として規定されているため問題はありません。
ニュース記事を配信するにあたって、その内容をよりわかりやすく伝えるためには写真の利用の必要性も認められると考えるためです。
もっとも、当該写真の利用の方法、態様には注意すべきであると考えます。
注意すべき点としては
- 報道目的の域を超える人格攻撃のために写真を利用しないこと。
- 記事と関連性のないと判断されるような写真を利用しないこと。
- 写真が記事の補足的位置づけであること。
が挙げられます。
また、写真の一部を掲載するといったような「改変」を施して掲載する場合には、「やむを得ないと認められる」程度の改変(著作権法第20条2項4号)であれば、出所を明示・明記して掲載することができると考えます。
「やむを得ないと認められる」かどうかは、著作権法第20条2項1号から3号に列挙された場合と同程度の改変の要請が認められる必要があります。
- 著作権法 第二十条
1 著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。
2 前項の規定は、次の各号のいずれかに該当する改変については、適用しない。
一 第三十三条第一項(同条第四項において準用する場合を含む。)、第三十三条の二第一項、第三十三条の三第一項又は第三十四条第一項の規定により著作物を利用する場合における用字又は用語の変更その他の改変で、学校教育の目的上やむを得ないと認められるもの
二 建築物の増築、改築、修繕又は模様替えによる改変
三 特定の電子計算機においては実行し得ないプログラムの著作物を当該電子計算機において実行し得るようにするため、又はプログラムの著作物を電子計算機においてより効果的に実行し得るようにするために必要な改変
四 前三号に掲げるもののほか、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変
一号の例としては、児童の年齢に応じて学校教育上やむを得ない場合、たとえば、漢字を仮名表記にしたりする場合があげられます。
二号で想定されているのは、経済的・実用的観点から必要な範囲での増改築であり、個人的な趣味・嗜好に基づく改変は二号には該当しません。
三号については、機能付加のための修正(ヴァージョンアップ)などが例として考えられます。
そして、四号の適用が認められた例としては、ビスタサイズで撮影された映画をテレビ放送する際のトリミング、CM挿入、があります(東京高判10・7・13、スウィートホーム事件 )。
その他の権利についての問題
自社で撮影した写真を使う場合や、上記の引用の要件を満たす場合であっても、人物の写真をウェブサイト上に掲載する場合には、その写真の被写体である人物の肖像権、プライバシー権及びパブリシティ権にも留意する必要があります(ただし、インタビュー記事等、本人の許諾がある場合は問題ありません)。
被写体が政治家や芸能人である場合には、一般人と比べて肖像権やプライバシー権について、その保護される範囲は狭くなるものと解されていますが、撮影場所や撮影状況によっては、肖像権、プライバシー権侵害となることもあります。
また、被写体が芸能人である場合において、その写真を営利目的で商用利用する場合には、当該芸能人のパブリシティ権侵害も問題となるので、注意が必要です。
時事の事件の報道のための利用について
著作権法第32条とは別に、時事の事件の報道のための著作物の利用については、著作権法第41条によって認められており、要件を満たすのであれば、「報道の目的上正当な範囲内において」利用することができます。
- 著作権法 第四一条
写真、映画、放送その他の方法によって時事の事件を報道する場合には、当該事件を構成し、又は当該事件の過程において見られ、若しくは聞かれる著作物は、報道の目的上正当な範囲内において、複製し、及び当該事件の報道に伴って利用することができる。
そして、実務上求められる要件を整理すると
- 「時事の事件」の報道ということができるか。
- 「当該事件を構成し、又は当該事件の過程において見られ、若しくは聞かれる著作物」といえるか。
- 「報道の目的上正当な範囲内」の利用といえるか
の3要件を満たすことが必要となります。
「時事の事件」の要件について
当該規定の適用があるかどうかについては、まず、「時事の事件」にあたるかが問題となります。これについては、単なる過去の記録ではなく、その日におけるニュースとしての価値を持つ出来事であることが必要となります。
裁判例では、国立西洋美術館でピカソ絵画を含む印象派画家の絵画が展示されるという報道を新聞紙上にて行うにあたり、ピカソ絵画を複製して掲載したことにつき、時事の事件の報道にあたると判示しています(東京地判平成10・2・20、バーンズコレクション事件、判タ974号204貢)。
「当該事件を構成し、又は当該事件の過程において見られ、若しくは聞かれる著作物」の要件について
「事件を構成する著作物」とは、当該事件の主題、核心となっている著作物をいいます。
具体例として、暴力団に対する一斉摘発に関する時事の報道において、取り締まりの対象となった暴力団組長の継承式の模様を撮影したビデオ映像をTBSが報道番組で使用したことについて「当該事件を構成する著作物」にあたるとした裁判例があります(大阪地判平成5・3・23、判時1464₋139、TBS事件)。
「当該事件の過程において見られ聞かれる著作物」については、事件を視聴覚的に報道しようとすれば不可避的に利用される著作物のことをいいます。
例えば、甲子園などの報道において、入場行進曲の音楽が流れるような場合がこれにあたります。
今回は、政治家や芸能人の写真を利用するということなので、作成する記事と上記のような関連性のある写真であるのかという点をチェックするとよいと思います。
なお、時事の事件の報道は、条文上、「写真、映画、放送、その他の方法」によって認められ、「その他の方法」に自動公衆送信も含むと考えられますので、今回のようにインターネット上で時事の事件と関係のある著作物を掲載することは、報道の目的上正当な範囲で許されます。
「報道の目的上正当な範囲内」にあたるか
上記の要件については、具体的な利用態様に照らし、著作物の本来的な利用である観賞目的と衝突しないかによって判断されます。
具体的には、画質や画像の大きさから、「時事の事件の報道に名を借りた観賞用の写真掲載である」といえる域まで達していると判断される場合や、「新聞社が掲載した写真をそのままコピーして自社の新聞に掲載するような場合」には、「正当な範囲内」とはいえないことになります。
裁判例では、新聞紙上に約10センチ×6センチのピカソの絵画の写真が、通常の新聞紙の紙質で掲載された場合(上記バーンズコレクション事件)、7分間の報道中4分10秒にわたってビデオが流された場合(上記TBS事件)、いずれも「正当な範囲内」にあたると判断されました。
著作権法41条に関するまとめ
41条に基づいて写真を利用する場合に注意するべきポイントとしては
- 記事の内容について、その日におけるニュースとしての価値があるかどうか。
- 利用しようとしている写真が作成する記事と関連性のある写真といえるのか。
- 使用する写真の画質やその大きさの利用態様。
があげられます。
なお、本条に基づいて写真を利用する場合にも、出所を明示する慣行がある場合には、出所の明示が義務付けられることになりますのでご留意ください(著作権法第48条1項3号)。
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