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法律とメタバース⑥【ビジネス × 資金決済法と金融規制】

Q 
メタバースにおいて行われる経済活動についても、現実の世界と同じように資金決済法や金融商品取引法などの金融規制が適用されるのでしょうか?
メタバースにおける、金融規制や注意点について教えてください。

A 
資金決済法や金融商品取引法などの金融規制は、基本的には現実世界の経済活動を前提としていますが、インターネット上での取引や新しい決済方法に対応するような改正や規制の追加もされています。
メタバース上の経済活動についても、現実世界の経済活動と同様に解して規制すべき場合もあり、また、新たな規制に対応する必要がある場合もあります。
電子マネーや暗号資産等の決済手段の取扱い、仮想のデジタルアイテムや仮想の土地・建物、またはそれを紐付けたNFTなどの取扱いに際し、それぞれ規制対象となるのかを個々に検討していく必要があります。
  
さらに、メタバース上での金融サービスの提供に当たっては、アバターを通じて活動するというメタバースの匿名性が問題となってきます。
  
本記事で詳しく説明します。
※なお、以下では日本の法令が適用される場合を前提として説明します。


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 
代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を運営し、各種法律相談を承っております。

本記事では、
「法律とメタバース⑥【ビジネス × 資金決済法と金融規制】」
について、詳しく解説します。

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メタバースにおける金融規制

メタバースでは、仮想のデジタルアイテムや仮想の土地・建物などが経済的価値を持ち、デジタルマネーや暗号資産などを利用して売買するような取引が行われることが予想されます。
このような経済活動に対し、どのような金融規制が想定されるのでしょうか。

次のような場面を検討してみましょう。

メタバースを運営する事業者Xが、メタバース上の仮想デジタルアイテムの剣を紐付けたNFTを、販売します。
この場合、どのような金融規制が想定されるでしょうか?
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トークンの金融規制

メタバースでは、本問のように、事業者が発行するトークンを決済手段として、メタバース上の資産が取引されることが想定されます。
事業者がトークンを発行する場合、資金決済法による規制の有無を検討する必要があります。

金融規制の一つである資金決済法は、資金決済に関するサービスの適切な実施を確保し、その利用者等を保護するとともに、当該サービスの提供の促進を図り、資金決済システムの安全性効率性及び利便性の向上に資することを目的としています(資金決済法1条)。

資金決済法は、ステーブルコイン等、決済手段の多様化を受けて、2022年6月10日、「安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」(以下「改正法」といいます)が公布され、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行することとなっています。そのため、改正法も踏まえて説明します。

改正法によれば、トークンの価値が法定通貨に連動するか否かによって、規制内容が異ってきます。

①事業者発行トークンの価値が法定通貨と連動しない場合(A①)

事業者X発行のトークンは、Xが運営するメタバース内の店舗だけで使用できる仕組みの場合のように、不特定の者に対する代金の支払に使用できない仕組みになっている場合を除き、暗号資産にあたると考えられます(資金決済法2条5項)。

暗号資産を発行する事業者Xは、暗号資産交換業登録が必要となります(資金決済法2条7項、同63条の2)。

暗号資産というと、ビットコインイーサリアムなどが有名ですね。
暗号資産は、国家やその中央銀行によって発行された法定通貨ではありません。「暗号資産」は、インターネット上でやりとりできる財産的価値であり、「資金決済に関する法律」において、次の性質をもつものと定義されています。

  • ⅰ 不特定の者に対して、代金の支払い等に使用でき、かつ、法定通貨(日本円や米国ドル等)と相互に交換できる
  • ⅱ 電子的に記録され、移転できる
  • ⅲ 法定通貨または法定通貨建ての資産(プリペイドカード等)ではない

(日本銀行「暗号資産(仮想通貨)とは何ですか?」)

X発行のトークンは電子的に記録され、移転可能と考えられますのでの要件は満たし、また、法定通貨や法定通貨建ての資産でもないための要件も満たします。

しかし、X発行のトークンが、Xが運営するメタバース内の店舗だけで使用できる仕組みであるような場合、不特定の者に対して代金の支払等に使用できないため、上記の性質がなく、暗号資産には該当しません。
他方、使用できる対象を限定していない場合、上記の要件を満たすため、暗号資産に該当すると考えられます。

このように、暗号資産であるトークンをXが発行する場合、暗号資産交換業者として登録が必要となります(資金決済法2条7項、63条の2)。
そのため、事業者が決済手段としてトークンを発行する場合には、暗号資産に該当しないか慎重に検討の上、該当する場合には暗号資産交換業者として登録をするようにしましょう

②事業者発行トークンの価値が法定通貨と連動する場合(A②)

事業者X発行のトークンは、改正法の「電子決済手段」にあたると考えられます(改正法2条5項)。
電子決済手段を発行・償還する場合、原則として銀行業免許、資金移動業登録または信託業免許を取得する必要があります。改正法では、新たに「電子決済手段」についての規制が追加されました。「電子決済手段」とは、通貨建資産であり、かつ、電子的方法により不特定の者に対し代価の弁済に使用できる財産的価値などをいいます(改正法2条5項各号)。

具体的には次のとおりです。
事業者が決済手段としてトークンを発行する場合には、暗号資産に該当しないか慎重に検討の上、該当する場合には暗号資産交換業者として登録をするようにしましょう。

【改正法2条5項】
この法律において「電子決済手段」とは、次に掲げるものをいう。
一 物品等を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されている通貨建資産に限り、有価証券、電子記録債権法(平成十九年法律第百二号)第二条第一項に規定する電子記録債権、第三条第一項に規定する前払式支払手段その他これらに類するものとして内閣府令で定めるもの(流通性その他の事情を勘案して内閣府令で定めるものを除く。)を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの(第三号に掲げるものに該当するものを除く。)
二 不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの(次号に掲げるものに該当するものを除く。)
三 特定信託受益権
四 前三号に掲げるものに準ずるものとして内閣府令で定めるもの

通貨建資産というのは、日本の通貨または外国通貨で表示されている資産、あるいは、日本の通貨または外国通貨で債務の履行等が行われることとされている資産をいい、通貨建資産により債務の履行等が行われることとされている資産は通貨建資産とみなされます(資金決済法2条6項)。資金移動業者によるPayPayや銀行のJ-coinなどのデジタルマネー、Tポイントや楽天ポイントなどの1ポイント1円で利用されるようなポイントなどは、通貨建資産に分類されると考えられます。

1号及び2号の電子決済手段の定義は、通貨建資産である点以外、前述の暗号資産の定義とほぼ同様ですね。

次に、電子決済手段を発行や償還をする行為は、為替取引(顧客から、隔地者間で直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することを内容とする依頼を受けて、これを引き受けること、又はこれを引き受けて遂行すること〔最決平成13・3・12刑集55巻2号97頁〕)に該当します(銀行法2条2項2号、資金決済法2条2項)。

電子決済手段について為替取引を、「業として」行う場合には、原則として銀行業免許、資金移動業登録または信託業免許を取得する必要があります。

では、本問の事業者X発行のトークンは、電子決済手段に当たるでしょうか。
前述の定義によれば、事業者X発行のトークンが、1トークン1円とされている場合のように、法定通貨と価値が連動する場合は、電子決済手段にあたると考えられます(改正法2条5項)。

そして、電子決済手段に該当するトークンを発行するXは、為替取引を行うということになるため、原則として銀行業免許、資金移動業登録または信託業免許を取得する必要があります。

なお、電子決済手段の売買又は他の電子決済手段との交換を業として行う場合は、改正法の電子決済手段等取引業者又は銀行法の電子決済等取扱業者の登録が必要となる点も注意が必要です。

NFTの金融規制

先ほど暗号資産について説明しましたが、メタバース上のデジタルアイテムなどを紐づけたNFTも、インターネット上でやり取りできる財産的価値であるため、暗号資産と言えるのではないかと疑問が生じる方もいるのではないでしょうか。では、メタバース上の仮想デジタルアイテムの剣を紐付けたNFTが暗号資産となるのか、考えていきましょう。

前述ように「暗号資産」は、インターネット上でやりとりできる財産的価値であり、

  • ⅰ 不特定の者に対して、代金の支払い等に使用でき、かつ、法定通貨(日本円や米国ドル等)と相互に交換でき、
  • ⅱ 電子的に記録され、移転でき、
  • ⅲ 法定通貨または法定通貨建ての資産(プリペイドカード等)ではない

という性質をもつものです。

デジタルアイテムを紐づけたNFTが、取引の対象ではあるものの、不特定の者に対する決済手段とはならないような場合、ⅰの「不特定の者に対して、代金の支払い等に使用でき」という要件を満たさないため、暗号資産ではないと考えられます。

本問の事業者Xが販売するメタバース上の仮想デジタルアイテム(剣)を紐づけたNFTも、支払いの手段としての機能を持つものではないため、暗号資産には該当せず、金融規制の対象とはならないと考えられます。

規制を受けるのは誰か

先ほどの例のように、暗号資産または電子決済手段を発行する事業者が、金融規制の対象となるのは明らかですね。
では、次のような場合はどうでしょうか。

事業者Yは、事業者Xが運営するメタバース上で、暗号資産であるトークンを、メタバースの利用者に対して販売することを計画しています。暗号資産の売買を業として行う者は、資金決済法上、暗号資産交換業登録が必要となりますが、本問で登録が必要となるのは誰でしょうか。
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資金決済法をはじめとする金融規制は、それぞれの取引に着目して適用されます。資金決済法は、「暗号資産の売買」を「業として行う」場合、「暗号資産交換業者」として登録が必要であるとしています(資金決済法2条7項1号、同法63条の2)。

【暗号資産の売買をする事業者Y】

本問の場合、事業者Yは、暗号資産の売買を業として行う者であるため、暗号資産交換業者として登録が必要となります。

【メタバースの運営事業者X】

では、暗号資産売買の場を提供しているに過ぎないメタバースの運営事業者であるXについてはどうでしょうか。
もちろん、メタバース事業者であるXはトークンの売買をしていないので「暗号資産の売買」に該当しません。

しかし、「暗号資産の売買」の「媒介、取次ぎ又は代理」を「業として行う」場合も、「暗号資産交換業者」として登録が必要です(資金決済法2条7項1号、同法63条の2)。
一般に、「媒介」とは、他人の間に立って両者を当事者とする法律行為の成立に尽力する事実行為をいいます。金融庁の事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係)」16 暗号資産交換業者関係I−1−2−2②によれば、暗号資産の売買の「媒介」に該当するのは次のような場合です

「媒介」
暗号資産の売買または他の暗号資産との交換を内容とする契約に係る

  1. 契約の締結勧誘
  2. 契約の勧誘を目的とした商品説明
  3. 契約の締結に向けた条件交渉

を第三者のために行う場合、原則として、「媒介」に該当する

※ インターネット上の表示等を用いる場合でも、当該表示等を用いた上で特定の者に対して、第三者との契約締結に向けた誘引行為を行っていると評価できる場合には、当該インターネット上の表示等を含めた一連の行為が媒介に当たりうることに留意が必要です。

他方で、暗号資産の売買または他の暗号資産との交換に関して、以下の各行為の事務処理の一部のみを行うにすぎない場合は、媒介に至らない行為といえる場合もあるとされています(同ガイドラインI−1−2−2②)。

以下の各行為の事務処理の一部のみを行うにすぎない場合は、媒介に至らない行為といえる場合もある。

  • 商品案内チラシ・パンフレット・契約申込書等の単なる配布・交付(電磁的方法によるものも含む。)。ただし、単なる配布または交付を超えて,配布または交付する書類の記載方法等の説明まで行う場合には暗号資産の取引の媒介に当たることがあり得る。
  • 契約申込書及びその添付書類等の受領・回収。ただし,契約申込書の単なる受領・回収、または契約申込書の誤記・記載漏れ・必要書類の添付漏れの指摘を超えて、契約申込書の記載内容の確認等まで行う場合には暗号資産の取引の媒介に当たることがあり得る。
  • セミナー等における一般的な暗号資産の仕組み・活用法等についての説明。

本問では、メタバース事業者であるXが、単にトークンの取引の場を提供しているに過ぎないような場合、暗号資産売買の「媒介」を行っているとは言えないと考えられます。
他方で、Xがメタバース上でトークンの売買を誘引するような表示をしているような場合や、Xのメタバースが主に暗号資産の取引の場として提供されているような場合など、暗号資産の売買の「媒介」を行ったと評価される可能性もあり、暗号資産交換業登録が必要となる場合もありますので、注意が必要です。

メタバース上の金融サービス

今後、メタバース上で上場企業の株式の販売を行う等の金融サービスを提供するなどといった経済活動も想定されます。上場企業の株式を販売する行為は、有価証券の売買であり、第一種金融商品取引業に該当します(金商法28条1項1号、2条8項1号)。

金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針(令和5年3月31日適用)III-2-3-1では、金融商品取引業者は、顧客の知識、経験、財産状況、目的などに応じて不適当と認められる勧誘を行ってはならず、また、取引実態や顧客の属性などの把握のために、場合によっては顧客面談を実施するよう努めることなどが求められています

しかし、メタバース上では、利用者はアバターを通じて活動していることが想定されるため、顧客本人の属性を把握することは困難です。また、事業者側も従業員がアバターを通じて取引をすることが想定されます。
このように、双方がアバターを通じてやりとりすることから、顧客の属性や取引実態の把握が困難となることも多いと考えられます。

さらに、マネーロンダリングやテロ資金供与防止などを目的とする犯罪収益移転防止法によって、金融商品取引業者は顧客に対する取引時確認義務を課されています(犯罪収益移転防止法4条)。
しかし、前述のとおりメタバースでは匿名性が高いため顧客の属性を把握することが困難です。

このような点をどのように解決していくのか、今後の課題となりそうです。

参考文献 
・AMTメタバース法務研究会「メタバースと法(第6回)メタバースと金融規制」NBL1233号(2023年)95-100頁
・松井智予「資金決済法の改正-決済の安全性の確保のために」ジュリストNo.1580(2023年)76頁
・「金融庁の事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係)」16 暗号資産交換業者関係I−1−2−2②

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