澤田直彦
監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 代表弁護士
IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「ネットワークによる音楽配信ビジネスの注意点~著作権について~」
について、詳しくご解説します。
楽曲と音源(原盤)に関する権利関係
楽曲を利用する場合
ネットワークによる音楽配信ビジネスをはじめるにあたっては、楽曲と音源(原盤)についてどのような権利関係になっているかを理解する必要があります。
まず、音楽を構成する歌詞や曲といった楽曲は、音によって表現される著作物と言えますので、「音楽の著作物」(著作権法10条1項2号)に該当します。
従いまして、楽曲を利用するためには原則として著作者(著作権法2条1項2号)である作詞家や作曲家の許諾を得る必要があります。
音源を利用する場合
もっとも、楽曲は、演奏され、あるいは、CD等のレコードとして発売されることではじめて多くの人に享受されます。そのため、作詞家や作曲家といった著作権者本人のほかに、実演家やレコード会社にも著作隣接権(著作権法89条1項2項)と呼ばれる権利が認められています。
つまり、音源の利用にあたっては実演家やレコード会社の許諾も必要となります。
楽曲と音源(原盤)に関する権利処理
このように、原則は、楽曲と音源についてそれぞれの権利者からの許諾を受ける必要があることになります。
以下では、楽曲と音源に分けて権利処理の具体的な方法について見ていきます。
楽曲を利用する場合
第一に、上述したように、楽曲の利用にあたっては作詞家や作曲家の許諾を受ける必要があります。
しかし、楽曲ごとに作詞家や作曲家を探し出して許諾を受けるのは現実的ではありません。
また、著作権者である作詞家や作曲家からしても、利用のための許諾を求められる度に許諾の手続や使用料の徴収を行わなければならないとなると、煩雑な手続に時間を取られて創作活動に専念できなくなります。
それゆえ、多くの場合は、作詞家や作曲家は自身の著作権を作品の宣伝・プロモーション・著作権管理を行っている音楽出版社に譲渡し、当該音楽出版社がJASRAC等の著作権管理事業者に当該権利を信託譲渡してその管理を委ねています。
要するに、音楽配信を行おうと考えている貴社としては当該著作権管理事業者の許諾を得れば足りることになります。
なお、著作権管理事業者は原則として著作物等の利用の許諾を拒むことはできないとされており(著作権等管理事業法16条)、使用料を支払えば楽曲を音楽配信ビジネスに利用することができます。
ただし、ネットワークによる音楽配信ビジネスでは「公衆によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信」(著作権法2条1項7号の2)という公衆送信を行うことになるため、著作権者が公衆送信権(著作権法23条)について著作権管理事業者に管理を委ねているかを確認する必要があります。
たとえば、JASRACについては「J-WID」http://www2.jasrac.or.jp/eJwid/main?trxID=F00100で公衆送信が可能として取り扱われている楽曲を検索することができます。
音源を利用する場合
第二に、音源を利用する場合には、楽曲で問題となる著作権とは異なり、実演家やレコード会社が有する著作隣接権についてJASRAC等の著作権管理事業者への信託譲渡が行われていない点に注意が必要です。
つまり、音源に関しては実演家やレコード会社の許諾を個別に得る必要があります。
もっとも、実演家に関して言えば、レコード会社との間で専属実演家契約を締結して実演家の有する権利がレコード会社に譲渡されている場合が通常ですから、レコード会社から許諾を得れば足ります。
ネットワークによる音楽配信ビジネスの留意点
では、ネットワークによる音楽配信ビジネスにおいて具体的にどのような権利処理が必要になるかについて見ていきましょう。ここでは、ダウンロード方式とストリーミング方式の二つに分けて検討します。
ダウンロード方式の場合
まず、ユーザーのリクエストに応じてウェブサイトから音楽をダウンロードするというビジネス(ダウンロード方式)について考えてみましょう。
ダウンロード方式の権利処理を考えるにあたっては、
②当該ユーザーが当該データを自分のパソコンに保存する段階に分けて考える必要があります。
①の段階は、前述の「公衆によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信」にあたるため、公衆送信権に関して許諾を受ける必要があります。
なお、音源についても同様に送信可能化権(サーバーを通じた配信等の行為を無断でされない権利)を有するレコード会社から許諾を受けなければなりません(著作権法96条の2)。
他方、②の段階では、ユーザーが私的に利用する目的で自身のパソコンのハードディスクに当該データのコピーを作成することになりますから、ユーザーによる私的範囲内における複製が問題となります。しかし、このようなユーザーによる私的複製は著作権者の許諾なしに行うことができるため(著作権法30条)、とくに音楽を配信する貴社が著作権者等に許諾を求める必要はありません。
ストリーミング方式の場合
次に、ストリーミング方式の場合ですが、ダウンロード方式とは異なり、上記の②の段階が予定されておりませんので、①の段階について公衆送信権の許諾を得れば足ります。
ただし、JASRACではダウンロード方式とストリーミング方式に分けて許諾の対価である使用料を定めていますので、実際の使用にあたっては両者で使用料が異なる可能性があることに留意してください。
ところで、ストリーミング方式に関しては、たとえば、インターネットラジオやライブのストリーミング中継のような形態でネットワークによる音楽配信ビジネスを行うことも考えられます。
そして、著作権法は、テレビやラジオ等の「公衆送信のうち、公衆によって同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う無線通信の送信」(著作権法2条1項8号)といった「放送」にあたる場合には、著作権者や著作隣接権者の許諾なしに一時的に録音を行うことができるとしています(著作権法44条1項、102条1項)。
また、著作権隣接権者には第三者による「放送」を禁止するといった放送権は認められていないため、著作権者(又は著作権管理事業者)に対して二次使用料を払えば、レコード会社からの許諾を得なくても、「市販の目的をもって製作されるレコードの複製物」(著作権法2条1項7号)であるCD等の商業用レコードを用いて「放送」を行うこともできます(著作権法97条)。
従いまして、上述の配信形態が著作権法上の「放送」にあたれば、レコード会社からの許諾を得ることなく、一時録音や商業用レコードの利用ができることとなります。
そこで、インターネットラジオやライブのストリーミング中継のような配信形態が「放送」にあたるかが問題となりますが、結論的には「放送」にあたらないと解されています。
すなわち、「放送」は公衆に向けて一斉に電波を発信しているのに対し、ストリーミング方式の場合は、あくまでも音楽データ自体はサーバーまでしか送信されておらず、受信者がサーバーにアクセスしてはじめて送信が行われるものであることから、「放送」にはあたらないとされています。
そのため、上記の配信形態の場合であっても貴社は楽曲や音源の利用にあたって著作権者はもちろんのこと、著作隣接権者(レコード会社等)の許諾が必要となります。このように、著作権法上の「放送」にあたるか否かは形式的に判断される傾向にある点に注意が必要です(東京地判平12・5・16判時1751・128参照)。
まとめ
以上を踏まえて、ネットワークによる音楽配信ビジネスの留意点をまとめます。まず、楽曲の利用については、著作権者である作詞家・作曲家から著作権の管理を委ねられているJASRAC等の著作権管理事業者の許諾を受ける必要があります。
JASRACでは、
「J-WID」http://www2.jasrac.or.jp/eJwid/main?trxID=F00100
で取り扱われている音楽著作物が検索でき、インターネットでのJASRACレパートリー利用許諾申込受付システム
「J-TAKT」https://j-takt.jasrac.or.jp/
で手続が可能となっています。
また、音源の利用に関しては、著作隣接権者であるレコード会社の許諾も必要となります。
なお、以上についてダウンロード方式とストリーミング方式とで違いはありませんが、使用料金額が異なることがありますので注意が必要です。
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