澤田直彦
監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 代表弁護士
IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
著作権侵害について、著作権侵害にあった場合どう対処すればよいかなどについて、詳しく解説します。
著作権侵害とは
著作権侵害とは、無権原で他人の著作物を利用することをいいます。
まず、侵害の対象となるのは「著作物」です。
著作物とは、思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するものをいます(著作権法2条1項1号)
著作権侵害には、「複製権」、「翻案権」及び「著作物を公に伝達する権利」の侵害と、113条に定めるみなし侵害があります。
複製権及び翻案権の侵害については、著作物をコピーしそのまま又は改変して利用する行為が対象となり、その著作物に依拠しかつ結果的に同一または類似ものを作成したか否かという「依拠と類似性」という侵害要件が主に問題となります。
「依拠」は、簡単にいうと、既存の著作物を参考にしたか否かという問題です。
他方、複製権・翻案権以外の権利の侵害となるのは、基本的には他人の著作物を権限なく公衆に伝達する行為であり、侵害の要件として、伝達の権限の有無が問題となります。
また、形式的には著作権侵害であっても、著作権法30条以下の権利の制限に関する規定に該当すれば侵害とはなりません。
なお、映画化する権利を有する者の映画製作を実力で妨害して権利者による著作権の利用を妨げるような行為は、不法行為や威力業務妨害罪等となり得ますが、著作権侵害の問題ではありません。
それでは、著作権侵害があった場合の対処法について、説明します。
差止請求(著作権法112条)
概要
①侵害の停止又は予防の請求(不作為請求)
まず、著作権法112条1項は、
「著作者、著作権者、出版権者、実演家又は著作隣接権者は、その著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。」
と規定しています。
著作権等を侵害する行為の停止を求めるものです。これを不作為請求といいます。
本稿のQであれば、「当該映画を複製してはならない。」あるいは、「当該映画を公衆送信してはならない。」というような内容で、法的に著作権を侵害する又は侵害するおそれがある者に対して命じます。
②侵害の停止又は予防に必要な措置の請求(廃棄請求)
次に、著作権法112条2項は、
「著作者、著作権者、出版権者、実演家又は著作隣接権者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物、侵害の行為によつて作成された物又は専ら侵害の行為に供された機械若しくは器具の廃棄その他の侵害の停止又は予防に必要な措置を請求することができる。」
と規定しています。
著作権等を侵害する行為の元凶を、廃棄その他の措置を行うことを求めるものです。これを廃棄請求といいます。
本稿のQであれば、映画データの削除、映画データを保存・アップロードするに要した機器の廃棄等が命じられます。なお、廃棄請求は、不作為請求と共に求める必要があります。また、廃棄したい物を侵害行為者から譲渡されたなどして第三者が所有している場合には、廃棄請求が認められることは困難と考えられます。
不作為請求の要件
①原告が著作物の著作権等を有していること
原告が著作権等の権利を有していなければ差止請求ができません。
そのため、実際には、次の事実を主張立証することになります。
ⅱ 原告がその客体につき権利を取得した原因事実
この、ⅱについては、著作権侵害を主張したい場合であれば、
イ著作者から著作権を譲受したこと、
ウ職務著作の要件をみたし著作者たる地位にあること(著作権法15条)、
エ映画製作者として著作権を有していること(著作権法29条)
等のいずれかを主張立証し、著作者人格権侵害であれば、アあるいはウを主張立証することになります。
本稿のQであれば、著作権侵害として、エを主張立証することになりそうです。もし、映画の監督やプロデューサー等の映画を実際に制作した著作者となる者が貴社に対して当該映画の著作物の製作に参加することを約束している場合であれば、貴社は映画製作者にあたります。なお、映画の著作権については、映画製作の著作権法上留意点とは?著作者や著作権者についての考え方も解説
にて詳細にご説明しておりますので、こちらをご参照ください。
②被告が原告の権利を侵害したこと又は侵害するおそれがあること
著作権等を著作者や著作権者から許諾を得ることなく行使すると侵害した又は行使しようとすると侵害するおそれがあるといえます。
ア 将来の侵害のおそれ
将来の侵害のおそれは、過去に侵害行為が反復されたことがあるか、現時点においても権利を侵害しうるおそれの大小等の諸般の事情を考慮して判断されます。
イ 主観的要件
差止請求の場合、原則として、侵害者の故意や過失という主観的要件は必要とされていません。もっとも、次に説明する「依拠」の判断において、事実上、侵害者の主観が問題となります。
ウ 依拠
著作権侵害の典型例である複製権または翻案権の侵害を主張するためには、既存の著作物に「依拠」し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することが要件となります(事例:ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー事件判決、後述)。
「依拠」は、アクセス可能性(侵害者が当該著作物に接する機会があったこと)及び当該著作物との類似性が認められれば、事実上推定されます。
結果的に既存の著作物と類似していているものを創作した場合でも、既存の著作物に接する機会がなく、その存在や内容を知らなかった者は、存在を知らなかったことにつき過失があるとしても、依拠の要件を欠くため、非侵害とされます。
エ 類似性
既存の著作物に依拠したうえで、当該著作物と同一又は類似することを主張立証する必要があります。これは、表現上の本質的な特徴を直接感得できるか否かから判断されます。すなわち、ありふれた表現は侵害にあたりません。
「著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいうと解すべきであるから、既存の著作物と同一性のある作品が作成されても、それが既存の著作物に依拠して再製されたものでないときは、その複製をしたことにはあたらず、著作権侵害の問題を生ずる余地はないところ、既存の著作物に接する機会がなく、従って、その存在、内容を知らなかった者は、これを知らなかったことにつき過失があると否とにかかわらず、・・・既存の著作物と同一性のある作品を作成しても、これにより著作権侵害の責に任じなければならないものではない。」(最一小判昭和53・9・7民集32巻6号1145頁)
すなわち、偶然に一致しても侵害とはいえないということです。依拠していたか(著作物の存在を知っていたか)は、著作物に接する機会があったか否かから判断されます。著作権は著作物を創作するだけで取得される権利なので、行為前にその存在の調査義務を被告に課すことは酷といえるので、独自に創作していれば過失により著作物の存在を知らずとも侵害にあたりません。
オ 本稿のQについて
本稿のQであれば、映画のアップロードは、公衆に自動送信しうる状態に置く行為といえ、「公衆送信」(著作権法23条1項)にあたります。厳密には、アップロードだけでは公衆に送信したことにはならず、ダウンロードされて送信されたといえます。しかし、自動送信が可能な状態に置く行為は公衆送信と同視されます(著作権法23条1項カッコ書)。したがって、著作物である映画を貴社の許諾を得ることなく動画投稿サイトにアップロードする行為は、貴社の公衆送信権を侵害する行為にあたります。
また、アップロードした第三者としては、当該映画が第三者自身によって作成されたものでなく自身が著作権者ではないことは自覚しているはずですので、依拠したといえ、公衆送信権を侵害しているといえそうです。
③権限なく法定の利用行為(著作権法18条ないし28条、113条)などを行っていること
著作物等は、著作権者から利用許諾を取得し、又は、譲渡を受ける ことで利用することができます(著作権法63条)。そのため、被告が著作権者から利用許諾等を受けている場合には、差止請求が認められません。
もっとも、要件①および②と異なり、被告が利用許諾を得ているということについて、主張立証責任を負うのは、被告です。
本稿のQでは、第三者が勝手に動画投稿サイトにアップロードしているので、利用許諾を得ていることを立証できず、要件を充足しそうです。
損害賠償請求(民法709条)
概要
民法709条は、
「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」
と規定しています。
損害賠償請求の相手方は、通常、侵害行為者ですが、侵害行為の教唆・幇助を行った共同行為者(民法719条)、使用者(民法715条)等も相手方となります。
また、侵害行為者の故意・過失について、差止請求の場合とは異なり、主張立証が必要となります。
損害額については、著作権等の侵害による損害額の立証は困難な場合も多く、立証を求めるのは原告に酷であることから、算定規定(著作権法114条各項)が設けられています。
要件
①原告が権利を有していること
上述の差止請求と同様です。
②被告が原告の権利を侵害したこと
上述の差止請求と同様です。
③権限なく法定の利用行為などを行っていること
上述の差止請求と同様です。
④故意又は過失があること
原告が被告に故意又は過失があることを主張立証する必要があります。
本稿のQのように直接的な侵害者であれば、事実上は故意が認められることが多いです。
そして、過失が認められた判例としては、権利関係の調査を怠ったことが理由となったもの(東京地判平成7・10・30判タ908号69頁・判時1560号24頁)や権利者から警告を受けたにもかかわらず、著作権の帰属に関する調査を怠ったことが理由となったもの(東京地判平成9・9・5判タ955号243頁・判時1621号130頁)、雑誌出版社が負う、著作物を使用するに際して当該著作物の制作者等から著作権の使用許諾の有無を確認するなどして著作権侵害を避ける注意義務を怠ったことが理由となったもの(東京地判平成20・3・13判タ1283号262頁・判時2033号102頁)があります。
さらに、間接的に著作権侵害に関与した者がいれば、過失が認められるでしょう。
例えば、スナックにおけるカラオケ伴奏による客の歌唱について、物理的には直接的な侵害行為を行っていないスナックの経営者が著作権法の規律の観点からその歌唱(演奏)の主体であるとして過失が認められると判示した判例があります(最判昭和63・3・15判時1279号34頁)。
なお、通常、故意がない場合、複製権や翻案権侵害の要件である「依拠」が認められないことが多いと考えられますが、依拠はしているが違法であることを知らなかった(著作権が期限満了と勘違いしていた等)という場合等には過失が問題となり得ます。
⑤損害の発生があること
ア 精神的損害
著作者人格権侵害あるいは実演家人格権侵害の場合には、精神的損害について慰謝料請求(民法710条)ができます。
ただ、前述の損害の推定規定(著作権法114条)は適用されないため、損害の発生・額及び因果関係を直接主張立証する必要があります。
なお、著作権等の著作財産権侵害による慰謝料請求は、通常、財産的損害の賠償によって精神的苦痛も慰謝されると考えることが多く、慰謝料が認められることは少ないです。
イ 財産的損害
他方で、著作権等侵害により生じた財産的損害については、積極損害や消極損害を主張立証しなければなりません。
特に、本稿のQであれば、映画が正規な方法で貴社から購入されなくなったことで売り上げが低下したという逸失利益があるとして消極損害を主張立証することになります。
ウ 損害額の推定
もっとも、厳密な損害額については、前述のとおり、事実上立証が困難であることから算定規定が設けられています(著作権法114条1項ないし4項)。
例えば、侵害品の販売による著作権者等である原告の売上げの減少額は、次の計算式により算出した額とすることができます。
また、侵害者に対して具体的態様の明示義務(著作権法114条の2)や当事所に対して書類提出義務(著作権法114条の3)、当事者に対して鑑定人に対する説明義務(著作権法114条の4)を負わせています。
さらに、損害額の立証が困難な場合には、裁判所が口頭弁論の全趣旨および証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定できます(著作権法114条の5)。
上記のように、損害額の認定について、民法よりも、原告に有利な規定が存在します。
損害額の認定方法については、
【著作権侵害】損害額の算定について解説
にて詳細にご説明しておりますので、こちらをご参照ください。
不当利得返還請求(民法703条、704条)
概要
民法703条は、
「法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。」
と規定しています。
また、民法704条は、
「悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。」
と規定しています。
損害賠償請求とは異なり、故意又は過失が要件ではないため、比較的容易に立証できるといえます。
また、
損害賠償請求権は、権利者が侵害行為又は侵害行為者を知ったときから3年間、侵害行為時から20年間で時効消滅(民法724条)する一方で、
不当利得返還請求権は、権利者が権利行使できると知った時から5年間、権利行使できるときから10年間で時効消滅(民法166条1項)するので、侵害行為を知ってから3年経過している状況では、不当利得返還請求をする実益があります。
要件
①法律上の原因がないこと
不当利得制度の趣旨は正義や公平ですから、法律上の原因の有無は、形式的・一般的には正当視される財産的価値の移動が、正義・公平の観点から、実質的・相対的にみても正当視できるか否かから判断されます。
具体的には、財産的価値の移動をその当事者間において正当なものとするだけの実質的な理由がない場合には、法律上の原因がないといえます。
本稿のQであれば、著作権法上、貴社の許諾があって初めて、第三者は映画をアップロードできるようになるので、貴社の許諾のないまま映画をアップロードして利益を得た場合、法律上の原因がないといえそうです。
②侵害行為者が利益を受けていること
本稿のQであれば、第三者は、有料で映画をダウンロードさせることで収入を得ていることが想定されます。また、映画の視聴やダウンロードそのものが無料であっても、動画投稿サイトから広告料等を得ていることも想定されます。さらに、著作権法上、第三者は貴社に支払うべき著作権使用料を免れているので、使用料相当額が利得になりそうです。したがって、利益を受けているといえそうです。
③権利者が損失を被っていること
本稿のQであれば、第三者が貴社に使用料を支払うことなく映画をダウンロードさせることで、少なくとも使用料相当額の損失を被ったと言えます。
また、正規の方法で映画が視聴されなくなったことで、貴社にはその分の逸失利益が生じる場合もあるでしょう。したがって、損失を被っているといえそうです。
④②と③の間に因果関係が在ること
直接の因果関係を立証することは困難なので、社会通念上の因果関係で足りるとされています。
本稿のQでは、第三者が勝手にアップロードしたことで、正規の方法で映画が視聴されなくなっていることや、使用料が支払われないまま利用されていることは明らかですので、因果関係が認められそうです。
名誉回復請求権(民法723条、著作権法115条)
概要
著作者人格権又は実演家人格権の侵害に対しては、名誉若しくは声望を回復するために適当な措置を請求することができます。著作権法115条は、
「著作者又は実演家は、故意又は過失によりその著作者人格権又は実演家人格権を侵害した者に対し、損害の賠償に代えて、又は損害の賠償とともに、著作者又は実演家であることを確保し、又は訂正その他著作者若しくは実演家の名誉若しくは声望を回復するために適当な措置を請求することができる。」
と定めています。
具体的には、氏名表示権侵害の場合には氏名を掲示させる方法や、新聞紙上に訂正広告や謝罪広告を掲載させるという方法が考えられます。
しかし、訂正広告や謝罪広告については、侵害があったからといって必ず認められるわけではありません。悪質な権利侵害により名誉が著しく侵害された場合(東京高判平成8・10・2判時1590号134頁)や、名誉声望を回復するために事実経緯を説明するための広告措置をとることが相当な場合(知財高判平成22・3・25判タ1370号206頁・判時2086号114頁)等、認められる場合は限定的です。
他方、著作権(著作財産権)侵害事件においては、著作者人格権等の場合のような著作権法上の規定はないため、民法723条の名誉回復措置請求をすることが考えられます。
しかし、著作権法上に明文がないことから、著作権侵害の場合に名誉回復請求が認められるかは、見解が統一されておらず、これが認められた裁判例もまれです。(民法723条は、「他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。」と規定しています。)
著作者人格権等の名誉回復請求の要件
①著作者人格権又は実演家人格権を有していること
著作者または実演家であることで、それぞれ当然に著作者人格権または実演家人格権を有することになるので、著作者または実演家であることを主張立証すれば足ります。
本稿のQであれば、貴社が映画製作者であれば、通常、著作者ではありませんし、著作者人格権は譲渡ができないため、著作者人格権は有していないものと解されます。
したがって、名誉回復請求はできそうにありません。もっとも、監督やプロデューサー等の映画の著作者は、映画制作者である貴社に協力的でしょうから、著作者を原告として、著作者の名誉回復請求をすることができそうです。
②被告が原告の名誉声望を侵害したこと
著作者の名誉声望については、著作権法113条7項は、
「著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為は、その著作者人格権を侵害する行為とみなす。」
と規定しています。
体裁上は権利ではありませんが、名誉名声侵害みなし規定と呼ばれており、著作者人格権において、公表権・氏名表示権・同一性保持権と並ぶ権利と考えられています。
判例上、「著作者の声望名誉とは、著作者がその品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価、すなわち社会的声望名誉を指すものであって、人が自己自身の人格的価値について有する主観的な評価、すなわち名誉感情は含まれないものと解すべきである」(最判昭和51・5・19民集34巻3号244頁)とされています。
どのような場合に侵害があったかについて、具体的には、侵害行為者が自己の著作物であるとして公表した場合や繰り返し行為が行われた場合、侵害行為者が侵害行為の存在を否認している場合などには、原状回復の必要性が高く、名誉声望が侵害されたといえます。
③故意又は過失があること
上述の損害賠償請求と同様です。
あっせんによる解決(著作権法105条ないし111条)
概要
著作権法106条は、
「この法律に規定する権利に関し紛争が生じたときは、当事者は、文化庁長官に対し、あつせんの申請をすることができる。」
と規定しています。
文化庁が事件ごとに委嘱する、3名以内の著作権又は著作隣接権に係る事項に関し学識経験を有する者から構成されるあっせん委員によるあっせんに付されます(著作権法105条2項、108条1項)。
あっせんの申請ができる紛争としては、権利侵害の有無に関する紛争や権利の帰属に関する紛争、権利に関する契約の解釈に関する紛争、権利侵害による損害の額に関する紛争が挙げられます。
もっとも、あっせんは仲裁とは異なり、あっせん委員の判断に従うかは当事者の判断に委ねられますので、必ずしも解決するとは限りません。
あっせんに要する期間は、過去のケースからみて、話し合いが2~3回、審理期間が約6カ月です。
こちらのURLは、文化庁がホームページに掲示しているあっせん制度の詳細です。ご参照ください。著作権の紛争処理について | 文化庁
方法
①文化庁長官にあっせんを申請する(著作権法106条)
当事者双方が申請する、もしくは、当事者一方の申請があり、これにもう一方が同意することで文化庁長官はあっせん委員によるあっせんに付します(著作権法108条1項)
。
ただし、濫用は認められません(著作権法108条2項)。なお、文化庁では事前相談を勧めています。
②実費を勘案して政令で定める額の手数料を納付する(著作権法107条1項)
申請時に46、000円を支払えば、その後、費用が掛かることはありません。
刑事罰(著作権法119条ないし124条)
著作権や著作隣接権を侵害した場合には、
「10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」(著作権法119条1項)
と規定されています。
法人であれば、侵害行為者のみならず、使用者である法人に対しても「3億円以下の罰金」が科されます(著作権法124条1項)。
また、著作者人格権や実演家人格権を侵害した場合には、「5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」として、罰則が規定されています。
刑事罰を科すためには、告訴が必要となる場合が多いです(著作権法123条1項)。
具体的に採るべき行動
専門家への相談
まずは、弁護士等にご相談されることをお勧めいたします。
専門家に依頼等することで、的確に著作権侵害に対処することができます。
著作権侵害の事実確認や証拠収集
著作権を有することや著作権侵害を証明するための資料、侵害行為者を特定するための資料等を収集することは、後の警告や訴訟提起、告訴において重要です。
警告・交渉
訴訟には時間や費用がかかることもありますので、任意で行為の中止や賠償が行われるに越したことはありません。
送付した文書の内容や送付事実、送付日時等を証拠として残すために、内容証明郵便を用いて送付することをお勧めいたします。
証拠保全の申立て
侵害行為者によって、証拠資料が隠滅されるおそれがありますので、証拠保全の申立の検討も必要です。
訴訟の提起または仮処分の申立て
仮処分の申立ては、著しい損害又は急迫な危険を避けるための暫定的な措置を求めるものです。裁判が終わるには時間がかかることが多く、その間に生じうる著作権侵害による損害を抑えることができます。
刑事告訴
上述の通り、刑事罰を科すためには告訴が必要な場合があります。
告訴は、犯人を知った時から6カ月を経過すると不可能になります(刑事訴訟法235条)が、みだりに告訴すると名誉棄損責任を問われかねませんので、慎重に行動するべきといえます。
著作権を侵害した相手方が採り得る手段
まず、訴訟上であれば、原告に証明責任のある事実を否認します。
次に、被告としては抗弁事由を主張・立証して争います。
具体的には、
保護期間(著作権法51条ないし57条)の終了や、譲渡などによって原告が著作権を喪失したこと
著作権法第5款(30条ないし50条)が定める「著作権の制限」に該当するので当該著作物を被告が自由に利用できる場合に該当すること
被告が利用許諾(著作権法63条)や出版権の設定(79条)を受けていること
正当な引用であること(著作権法32条1項)
やむを得ない改変であること(著作権法29条2項)
原告の権利濫用であること(東京地判平成8・2・23判時1561号123頁)
などを立証することになります。
原告としては、これらを想定して、反証する準備をするとよいでしょう。
著作権に関するご相談は、東京都千代田区直法律事務所の弁護士まで
製作した映画コンテンツについて、第三者により勝手に動画投稿サイトにアップロードされてしまった場合は、
複製権(著作権法21条)および公衆送信権(著作権法23条1項)侵害として、
映画を勝手に動画投稿サイトにアップロードしている第三者に対して、
差止請求(著作権法112条)
損害賠償請求(民法709条)
不当利得返還請求(民法703条、704条)
名誉回復措置請求(民法723条、著作権法115条)
あっせんによる解決(著作権法105条ないし111条)
刑事罰(著作権法119条ないし124条)
等の手段をとることが考えられます。
これらの手段を同時に採ることや段階的に採ることで効果的に対処することができます。
特に訴訟に発展しそうな場合には専門家にご相談されることをお勧めいたします。
よくある質問
事例:もし自分が知らずに著作権侵害してしまったら
まずは、自分が本当に著作権侵害をしてしまったかどうかを確認する必要があります。
著作権侵害の判断方法
著作権侵害かどうかを判断するには、以下の3つのステップを踏みます。
1. 対象となる作品が著作物かどうか
・画像、写真、イラスト、漫画、音楽、文章など、思想や感情を表現する創作物は、著作権法で保護される著作物となります。
・著作物であるためには、独創性(創作性)が必要とされます。
2. 著作権者
・原則として、著作物の創作者が著作権者となります。
・職務著作の場合、著作権者は使用者となります。
・著作権は譲渡や相続によって移転することがあります。
3. 権利侵害行為の有無
・著作権侵害には、複製、公衆送信、頒布、翻訳、二次創作など、様々な態様があります。
・各権利侵害行為の成立要件を満たす場合に、権利侵害が成立します。
権利侵害行為の判断基準
複製権侵害
・他人の著作物を無断で複製する行為をしているか
※複製とは、原本とは別の物に著作物を写し取る行為を指す
※印刷、録音、録画、デジタル化などが含まれる
公衆送信権侵害
・他人の著作物を無断で公衆に送信する行為をしているか
※公衆送信とは、多数の公衆に送信することを指す
※インターネット上での公開、放送などが含まれる
頒布権侵害
・他人の著作物を無断で外部に頒布する行為をしているか
※頒布とは、有償・無償を問わず、公衆に提供することを指す
※販売、貸与などが含まれる
翻訳権・翻案権侵害
・他人の著作物を無断で翻訳する行為をしているか
※翻訳とは、著作物の言語を変えて表現することを指す
二次創作権侵害
・他人の著作物を無断で二次創作する行為をしているか
※二次創作とは、翻訳、編曲、映画化などを含む
※翻案権侵害と区別する必要がある
類似性の判断
・著作権侵害かどうかを判断する際には、対象となる作品とオリジナル作品との類似性について検討する必要があります。
・具体的な判断基準は、各権利侵害行為によって異なります。
著作権侵害をしてしまったと認められた場合は、速やかに以下の対応をすることが重要です。
著作権者に謝罪する
著作物の利用を停止する
違法な利用によって得た利益を返還する
損害賠償金を支払う
これらの対応をすることで、著作権者とのトラブルを最小限に抑えることができます。
著作権侵害を避けるためには、以下の点に注意する必要があります。
著作物の利用許諾を得る
著作権表示を正しく行う
著作権法32条に基づき引用する場合には、引用の範囲を明確にする
著作物の二次創作を行う場合には、二次創作ガイドラインなどを遵守する
これらの点に注意することで、著作権侵害のリスクを減らすことができます。
著作権侵害について相談したい場合は、以下の機関に相談することができます。
著作権法に精通した弁護士
著作権情報センター(CRIC)
文化庁
これらの機関は、著作権に関する専門的な知識を有しており、適切なアドバイスを受けることができます。
著作権侵害は、民事上の責任だけでなく、刑事上の責任を問われる可能性もあります。
刑事上の責任は、個人については10年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科するとされています(著作119①)。法人については、3億円以下の罰金に処せられます(著作124①)。ただし、著作権侵害が刑事罰に問われるのは、著作権を侵害していることについて故意がある場合に限られます。
著作権侵害は、著作権者の創作活動を妨げるだけでなく、社会全体に損害を与える行為です。著作物を利用する際には、常に著作権に注意し、適切な利用を心がけるようにしましょう。
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