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取引先が倒産?初期段階で対応すべき情報収集や損害拡大防止の方法

Q
 取引先企業から突然、裁判所に破産開始申立てをしたとの連絡が入りました。実際に破産開始申立てをしているのかは分かりませんが、少しでも多くの債権を回収するために、まず何からはじめたらよいのでしょうか?

A
 取引先が倒産したとの連絡をしてきた場合には、他の債権者にも同様の連絡をしている可能性があり、そうすると、少しでも多くの債権を回収するべく多くの債権者が取引先に殺到している可能性があります。
このようなケースの場合、一刻も早く、一円でも多く回収するためには情報収集が第一です。実際に倒産手続を開始したのか、また、どのような形態で倒産したのか、それによってとりうる債権回収方法も異なります。
これから、情報収集の方法・着眼点、損害拡大の防止、債権回収方法について説明します。


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「取引先が倒産?初期段階で対応すべき情報収集や損害拡大防止の方法」
について、詳しくご解説します。

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役割分担

取引先が倒産したとの知らせを受けたら、取引先に急行し、状況を確認するとともに、自社にて取引先・自社間の債権債務関係を確認する必要があります。また、現場を確認するべき取引先は本社事務所・工場など複数にわたる場合もあります。
まずは、迅速な情報収集のため、数人でチームを組み、役割を分担しましょう。

具体的には、

  1. 取引先に急行し、現状を直接確認するチーム(取引先確認チーム)
  2. 自社に残り取引先との契約内容や履行状況を確認するチーム(債権債務確認チーム)
  3. 自社に残り、情報を集約し、方針決定し、現場を支持するチーム(情報集約チーム)

とチーム分けするのがよいでしょう。

取引先確認チーム

確認すべき現場は、取引先本社事務所・工場に加え、倉庫・営業所・社長自宅なども含まれます。取引先の従業員に聞き取りができたら、さらなる情報を得られる可能性があるので、取引先(の従業員)をよく知る営業担当者はこのチームに入るとよいでしょう。
取引先確認チームは、現状の報告のために取引先で写真を撮ることが必要となる場合もあります(但し、取引先関係者のプライバシーには配慮しましょう)。また、動産譲渡担保に取っている物件があれば、当該物件のプレート(次章で詳しく説明します。)が固定されるように、ガムテープ・マジックペン・白紙・透明のプラスチックケースを持参するとよいでしょう。
在庫一覧表を作成する必要がある場合もあるので、筆記用具・ノートも持参しておくと便利です。

債権債務確認チーム

自社で、取引先との契約内容、債務の履行状況、自社と取引先との債権債務の残高などを確認することが必要となります。経理担当者はこのチームに入れるとよいでしょう。

情報集約チーム

自社で、情報集約・方針決定・指揮命令を行うチームも必要です。法務・総務担当者はこのチームに入るとよいでしょう。情報管理をする必要があるので、担当者全員の連絡先を把握し、情報の共有を行うべきです。
情報集約チームは、他の二つのグループから情報を集約し、弁護士にも相談しながら方針を決定し、指示を出していきます。

取引先での対応

取引先でのチェックポイント

取引先でのチェックポイントは次のような点です。

1. 取引先の営業が続いているか

倒産にはさまざまな種類があります。
①法的整理と私的整理、②再建型と清算型という分類(【破産手続きについて】取引先の会社が倒産?の記事で説明しています。)で対応方法を考えましょう。

例えば、取引先が再建型の法的整理手続である会社更生や民事再生の申立てをした場合、営業自体は通常通りに継続していることがほとんどです。
再建型であれば、これまで発生した債権の回収に加え、今後の取引条件を検討する必要があります。
そのため、取引先従業員から 情報を速やかに収取し、

①取引先が法的整理に進もうとしているのか、それとも、私的整理を検討しているのか、

また、

②法的整理に進もうとしている場合には、再建型の手続を選択しようとしているのか、それとも、清算型の手続を選択しようとしているのか、

確認し、自社に報告します。
なお、民事再生の申立てをしているとの情報を収取しても、実際には営業を停止していることもあり、その場合には破産に移行することを念頭に対応すると良い場合が多いです。
また、情報を収取できなかったり、反対に清算型の法的整理手続に移行しているとの情報を収取しても、取引先が営業を継続していれば、再建を検討している可能性があります。
このように、営業を実際に継続しているのか、それとも停止しているのかという事情は、取引先が再建を図ろうとしているのかの判断において、極めて重要な事実となりますので、確認を怠らないようにしてください。
仮に会社が閉まっている場合でも、諦めずにその日の晩や翌朝改めて取引先を訪れてみてもよいでしょう。また、シャッターなどが閉まっていても、電気メーターの針の動きで中の状況を推認できる場合があります。

2. 取引先の代表者の所在が確認できるか

取引先が倒産したという情報を得た場合、その代表者は本社にいない場合もあります。
もちろん、取引先が再建型の倒産手続を選択している等の場合には、代表者自身が関係各所に出向いて対応を協議している場合が多く、再建に向けての活動がなされているといえるので、問題は大きくならないかもしれません。
他方で、取引先の社員の誰に聞いても「社長がどこにいるかわからない。」という場合には、代表者が再建を断念したのみならず、倒産手続の履行すら行わない可能性があります。
その場合には、何らの債務整理手続も取られず、会社の運営が放置されることがあるため、その危険性を前提に、後述する対応を考える必要があります。

3. 自社が担保に取っている物件や納入した商品の所在

取引先が倒産したとの情報が入ると、他の債権者もいっせいに取引先に対する債権回収にかかります。
そこで、自社の担保に取っている物件や納入した商品の所在・内容・量を確認し、他の債権者に不当に奪われることのないように確保する必要があります。
たとえば、動産譲渡担保に取っている物件には自社の担保物件であることを示すプレートなどが貼ってあるはずですが、そのプレートがはがされていないかどうか確認します。
そして、念のため、その物件全体とプレート部分の写真を撮っておきましょう。自己に正当な権利があることを立証する必要があるためです。
万が一、付けてあったプレートがなくなっていたような場合には、債務者にも相談の上、新たにプレートを貼ることを検討しましょう。
取引先が法的倒産手続申立をした場合または申立て準備中であるなら、申立代理人弁護士に連絡し、自社納入商品・担保目的物の持ち出しや処分をしないように申し入れます。また、保全管理人(※1)や破産管理人(※2)が選任されているなら、申立代理人弁護士に加えて、当該管理人に対しても連絡を行い、持ち出しや処分を行わないように申し入れます。

※1 保全管理人とは、企業が会社更生法・民事再生法による再建や破産法による破産手続を行う際に、裁判所が保全管理命令を出した場合、裁判所に選任されて企業の事業・財産を管理する者をいいます。

※2 破産管財人とは、破産手続において、破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利を有する者をいいます。

4. 他の債権者の動向

取引先の本社や、倉庫に急行した時点で、他の債権者が争うように商品などを引き揚げているような場合には、引き揚げを止めるように申し入れましょう。そして、すぐに自社に応援を要請し、担保に取っている物件や納入した商品の確保に努めます。
また、取引先が再建型の倒産手続を選択したのに、他の債権者が商品などを引き揚げているような場合には、取引先は再建できない可能性が高いといえます。その場合は、取引先が破産する可能性を念頭に対応を考えます。

5. 法的整理を申し立てる予定か、申し立てるとすると手続の種類は何か

取引先が私的整理に入る場合には、裁判所は関与せず、法的手続に基づいて処理がされるわけではありません。そのような、債権者同士の公平性が必ずしも担保されない私的整理手続に参加するかどうかは、他の債権者の動向等を見ながら考えましょう。
これに対して、取引先が法的整理の申立てをする場合には、取引先が選択する法的整理手続の種類に応じて対応が異なるため、手続の種類が何なのか、しっかり確認しましょう。

在庫商品の引き揚げ

(1)在庫商品を引き揚げるときの注意点

倒産時に在庫商品を引き揚げる場合には、取引先の責任者から引き揚げに承諾する旨の書類をもらっておきましょう。
仮に、承諾を得ることなく、商品を勝手に引き揚げると、窃盗罪に問われるなどのトラブルが発生することも有りますので、気を付けてください。

(2)取引先が法的整理の申立てをする場合、あるいは申立てをした場合

取引先が法的整理手続を選択する場合、弁護士を代理人として選任している場合がほとんどであり、弁護士が引き揚げに応じないように指示を出している可能性があります。このときには、商品の引き揚げはかなり難しくなります。
しかし、代理人弁護士によっては商品の引き揚げに応じる可能性も皆無とはいえないため、弁護士に直接交渉してみましょう。

自社での対応

担当者が取引先の本社や倉庫に急行している間に、社内では取引先との債権債務関係を調査します。取引先への債権の有無、担保の有無、取引先への債務の有無によって、相殺や担保権の行使ができるかが変わってくるからです。

自社でのチェックポイント

自社のチェックポイントは次のような点です。

1.債権債務の種類、金額、支払期日の確認

取引先が倒産した場合に、売掛金と買掛金を相殺することによって、売掛金を回収することと同じ効果をもたらすことができます。そのため、売掛金のみならず、買掛金その他の債務の有無やその金額をしっかり確認しましょう。
また、倒産手続の中で配当を受けるためには債権届出書を提出する必要があります。提出期間が定められており、期間内に確実に債権届出ができるように、速やかに債権の内容とその金額を確認する必要があります。

2. 未発送商品などの発送中止

取引先との債権債務の確認のなかで取引先への未発送商品があった場合にはすぐに発送を中止することを検討しましょう。
また、輸送中の商品がある場合もあります。そのような場合には、運送業者などにすぐに連絡し、取引先への輸送を中止のうえ、商品などを自社に取り戻すように依頼することも併せて検討してください。
そのまま発送して、商品が行方不明になり損害が拡大する恐れを防ぐ必要があるからです。

ここで注意が必要なのは、発送を中止することが、取引先との関係で債務不履行にならないかということです。
取引先との関係では売買契約の合意がなされた時点で契約が成立しているので、自社は原則として、売買契約に従い 、納品期日までに納品する義務があります(但し、取引先の支払能力が著しく悪化した場合には、「不安の抗弁権」といって、先履行義務を負っている当事者が債務の履行を拒む正当な権利が発生する場合があります)。自社が納品しなかったことにより、取引先に損害が生じた場合には、損害を賠償する義務が生じうることとなります。
取引先の事業が完全に停止している場合には、納品は必要ないといえるため、現実に納品を止めたことが問題となることは少ないでしょう。それに対して、取引先が再建型の倒産手続を開始した場合、取引先が期日通りの納品を主張してくる場合があります。この場合には、弁護士に相談したうえで納品を止めて問題がないか検討しましょう。

3. 取引先に納入するための商品などを仕入先から仕入れる契約をしていないか

取引先に商品を納入するために、第三者と仕入契約を交わしている場合があります。
取引先の倒産によって売り先を失った商品を無駄に仕入れることのないように検討しましょう。
ただし、仕入先との契約内容によっては、仕入契約を一方的に解除することはできず、仕入業者との合意によって解除するしかないかもしれません(合意解除)。一方的に解除を主張して、仕入契約の履行を拒めば、違約金や損害賠償金の支払いを求められる可能性もあります。そのため、これらのリスクを判断し、仕入契約の取扱いを決めましょう。

4. 担保を取得していないか

取引先から担保提供を受けているかを確認します。担保の提供を受けている場合には、取引先の現場で担保物件がどこに所在しているかを確認し、記録に残しておきましょう。

5. 保証人はいないか

取引先が倒産しても保証債務に影響はありません。取引先に対する債権について、第三者を保証人として立てている場合には、倒産手続とは無関係に保証人に請求を行い、保証人から支払いを受けることが期待できます。
なお、取引先が法人の場合には、法人の代表者を保証人に立てているケースが多く、法人が破産手続を選択する場合には、当該法人の代表者も併せて破産手続を選択するケースが多いです。
そのため、保証人が取引先の破産とは無関係な人物であるのか、確認することも重要です。

6. 取引先から受け取った手形はどこにあるか

手形取引を行っている場合、「取引先から受け取った手形の振出人は誰か」「手形は今どこにあるのか」をすぐに確認します。
そして、取引先が振り出した手形の場合は、次のような点に注意が必要です。
手形を社内で保管している場合には、債権届出書を作成し、破産管財人や破産手続申立人に対して提出することとなり、手形のコピーも 証拠として提出する必要があります。配当を受ける際にも手形の原本を呈示しなければならないので、しっかり保管する必要があります。
また、手形を割引に出した(決済日に現金化すること)場合や、取引先に回した(裏書した)場合には、手形振出人が倒産したことで、その手形はいずれ不渡りになると思います。その場合には割引に出した銀行や、手形を回した(裏書した)取引先から、手形を買い戻すように請求されることが一般的です。したがって、その際の資金手当てを考える必要があります。

7. 子会社や関連会社の債権債務関係はどうか

子会社や関連会社が、その取引先と取引しているかどうかも確認し、グループ全体で対応にあたります。

債権債務のチェック方法

具体的には次のものを参照・問い合わせの上で、債権債務関係をチェックしましょう。

  1. 売掛金台帳・買掛金台帳・手形台帳・伝票などの帳簿関係書類を調べる。
  2. 契約書・注文書・手形台帳・伝票などの帳簿関係書類を調べる。
  3. コンピュータデータを検索する
  4. 営業担当者から事情聴取する
  5. 子会社や関連会社に問い合わせる

回収

取引先からの回収

取引先が倒産状態にあっても、法的整理手続をとっていない段階では、取引先に支払いを求めて、支払いを受けることも可能です。取引先から取扱商品の代物弁済を受けたり、売掛金の債権譲渡してもらうこともできます。

回収における注意点

取引先が倒産状態にあるときに債権を回収すると、回収行為が詐害行為(債務者が不当に財産を処分すること)であるとして、詐害行為取消権の対象になる危険性があります。その場合には、回収した物や金銭を返還しなければならなくなる可能性もあります。
もっとも、詐害行為にあたるかは、最終的には裁判所が判断することです。結果的に詐害行為に該当しないと判断されることもあるので、詐害行為取消権の対象になるかもしれないという理由で債権回収を諦める必要はないでしょう。

まとめ

取引先が倒産した場合、いかに迅速に情報収集・共有を行えるかが重要です。
「一刻でも早く、一円でも多く回収する」という気持ちで、時に弁護士に相談をしながら情報収集にあたってください。

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