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【著作権侵害】損害額の算定について解説

Q
当社の著作権が侵害されてしまったので、やむを得ず、損害賠償請求訴訟を提起しようと思います。当社の損害額をどのように算定すればいいのか教えて下さい。

A
不法行為に基づく損害賠償請求(民709条・710条)にあたっては、原告である著作権者が自らの損害の金額を算定して立証しなければなりません。
もっとも、著作権侵害を理由とする損害賠償請求訴訟においては、著作権法114条に基づく損害の額の算定規定によって、著作権者による立証の負担が軽減されています。
著作権法114条には、1〜3項の3つの規定があります。
以下で、詳しくみていきましょう。


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 
代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。

本記事では、
「著作権侵害における損害額の算定」
について、詳しくご説明します。

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はじめに

著作権者は、故意又は過失によって著作権を侵害した者に対して、侵害行為によって生じた損害の賠償を請求することができます(民709条・710条)。
そして、この損害賠償請求訴訟においては、著作権者自らが損害額を立証しなければなりません。 しかし、著作権侵害は有体物の毀損とは異なり、目に見える形で被害が発生するわけではないので、損害額を立証することが困難であると考えられます。
そこで、著作権法は、損害額についての算定規定を設けています。

以下で詳しくみていきましょう。

著作権法による損害額の算定(著作権法114条)

損害額の算定ルール①(著作権法114条1項)

ア 基本のルール

*事例
1冊あたりの販売利益額450円のマンガが違法にアップロードされ、100万回ダウンロードされた。

114条1項は、著作権侵害により、著作権者が自己の受けた損害の賠償を請求する場合についての損害額の算定方法を規定しています。

損害額 =「侵害者の譲渡等数量」×「権利者の単位あたりの利益」−「権利者が販売等を行えない事情に応じた金額」
※「侵害者の譲渡等数量」×「権利者の単位あたりの利益」については、著作権者の販売等を行う能力に
 応じた額を超えない程度である必要があります。

つまり、著作権侵害者が侵害の行為によって作成された物を譲渡したときは、その譲渡した物の数量に、「著作権者がその侵害がなければ販売することができた物」の単位数量あたりの利益の額を乗じて得た額を、著作権者の販売等を行う能力に応じた額を超えない限度において、著作権者等が受けた損害の額とすることができます。
ただし、譲渡数量の全部または一部を著作権者等が販売することができない事情があるときは、その事情に相当する数量に応じた額を控除するとされています(著作権法第114条第1項)。

上記の事例の場合、著作権者は、450円×100万部=4億5000万円を損害とすることができます。 ただし、通常は1万部しか売れないマンガだった場合は、450万円(450円×1万部=450万円)以上の損害額とすることはできません。

イ 論点—「著作権者等がその侵害の行為がなければ販売することができた物」「販売その他の行為を行う能力」の意義

「著作権者等がその侵害の行為がなければ販売することができた物」とは、侵害者の侵害物と著作権者等が販売する物との間に、市場における代替関係が存在する物をいいます。

例えば、音楽CDを販売する権利者が、無許諾で音楽ビデオ映画を製造・販売した者に対して損害賠償請求を行う場合、音楽ビデオ映画と音楽CDは、必ずしも市場における代替関係にないと考えられるため、著作権法114条1項は適用されないということになります。

また、「販売その他の行為を行う能力」は、販売する能力のほか、その著作物を生産する能力など販売行為に至る様々な能力をいいます。

したがって、人員等の販売体制が整っていなかったり、生産設備が不十分であったりして、著作権者等に海賊版の販売数量と同じ数量の正規品を販売する能力がない場合には、著作権者等の販売能力等に応じて、損害額が減額されます。

さらに、①代替品の存在、②販売市場の相違、③侵害者の営業努力、など、著作権者等の譲渡等数量に影響を与える著作権者等の「能力」以外の事情を侵害者が立証した場合にも、損害額が減額されることになります。

損害額の算定ルール②(著作権法114条2項)

ア 基本のルール

*事例
違法な業者が1000個の海賊版DVDを販売し、300万円の利益が出た。


114条2項は、侵害者が侵害行為により利益を受けているときについての損害額の算定方法を規定しています。

損害額=「侵害者が得た利益」
※ただし、相手方が権利者の損害額が少ないことを立証すると、推定が覆る可能性があります

つまり、著作権者等は、著作権侵害を行った者に対し、その著作権等侵害行為により侵害者が利益を受けている場合は、その利益の額が損害の額と推定され、これを根拠に損害額を算定し主張することができます。

ただし、この規定は推定規定にすぎません。相手方が、権利者の損害額がもっと少ないことを立証することで、推定が覆される可能性があります。

上記の事例の場合、海賊版DVDの販売により得た300万円の利益が、権利者の損害として推定されます。

イ 論点—推定されるべき「利益」の意味

侵害行為者が侵害行為によって受けた「利益」の額の意味について問題となります。 以下の3つの考え方があります。

  • ①売上高から製造原価又は仕入原価を控除した粗利益とする考え方
  • ②売上高から製造原価や仕入原価を控除しさらに当該売上を得るのに必要とされた販売費及び
    一般管理費(広告宣伝費、販売手数料、運送費、販売員給料、店舗等の賃料等)を控除した純利益であるとする考え方
  • ③製品を追加的に売り上げる際の売上から追加費用(変動費用)を除外した、いわゆる「限界利益」とする考え方



従来は、②の説(純利益)を意味すると解するのが多数説でした。
しかし、著作権者等の側で侵害行為者の純利益の額を特定するための費用項目をすべて立証することは困難です。 仮に、これらの純利益をすべて立証しなければ著作権法114条2項の推定を受けることができないとすると、同項を規定して損害額の立証負担を軽減した法の趣旨に反することとなります。

そこで、①の説により粗利益の額を主張・立証すれば同項の推定を受けることができ、純利益の額がこれよりも少ないことは侵害行為者が主張・立証しなければならないとする考え方もあります。

なお、近年では、③の「限界利益」と解する説が有力です。 この説では、逸失利益で問題にすべき費用は、製品1個当たりに平均してかかっている費用ではなく、一定数の製品を製造販売したあと更に一定数の製品を製造販売することのみにかかる費用であるとしています。
そのため、著作権者等が新たに労働力や設備投資を必要としない限りは、製品ごとの粗利益の額が逸失利益になることも十分ありうるとして、推定されるべき利益は「限界利益」であると解しています。

例えば、他人の著作物であるゲームソフトを勝手にコピーして、1本100円で2000本販売した場合、 パッケージ代が1本10円、印刷代が1部5円であれば →1部を追加的に販売するために要する追加費用は15円となります。

これ以外にもオフィス代、人件費などの経費が必要となりますが、これらの経費は2000本販売する時と5000本販売する時とでは変わりません。そのため、変動費用とはいえませんので、限界利益の算出では考慮されません。

よって、侵害者の限界利益率は85%、限界利益の額は100円×2000本×85%で、17万円となります。

③-限界利益説を採用したリーディングケース
東京地判平7・10・30【システムサイエンス事件】

●「推定の前提事実である侵害者が侵害の行為により受けた利益の意味も、財務会計上の利益概念にとらわれることなく、推定される事実との関係で定めるべきであり」、従業員の訓練や管理部門の「従業員の雇用は確定したものとなっているのであるから、新たな設備投資や従業員の雇用、訓練を要さず、そのままの状態で製造販売ができる台数の範囲内では、原告の逸失利益とは、当該装置一台分の失われた売上額から当該装置の製造販売のための変動経費のみを控除した限界利益とでもいうべきものの、台数分」というべきとし、

●侵害者が「侵害の行為により受けた利益も、被告製品の売上額からその製造販売のための変動経費のみを控除した額と考えるのが相当であり、被告製品の開発費用、製造上の慣熟のために要した人件費(製造の当初、従業員が作業に慣熟していないため本来よりも多く作業時間を要したことによる費用を含む。)、一般管理費、営業外費用租税公課、製造装置の償却費等は控除の対象とはしないものと解するのが相当である」と述べています。

ウ 寄与度による損害額の算定

著作権を侵害する部分が侵害行為者の販売製品の一部分を構成するにすぎない場合、損害額を算定する際には別途の考慮が必要となります。
裁判例によると、著作権法114条2項の推定を受ける利益の範囲は「侵害部分が利益の獲得に寄与した限度」です(東京地判昭53・6・21等)。

損害額の算定ルール③(著作権法114条3項)

ア 基本のルール

*事例
10万円のソフトウェア(ライセンス料率は50%)の違法コピー100個をダウンロード販売した。


114条3項によれば、著作権者等は、権利侵害者に対して損害賠償請求を行う場合に、権利の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額として請求することができます。

損害額 =「ライセンス料相当額」

「権利の行使につき受けるべき金銭」の例として、ライセンス料が挙げられます。 ライセンス料とは、著作物の利用者が著作権者に対して支払う対価としての使用料のことを指します。 著作権者が受けるべきライセンス料相当額を著作権者の損害額とすることができます。 ライセンス料相当額は、通常、侵害品の売上額にライセンス料率を乗じた額となります。

上記の例の場合、著作権者の損害額は、10万円×100個×0.5=500万円とすることができます。

ここでのポイントは、著作権者が3項の「受けるべき金銭の額に相当する額」の立証に成功すれば、侵害行為者は、相手方が実際に被った損害額がそれよりも低額である等の主張・立証を行うことができなくなるという点です。

イ 論点—「相当」な額の意義

「相当」な使用料は、訴訟当事者間の業務上の関係、侵害行為の悪質性や被侵害著作物の属性等の当該事件の具体的事情をはじめ、幅広く諸般の事情を考慮したうえで、「相当」な使用料の認定をすることができます。
例えば、未公表著作物の違法複製頒布の場合には、「未公表」であるものを「公表」したという事情を考慮し、通常より高額な使用料を認定できる場合があります。

ウ 寄与度による損害額の算定

114条2項の場合と同様、著作権を侵害する部分が侵害行為者の販売製品の一部分を構成するにすぎない場合、損害額を算定する際には別途の考慮が必要となります。 同条3項の受けるべき金銭の額に相当する額については、

  • 使用料が侵害部分に着目して設定される場合
    →端的にその使用料が受けるべき金銭の額に相当する額
  • 侵害部分を含む製品全体に着目して設定される場合
    →製品の売上高に通常の使用料率を乗じるなどして算定した額に、さらに侵害部分の製品全体に
    おける割合を乗じて算出される額


    となります。

3つの規定の適用関係

3つの条文の適用関係については、条文の制定経緯から考察していくと良いでしょう。

当初、114条による推定規定は、現在の114条2項である「侵害者が侵害行為によって得た利益の額を著作権者等の損害額と推定する」とのみ設けられていました。

ところが、この規定のみでは、侵害者が一定の数量の侵害品を無償で配布したり、得た利益が少なかったりするような場合には、著作権者等の逸失利益が十分に賠償されないことがありました。

そこで、114条1項により、著作権者等が自ら著作物等を販売する能力を有している場合には、「侵害者の譲渡等数量」×「正規品の単位数量当たりの利益額」を著作権者等の損害額とできることが定められました。
この規定は、平成15年の著作権法改正によって追加されたものです。

114条3項は、侵害行為者が侵害行為によって利益を得ておらず、著作権法114条2項の適用がない場合にも、著作権者は受けるべき金額の額に相当する額の賠償を侵害行為者に対して請求することができるという規定であり、著作権者の最低限の損害賠償額を法定したものといえます。

損害額算定の関連規定

計算書類提出命令・計算鑑定(著作権法114条の3・114条の4)

前述のように、著作権法114条により、著作権侵害による損害額の立証の負担が軽減されています。 もっとも、実際の損害賠償請求訴訟においては、著作権者において、侵害行為者が受けた利益の額や、著作権を侵害する製品の販売額等につき主張・立証する必要があります。

これらの利益の額や販売額等を示す資料は侵害行為者の手元にあり、著作権者がこれらの額を立証することは実際上困難を伴うことが多いです。
そこで、著作権法114条の3は 、当事者の申立てにより、裁判所が当事者に対して、侵害行為による損害の計算をするために必要な書類の提出を命じることができる旨を定めています。 同条の対象には、侵害行為について立証するために必要な書類も含まれています。

実際の申立ての方法は、民事訴訟法の文書提出命令に関する一般規定(民訴220条以下)によることになります。

また、損害の計算をするために必要な書類が提出された場合であっても、当事者だけでは正確な調査分析ができないなどの場合には鑑定を申し立てることができます

裁判所が、当事者の申立てにより、損害算定のための専門的知識を有する計算鑑定人の鑑定を命じたときは、当事者はその鑑定人に協力しなければなりません(著作権法114条の4)。

相当な損害額の認定(著作権法114条の5)

著作権等侵害訴訟において、損害が生じたことが認められる場合、損害額を立証するために必要な事実を立証することが当該事実の性質上極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができます(著作権法114条の5)。

最後に

著作権を侵害する模倣品・海賊版を製造・販売・輸入する者に対して損害賠償を請求するには、多くの事実について立証しなければなりません。
損害額については、法律が算定規定を設けており(著作権法第114条)、著作権者から侵害者に対する損害賠償請求を容易にしています。
ただし、損害賠償請求の前提として必要な侵害者の故意・過失については、侵害行為について過失があったものとの推定規定はありませんので、権利者の側で証明しなければならない点に注意が必要です。


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