澤田直彦
監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所
代表弁護士
IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「映画製作の著作権法上留意点とは?著作者や著作権者についての考え方も解説」
について、詳しくご説明します。
著作物・著作者・著作権者とは
著作権法は、文化を豊かにすることにつながる創作を刺激し、その流通に対して投資する者を増やすために、一定の範囲の行為に独占的利用を保証することを目的としています。
著作物とは
著作物といえるための要件は、
- ①思想又は感情の表現であること
- ②表現の創作であること
- ③文芸・学術・美術又は音楽の範囲に属すること
です(著作権法2条1項1号)。
①については、人間の何らかの精神的活動の所産であればよいと解されています。
また、②については、創作性とは、ありふれた表現ではない作者の個性が現れていればよいと解されています。
具体的には、その著作物の性質に照らして、後発の創作者に他の表現の選択余地が残されていれば、創作性が認められうるということです。
そして、③については、実用品を著作物から除外する趣旨の要件と解されるので、独自の役割はないとされています。
著作権法10条が著作物の例示を規定しています。
そのうちのひとつが本稿でご説明する映画の著作物です。
著作者とは
著作者とは、「著作物を創作する者」(著作権法2条1項2号)と規定されています。
すなわち、著作物の表現を確定した者をいいます。これは、創作的表現の作成が誰の手によるかという、客観的な基準から判断されます。
もっとも、そのような創作過程の立証は困難なので、著作権法14条によって著作者が推定される場合があります。著作者が確定しない状態を回避する趣旨だと考えられます。
著作権者とは
著作権者とは、著作者でなくとも、著作物に関する権利を保有する者をいいます。
著作者から著作権を譲り受けることや、著作者を相続することで著作権者になることがあります。
なお、著作者人格権については、譲渡できず相続の対象ではないので、著作者のみが保有することになります。
映画の著作物とは
まず、映画の著作物について検討する前に、著作権法上の「映画」とは何かが問題となります。
といっても、著作権法において、映画そのものは定義されていません。ただし、頒布権に関する規定など、一般の劇場上映用映画作品(以下では、「劇場用映画」といいます。)を念頭に置いた規定が見受けられるので、著作権法で映画といえば劇場用映画を意味します。
また、著作権法2条3項は、「映画の効果に類似する視覚的又は視聴的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物を含む」と規定しているため、劇場における上映を前提としないテレビ番組やアニメ、ビデオ、CMフィルムも映画の著作物として扱われる場合があります。
また、インターネット投稿用動画(YouTube等)も『映画の著作物』に該当する場合があります。このように、映画それ自体を定義する意味に乏しいのが現状です。
映画の著作者・著作権者とは
映画の著作者とは
著作者は、上述のように著作権法2条1項2号に定義されています。
これに加えて、「映画の著作物の著作者は、その映画の著作物において翻案され、又は複製された小説、脚本、音楽その他の著作物の著作者を除き、制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とする。」(著作権法16条本文)と規定しています。
原作者や脚本家、音楽家などは映画の著作者にはならず、プロデューサーや監督、演出者、カメラマン、美術デザイナー等が映画の著作者になりうるということです。
この点、「美術等」の「等」の意味については、「特殊撮影の監督などが含まれ、助監督、カメラ助手等は含まれない」とされています。
結局は、「等」の解釈に「など」という文言が用いられているため、著作権法16条によって映画の著作者となる者の範囲が厳密に確定しているとは言えません。
また、「映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した」というのは、一貫したイメージをもって映画制作の全体に参加している者をいうと解するのが通説的な見解です。
宇宙戦艦ヤマト事件と呼ばれる判例では、アニメーション作品の監督であってもメカニックデザインやキャラクター設定等の美術・設定デザインの一部に関与しただけの者は、映画の著作者にあたらないとする一方で、企画書の作成から映画の完成までのすべての製作過程に関与し、具体的かつ詳細な指示をして、最終決定を行ったプロデューサーが映画の著作者にあたると判示しています(東京地裁平成14・3・25判タ1088号268頁・判時1789号141頁)。
他方で、超時空要塞マクロス事件と呼ばれる判例では、テレビ用アニメ―ション作品において、具体的関与なく、スタッフに対して指示をあたえたこともなかったプロデューサーは映画の著作者に当たらないと判示しています(東京地判平成15・1・20判タ1123号263頁・判時1823号146頁)。
このように、肩書がプロデューサーであっても、映画制作への寄与度やその内容によって、映画の著作者にあたるか否かが左右されます。
従って、映画制作過程で、映画の全体的形成に創作的に寄与する行為をした者は、監督であろうと演出家であろうと肩書きにかかわらず、映画の著作者となり、このような者が複数いれば、映画の著作物を共同著作物とする著作者となります。
なお、著作権法の立法者は「映画」について、劇場用映画の著作物を念頭に置いていましたが、上述のように映画には、劇場用映画以外にも多くのものを含みます。
したがって、「映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した」か否かの判断も困難になっているといえます。実務上は、映画の著作物の内容に応じた制作過程、制作に関与する者の役割、ビジネス形態等を十分に考慮したうえで判断する必要があるでしょう。
また、「職務著作」(著作権法15条)に該当する場合、映画の著作物の著作者及び著作権者は法人等となります(著作権法16条ただし書)。
ただ、「職務著作」に該当するためには法人等の名義の下で公表される必要があります。映画会社の従業員である監督が劇場用映画を作成した場合、監督の氏名が表示されることも多く、監督等の名義の下に公表したと考えられるため、「職務著作」には該当しないと解されます。そのため、映画における「職務著作」が問題となるのは、主として、会社のPR映像や、ニュース映画等、会社従業員が制作し、会社名義の下に公表されたものに限られるであろうと考えられます。
映画の著作権者とは
著作権法は、「映画の著作物の著作権は、その著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは、当該映画製作者に帰属する。」(著作権法29条1項)と規定しています。
著作権法29条が規定された趣旨は、上述のように多数の映画の著作者が出現する場合があり、これらすべての者に著作権行使を認めることは、映画の著作物の流通が阻害されかねないため、これを回避することにあるといえます。
また、従来から、映画製作者と映画著作物の著作者の契約で、映画製作者に著作権が委ねられるケースが多かったことから、その慣習に沿った規定を設けたといえます。
ここでいう「映画製作者」とは、「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者」と定義されています(著作権法2条1項10号)。
裁判例上は、「映画の著作物を製作する意思を有し、著作物の製作に関する法律上の権利義務が帰属する主体であって、そのことの反映として同著作物の製作に関する経済的な収入・支出の主体ともなる者」であると解されています(東京高裁平成15・9・25(平成15年(ネ)第1107号)裁判所ホームぺージ)。
この「発意」につき、裁判例は、最初に映画を自ら企画立案した場合だけでなく、他人からの依頼等によ って製作意思を有するに至った場合もこれに含まれると判断しています(東京高判平成15・9・25(平15(ネ)第1107号)裁判所ホームページ)。
また、この「責任」については、製作を行う法的主体として製作に関する収入・支出を自己の計算において行うことが求められています。
また、「映画の著作物の製作に参加することを約束している」とは、多くの場合は、映画製作者と映画著作物の著作者が参加契約を締結している場合を指しますが、口頭での契約でも構いません。また、制作作業に対して報酬等の対価を得ていた場合には、参加の意思が肯定された判例もあります(東京高判平成15・9・25(平成15年(ネ)第1107号)裁判所ホームぺージ)。
映画の著作物における権利処理
では、様々な利害関係人が登場する映画の著作物については、どのような権利処理が必要となるでしょうか。
原著作物の著作者と映画製作者・映画著作者
原著作物の著作者とは、Q1における小説の作者を指します。
映画製作者はその原作者から映画化権(著作権法27条)について利用許諾を得る必要があります。映画は映画化の許諾がなくとも二次著作物になりますが、著作権侵害や同一性保持権侵害にあたるおそれがあるからです。
原著作物の著作者は、上述のように映画の著作者から除外されていますが、著作権法28条を介して、当該映画の著作者が有するものと同一の著作権法21条以下の権利を専有します。
したがって、原著作物の著作者との間で、原著作物の映画化権のみではなく、二次的著作物である映画について原著作物の著作者が有する著作権法21条以下の権利についても、原著作者と交渉する必要があります。
映画製作者と映画著作者
まず、上述のように映画著作物の著作者と著作権者それぞれが、著作権法16条および29条に従って確定されますが、あくまで任意規定なので、当事者間の契約によって、著作権の帰属先を変更することができます。
この際には、契約書に「映画に関する一切の権利(著作権法27条および28条の権利を含む)は〇〇に帰属する」というように明示して契約を締結しておかないと、権利が留保されるおそれがあります(著作権法61条2項参照)。
なお、著作権法27条は翻訳権・翻案権等を規定し、著作権法28条は、二次著作物の利用に関する原著作者の権利を規定しています。
また、映画の著作者が参加契約において、映画製作者に帰属することになる著作権の行使につき条件を付すことは妨げられないと解されているので、著作権使用料の有無や価額について交渉の余地があるといえます。
そして、映画著作者は、公表権(著作権法18条)・氏名表示権(著作権法19条)・同一性保持権(著作権法20条)・名誉声望保持権(著作権法113条6項)という著作者人格権を有しますが、実務上は、著作者人格権を一切行使しないことを同意する旨の特約が契約に設けられることが多いです。
実演家と映画製作者・映画著作者
俳優をはじめ、映画に出演した者である実演家は、その実演について録音権や録画権等の著作隣接権を取得します(著作権法91条以下)。
ただし、許諾を得て映画に収録された実演を複製する(ビデオ化する場合やテレビ放送する場合など)に際して、著作権法上は実演家から改めて許諾を得なくとも問題ありません(著作権法91条2項)。
もっとも、実務上は、複製するに際して、実演家の意向を確認し、追加報酬を支払う場合が多いです。
他方で、映画内から音楽部分のみを摘出してサウンドトラック盤のCDを制作する場合には、映画ではなく音楽そのものの利用になるので、音楽の実演家による許諾を得る必要があります。
また、実演家も氏名表示権(著作権法90条の2)・同一性保持権(著作権法90条の3)という実演家人格権を取得するので、上述の著作者人格権と同様にその権利行使について交渉を行う余地があります。
音楽著作物との関係
映画制作のために製作された音楽は、これに関するすべての権利を映画製作者が定額で買い取ることが多い一方で、既成音楽を使用する場合には、音楽出版社・JASRAC等の権利管理団体を通じて、各権利者から許可を得る必要があります。参考記事としては、音楽著作権の侵害?店内BGMにダウンロードした音楽を利用する方法をご参照ください。
製作委員会方式における映画の著作物
製作委員会とは、複数企業による出資で映像作品を制作する民法上の組合をいいます。
作品による収益は出資した企業間で分配することになります。製作委員会を組成する企業には、映画配給会社やテレビ局、出版社、広告代理店、映画製作会社、レコード会社などが挙げられます。
実際の制作業務は映画製作会社が行うことが多いので、著作権法16条によれば、映画製作会社が映画著作者となります。
また、その他の企業については組合契約締結により参加の意思があると言えそうなので、著作権法29条によれば、映画製作会社が映画製作者と解され、映画製作会社に著作権が帰属する場合が多いでしょう。
しかし、映画の著作権の帰属について、製作委員会契約又は製作委員会から当該映画製作会社への製作委託契約の中で、製作委員会が共有(通常は製作委員会における出資割合に応じて著作権を共有する)するよう定めるのが一般的です。
そのため、製作委員会を組織する企業が著作権を共有することが多いです。その場合、通常は、製作委員会の幹事会社が共同著作権行使の代表者となります。原作の出版社や映画製作者が幹事会社となる場合が多いようです。
もしくは、共同制作者全員が権利を共有し、各用途について窓口権を設ける方法が採られることもあります。窓口権は、製作委員会構成員が各社の営利目的に応じて取得する配給権やテレビ放送権、DVD販売権などの映画の個別的な利用権限をいいます。
まとめ
ある小説を原作として映画化する場合においては、原作者から映画化についての許諾を得る原作利用契約といわれる契約を締結すること、脚本家、監督、出演者(実演家)等との間でもそれぞれ役務(サービス)提供に関する契約を締結し、そのなかで必要な権利処理をしておくことが必要です。
また、映画作品の著作者と著作権者が異なることがあることも留意が必要です。映画の著作物は、利害関係者が多く権利関係が複雑になるため、映画化前に権利処理を行うことが、収益拡大やトラブル回避、コスト軽減にもつながります。
詳細については、専門家にご相談されることをお勧めいたします。
悩まれることがあれば、当事務所にもお気軽にお問い合わせください。
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