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著作権の保護期間はどのくらい?本や映画、それぞれで異なるのか?

Q
著作物には保護期間があると聞きました。
本、映画、論文、写真等の著作物について、著作権として保護される期間を教えてください。

A
著作権の保護期間は、著作物の創作の時から始まり(著作権法51条1項、以下「法」と言います。)、原則として、著作者の死後70年を経過するまでです(法51条2項)。
したがって、著作者の死後70年を経過すれば、著作権は消滅し、それ以降はほぼ自由に当該著作物を利用することができます。

ここで注意が必要なのが、著作権の保護期間は、著作権者ではなく、あくまで「著作者」の死後70年を経過するまでということです。
例えば、著作者が著作権を他人に譲渡した場合がこれに当たります。

他方、ペンネームにより発行されている本(法52条1項)や、誰が著作者であるか明確ではないことが多い映画(法54条1項)などのように、著作者を把握することが困難な場合、著作者がわからないことから死亡した時点も判然とせず、著作権の保護期間を計算することが難しくなります。
そこで、著作権法は、著作権の保護期間の計算を容易にするため、著作物を公表した時点を起算点として、70年を経過するまでの間を保護期間としました。

本、映画、論文、写真の保護期間は、以下の通りです。
 ◆本、論文及び写真
   ・著作者が判明している場合
    →著作者の死亡から70年を経過した時
   
   ・無名又は変名の場合
    →公表の時から70年を経過した時
     ただし、著作者の死後70年の経過が明らかであれば、その時点
 
 ◆映画 
   ・公表されているとき
    →著作物の公表から70年を経過した時

   ・公表されていないとき
    →創作の時から70年を経過した時


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 
代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。

本記事では、
「著作権の保護期間はどのくらい?本や映画、それぞれで異なるのか?」
について、わかりやすく解説します。

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著作権の保護期間について

保護期間とは

著作権には保護期間が設けられており(法51条1項)、その保護期間においては、原則として著作権者の許諾なく著作物を利用することができません。

なぜ保護期間が設けられたのでしょうか。その趣旨は、著作権が永久に存続する権利であれば、新たに著作物を創作しようとする際に権利処理が煩わしくなり、ひいては創作意欲を減退させてしまうことにあります。
保護期間を経過した時に著作権は消滅し、一般大衆の自由利用が可能となることで、保護期間を設けた目的を達成できます。

保護期間の起算点

著作権の保護期間は、著作物の創作の時から開始し(法51条1項)、原則として、著作者の死後70年を経過するまでの間存続します(法51条2項)。これを 死亡時起算主義といい、著作権法の保護期間の起算点として、原則的となる考え方です。

しかし、真の著作者が不明であるということがあります。このような場合には、著作者が特定できないことから、死亡時を起算点として著作権の保護期間の計算をすることができません。そこで、死亡時起算主義の例外として、 公表時起算主義という考えも採用しています。

さらに、著作者の特定が困難な場合で、公表がなされていない場合には、創作時から起算するという 創作時起算主義にしたがって、著作権の保護期間を計算することになります。

保護期間の計算

著作権法の保護期間を計算する場合、単に、著作者が死亡した時又は著作物を公表した時から70年を経過するまでを計算すればよいというわけではありません。著作権法では、保護期間についての計算方法を定めています(法57条)。

保護期間の計算方法は、「著作者が死亡した日又は著作物が公表され若しくは創作された日のそれぞれ属する年の翌年から起算する」とされており、これを暦年主義といいます(法57条)。

具体例としては、1970年に作家Aが死亡した場合には、翌年である1971年1月1日から起算して70年を経過した時、すなわち、2040年12月31日を経過するまでの間が著作権法の保護期間となります。

外国の著作物と保護期間

海外の著作物の著作権を利用する場合には、保護期間を計算する際に、戦時加算と相互主義について考慮しなければなりません。

戦時加算について

戦時加算とは、第2次世界大戦中に、連合国側の著作物が日本国において著作権法上の保護を受けていなかった期間を、本来の保護期間に加算することを言います。この義務は、連合国及び連合国民の著作権の特例に関する法律4条により義務付けられています。

外国の著作物であり、戦時加算の適用を受ける場合、著作権の保護期間は次の通りとなります。

著作権の保護期間 = 本来の保護期間 + 加算期間

そして、加算期間は国ごとに異なります。
・3794日 : アメリカ、イギリス、フランス、カナダ、及び、オーストラリア
・3816日 : ブラジル
・3844日 : オランダ
・3910日 : ベルギー

相互主義について

相互主義とは、著作物の本国である外国の法での保護期間の方が、自国の法より短い場合に、その短い保護期間を適用する立場です(法58条)。
日本の定めている保護期間より短い保護期間を定めている、ベルヌ条約加盟国とWTO加盟国の著作物については、その本国において定められている著作権の保護期間に限り保護されます。

例えば、著作物の本国であるA国が50年を保護期間として設定した場合には、日本が著作権の保護期間を70年としたとしても、A国の著作物の著作権は50年限りしか保護されません(法58条)。

平成30年(2018年)改正との関連

著作権法は、平成28年(2016年)に改正がなされています。
この改正で、保護期間が「50年を経過するまでの間」から「70年を経過するまでの間」に延長され、著作者の死後又は著作物の公表後の70年を経過するまでの間が著作権の保護期間となりました。

そこで、この改正法が適用される範囲が問題となります。

この改正は、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(包括的・先進的TPP11協定)が効力を生じる日である、平成30年(2018年)12月30日から施行されました。
これにより、原則として昭和43年(1968年)以降に亡くなった方の著作物の著作権の保護期間が延長されました。

ただし、保護期間が延長されるのは、改正法の施行日である平成30年(2018年)12月30日の前日において著作権等が消滅していない著作物等についてのみです(TPP整備法附則第7条)。

死亡時起算主義が適用される具体例

本及び論文の場合

「著作者の死後70年を経過するまでの間、存続する」としており(法51条2項)、本や論文についてはこの規定が適用され、著作者の死後70年を経過するまでの間が著作権の保護期間となります。

共同著作物の場合

一つの著作物に関して数人が共同で執筆した場合、著作権の保護期間は、「(最終に死亡した著作者の死後」)70年を経過するまでの間存続する」とされています(法51条2項かっこ書き)。

写真について

写真の保護期間について、平成8年(1996年)改正前まで、公表後50年(公表されなければ、創作後50年)が経過するまでの間、著作権が存続すると定められていました(改正前法55条)。
もっとも、平成8年(1996年)の法改正により法55条の規定が削除され、原則どおり、死亡時起算主義により計算することとされました(法51条2項)。

公表時起算主義が適用される具体例

無名又は変名の場合

「無名又は変名の著作物の著作権は、その著作物の公表後70年を経過するまでの間、存続する。」(法52条1項)とされています。

例えば、ペンネームなどにより著作者名を表示しないで作成された場合、この規定の適用を受け、公表した翌年から起算して70年を経過するまでの間が保護期間となります。

ただし、ペンネームといっても、その著作者が一般に知られている場合には、著作者の死亡時点から起算します(52条1項1号)。

例えば、夏目漱石(本名は夏目金之助)は周知の変名であり、 死亡時起算主義が適用されると考えられます。

他にも、
●著作物の公表後70年を経過するまでの間に、文化庁に対して実名の登録(法75条1項)をした場合(法52条2項2号)
●無名又は変名の著作物として公表後70年を経過する前に、実名又は周知の変名を著作者名として表示してその著作物を公表した場合
も、著作者が死亡した時から起算されます(法52条2項3号)。

法52条2項各号の要件を満たすときは、著作者の死亡した時を把握することが困難ではないため、死亡時起算主義の原則に戻り、保護期間を計算することができるからです。

団体名義の著作物の保護期間について

団体名義の著作物の保護期間

会社名義での発表した書籍など、法人その他の団体が著作の名義を有する著作物の著作権は、その著作物の公表後70年(創作後70年以内に公表されなかった場合は、創作後70年)を経過するまでの間、保護期間が存続します(法53条1項)。

この規定は、団体が死亡するということは観念できないうえに、仮に解散を死亡と見立てた場合にも、著作物の著作権の保護期間が長い期間にわたりすぎることを理由として、公表時を起算点としたものです。

なお、「団体が著作の名義を有する著作物」とは、職務著作物に加えて、法人等が著作者とならずに当該団体名義で公表されたものも含みます。

職務著作としてのプログラム

職務著作としてのプログラムについては、法人などの名義で公表していなくとも、法人が著作者となります(法15条2項)。

そして、当該団体が著作の名義を有する者とみなされ、その著作物の公表後70年(創作後70年以内に公表されなかった場合は、創作後70年)を経過するまでの間、保護期間が存続します(法53条3項)。

ただし、公表時起算主義はあくまで例外であることから、団体名義の著作者が自然人であることが明らかになった場合には、死亡時起算主義の原則の適用を受けることになります(法53条2項)。

映画について

54条1項について

映画の著作物の著作権は、その著作物の公表後70年(創作後70年以内に公表されなかったときは、その創作後70年)を経過するまでの間存続します(法54条1項)。
映画は、監督、脚本家、演出家、俳優やカメラマンなど、複数の人たちが関わって制作されるものです。

それゆえ、著作者の特定が困難であるという性質があるため、死亡時起算主義を採用せず、 公表時起算主義を採用したのです。

映画の著作物の著作権の保護期間は、平成15年(2003年)に改正され、50年だった保護期間が70年に延長されました。改正された理由は、欧州諸国が映画の著作権の保護期間を公表後70年としていたこと、及び、改正前の法を制定した当時では想定していなかった映画のコンテンツ配信が行われるなど、新たなビジネスの機会が生まれたことにあります。

映画の著作物を利用できる範囲

映画著作権の保護期間が終了した場合でも、あくまで著作権が消滅するのは、映画の著作物に関する著作権のみです。

映画をそのままの形態において利用する場合であれば、原作者や脚本家の許諾なく利用できることになります(52条1項)が、原作や脚本自体の著作権が当然に消滅しているわけではないので、注意が必要です。

平成15年(2003年)改正との関係

平成15年(2003年)改正法の適用は、改正法施行日平成16(2004)年1月1日からであるため、それ以前に保護期間が経過している場合には、保護期間の延長がなされないことに注意が必要です。
つまり、平成15(2003)年12月31日に保護期間が満了した場合には、著作権の保護期間の延長がなされません。

実際に、昭和28(1953)年に公開された『ローマの休日』の映画の著作権の存続期間は、2003年12月31日に満了したとして、延長されないとした判決があります。
(東京地決平成18年7月11日判時1933号68頁)

継続的刊行物

著作物には、冊、号又は回を追って公表される著作物があり、それを「継続的刊行物」と言います。
継続的刊行物の例としては、週刊誌の連載コラム、一話完結のドラマ(『暴れん坊将軍』等)などが当たります。

また、一部ずつ逐次公表して完成する著作物を「逐次刊行物」と言います。
逐次刊行物の例は、逐次刊行される百科事典や、一話完結でない連続ドラマなどです。

法人名義で発表される著作物や、無名または変名の著作物のように、保護期間が公表後70年とされる著作物のうち、継続的刊行物については、それぞれの回が独立した著作物として扱われることから、「毎回の公表の時」(法56条1項前段)を個別に起算点とします。

他方、逐次刊行物の起算点は、「最終部分の公表の時」であると定められています(法56条1項後段)。

著作者人格権の保護期間について

著作者人格権と保護期間

著作者人格権は著作者の一身に専属する権利、つまり、譲渡することも相続することもできない権利です。そのため、著作者の死亡に伴って消滅します(法59条1項)。
したがって、著作者人格権の保護期間は、著作者の生存している間ということになります。

もっとも、著作者の死後も、「著作者が存しているとしたならばその著作者人格権の侵害となるべき行為をしてはならない」(法60条)としていることから、著作者の死後も完全な自由利用は認められていません。

詳しくは別記事、著作者人格権とは?著作者死後の人格的利益の保護についても解説でも説明しています。

著作者人格権の内容

著作者人格権の内容としては、

  • 公表権(法18条)
  • 氏名表示権(法19条)
  • 同一性保持権(法20条)

があります。

公表権とは、その著作物でまだ公表されていないものを公衆に提供し、又は提示する権利をいいます。

氏名表示権とは、著作者はその著作物の原作品またはその著作物の公衆への提供又は提示に際し、その実名若しくは変名を著作者名として表示するか表示しないかを決めることができる権利をいいます。

同一性保持権とは、著作者の有する著作物及びそのタイトル等の題号の同一性を保持する権利をいいます。

著作者の死後の人格権の保護

著作者はその生存中に限って著作者人格権を有し、著作者が死亡すればその権利も消滅します。
しかし、著作者の死後も、著作者の人格的利益を保護すべきという考えから、著作権法は、その著作者が生きていたとすれば著作者人格権侵害となるような行為はしてはいけない旨を定めています(法60条)。

著作者の死後、著作者が生存していたのであれば公表権を侵害する行為に該当するか否か争われた事件があります
(三島由紀夫手紙事件 東京地判平成11年10月18日判時1697号114頁、東京高判平成12年5月23日判時1725号165頁)。

この事件は、三島由紀夫の手紙の受取人が、彼の死後、その手紙の内容を書籍にして公表したことに対して、遺族が、三島由紀夫が生存していたならば三島由紀夫の有する公表権の侵害となるべき行為(法60条)に該当するとして、法116条に基づき印刷・販売の差止め及び謝罪広告を要求したというものです。

裁判所は、三島由紀夫が生存していたならばその公表権の侵害となるべき行為(法60条)に該当すると判断し、遺族の請求を認めました。

まとめ

著作権は原則として、創作の時から始まり(法51条1項)、著作者の死後70年を経過するまでの間存続します(法51条2項)。

そして、
●無名又は変名の著作物(法52条1項)
●団体名義の著作物(法53条1項)
●映画の著作物(法54条1項)
●継続刊行物等についての著作権(法56条)
は、原則として、公表後70年を経過するまでの間、存続します。

保護期間を計算する際には、暦年主義(法57条)が採用されている点に注意しなければなりません。

また、外国の著作物を利用する際には、上記に加えて、戦時加算や相互主義を確認した上で、著作物の利用を検討する必要があります。


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