澤田直彦
監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所
代表弁護士
IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「著作権侵害の判断基準とは?実務対応フローを弁護士が解説」
について、詳しくご説明します。
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著作権とは?その重要性と判断基準
現代のビジネスやクリエイティブ活動において、「著作権」は非常に重要な役割を果たしています。企業のウェブサイトに掲載される記事や画像、広告デザイン、YouTubeなどの動画コンテンツ、さらには音楽やソフトウェアまで、多くの制作物には著作権が関係しています。適切に著作権を管理し、他者の権利を侵害しないようにすることは、企業の法的リスクを避けるだけでなく、ブランド価値を守るうえでも欠かせません。
しかし、著作権侵害が疑われるケースでは、何が「侵害」に該当するのか判断が難しいことが多いのも事実です。例えば、以下のような状況が考えられます。
✓ 企業のウェブサイトでフリー素材を使用したが、実は著作権者の許諾が必要だった。
✓ デザイナーが制作したロゴや広告が、他社のデザインと類似していると指摘された。
✓ 動画配信やSNS投稿で音楽や映像を使用したが、利用許可を得ていなかったため削除された。
✓ AI生成コンテンツの著作権帰属について、法的な問題が発生した。
本記事では、このような著作権侵害の可能性があるケースについて、どのように判断すればよいのか、実務上の対応方法を含めて分かりやすく解説します。著作権を正しく理解し、トラブルを未然に防ぐための実践的な知識を身につけましょう。
著作権侵害の判断フロー
著作権侵害が成立するかどうかを判断するには、一定のステップを踏んで慎重に検討する必要があります。本章では、著作権侵害を判断するための基本的なフローについて解説します。

著作物か否かの確認
まず、対象となるコンテンツが「著作物」に該当するかどうかを確認する必要があります。なぜなら、著作権は「著作物」にのみ与えられる権利であり、著作物でなければ著作権侵害は成立しないからです。
著作物の定義
著作権法上、「著作物」とは、思想や感情を創作的に表現したものを指します。具体的には、以下の要素を満たす必要があります。
著作物となるためには、創作性が必要であり、ありふれた表現や誰でも思いつくようなフレーズは保護対象外となります。
2.思想や感情が表現されていること
著作物となるためには、思想や感情が表現されていることが必要で、アイデアや事実そのものは保護されません(例:「地球は丸い」という事実)。
3.表現されていること
表現されていないものは著作物となりません。口頭の会話だけではなく、文章、映像、音楽など具体的に表現されているものは著作物として保護される可能性があります。
例えば、ニュース記事そのものは著作物ですが、ニュースの事実は著作物ではありません。また、レシピの手順は著作権で保護されませんが、それを説明するオリジナルな文章や写真には著作権が認められることがあります。
「濾過テスト」による著作物性の判断
著作物の侵害を判断する際には、「濾過テスト」と呼ばれる手法が用いられることがあります。この手法は、比較対象の著作物同士の共通部分を取り除き、創作的な表現がどれほど残るかを判断する方法です。
江差追分事件(最高裁判決)
実際の判例として、「江差追分事件」が有名です。
この事件では、ノンフィクションである書籍『北の波濤に唄う』の著作者が、NHKのテレビ番組のナレーションについて、書籍のプロローグを翻案したものであるとし、番組を制作放映したNHKらを相手取って、損害賠償を請求しました。この件で裁判所は、濾過テストを行ったうえで、最後に全体的な観察を行い、被疑侵害表現から権利者著作物の本質的特徴部分を感得することができるか否かを検討することとしました。
このように、著作物と認められるには、単なるアイデアや一般的な表現を超えた「独自の創作性」が必要になります。
著作権者の特定
著作物と認められるものでも、誰が著作権を持っているのかを明確にすることが重要です。著作権の帰属先を間違えると、許可を得るべき相手を誤るリスクが生じます。
著作権の帰属ルール
著作権の帰属には、以下のような分類があります。
著作権の帰属には、いくつかの基本的なルールがあります。まず、原則として著作物を創作した者、すなわち著作者が最初に著作権を持ちます。例えば、小説家が書いた本の著作権は、その小説家に帰属します。
2.譲渡・ライセンス
著作権は契約によって第三者に譲渡したり、特定の条件のもとで利用を許諾することができます。企業がデザイナーと契約を結び、ロゴの著作権を譲り受けるケースがこれに該当します。
3.職務著作
職務著作の制度もあり、企業や団体に所属する従業員が業務として創作した著作物は、一定の要件を満たせば会社に著作権が帰属することになります。たとえば、広告会社の社員が制作した広告デザインは、その企業の著作物となります。
受発注で制作されたコンテンツの注意点
特に注意が必要なのは、フリーランスのデザイナーやライター、カメラマンなどに外注したコンテンツの著作権の扱いです。発注者が費用を支払って制作を依頼したとしても、それだけでは著作権が発注者に移るわけではありません。
例えば、企業がウェブサイト用に写真撮影を依頼しても、著作権はカメラマンに残ります。発注者が自由に利用したい場合には、明確に著作権譲渡契約を締結する必要があります。そうでなければ、発注者はその作品を自由に改変したり、商用利用したりする権利を持たない可能性があります。そのため、契約の際には、「商用利用の可否」「改変の可否」などの利用許諾の範囲を明確に定めることが重要です。
また、契約を交わさずにコンテンツを利用すると、後になって著作権侵害を主張されるリスクが生じます。特に外注する際には、著作権の取り扱いを事前に明確にしておくことが不可欠です。適切な契約を締結することで、後のトラブルを防ぐことができ、安心して著作物を利用することが可能になります。
著作権の保護期間
著作権は無期限に続くわけではなく、一定期間が経過すると消滅し、誰でも自由に利用できる「パブリックドメイン」になります。
著作権の基本的な保護期間
日本の著作権法では、著作権の保護期間は原則として著作者の死後70年と定められています。個人が創作した著作物の場合、著作者が亡くなった後70年間は著作権が存続し、その期間が過ぎるとパブリックドメインとなります。
一方、法人が著作権を持つ著作物や映画などの著作物については、公表後70年が保護期間とされています。
また、著作者が無名または変名で発表された著作物については、基本的に公表後70年の保護期間が適用されますが、後に著作者が判明した場合には、判明時点から死後70年が適用されることになります。
このように、著作権の存続期間は著作物の種類や著作者の状況によって異なるため、利用の際には確認が必要です。
TPP11による改正(50年 → 70年)
2018年のTPP11(環太平洋パートナーシップ協定)発効に伴い、日本の著作権保護期間は50年から70年に延長されました。この改正により、特定の古い著作物の利用が制限されることになりました。
「戦時加算」と「乗り換え問題」
著作権の保護期間には、「戦時加算」と呼ばれる例外的な延長措置が適用されることがあります。これは、戦時中に交戦国との関係で著作権の行使が制限された期間を考慮し、その分の保護期間を加算する制度です。
また、「乗り換え問題」とは、著作権法改正の際に、改正前の著作権が延長の対象にならず、結果的に旧法の保護期間が適用されるケースを指します。
例えば、1953年に公開された映画『ローマの休日』は、2003年の改正で保護期間が延長されず、著作権が失効しました。このように、法律の適用時期によっては、著作権の存続期間が異なる場合があるため、特にビジネスで古い作品を使用する際には慎重な確認が必要です。
著作権の行使範囲(支分権)
著作権は、著作物の所有権を意味するものではなく、著作権者に特定の権利(支分権)を与えるものです。これらの支分権が侵害された場合に、著作権侵害として法的措置をとることができます。 著作権法では、著作権者が持つ支分権としていくつかの権利が規定されています。
具体的な支分権
著作権法には、著作権者が持つ支分権として、以下のようなものがあります。
複製権(著作権法第21条)は、著作物をコピーする権利を指します。例えば、書籍を無断でスキャンし、データ化する行為はこの権利の侵害にあたります。
2.公衆送信権(第23条)
公衆送信権(第23条)は、インターネットなどを通じて著作物を送信する権利であり、無許可で楽曲をストリーミング配信する行為などがこれに該当します。
3.翻案権(第27条)
翻案権(第27条)は、著作物を改変し、新たな作品として作り変える権利を指します。例えば、小説を無断で映画化する行為はこの権利の侵害となります。
4.頒布権(第26条)
頒布権(第26条)は、著作物のコピーを販売・配布する権利であり、CDやDVDを無断で販売する行為がこれに当たります。
5.展示権(第25条)
展示権(第25条)は、美術作品や写真を一般公開する権利を保護するものであり、著作権者の許可なく美術館に作品を展示する行為はこの権利の侵害になります。
6.貸与権(第26条の3)
貸与権(第26条の3)は、著作物を一定期間貸し出す権利を指し、著作権者の許可なく漫画をレンタルする行為などが問題となる場合があります。
デジタルコンテンツと支分権
著作権の支分権の中でも、近年特に問題となっているのがデジタルコンテンツの利用に関する権利侵害です。特に、ウェブサイトやSNS上での画像や動画の無断使用に関しては、「技術的な仕組み」と「法的評価の違い」を理解することが重要です。
例えば、自分のウェブサイト上に画像を掲載する方法には、主に二つの手法があります。
一つ目は、自分のホスティングサーバーに画像ファイルを保存し、そこから閲覧者の端末に表示させる方法です。この場合、ウェブサイト運営者が直接的に画像を複製し、公衆送信しているため、著作権侵害の有無を判断する際には複製権侵害の有無や公衆送信権侵害の有無の観点から検討されることになります。
二つ目の方法として、ウェブサイトのサーバーにはHTMLファイルのみを置き、画像ファイル自体は第三者のホスティングサーバーから読み込んで表示させる「インラインリンク(埋め込み表示)」という手法があります。この場合、デザイン上はサイト上に画像が表示されるものの、実際には画像のデータは元のサーバーに存在しており、ウェブサイト運営者自身が画像を複製したり公衆送信したりしているわけではありません。そのため、インラインリンクを使用した場合、著作権侵害に該当するかどうかの判断は、自らデータをコピーした場合とは異なる基準で行われます。
しかしながら、インラインリンクを利用する場合でも注意が必要です。仮に元のサーバーにある画像や動画が無断使用されたものであった場合、それを埋め込んで表示することによって、間接的に著作権侵害を助長してしまう可能性があります。また、リンクをクリックすることで、著作権侵害が行われているページへ誘導する行為は、著作権侵害の幇助として違法と判断されるケースもあります。そのため、ウェブサイト運営者は、画像や動画の出所を慎重に確認し、適切な著作権処理がされているかどうかを検討する必要があります。
デジタル時代においては、支分権の範囲や適用が従来よりも曖昧になりがちなため、最新の法改正や判例の動向を確認し、適法な利用を心がけることが重要です。特に、インターネット上での著作権侵害が問題となる場合、単にディスプレイ上でどのように表示されているかだけでなく、画像ファイルのURLやウェブページのソースコードを確認し、どのサーバーから送信されているのかを把握することが不可欠となります。
行為主体の特定
著作権侵害が発生した際、誰が法的責任を負うのかを明確にする必要があります。単に著作物を利用した個人だけでなく、その行為を指示・管理する立場の者も責任を問われる可能性があります。
物理的行為者 vs 法的責任者
著作権侵害の責任を検討する際には、「物理的行為者」と「法的責任者」の区別が重要となります。
物理的行為者とは、実際に著作物をコピーしたり、アップロードしたり、販売したりする行為を行った者を指します。一方で、法的責任者には、著作権侵害行為を指示・管理し、その行為から利益を得ている者が含まれる場合があります。
例えば、違法なコンテンツを配信しているウェブサイトの運営者が、実際に著作物をアップロードした個人ではなく、サイト運営の責任者として著作権侵害の責任を問われることがあります。
カラオケ法理(クラブキャッツアイ事件)
このように、実際に行為を行った者以外の責任が認められる典型的な判例が、「クラブキャッツアイ事件(最高裁判決)」です。
• 事件概要
カラオケスナックでホステスや客がカラオケを歌っていたことに対し、店舗経営者がJASRAC(日本音楽著作権協会)から著作権使用料の支払いを求められました。
• 最高裁の判断
最高裁は、店舗側がカラオケ機器を設置し、利用客に演奏させることで営業を行っている以上、「著作権を利用しているのは店舗側である」と判断し、店舗経営者に著作権侵害の責任があると認定しました。
このように、実際に著作物を利用したのが第三者であっても、管理・運営している者が著作権侵害の主体とされるケースがあります。
インターネットサービス運営者の責任
インターネット上では、著作権侵害の主体を特定する問題がさらに複雑になります。掲示板や動画共有サイトなどでは、ユーザーが著作物を投稿することがあり、その場合、サイト運営者がどこまで責任を負うかが問題となります。特に、「不作為責任」が問われるケースでは、運営者が著作権侵害コンテンツの存在を認識しながら、それを削除せず放置した場合、著作権侵害の責任を負う可能性があります。
例えば、掲示板運営者が著作権侵害の投稿を放置し続けた結果、裁判で責任を問われたケースとして「罪に濡れたふたり事件」があります。この事件では、掲示板上で著作権侵害が発生していることを運営者が認識しながら適切な対応を取らなかったことが問題視され、最終的に著作権侵害が成立すると判断されました。
このように、インターネット上の著作権管理においては、単なる利用者だけでなく、管理・運営者にも一定の責任が生じる場合があります。そのため、ウェブサイトやプラットフォームを運営する者は、著作権侵害コンテンツが投稿された際の対応方針を明確にし、適切な管理を行うことが求められます。著作権法の適用範囲を正しく理解し、責任の所在を明確にすることで、不測の法的リスクを回避することが可能となります。
利用許諾の有無
著作物を利用する際には、著作権者から許諾を得ることが必要です。無許可で使用すると、著作権侵害とみなされ、法的責任を問われる可能性があります。著作物の利用において、許諾を得た場合と無許可で利用した場合では、その影響やリスクに大きな違いがあります。
許諾を得た場合、正規のライセンス契約に基づき、安心して著作物を利用することができます。契約範囲内での使用であれば、法的リスクもなく、著作権者とのトラブルが発生する心配もありません。
一方、無許可で著作物を利用した場合、著作権侵害と判断されるリスクが高まり、訴訟や削除要求を受ける可能性があります。特にビジネスにおいては、無断使用によってブランドイメージの低下や信頼の喪失を招くこともあるため、許諾を得た適正な利用が求められます。許諾契約を締結する際には、利用範囲を明確にすることが重要です。
例えば、「ウェブサイトへの掲載は許可するが、印刷物には使用できない」といった制限がある場合、契約でその内容を具体的に定める必要があります。また、口頭で許諾を得た場合、後に「そんな許可は出していない」と争われる可能性があるため、書面で契約を交わし、証拠を残しておくことが望ましいでしょう。
さらに、2020年の著作権法改正によって、著作権が譲渡された場合でも、既に許諾を受けている者が新しい著作権者に対して利用権を主張できるようになりました(著作権法63条の2)。これにより、著作権者が変更されたとしても、契約済みの許諾条件が維持されるため、著作物を安心して継続利用できる仕組みが整えられました。契約時にはこの改正内容も踏まえ、許諾の継続性についても確認しておくことが重要です。
権利制限規定の適用
著作権法は、著作権者に独占的な権利を与える一方で、一定の条件下では他者が著作物を自由に利用できる「権利制限規定」を設けています。これにより、社会的な利益とのバランスを図っています。
私的使用の複製(著作権法30条)
著作権法30条では、「個人的にまたは家庭内その他これに準ずる限られた範囲内で使用すること」を目的とする場合、著作物を無断で複製することが認められるとしています。これは、個人の自由な情報利用を保護するための規定です。
<適法な私的使用の例>
• 自分の所有する書籍をスキャンして電子化する
• 購入したCDの楽曲をスマホにコピーする
• 家族や親しい友人の間で、撮影した写真を共有する
<違法となるケース>
• 他人に譲渡する目的で複製する行為
例:CDをコピーして他人に販売する(違法)
• インターネット上にアップロードする行為
例:映画をリッピングし、動画共有サイトに投稿する(違法)
• 業務目的で複製する行為
例:会社で販売資料として書籍をコピーし配布する(違法)
私的使用目的での複製は、「限られた範囲」での利用にとどまることが重要であり、商業目的や広範な配布を伴う場合は適用されません。
引用の適法性(著作権法32条)
他人の著作物を「引用」として利用する場合、一定の条件を満たせば著作権者の許諾を得る必要はありません。これは、学術研究や報道の自由を確保するために設けられた規定です。
引用に関する記事は、「著作権を引用するときのルールと、気をつけるべきポイント」をご参照ください。
著作権侵害の効果
著作権を侵害した場合、著作権者は侵害者に対し、さまざまな法的措置を講じることができます。
具体的には、裁判所に対して著作物の利用停止を求める差止請求や、侵害によって生じた損害の損害賠償請求を行うことが可能です。また、損害額の算定方法にはいくつかの基準があり、ケースによって異なる計算が適用されます。
差止請求(著作権法112条)
著作権者は、侵害行為が行われている場合、裁判所に対して著作物の利用を停止するよう求めることができます(著作権法112条)。これは、著作権者が被る損害を未然に防ぐための重要な措置であり、裁判所が差止めを命じた場合、侵害行為を行っている企業や個人は速やかにその行為を停止しなければなりません。
例えば、企業が他人のイラストを無断で使用し、自社のウェブサイトに掲載し続けている場合、著作権者はその掲載をやめさせるために差止請求を行うことができます。
また、YouTube上で許可なく映画の映像を使用した動画が公開されている場合にも、著作権者はその動画の公開を停止させるために法的措置を講じることができます。裁判所が差止めを認めた場合、該当のウェブサイトや動画は直ちに削除されなければならず、従わなかった場合にはさらなる法的制裁が科される可能性があります。
損害賠償請求(民法709条・著作権法114条)
著作権者は、著作権侵害によって生じた損害について、損害賠償を請求することができます。これは、侵害行為によって本来得られるはずだった利益が失われた場合や、著作物の無断使用によって市場価値が低下した場合などに適用される制度です。損害賠償請求を行う際には、損害額を適切に算定する必要があり、その計算方法にはいくつかの基準が存在します。
損害額の算定方法として、主に以下の3つの基準が用いられます。
侵害行為がなければ、著作権者が本来得られたはずの利益を基準に損害額を算定します。
例えば、あるデザイナーが作成したイラストを無断で使用したTシャツが販売された場合、そのTシャツの売上相当額を損害額として請求することが可能です。
2.侵害者が得た利益
侵害者が著作権侵害行為によって得た売上や利益を基準に損害を算定する方法です。
例えば、あるYouTuberが無許可で映画を配信し、その動画から広告収益を得た場合、著作権者はその広告収益分を損害額として請求できます。この方法は、侵害者が不正に得た利益をそのまま損害額として認めることができるため、証明が容易な場合に適用されることが多いです。
3.ライセンス料基準
侵害が発生していなかった場合、本来であれば支払われるべきライセンス料を基準に損害額を算定する方法です。
例えば、イベントで無断で音楽を使用した場合、本来であれば著作権者に支払われるべきライセンス料相当額を損害額として請求することができます。この方法は、著作権者が通常設定しているライセンス契約を基準に算定されるため、正当な損害額を求めやすいとされています。
これらの基準をもとに損害額を算定し、侵害者に賠償請求を行います。
実務対応と予防策
著作権の問題は、企業やクリエイターにとって重要なリスク要因の一つです。著作権侵害を防ぐためには、事前のリスク管理が不可欠であり、万が一侵害が疑われた場合には、適切な対応を迅速に行う必要があります。本章では、実務対応と予防策について詳しく解説します。

企業やクリエイターができるリスク管理
著作権に関するトラブルを防ぐためには、著作物の制作・発注時に著作権の帰属を明確にする契約を結ぶことが非常に重要です。著作権が不明確なままでは、後々のトラブルに発展する可能性があり、利用者が意図しない形で著作権侵害を引き起こすリスクが生じます。そのため、契約時に著作権の取り扱いを明確に定めることが不可欠です。
1.著作権契約の明確化(著作権譲渡の明記)
著作権法上、著作権は原則として創作者に帰属するため、発注側が著作権を取得するには「著作権譲渡契約」を締結する必要があります。契約で明確に譲渡の内容を定めない場合、発注者が自由に著作物を改変・利用することができない可能性があるため、事前にしっかりと確認することが重要です。
<実務上の注意点>
✓ 口頭契約は避け、必ず書面で締結する。
✓ フリーランスや外部委託先との契約時には、契約内容を詳細に確認する。
✓ 「著作権譲渡」「使用許諾」「二次利用の可否」を明文化する。
2.フリー素材やライセンスの適正利用
著作権侵害を避けるためには、フリー素材やライセンス契約を適正に利用することが不可欠です。多くの人が「フリー素材」と聞くと自由に使用できるものと考えがちですが、実際には利用規約によって制限がある場合があります。利用する前に必ず規約を確認し、適切に扱うことが重要です。
<フリー素材の落とし穴>
まず、フリー素材にはいくつかの落とし穴があります。「商用利用可」と記載されていても、クレジット表記が必要な場合があり、正しく表記しないと規約違反となることがあります。また、一部のフリー素材は、改変や再配布が禁止されている場合があり、用途によっては利用できない可能性もあります。さらに、フリー素材を提供しているサイトの中には、他人の著作物を無断で掲載しているケースもあるため、利用者が知らないうちに著作権侵害に巻き込まれるリスクがあります。
フリー素材を使用する際には、その出所が信頼できるかどうかを慎重に確認することが必要です。
<ライセンス契約の確認>
ライセンス契約についても、事前にその内容を理解しておくことが求められます。例えば、「ロイヤリティフリー(RF)」の素材は、一度購入すれば何度でも使用できるものの、特定の用途に制限がある場合があります。「エディトリアルライセンス」の場合、報道や教育目的での使用に限定されており、商用利用は認められていません。また、「クリエイティブ・コモンズ(CC)」ライセンスでは、利用条件が異なるため、事前にルールをしっかりと確認することが重要です。
<実務上の注意点>
画像・音楽・フォントなどの素材は、必ず利用規約を確認し、誤った使用をしないよう注意する必要があります。また、可能であれば企業やクリエイター自身が独自に著作物を制作することで、著作権侵害のリスクを回避することができます。
適切なライセンス管理を行い、安全に素材を活用することが求められます。
3. 事前の法的チェック(顧問弁護士への相談)

弁護士に相談すべきケースとしては、新しい事業やコンテンツを立ち上げる際が挙げられます。
例えば、企業が独自のロゴやスローガンを作成する場合、それが既存の著作権や商標権と衝突しないかを事前に確認する必要があります。
また、著作権契約を締結する際には、譲渡の有無や利用範囲を適正に設定することが求められるため、契約内容を専門家にチェックしてもらうことが望ましいです。
さらに、著作権侵害のリスクを判断することも弁護士に相談すべき重要なポイントです。
例えば、他社のデザインに類似した広告を制作する際に、それが著作権侵害に該当する可能性があるかどうかを事前に検討し、トラブルを未然に防ぐことができます。
実務上の注意点としては、企業が顧問弁護士を活用し、定期的なリーガルチェックを行うことが挙げられます。さらに、企業内で著作権ガイドラインを作成し、従業員への教育を実施することで、全社的に著作権のルールを遵守する体制を整えることが重要です。事前の対策を講じることで、著作権に関するリスクを大幅に軽減することができます。
著作権侵害が疑われた場合の対応
著作権侵害が発生した場合、被害者側と加害者側の双方に適切な対応が求められます。被害者側は冷静に法的手続きを進め、権利を守るための措置を講じる必要があり、加害者側は適切な対応を怠ると訴訟に発展する可能性があるため、迅速な対応が求められます。
ここでは、被害者側と加害者側が取るべき対応について詳しく解説します。
被害者側の対応(警告書、交渉、法的措置)
著作権侵害を受けた場合、最も重要なのは冷静に対処し、適切な手順を踏んで権利を主張することです。
まず、侵害の証拠を確保し、その後、警告書の送付や交渉を通じて解決を図ります。交渉で解決しない場合には、最終的に法的措置を検討することになります。
第一に、証拠を確保することが不可欠です。著作権侵害を主張するためには、証拠を集めることが必要となります。具体的には、侵害が行われているウェブページのスクリーンショットやアクセスログを保存し、侵害の事実を立証できる状態にしておきます。また、著作権が自分に帰属していることを示す契約書や著作権登録証などの書類を整理し、法的主張を裏付けるための準備を進めます。
2.警告書(通知書)を送付
次に、警告書(通知書)を送付する段階に移ります。著作権侵害に関しては、いきなり訴訟を起こすのではなく、まずは相手方に対して正式な通知を行い、問題を解決する道を探ることが一般的です。弁護士名義で警告書を送付することで、相手方が自主的に対応する可能性が高まります。警告書には、具体的な侵害内容の指摘、著作権者の権利の明示、使用停止や削除の要求、損害賠償請求の可能性の示唆などを明記し、相手方に対応を促します。
3.交渉による解決
その後、交渉を通じた解決を試みます。警告書を受けた相手方が対応を約束した場合、和解契約書を締結することで争いを避けることができます。しかし、交渉が難航する場合や相手が対応を拒否する場合には、調停や訴訟を視野に入れる必要があります。
4.訴訟・法的措置
最後に、交渉で解決しない場合には法的措置を取ります。著作権侵害の被害を受けた場合、民事訴訟を提起することで差止請求や損害賠償請求を行うことができます。さらに、著作権侵害の行為が悪質な場合には、刑事告訴(著作権法違反)も検討することが可能です。特に、著作物を意図的に無断使用し、不正な利益を得ている場合には、厳格な法的対応が求められます。
加害者側の対応(迅速な対応とライセンス交渉)
著作権侵害を指摘された場合、適切な対応を取らなければ、訴訟に発展する可能性があります。
被害者側から警告を受けた場合には、事実関係を迅速に確認し、適切な対応を取ることが求められます。
最初に、侵害の事実確認を行うことが重要です。指摘された著作物が本当に著作権侵害に該当するかどうかを慎重に検討する必要があります。著作権侵害が成立するためには、著作物としての要件を満たしているか、実際の利用が著作権者の権利を侵害しているかを確認しなければなりません。また、自社が正当なライセンスを取得しているかどうかも調査し、誤解による指摘でないかを検証することが大切です。
2.迅速な対応(削除・修正)
次に、迅速な対応を行うことが求められます。指摘された内容について疑義がある場合でも、リスクを回避するために速やかに削除や修正を行うことが推奨されます。もし著作権侵害が明らかであれば、著作権者に速やかに謝罪し、誠意をもって対応することが望ましいです。問題を長引かせることで、法的措置が取られる可能性が高まり、解決が困難になる場合があります。
3.ライセンス交渉
さらに、ライセンス交渉を行うことで円満な解決を図ることができます。著作権者に許可を得ることで、正式なライセンス契約を結ぶことが可能となります。過去に無断で使用してしまった場合でも、和解金の支払いを提案することで、訴訟を回避することができる場合があります。特に、企業が意図せず著作権を侵害してしまった場合には、今後の関係性を考慮し、誠実な対応を心がけることが重要です。
<実務上の注意点>
実務上の注意点として、感情的な対応を避け、冷静に事実確認を行うことが求められます。著作権侵害を指摘された際に、無視したり感情的に反論したりすると、事態が悪化する可能性があります。
問題を適切に対処するためには、まずは削除・修正を行い、その後の対応も記録しておくことが重要です。再発防止策を講じることで、同じような問題が発生しないようにすることが必要です。
まとめ
著作権は、企業やクリエイターにとって非常に重要な権利であり、適切に管理しなければ大きな法的リスクを伴う可能性があります。本記事では、著作権侵害の判断基準や実務対応について解説しましたが、ここで改めて重要なポイントを整理します。

著作権侵害の判断には多くのステップがある
著作権侵害の有無を判断するには、以下のステップを踏む必要があります。
2.著作権者の特定 (著作権は誰に帰属しているか?)
3.著作権の保護期間の確認 (死後70年が経過しているか?)
4.支分権の該当有無 (複製権、公衆送信権、翻案権の侵害があるか?)
5.行為主体の特定 (実際に侵害行為を行ったのは誰か?)
6.利用許諾の有無 (正規のライセンスがあるか?)
7.権利制限規定の適用 (引用や私的使用の範囲内か?)
8.著作権侵害の影響と対応策 (差止請求・損害賠償請求が可能か?)
これらの要素を慎重に確認し、誤った判断を避けることが、著作権問題を回避するための第一歩です。
法的リスクを回避するためには事前の確認が重要
著作権侵害のリスクを回避するためには、事前の確認と対策が何よりも重要です。以下の点を徹底することで、トラブルを未然に防ぐことができます。
✓ 契約の明確化:著作権譲渡・使用許諾の範囲を契約書に明記
✓ フリー素材の適正利用:商用利用可否やクレジット表記の要否を確認
✓ 社内ガイドラインの整備:著作権の基本ルールを社内で共有
✓ リーガルチェックの実施:新規コンテンツの公開前に弁護士に相談
✓ トラブル発生時の迅速な対応:侵害が疑われた場合は速やかに対応し、必要に応じて警告書を送付
特に、デジタルコンテンツの利用が拡大している現在、画像・動画・音楽・文章の無断使用が著作権侵害に当たるケースが増えています。「インターネット上にあったから自由に使える」という誤解を持たず、適切なライセンス取得や著作権の確認を徹底することが求められます。
企業やクリエイターは適切な契約・管理を徹底することが必要
企業やクリエイターが安心して創作活動を行い、法的リスクを最小限に抑えるためには、以下の3つのポイントを徹底することが重要です。
①契約の適正化
• 著作権譲渡や使用許諾の契約を明文化する
• フリーランスや外部クリエイターとの契約内容を明確にする
• 著作者人格権の扱いについても取り決める
②コンテンツ管理の徹底
• 自社制作のコンテンツと他者の著作物を明確に区別
• 社内で著作権教育を実施し、社員のリテラシー向上を図る
• 著作権侵害リスクの高い素材(フリー素材やAI生成物など)を慎重に扱う
③万が一の対応準備
• 著作権侵害を指摘された場合の対応フローを整備
• 侵害された際に弁護士と連携し、警告書や法的措置を適切に行う
• 訴訟リスクを最小限に抑えるため、交渉の際は冷静に対応
まとめ
• 著作権侵害の判断は単純ではなく、法的なチェックが不可欠。
• 事前のリスク管理を徹底し、 契約・利用ルールを明確にすることで問題を回避できる。
• 企業やクリエイターは、適切な著作権管理を行い、トラブルが起きた際には迅速に対応することが重要。
著作権問題は、未然に防ぐことが最も有効な対策です。適切なルールを理解し、健全なコンテンツ制作・利用を心がけることで、企業やクリエイターは安心して創作活動を行うことができます。
知財法務に関するご相談は、東京都千代田区直法律事務所の弁護士まで
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