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今話題!ChatGPT【ビジネス活用する場合の法的問題について解説】

Q 
今、話題の「チャットGPT」等の生成系AIをビジネスに活用したいと思っているのですが、法務リスクを事前に把握しておきたいです。
どのような点に注意すればよいでしょうか?

A 
チャットGPT等の生成系AIをビジネスで活用する場合、一般には学習するデータの品質、精度、コストの問題等も検討が必要です。
法的には、以下のような点に注意し、チャットGPT等の生成系AIの活用を慎重に検討する必要があります。

 ①当該生成系AI用の学習データの収集利用過程の適法性
  個人情報保護法やGDPRなどの規制に適合しているのか
 ②当該生成系AIが生成するコンテンツの知的財産権の所在
 ③当該生成系AIが生成するコンテンツのプライバシー侵害や人種差別的表現による人権侵害の可能性

本記事は、話題のチャットGPTを中心に、利用規約や著作権について説明していきます。


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 
代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を運営し、各種法律相談を承っております。

本記事では、
「今話題!ChatGPT【ビジネス活用する場合の法的問題について解説】」
について、詳しく解説します。

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チャットGPTとは何ですか

チャットGPTとは

最近、国会で、岸田首相に対してチャットGPTで作成した質問をし、チャットGPTが作成した首相答弁も披露されたことが話題になりましたね。
では、このチャットGPT(ChatGPT)は、どういうものなのでしょうか。

【チャットGPTの特徴】

  • 文脈を理解し、自然な対話形式の応答ができる
  • 文章を創作できる
  • 文章の要約や翻訳などができる
  • 多言語で応答が可能
  • 回答内容が事実であるかどうかについて保証がない
  • テキストデータのみを取扱う
  • 2021年以降の情報についての知識が少ない
  • 入力した質問やデータを、開発等のために利用されることがある
  • オープンソースではない

ChatGPT(Generative Pretrained Transformer)は、OpenAI(※1)が提供する、利用者が入力した質問に対して自然な言語で回答をする、対話式のAIによるチャットサービスです。
文章の創作も可能で、質問の矛盾も指摘でき、多くの言語を扱います。
ただ、回答が真実であるか保証はなく、扱うデータはテキストのみです。また、2021年以降の情報についての知識が少なく、注意が必要です。

なお、現在はチャットGPTはオープンソース(※2)ではありません

このようにテキスト文章をはじめ、画像、音声、プログラムコードなど、さまざまなコンテンツを生成することのできる人工知能のことを、生成AI又は生成系AIなどと呼びます。

※1 OpenAIとは何ですか?
OpenAI(オープンエーアイ)は、人工知能を進歩させ、その恩恵を世界中の人々にもたらすことを目的に2015年に設立された、人工知能の研究開発を行う非営利団体OpenAI Inc.とその子会社である営利法人OpenAI LPからなる研究所です(こちらをご参照ください)。

※2 オープンソースとは何ですか?
オープンソースとは、ソフトウェアのソースコード(プログラムの元となるコード)が公開され、誰でも自由にそのソースコードを閲覧・変更・配布することができるものです。
ソフトウェアの開発者にとっては、多くの人々によりレビュー・改善が行われるため、より高品質なソフトウェアの開発ができるというメリットがあります。また、利用者にとっては、多くの場合は無料提供されているため、費用をかけずにソフトウェアを利用できるというメリットがあります。
なお、OpenAIが開発したGPT(Generative Pretrained Transformer)モデルの内、GPT-2やGPT-3の小規模版がオープンソースで公開されていますが、商用利用には制限があります。大規模版のGPT-3は、APIを通じてのみ商用利用が可能となっており、オープンソースではありません。

チャットGPTの元となるデータ

チャットGPTでは、AIが自動で学習する仕組みである「機械学習」の一つの種類である「強化学習(Reinforcement Learning)」を用いています。強化学習は、システムが試行錯誤を繰り返して、適切な制御方法を学習していく技術のことです。
有名な例としては、

  • 将棋や囲碁のAI
  • 自動車の自動運転
  • エレベータの制御システム

などがあります。

一般に、生成AIは、ウェブ外のみならず、ウェブ上からも、テキストや画像などの様々なコンテンツを収集し、これらの情報から学習することによって、自然な文章やイラストなどを作成することができるようになります。

チャットGPTは、学習に用いたデータの全容は公開していません。
しかし、ウェブ上のテキストなどをAIの学習データとして収集していると考えられ、これにより様々な問題が提起されています

1チャットGPT

チャットGPTに関する話題

最近のチャットGPTに関する話題は国会での岸田首相への質問だけではありません。
さまざまな問題が生じているのです。

2023年3月31日、イタリアのデータ保護当局はチャットGPTを一時的に使用禁止にすると発表し、20日以内に対策を講じて報告するように求めました。
イタリア当局が問題視したのは次のような点です 。

  • 膨大な個人情報を違法に収集した疑いがあること
  • 13歳以上と想定する利用者の年齢確認の仕組みがないこと

これを受けOpen AIは、イタリア側の要求に応じて個人情報の取扱いや利用者の年齢確認で改善策を示したとし、イタリアは使用禁止の措置を2023年4月28日に解除しました。

また、同年2月には、米国の主要経済紙ウォールストリート・ジャーナルを発行するダウジョーンズ(米ニューズコープ傘下)が、ChatGPTの開発元である米OpenAIが、正当な対価を支払うことなく、ウォールストリートジャーナルの記事を利用している、と抗議しました 。
前述のとおり、一般に、機械学習にはウェブ上のコンテンツも使用されていますが、これらの情報の著作権者からの利用許諾を得ることなく、収集利用されていることが多いようです。そのため、このような抗議に繋がったと考えられます。このような抗議は、他の企業などからもなされているようです。

また、チャットGPT以外でも、プログラムコードの生成や画像・イラストの生成をする生成AIに対しては訴訟が提起され、集団訴訟となっているものもあります。

チャットGPTと利用者の関係

規約とポリシー

チャットGPTの利用者は、原則としてOpenAIが定める利用規約等を遵守する必要があります。
利用規約等は、OpenAIのホームページの最下部にある「Terms & policies」から以下の利用規約やポリシーを見ることができるようになっています。頻繁に改訂されているので、チャットGPT等を使用する都度、改訂の有無を確認するようにしましょう。

規約とポリシー(Terms & policies

Legal
利用規約(Terms of use):2023年3月14日
プライバシーポリシー(Privacy policy):2023年3月14日
・サービス条件(Service terms):2023年3月1日
・データ処理補遺(Data processing addendum):2023年3月2日
・プラグイン規約(Plugin terms):2023年3月23日

Policies
利用ポリシー(Usage policies):2023年3月23日
APIデータ利用ポリシー(API data usage policies):2023年3月1日
共有及び出版ポリシー(Sharing & publication policy):2022年11月14日
・協調的な脆弱性識別ポリシー(Coordinated vulnerability disclosure policy):2020年11月18日

※年月日は2023年年4月19日時点の最終更新日

これらの規約はチャットGPTの無償利用だけではなく、チャットGPTのAPI連携他のGPT等のサービスの利用に関する規約でもあります。そのため、自分が利用しようとしているサービスにどの部分が適用されるのかわかりにくいところもあります。

では、上の表で青字にした主規約等の重要なポイントを解説していきます。

利用規約(Terms of use)

年齢制限

まず、年齢制限があり13歳未満の人は利用することができません

前述のとおり、13歳未満でないことを確認するような措置がとられておらず、この点をイタリアのデータ保護当局が問題視して利用を一時的に禁止していましたね。

また、18歳未満の場合は親又は未成年後見人の許可が必要となっています。
なお、子供向けのWebサイトやアプリケーションに関連してAPIを使用する場合には、規約に定める情報を送信することが義務づけられている点も注意が必要です。

禁止事項

次に、利用に際して、次のような事項が禁止されています。(一部抜粋)

  • 個人の権利を侵害、流用するような方法で利用すること
  • 逆アセンブル、逆コンパイルなど
  • 出力を利用して、OpenAI と競合するモデルを開発すること
  • API を通じて許可されている場合を除き、スクレイピング、Webハーベスティング、または Web データ抽出を含む、自動化またはプログラムによる方法を使用して、サービスからデータまたは出力を抽出すること
  • サービスの出力結果を、人間が生成したものであると表明すること

コンテンツの権利関係

利用者がチャットGPTに入力した質問等(インプット)や、入力に基づき生成された出力内容(アウトプット)の権利関係はどのようになっているでしょうか。

利用者はチャットGPTに入力した内容や出力された内容を自由に使うことができるのか問題となります。
この点、利用規約では次のように規定されています。

2チャットGPT

上の表のとおり、利用者は入力した質問等及び入力に基づいて生成された出力内容について、規約等を遵守する限り、販売や出版などの商業目的を含むあらゆる目的で利用することが可能です。
ただし、利用者は、その入力内容や生成された出力内容について、適法性や規約等に反していないかについての確認を含め、責任を負うものとされています。

他方、OpenAIは、利用者が入力した質問やデータ等及びその入力に基づいて生成された出力内容をサービスの提供および維持、法の遵守、並びに当社のポリシーの施行のために、利用することがあるとしています。
また、OpenAIのAPIから授受したコンテンツ以外のコンテンツについては、サービスの開発又は改善のためにも利用することがあるとされており、注意が必要です。仮に個人情報や秘密情報などを入力した場合、チャットGPT等の学習データとして用いられる可能性も否定できないのです。

したがって、入力する情報・データについては細心の注意をするようにしましょう
なお、利用者が、法的に本人の同意を要する等の措置が必要な個人データを用いる場合、法的に適切な措置をし、法令に従って措置をとったことをOpenAIに表明する必要があるとされている点にも注意が必要です。

コンテンツの類似性

チャットGPTは、機械学習の性質上、別の利用者と同じ質問をした場合でも、回答が利用者間で一意ではない場合や、逆に類似又は同じ回答を受け取る場合があります。 他の利用者が要求して生成された回答は、利用者のコンテンツとはみなされないとされています。

つまり、チャットGPT等のアウトプットが他の利用者へのアウトプットと同一のもの又は類似のものとなる可能性があり、その場合のコンテンツの権利は取得できないという意味であると考えられます。

正確性

チャットGPT等のサービス利用により、状況によっては、実在の人物、場所、または事実を正確に反映していない誤ったアウトプットが生じる場合があり、人が確認するなどして、使用事例に応じて、利用者自身で正確性を評価するように求められています。

つまり、OpenAIは、チャットGPT等のアウトプットの正確性は保証しないということです。利用者自身でしっかりと正確性を確認する必要があります。

免責事項

サービスは「現状有姿」で提供されているとし、法律で禁止されている範囲を除き、いかなる保証も行わないとしています。

責任の制限

予測可能な損害についても責任を負わず、規約に基づく責任総額は、責任が発生する前の12か月間に利用者が支払った金額または100ドル($ 100)のいずれか大きい方を超えないものとされています。

紛争解決

仲裁合意及び集団訴訟の放棄に関する条項に同意するものとされており注意が必要です。
また、裁判管轄は米国カリフォルニア州サンフランシスコ郡の連邦裁判所または州裁判所のみとされ、準拠法はカリフォルニア州法とされています。

利用者が消費者である場合は、仲裁合意の解除を主張し(仲裁法附則第3条2項)、裁判管轄に関する消費者契約に関する合意の効力について規定(民事訴訟法第3条の7第5項)や準拠法に関する特例(通則法11条)を利用して、日本の裁判所で日本の消費者に関する強行法規の適用を求めることも可能となる場合がありますが、利用者が事業者である場合にはこのような規定は適用されないため、注意が必要です。

プライバシーポリシー(Privacy policy)

プライバシーポリシーについて特筆すべき点は、利用者がサービスを利用する際に入力した内容(インプット)、アップロードしたファイル、またはフィードバックに含まれる個人情報(「コンテンツ」)を収集する場合があるとされている点です。
そのため、前述のとおりサービス利用に際して、入力する内容には注意が必要です。

ただし、プライバシーポリシーは、APIのような事業で処理するデータ、コンテンツには適用されず、別の契約によるとされています。

利用ポリシー(Usage policies)

利用ポリシーには、許可されない利用目的が列挙されています。
以下に主な不許可事例をあげます。(以下、一部省略していますので、正確には原文をご確認ください。)

  • 違法行為
  • 憎悪、嫌がらせ、暴力的なコンテンツの生成
  • マルウェアの生成
  • 身体的危害のリスクが高い活動
  • 経済的損害のリスクが高い活動
  • 詐欺的または欺瞞的な活動
  • アダルト コンテンツ、アダルト 業界、出会い系アプリ
  • 政治運動またはロビー活動
  • 利用者のプライバシーを侵害する行為
  • 許可されていない法律実務への利用、有資格者による確認のない法的アドバイスの提供
  • 有資格者による確認のない財務アドバイスの提供
  • 特定の健康状態の有無に関する情報を提供すること、治癒または治療方法のアドバイスの提供
  • トリアージや管理
  • 法執行機関、刑事司法、移民や亡命を含むリスクの高い政府の意思決定

また、次の表のように、利用方法によっては、条件が設けられています

利用方法 条件
・医療、金融、法律業界における消費者向けの利用
・ニュース生成またはニュース要約
・他に必要とされている場合
AIが使用されていることとAI利用による潜在的な制約があることから、免責事項を利用者に対して示すこと
・自動化されたシステム(会話型AIやチャットボットを含む) AIシステムと対話していることをユーザーに開示すること
・他の人をシミュレートする製 品(歴史的な公人を描いたチャットボットを除く) その人の明示的な同意又は「シミュレート」若しくは「パロディ」として明確にラベル付けすること
・ライブストリーム
・デモンストレーション
・研究でのモデル出力の使用
共有および公開ポリシーの対象となる

また、プラグイン(拡張機能)を構築する開発者は、上記に加え、追加の要件があります。
以下は追加要件の一部です。

  • 人間のような応答をシミュレートする、または、事前にプログラムされたメッセージで返信するなどして、実際の人との会話を自動化するプラグインを使用しないこと。
  • 個人的なコミュニケーションやチャットGPTにより生成したコンテンツ(電子メール、メッセージ、その他のコンテンツなど)を配信するプラグインは、コンテンツがAIによって生成されたことを示すこと。

APIデータ利用ポリシー(API data usage policies)

APIを介して利用者から送信されたデータの取り扱いについては、2023年3月1日に変更がありました。

OpenAIは、APIを介して利用者から送信されたデータを、AI等の学習や改善のために利用しないとしています。
ただし、利用者がOpenAIのAI等の学習や改善のために情報を共有する意思決定を明示した場合は除きます。

なお、2023年3月1日(この変更の発効日)より前にAPIに送信されたデータについては、利用者がデータの共有を拒否する意思表示(オプトアウト)をしていなかった場合、OpenAIのサービス等の改善に使用された可能性がある旨も明示されています。

このAPIデータ利用ポリシーには、すべての顧客データが米国で処理及び保存されていることや、顧客から OpenAI への要求と応答は暗号化されていることなどが記載されています。

共有及び出版ポリシー(Sharing & publication policy)

共有及び出版ポリシーには、OpenAIのAPIを使用して執筆されたコンテンツ (書籍、短編小説の要約など) を公開する場合の条件(利用規約等に反していないこと等)が記載されています。

また、API によって生成されたコンテンツを、完全に人間によって生成されたもの、または完全にAIによって生成されたものであると表示すべきではなく、公開されるコンテンツの最終的な責任を負うのは人間であることなどが記載されています。

チャットGPTの回答(生成物)の著作権

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チャットGPTと利用者間の著作権

チャットGPTの出力する回答、アウトプットの著作権はどのように考えたらよいのでしょうか。

前述のとおりOpenAIは、利用規約(Terms of use)で、規約を遵守することを条件に、インプットとアウトプットを含むすべてのコンテンツの権限を利用者に譲渡しています。そのため、仮にOpenAI等がアウトプットの著作権を有していたとしても、利用者は、チャットGPTのアウトプットを販売や出版などの商業目的を含むあらゆる目的で利用しても、規約等を遵守する限り、原則として著作権侵害の問題は生じません。

では、チャットGPTのアウトプットの著作権は誰が有しているのでしょうか
著作権の保護の対象となるのは著作物です。日本の著作権法では、著作物は、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」をいいます(著作権法2条1項1号)。

AIが完全に自動的・自律的に生成した生成物については、基本的にAIには思想や感情がないため、「思想又は感情を創作的に表現したもの」にはあたらず、著作物ではなく、著作権が発生しません 。

そのため、基本的にはチャットGPTの生成したアウトプットは著作物ではなく、著作権が発生しないと考えられます。このように著作物ではないアウトプットについて、利用者は著作権者ではないため、自分の著作物だと主張することはできません

しかし、チャットGPTのアウトプットは、利用者のインプットを通じて生成されるため、利用者のインプット内容などが生成されたアウトプットに創造性を与えるような場合など、利用者が創作的寄与をしている場合、創造的寄与の程度によっては、当該アウトプットが著作物性を有し、著作権が生じる可能性があります
また、アウトプットをもとに創造的寄与をした場合にも著作物となると考えられます。この場合は、利用者が著作権者となるため、自由に利用が可能となります。

ただし、OpenAIの規約でも、利用者は、アウトプットが法令または規約に違反していないこと等の確認を含め、責任を負うものとされています。仮に、チャットGPTのアウトプットが第三者の著作権を侵害している場合、当該アウトプットの利活用により、著作権の侵害が成立する可能性もあるため、注意が必要です。この点、詳しくは後述します。

なお、プログラムの作成行為と使用者の創作行為に共同性が認められれば、プログラムの作成者が共同著作者となる場合もありうるとされていますが、チャットGPTのプログラムの作成行為と利用者の創作行為に共同性は認めがたいと考えられます。

チャットGPTの学習データの著作権

前述のとおり、チャットGPTは、学習に用いたデータの全容は公開していませんが、ウェブ上のテキストなどをAIの学習データとして収集していると考えられ、OpenAIは、米国の主要経済紙ウォールストリート・ジャーナルの記事を利用している、と抗議を受けています。

日本では、平成30年著作権法改正により、ディープラーニングまたはDL以外機械学習における著作物の利用については、基本的には、著作権法30条の4第2号に基づく著作権の権利制限により、著作権侵害は成立しません

そのため、たとえば、誰でも容易にアクセスすることができるウェブサイトから自由にダウンロードすることができる画像等をディープラーニングの学習用データとして使用する場合や、当該画像等をDL以外機械学習に使用する場合には、基本的には、著作権法の制限規定により著作権侵害は成立しません。
また、著作物をディープラーニングやDL以外機械学習を利用して作成されたプログラムを用いて、新たに作成したものについては、それが元の著作物の創作的表現が残らない形であれば、新たに作成したものには著作権は及びません 。

しかし、アメリカの著作権法には、情報解析に関する明文規定がありません。
アメリカの著作権法には多数の権利制限規定もありますが、一般規定(107 条)を通じて、裁判所が事案ごとに諸事情を考慮して著作権侵害の有無を判断することが少なくありません。そのため、情報解析のための著作物利用についても、訴訟になれば、裁判所によって著作権侵害が否定される可能性はありますが、明文の規定がないため、予測可能性は低いといわざるを得ません。

仮に、チャットGPTの学習データとして著作物を利用することが著作権侵害となる場合でも、使用料の支払い等により解決する可能性もあると考えられますが、チャットGPTや生成されたアウトプットの利用に支障がでる可能性も否定できません。

既存の著作物と類似するチャットGPTのアウトプットの著作権問題

利用者がチャットGPTにインプットして生成されたアウトプットは、既存の著作物と類似したものとなる可能性もあります。その場合、既存の著作物の著作権を侵害することがあるのか問題となります。

仮に、利用者が既存の著作物をチャットGPTにインプットしてアウトプットが生成された場合、外形上、アウトプットが既存の著作物とどの程度類似しているのか、また創作的表現がどの程度付加されているかによって、既存の著作物の

  1. 複製物
  2. 二次的著作物
  3. 新たな別の著作物

のいずれかになると考えられます 。
アウトプットが、①複製物又は②二次的著作物と判断された場合には、一部の例外的利用方法を除き、著作権者の許諾を得ないで無断で利用したり、自分が創った著作物だと騙して利用すると著作権侵害となります

では、利用者のインプットに応じてチャットGPTが学習した著作物に基づくアウトプットを生成した結果、アウトプットが既存の著作物と類似しているような場合に利用者が著作権侵害を問われることがあるのでしょうか。

著作権侵害は、

  1. 著作物性
  2. 依拠性(独自に創作したものではなく、他人の既存の著作物にアクセスしたうえで参考にして創作したこと)
  3. 同一性・類似性
  4. 引用など例外的に利用が許される場合ではないこと

の要件を満たした場合に成立します。
ここで問題となるのは②の依拠性です。

この点、チャットGPTの学習した著作物の中に類似する著作物があれば、チャットGPTはその既存著作物にアクセスして参考にしていることを否定しがたく、依拠性が認められる可能性がありますが、この点については、有識者の間でも意見が分かれています。

仮に依拠性があるとされた場合、OpenAIは、チャットGPTを通じた出力によって、既存の著作物の著作権を侵害していることになります。

その場合、利用者も、当該アウトプットを利用した場合、著作権を侵害する可能性があります。当該アウトプットが著作権侵害をしていることを知っていた場合や、知らなかったことについて過失があれば、損害賠償責任を負うこともあります。ただし、利用者が既存の著作物やチャットGPTの学習データについてどの程度の認識をしていれば故意又は過失が認められるかについては、今後、議論されていくことになると思われます。

実際の活用方法と注意点

チャットGPTは、生成する文章の流暢さや自然な人間との対話のような回答ができる革新的なサービスとして大変注目されています。

しかし、チャットGPTは、これまで多くの執筆者などによって作成されてきた著作物や記事、プログラム、データを学習することで成立しているため、過去・現在の執筆者などの積み重ねにただ乗りしているという批判が強まると考えられ、法的紛争にもつながってきています

前述のとおり、チャットGPTを運営するOpenAIは、チャットGPTの学習データとなっているデータの著作権者等から抗議を受けたり、また、訴えを提起されています。

チャットGPTは革新的な技術であるがゆえに、法的問題が未解決の部分も多いのです。今回は著作権の問題に触れていますが、その他の権利関係についても、問題となる可能性もあります。

チャットGPTが生成するコンテンツが、プライバシーを侵害することや人種差別的内容や表現により人権侵害する場合もあり得ます。
そのため、コンテンツの利用にあたって、利用者は、第三者の権利を侵害することがないか、個人情報保護法やGDPRなどの規制に適合しているのか、十分に注意を払う必要があります。

また、倫理的な問題にも注意が必要です。学習データが偏れば、生成結果にも偏りが生じ、これにより偏見や差別を助長する出力を生成することがあるのです。

チャットGPTをビジネスで活用する場合には、コンテンツをそのまま利用するのではなく、人の目で問題がないか確認することや、自身が作成したものと同様に権利関係を確認したうえで利用するなど、慎重な対応が求められます。


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