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ステルスマーケティング規制(ステマ規制)とは?事例をもとに解説

消費者庁は広告であるにもかかわらず広告であることを隠す、いわゆる「ステルスマーケティング」を規制することになりました。

一般消費者は「広告」であると認識すれば、その広告の表示内容にある程度の誇張・誇大を含むことがあり得ると考え、商品選択の上でそのことを考慮に入れます。
しかし、実際には「広告」であるにもかかわらず、それが事業者ではない第三者の感想であると誤認する場合、一般消費者はその表示内容にある程度の誇張・誇大を含むことがあり得るとは考えません。

ここに一般消費者の誤認を生じさせるおそれがあると同時に、これによって一般消費者の商品選択における自主的かつ合理的な選択が阻害される恐れがあります。  
このような背景からステルスマーケティングを規制することになったのです。

本記事では、この「ステルスマーケティング」について、解説していきます。


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 
代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を運営し、各種法律相談を承っております。

本記事では、
「ステルスマーケティング規制(ステマ規制)とは?事例をもとに解説」
について、詳しく解説します。

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ステルスマーケティング規制の概要

規制対象

ステルスマーケティング(以下「ステマ」といいます)は不当景品類及び不当表示防止法(以下「景品表示法」といいます)の指定告示に関する不当表示として規制されることになりました。

これは景品表示法第5条第3号として新設されています。

事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって一般消費者が当該表示である事を判別することが困難であると認められるもの

上記規定を整理すると、

①「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示」、かつ
②「一般消費者が当該表示である事を判別することが困難であると認められるもの」

がステマ表示とされました。
実務対応としては、①要件に該当する場合、「広告」などの表記の検討が必要と考えていただくとわかりやすいと思います。

主な罰則(ペナルティー)

ステマ表示を行うと、「措置命令」というペナルティの対象になることが明確に定められていますが(景品表示法第7条第1項)、課徴金納付命令の対象や今年の4月に新しく改正された景品表示法に定める直罰規定の対象には含まれていません(景品表示法第48条)。

もし措置命令を受けると、消費者庁のウェブサイトで企業の名前が公表されます。
これは、消費者に悪印象を与え、ウェブサービスや商品の売上に大きなダメージをもたらす可能性があります。

ステマは第三者、例えばインフルエンサーが行うことが多いですが、最終的な責任は事業者が持つ点を忘れてはなりません。第三者が広告の表示を忘れても、法律的には事業者が不当表示の責任を持ちます
この法律を理解し、正確な広告活動を行うことが極めて重要です。

各要件と実務上の留意点

事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示(①要件)

①要件について、外形上、第三者の表示のように見えるものが「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示」に該当するのは、事業者が表示内容の決定に関与したと認められる場合であるとされます。
以下、具体例を見ていきましょう。

ア 事業者の従業員が発信する場合
事業者が自分たちの商品や役務に関してSNSやウェブサイトで行う表示や発信が、社会全体で大きな関心を持たれています。
特に、第三者が行ったように見せかけて事業者が関与している場合、それが実際は事業者からの情報であると認識されるかが問題となります。

事業者の従業員が自社の商品や役務についてSNSで情報を発信することは珍しくありません。
しかし、それが会社としての公式な発信とみなされるかどうかは、いくつかの要因によって決まります。
例えば、その従業員が企業内でどのような役職にいるのか何の担当を持っているのか、そしてその発信の背後にある意図や目的は何か、といった点が考慮されます。

具体的には、商品の販売やマーケティングを担当している従業員が、商品の性能や特徴についてポジティブな情報をSNSで発信した場合、その情報は事業者としての公式な表示と解釈される可能性が高まります。

実際、消費者庁「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の運用基準(以下「運用基準」といいます)においても、事業者の従業員が行った事業者の商品役務に関する表示が事業者の表示と認められる場合につき「従業員の事業者における地位、立場、権限、担当業務、表示目的などの実態を踏まえて、事業者が表示内容の決定に関与したかについて総合的に考慮し判断する」とされています(運用基準第2・1 ⑴ イ)。

逆に言えば、一般的な従業員が個人の意見として商品やサービスについてSNSで情報を発信したとしても、それが必ずしも事業者としての公式な見解とはならないこともあります。
しかし、どの情報が事業者の公式な表示として受け取られるかは、ケースバイケースであり、一概には言えません。

このため、事業者はSNS利用に関する明確なガイドラインを設け、従業員に対して適切な教育や指導を行うことが重要です。これにより、消費者との信頼関係を維持し、誤解や混乱を防ぐことができます。


イ 第三者に発信を依頼する場合
事業者がインフルエンサーや他の第三者に自社サービスなどの宣伝を依頼するとき、どういう場合に正式な「表示」とみなされるかが問題です。基本的に、事業者が発信の内容を指定して第三者に依頼した場合、それは事業者の公式な表示と見なされます。

しかし、内容を指定せずに依頼した場合、判断は少し複雑です。
運用基準では「ある内容の表示を行うよう、明示的に依頼指示していない場合であっても事業者と第三者との間に事業者が第三者の表示内容を決定できる程度の関係性があり、客観的な状況に基づき第三者の表示内容について事業者と第三者の間に第三者の自主的な意思による表示内容とは認められない関係性がある場合には事業者が表示内容の決定に関与した表示とされ事業者の表示となる」とされています(運用基準第2・1 ⑵ イ)。

これを簡単に言うと、事業者と第三者の関係が深ければ深いほど、第三者の発信は事業者の意向と連動していると見なされる可能性が高まります。
その判断に当たっては 以下の諸事情を総合的に考慮して判断されるとされています 。

  • 事業者と第三者の間の具体的なやりとりの対応や内容
  • 事業者が第三者の表示に対して提供する対価の内容
  • その主な提供理由
  • 事業者と第三者の関係性の状況

そのため、事業者は第三者との関係やコミュニケーションをしっかり管理し、どの情報が公式な表示として受け取られるかを理解しておく必要があります。
いくつか例を検討しましょう。

第三者の表示が事業者の表示となる例

事業者が自分たちの商品やサービスの情報を第三者に発信してもらう際、その発信が事業者の公式な表示と見なされる条件を考えてみましょう。

〇 ギフティングやサンプリング
事業者が自社の商品やサービスを無償で第三者に提供し、SNSなどでの宣伝を依頼する場合。
例えば、事業者が無料の商品を送って、受け取った第三者がその商品に関するポジティブな情報を発信することが考えられます。これは、事業者が発信内容に影響を持っているとみなされることが多いです。
もっとも、運用基準では事業者の表示にならない例として、第三者に対して自らの商品又は役務を無償で提供し、SNSなどを通じた表示を行うことを依頼するものの、当該第三者が自主的な意思に基づく内容として表示を行う場合が挙げられています。
実務的には、ギフティングやサンプリングを行う場合には、自主的な意思に基づく表示を行うよう明示的に依頼するとよいでしょう。

〇 経済的利益の示唆
事業者が第三者に、自社の商品やサービスの宣伝をすると金銭的なメリットがあると感じさせる場合が考えられます。
具体的には、言葉で直接は伝えないものの、そのような意味を持つ言動がある場合です。
この場合には、事業者が表示内容の決定に関与したと認められる可能性が高いと言えるでしょう。

〇 YouTuberなどへの対価支払い
YouTuberやその他のインフルエンサーに報酬を払い、サービスの利用や商品の宣伝を依頼する場合が考えられます。
宣伝目的で金銭が支払われることから、その発信内容は第三者の個人的な意見とはみなされず、事業者の公式な表示とされることが多いです。
要するに、事業者が第三者の発信内容に何らかの形で影響を及ぼす場合、その発信は事業者の公式な表示とみなされる可能性が高まります。事業者はこの点を理解し、正確な情報発信を心掛ける必要があるでしょう。

〇 Webメディアなどの自社サービスの紹介記事
Webメディアなどで自社サービスの紹介記事を掲載する際、どのようなケースで事業者の表示とみなされるかについて考えてみましょう。
例えば、メディア側が自社サービスの紹介記事を書く際に事業者に情報を問い合わせ、その回答を元に記事を作成した場合があるとします。
この場合、事業者が記事の内容をチェックして一部修正を依頼しただけのケースでは、一般的には事業者の表示とはみなされません。
しかし、アフィリエイターが事業者から委託を受けて記事を作成する場合や、メディアに有償で記事作成を依頼して宣伝を目的としている場合は、多くの場合、事業者の表示とみなされることが考えられます。

事業者の表示内容の関与

事業者が第三者の表示内容に関与しているケースも考えられますが、全てが事業者の表示とは限りません。第三者が自分の好みなどに基づいて表示を行い、事業者の意図とは関係なく表示している場合、事業者の表示とはみなされないことが多いです。
例として以下のケースが考えられます。

  • 第三者が特定の商品やサービスについて、SNSなどで自分の意見を投稿する場合。
  • 事業者とアフィリエイター間で表示に関する情報交換がなく、通常のアフィリエイト広告とは異なる形での表示が行われる場合。
  • ECサイトで商品を購入した第三者が、自分の真心を込めてその商品のレビューを投稿する場合。

これらのケースでは、事業者が表示内容の決定に直接的な関与をしていないため、その表示が事業者のものとは言えないのです。
特に現代のインターネット社会では、多くのユーザーが自らの意見や経験を共有することが一般的です。

そのため、どの表示が事業者のものであり、どの表示が第三者の真の意見であるのかを正確に判断することが重要となります。

一般消費者が当該表示である事を判別することが困難であると認められるもの(②要件)

②要件においては、第三者表示である一般消費者に誤認されないかどうかを表示内容全体から判断することになります。
事業者の表示である事が一般消費者にとって明らかである場合は広告などの表記が不要になります。

運用基準では事業者自身のSNSアカウントで表示を行う場合や、商品又は役務の紹介自体が目的である雑誌その他の出版物における表示を行う場合等が例として挙げられており、サービスの広告においても参考になります。
以下広告の方法ごとに留意点を検討しましょう。

【動画による広告】
YouTuberや配信者がサービス利用の様子をライブ配信したり、感想動画を投稿するケースが考えられます。
広告表記の場所は動画のタイトルや説明文です。動画内にも表記することができますが、一般消費者がすぐに理解できる場所に表示する必要があります。
例えば、長い動画の中で広告表記が冒頭以外にしかない場合は、消費者が見逃す可能性があるため注意が必要です。

【SNSによる広告】
事業者が自身のSNSアカウントで投稿する場合や、明確に事業者の表示がある場合は、広告との表記は基本的に不要です。
しかし、第三者にSNSの投稿を依頼する場合、ハッシュタグが多く使われるSNSの性質上、広告表示が埋もれないように注意が必要です。

【その他の広告】
広告表示がウェブページの最後にのみ存在し、スクロールしないと確認できない場合は、一般消費者にとって認識しづらくなる可能性があります。
また、映画やドラマ内での製品・サービスの積極的な表示(プロダクトプレイスメント)の場合、エンドロールに事業者名があれば、別途の広告表記は不要となります。

まとめ

広告の表現方法は多様であり、それぞれに留意すべきポイントが存在します。
一般消費者が誤解しないような明確な表示が求められている現代、事業者や広告主は適切な表現を心掛ける必要があります。


【サービス紹介】
景品表示法・薬機法その他広告法務

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