澤田直彦
監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所
代表弁護士
IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を運営し、各種法律相談を承っております。
本記事では、
「優良誤認表示と有利誤認表示【その他ステマ規制と6つの告示についても弁護士が解説!】」
と題し、その意味や定義、違いについて詳しく解説します。
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規制対象となる表示と事業者
規制対象となる「表示」
不当表示の禁止において、規制対象となる「表示」とは、顧客を誘引するための手段として、事業者が自己の供給する商品サービスの品質、規格、その他の内容や価格等の取引条件について消費者に対して知らせる広告や表示
をいいます(景品表示法第2条第4項)。
ポスターやチラシのみならず、商品の容器やパッケージ、ディスプレイや実演広告、セールストークも含みます。
規制対象となる事業者
複数の業者が関係して不当表示をしている場合、どの事業者が景品表示法の規制対象となるのでしょうか。
複数の事業者が関係している場合、不当表示の内容の決定に関与した事業者が規制の対象になり、他の者の表示内容に関する説明に基づきその内容を定めた事業者や他の事業者にその決定を委ねた事業者も規制対象となると考えられます。
具体的には、過去から違反行為発生時までの表示状況や、その表示をするに至った経緯、表示についての経費負担、表示を掲示等する状況等の具体的な事情を勘案して誰が表示の内容の決定に関与したかを判断することになります。
景品表示法の優良誤認とは
優良誤認表示とは?意味や定義について
優良誤認表示とは、サービスや商品の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のもの又は事実に相違して当該事業者と同種又は類似の商品・サービスを供給している他の事業者にかかるものよりも、著しく優良であることを示す表示をいいます(景品表示法第5条第1号)。
簡単に言うと、「これは良い品質ものですよ」と消費者に思わせる表示をしておいて、実際にはそうではない表示などのことです。
この場合の「著しく優良であることを示す表示」は、表示の受け手である一般消費者が「著しく優良」と認識するか否かという観点から判断し、社会一般に許容される誇張・誇大の程度を超えて実際より著しく優良であると示す表示を言います。
合理的根拠のない効果・性能の表示
合理的な根拠がない効果や性能を表示している場合も、優良誤認表示とみなされます。
優良誤認表示の疑いがある場合、消費者庁は、その表示を行った事業者に対して、その表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができます(景品表示法第7条第2項)。
消費者庁長官が資料の提出を求める文書を交付した日から15日経過するまでの期間に、何ら資料を提出しない場合や、提出資料によって合理的根拠を裏付けることができない場合、正当な理由がない限り、優良誤認表示とみなされ、行政処分を受けます。
提出資料によって合理的根拠を裏付けるためには、提出資料が客観的に実証された内容であることに加え、表示された効果、性能が提出資料によって実証された内容と適切に対応している必要があります。
例えば、次のように「食べるだけで1か月に5kg痩せる!」という表示について、「当該食品に含まれる主成分の含有量、一般的な摂取方法及び適度の運動によって脂肪燃焼を促進する効果が期待できる」という専門家の見解を資料として提出しても、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものとは認められません。
表示内容 | 「食べるだけで1か月に5kg痩せる! ○○大学△△医学博士の試験で効果は実証済み」 |
一般消費者に与える認識 | 食べるだけで1か月に5kgの減量効果が期待できるとの認識を一般消費者に与えるダイエット食品 |
提出資料 | 「当該食品に含まれる主成分の含有量、一般的な摂取方法及び適度の運動によって脂肪燃焼を促進する効果が期待できる」という専門家の見解。 |
表示と実証された内容の対応関係 | 食べるだけで1か月に5kgの減量効果が得られることは提出資料で実証されていない。 |
景品表示法第7条の運用の透明性を図り、事業者の予測可能性を確保するため、不当景品類及び不当表示防止法第7条第2項の運用指針-不実証広告規制に関する指針が公表されています。このガイドラインを参考に、合理的根拠の裏付けのない表示をしないよう注意しましょう。
景品表示法の有利誤認とは
有利誤認表示とは?意味や定義について
有利誤認表示とは、商品やサービスの「価格」や「その他の取引条件」について、実際のもの又は同種・類似の商品やサービスを提供している他の事業者のものよりも、著しく有利であると一般消費者に誤認される表示をいいます(景品表示法第5条第2号)。「お得です!」と訴える表示があるにもかかわらず、実際には表示されているほどお得ではないような場合をいいます。
有利誤認表示は大きく分けると価格表示と価格以外の取引条件に関する表示があります。
価格以外の取引条件に関する有利誤認表示としては、例えば、商品の内容量が他社とほぼ同量であるのに「他社商品の2倍の内容量」などと表示するような場合や、読者プレゼントの当選人数を実際より多く表示するような場合があります。
価格表示については、公正取引委員会が公表しているガイドライン「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」(以下「価格表示ガイドライン」といいます。)の考え方に基づき規制されています。
以下で、価格表示についての規制を説明していきます。
概要
一般消費者にとって重要な判断基準となる「販売価格」や「販売価格に関する表示」は、公正取引委員会が公表しているガイドライン「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」(以下「価格表示ガイドライン」といいます。)の考え方に基づき規制されています。
ここでは価格表示ガイドラインに従って、販売価格と販売価格に関する表示に分けて説明します。
販売価格
商品又はサービスの販売価格の表示について、景品表示法上で問題となるのは次のような場合です。
ア 実際の販売価格よりも著しく有利であると一般消費者に誤認される表示
イ 競争事業者の販売価格よりも著しく有利であると一般消費者に誤認される表示
具体的には、次のような表示は不当表示となるおそれがあります(価格表示ガイドライン第2-2)。
② 販売価格が、過去の販売価格や競争事業者の販売価格等と比較して安いとの印象を与える表示を行っているが、例えば、次のような理由のために実際は安くない場合
・ 比較に用いた販売価格が実際と異なっているとき。
・ 商品又はサービスの内容や適用条件が異なるものの販売価格を比較に用いているとき。
③ その他、販売価格が安いとの印象を与える表示を行っているが、実際は安くない場合
販売価格に関する表示(販売価格・商品の範囲・顧客の条件等)
販売価格の表示だけではなく、商品の範囲や顧客の条件等の表示によって、一般消費者に販売価格が安いと誤認させてしまう場合があります。
例えば、「カベ1部屋5,000円クロス張替え」表示されていれば、当然、一般の消費者は5,000円で壁紙を張替えてくれると考えます。しかし、5,000円はクロスだけの代金で、張替えは別料金である場合や、5,000円でクロス張替えができるのはサブスク会員のみだったという場合、一般消費者に実際の価格より販売価格が安いと誤認させるものであるため、不当表示にあたる可能性があるのです。
そこで価格表示ガイドラインでは、次の①~③を正確に表示する必要があるとし、実際と異なる表示やあいまいな表示は、不当表示に該当するおそれがあるとしています。
実際の販売価格より安い価格を販売価格として表示すること。
例)実際は8000円なのに5000円と表示した場合
② 当該価格が適用される商品の範囲
(関連する商品、役務が一体的に提供されているか否か等)
通常他の関連する商品やサービスと併せて一体的に販売されている商品について、これらの関連する商品やサービスの対価を別途請求する場合に、その旨を明示しないで、商品の販売価格のみを表示すること。
例)「カベ1部屋5,000円クロス張替え」と表示したが、張替えは別料金であったというような場合
③ 当該価格が適用される顧客の条件
表示された販売価格が適用される顧客が限定されているにもかかわらず、その条件を明示しないで、商品の販売価格のみを表示すること。
例)「カベ1部屋5,000円クロス張替え」と表示したが、サブスク会員のみの価格であったというような場合
二重価格表示(事例と要件)
価格表示の中でも重要なのが、二重価格表示の問題です。
二重価格表示というのは、事業者の販売している価格と、その販売価格より高い他の価格(以下「比較対照価格」という。)を併記して表示するものをいいます。例えば、期間限定セールの際に、過去の販売価格や「当店通常価格」などを表示してセール価格が安いと感じさせるような表示等をいいます。
このような二重価格表示も、適正な内容の表示であれば、問題ないのですが、事業者は、自らの販売価格の安さを強調しようと、次のような表示を行う場合、一般消費者に販売価格が安いとの誤認を与え、不当表示に該当するおそれがあります。
- 異なる商品の価格を比較対照価格に用いた表示
- 比較対照価格に用いる価格について実際と異なる表示やあいまいな表示
価格表示ガイドラインでは、二重価格表示が問題となる違反事例として、次の①~④を挙げています。
例)「当店通常価格15,000円のところ今だけ9,800円」
同一の商品について最近相当期間にわたって販売されていた価格※とはいえない価格を比較対照価格に用いるときは、不当表示に該当するおそれがあります。
※「最近相当期間にわたって販売されていた価格」とは
・販売期間が8週間以上の場合
セール開始時点から8週間さかのぼって4週間超占める期間の販売価格
・販売期間が8週間未満の場合
当該商品の販売期間の過半数の期間かつ2週間以上における販売価格
・上記の要件を満たしても最近相当期間にわたって販売されていた価格とは言えない場合
当該価格で販売された最後の日から2週間以上経過した場合
② 希望小売価格を比較対照価格とする二重価格表示について
例)「メーカー希望小売価格15,000円のところ9,800円」
③ 競争事業者の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示について
例)「A百貨店で15,000円の品 9,800円」
④ 他の顧客向けの販売価格を比較対照価格とする二重価格表示について
例)「非会員価格15,000円のところ会員価格9,800円」
このような表示を行う際には、価格表示ガイドラインをしっかり確認して違反しないよう注意が必要です。
割引率又は割引額の表示について
算出の基礎となる価格や割引率又は割引額の内容等について、実際と異なる表示やあいまいな表示をした場合、不当表示に該当するおそれがあります。
基本的には前述の二重価格表示の考え方と同様ですが、次のような割引率又は割引額を用いた価格表示は、不当表示に該当するおそれがあります。
表示:「全品5割引セール」
実際:一部の商品のみが5割引の対象
② 表示価格からの割引率若しくは割引額又はポイント還元率(以下「割引率等」という。)を用いた表示を行う場合に、(a)表示価格をいったん引き上げた上で割引率等を用いた表示を行うこと、又は(b)セール実施の決定後に販売が開始された商品を対象として割引率等を用いた表示を行うこと。
表示:「スーツ 表示価格から3割引」
実際:適用対象商品の表示価格がセール直前に引き上げられていた
③ 最大割引率又は最大還元率が適用されるのは一部のものに限定されているにもかかわらず、取り扱う全商品又は特定の商品群について、個々の商品ごとに割引率等を表示せずに、一定の幅の割引率等で、かつ、最大割引率又は最大還元率を強調した表示を行うことにより、あたかも多くの商品について最大割引率又は最大還元率が適用されるかのような表示を行うこと。
表示:「☆マークの商品、5~20%値引」
実際:20%の割引の対象となるのは一部の商品に限定
④ 任意に設定した価格を算出の基礎として、割引率又は割引額の表示を行うこと。
表示:「ソファー 50,000 円の品 3割引 35,000円」
実際:算出の基礎となる価格「50000円」が任意に設定された価格だった
販売価格の安さを強調するその他の表示について
販売価格の安さを強調する「倒産品処分」、「大幅値下げ」、「他店より安い」等の言葉を見かけることがありますね。
このような表示がされているのに、通常時等の価格とほとんど差がない場合や、商品全体が大幅に値引きされているような表示であるのに、適用対象商品が一部に限定されている場合など、実際と異る安さを強調する表示は、不当表示に該当するおそれがあります。
また、他店の販売価格より自店の販売価格を安くする等の広告表示をした場合、一般消費者が容易に判断できないような適用対象商品の限定条件を設けたり、価格を安くする旨の表示と比較して著しく小さな文字で限定条件を表示するような場合、不当表示に該当するおそれがあります。
このため、販売価格の安さの理由や安さの程度を説明する用語を用いて、販売価格の安さを強調する表示をする場合、適用対象商品の範囲及び条件を明示するとともに、安さの理由や安さの程度について具体的に明示することにより、一般消費者が誤認しないようにすることが求められています。
販売価格の安さを強調する次のような価格表示は、不当表示に該当するおそれがあります。
表示:「製造業者倒産品処分」
実際:製造業者の倒産処分品ではなく、継続的取引のある製造業者から仕入れた品で、販売価格が従来と変わっていない
② 通常時等の価格と比較して特に安くなっている商品がなかったり、一部に限定されているにもかかわらず、安さの程度を説明する用語を用いて、表示された商品の全体について販売価格が特に安くなっていることを強調する表示を行うこと。
表示:「他店よりも販売価格を安くします」
実際:当該商品について他店よりも安い価格で販売を行わないとき
表示:「夏物衣料全品大幅値下げ!」
実際:通常価格より特に安くなっている商品は表示商品の一部に限定
その他、誤認されるおそれがあるとして指定された表示
概要
優良誤認表示及び有利誤認表示以外で、
商品やサービスの取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあるとして、内閣総理大臣が指定した表示については、禁止されています。
現在指定されているのは次の①~⑥の6つですが、令和5年10月1日から、ステマ規制となる⑦の表示も追加されます(令和5年3月28日内閣府告示第19号)。
- 無果汁の清涼飲料水等についての表示
- 商品の原産国に関する不当な表示
- 消費者信用の融資費用に関する不当な表示
- 不動産のおとり広告に関する表示
- おとり広告に関する表示
- 有料老人ホームに関する不当な表示
- (令和5年10月1日から)一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示
ステマ規制とは?
新たに追加される⑦のいわゆるステマ規制とはどのようなものでしょうか。
ステマとは、例えば、事業者がインフルエンサーに対して、商品を紹介する動画を投稿するように依頼し、インフルエンサーが事業者から依頼されたものであることを隠して動画を投稿するような場合をいいます。
このように、一般消費者が、事業者の表示だと認識した場合には、ある程度の誇張・誇大が含まれることもあることを考慮しながら商品を選ぶのが通常ですが、本当は事業者が行っている表示であるのに、第三者がした表示だと誤認した場合、ある程度の誇張や誇大が含まれているとは通常考えないため、商品を選ぶに際して、自主的かつ合理的な選択を歪めてしまう可能性があります。
そのため、一般消費者に、事業者がした表示ではないと誤認される、又は誤認されるおそれがある表示を規制することになりました。
運用基準を定める消費者庁長官決定「『一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示の運用基準』」(以下、「運用基準」といいます。)によれば、告示の対象となるのは事業者の表示であるにもかかわらず、第三者の表示のようにみえるものです。事業者の表示であることが一般消費者にとって明瞭である又は社会通念上明らかであるものは告示の対象ではありません。
告示の対象外:事業者の表示であることが一般消費者にとって明瞭である又は社会通念上明らかであるもの
このように、告示の対象は「事業者の表示」です。どのような場合に「事業者の表示」であると判断されるのでしょうか。
この点、運用基準によれば、事業者が表示内容の決定に関与したと認められる場合、つまり、客観的な状況に基づき、第三者の自主的な意思による表示内容と認められない場合、「事業者の表示」と認められます。
運用基準が示している具体的な運用の概要は以下のとおりです。
① 事業者が自ら行う表示
事業者が自ら行う表示には、事業者が自ら表示しているにもかかわらず第三者が表示しているかのように誤認させる表示、例えば、事業者と一定の関係性を有し、事業者と一体と認められる従業員や、事業者の子会社等の従業員が行った事業者の商品やサービスに関する表示も含まれます。このような表示が事業者の表示に該当するかについては、例えば、従業員の事業者内における地位、立場、権限、担当業務、表示目的等の実態を踏まえて、事業者が表示内容の決定に関与したかについて総合的に考慮し判断されます。
② 事業者が第三者に行わせる表示
事業者が第三者に行わせる表示が事業者の表示といえるのは、事業者が第三者の表示内容の決定に関与している場合です。
例) 事業者が、第三者に対して、その第三者のSNS上や口コミサイト上に自らの商品やサービスに関する表示をさせる場合
また、事業者が第三者に対してある内容の表示を行うよう明示的に依頼・指示していない場合であっても、事業者と第三者との間に事業者が第三者の表示内容を決定できる程度の関係性があり、客観的な状況に基づき、第三者の表示内容について、事業者と第三者との間に第三者の自主的な意思による表示内容とは認められない関係性がある場合には、事業者が表示内容の決定に関与した表示とされ、事業者の表示となります。
この関係性の有無の判断に際しては、事業者と第三者との間の以下の点などの実態も踏まえて総合的に考慮し判断されます。
・具体的なやり取りの態様や内容
・表示に対して提供する対価の内容、その主な提供理由
・関係性の状況
事業者が表示内容の決定に関与したとされないもの≠事業者の表示
① 第三者が自らの嗜好等により、特定の商品又は役務について行う表示であって、客観的な状況に基づき、第三者の自主的な意思による表示内容と認められる場合
② 新聞・雑誌発行、放送等を業とする媒体事業者(インターネット上で営む者も含む。)が自主的な意思で企画、編集、制作した表示(但し、事業者が表示内容の決定に関与したとされる場合は事業者の表示となります。)
企業のとるべき対策・表示の管理
景品表示法第 26 条第1項は、それぞれの事業者内部において、不当表示等を未然に防止するために必要な措置を講じることを求めています。
不当表示等を未然に防止するために必要な措置は、事業者の規模や業態、取り扱う商品又は役務の内容、取引の態様等に応じて様々ですが、事業者の理解を助けることを目的に消費者庁が公表している「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針」に沿うよう具体的な措置を講じる必要があります。
この点については別記事「景品表示法に「違反」するとどうなる?罰則は?改正法への対策も解説!」で詳しく説明しています。損害賠償請求・返金請求や訴訟等、景品表示法に違反した場合の事実上の影響についても解説していますので、ご参照ください。
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