澤田直彦
監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 代表弁護士
IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「プラットフォームビジネスのよくある法務トラブル」
について、詳しくご説明します。
本記事におけるプラットフォームの意味は?
プラットフォームとは、一般的に、ウェブサイトやアプリのように、インターネット上においてサービス提供がなされる「場」又は、サービスや情報を提供する者とそれを求める者を集めた「場」と定義されます。
また、プラットフォームを運営する事業者を、プラットフォーム事業者(プラットフォーマー)といいます。
プラットフォームに関連するプラットフォームビジネスとは、通常、「プラットフォーム事業者」、プラットフォーム上においてサービスを提供する「提供者」、サービスを利用する「利用者」の三者により構成されます。
プラットフォームは、プラットフォーム事業者が提供者と利用者を仲介する機能を有するマッチング型( ネットオークションやAmazonや楽天といったモール等、民泊やカーシェア等のシェアリングエコノミービジネスにかかる仲介サイト等)
と、
そのような仲介機能を持たない非マッチング型(掲示板や、ツイッター・FacebookといったSNS等のソーシャルメディア)
に分類される場合があります。
本記事では、マッチング型を念頭に置いて、プラットフォーム事業者が直面する課題について解説します。
典型的なプラットフォーム取引の流れは?
この図は、提供者が商品を出品し、利用者が商品を購入する場合の取引完了までの流れを時系列でまとめたものです(木下聡子、2020、「デジタルプラットフォームビジネスをめぐる消費者トラブルと利用の実情」、『現代消費者法』、No46、P14)。
プラットフォーム事業者は、提供者や利用者とシステムの利用契約を締結しますが、プラットフォーム上で販売される商品やサービスに関する売買契約は提供者と利用者の間で締結されます。
以下、プラットフォームビジネスで発生する具体的なトラブルについて解説します。
プラットフォームビジネスで生じうるトラブルとは?
利用契約についてのトラブル
上の図の、
①システムの提供、
②ユーザー登録
の場面では、プラットフォーム事業者と提供者・利用者との間で、利用契約が締結されます。
このとき、プラットフォーム事業者は、利用契約の内容として、利用条件を提示します(一般的には、利用規約の形で示されます)。
そして、ユーザーが、提示された利用規約に同意することにより、利用規約を内容とする利用契約が締結されます。
しかし、この利用規約について、ユーザーとプラットフォーム事業者との間に認識の齟齬が生じる場合があります。
この場合に、次のようなトラブルが生じます。
- 出品者の出品物に対する情報について虚偽表示があった。
- 購入後のキャンセルにともない、出品者からの表示がないのに根拠不明の請求を受けた。
- プラットフォーム事業者から売上金出金の指示があったが、ログインせずにいたら規約上の留保期間を経過した売上金が消滅した。
- 規約違反によってアカウントが停止されたが、売上金が没収されてしまうか不安である。
これらのトラブルは、ユーザーの対応・過失に起因する可能性もありますが、ユーザーの利用規約に対する認識が不十分であること、プラットフォーム事業者からユーザーへの規約の説明が不十分であった可能性があります。
プラットフォーム事業者は、このような難しいトラブルを防止するため、できるだけ明確に、適切な内容で利用規約を提示する必要があります。
提供者・利用者に損害等が生じた場合の事業者の責任についてのトラブル
提供者・利用者間の売買契約で生じるトラブルとして、次の様なものがあげられます。
- 出品者から瑕疵がある商品や偽ブランド品を送られ返金請求にも対応しない。
- 支払期限の表示が出品者とプラットフォーム事業者で一致せずどちらが正しいか不明。
- 法令上販売が禁止されている商品の出品。
- プラットフォームが提供する仕組み・方法とは異なる取引方法を持ち掛けられた。
もっとも、上の図の通り、プラットフォーム上で行われる売買契約は、あくまで提供者・利用者間で締結されます。
したがって、プラットフォーム事業者は、システム上でなされる取引ついて売買契約当事者間(上の図の、提供者と利用者をいいます)で生じる損害については、原則として民事上の責任を負いません。
ただしプラットフォーム事業者も、上の図の通り、マッチングする「場」(プラットフォーム)の提供を通じて、間接的に提供者・利用者間の取引に関与しているため、その関与の度合いが高まれば、一定の責任が認められる可能性があります。
実際に、プラットフォーム事業者に責任を認めた裁判例として、以下のようなものがあります。
ネットオークション上で発生した詐欺被害について、ネットオークション運営事業者(プラットフォーム事業者)の損害賠償責任が問題となった裁判例。
↓
この裁判例は、プラットフォーム事業者は利用者に対して「欠陥のないシステムを構築してサービスを提供すべき義務」を負うと判示しました。プラットフォーム事業者は、このような義務に違反した場合に、損害賠償責任を負うことになります。インターネット上のモールにおいて、商品の提供者が商標権を侵害するような商品を販売したとして、商標権者から、当該モール運営者(プラットフォーム事業者)に対し、商標法及び不正競争防止法に基づいて、差止め及び損害賠償請求がなされた裁判例。
↓
モールの運営者が、プラットフォーム上でトラブルが生じた場合において、プラットフォーム事業者が個別具体的なトラブルを認識しえたにもかかわらず、これを放置しているような場合には、プラットフォーム事業者が民事上の責任を負う可能性があることを認めました。
このように、プラットフォーム事業者が、サービスの信頼性・安全性の向上を目指し、提供者の提供するサービス内容に深く関与すればするほど、単なる「場」の提供者を超えた場合の例外的な責任が生じる可能性があります。
プラットフォーム事業者は、このような法的責任のあり方も踏まえたサービス設計や利用規約等のルール作りをしていく必要があります。
知的財産権についてのトラブル
これまで、数々のプラットフォーム事業者が、インターネットを利用してプラットフォームを提供するための新しいビジネスの手法を研究・開発してきました。その中には、知的財産権の対象になるものもあります。
プラットフォーム事業者が、新たにプラットフォームビジネスを始めるにあたって、このような知的財産権の対象となる手法を使う場合、権利者から権利侵害を主張される危険性があります。
たとえば、プラットフォームビジネスの手法に関して特許権が認められた例として、次のようなものがあります。
- 書籍の注文の際などに使うアマゾン・ドットコム社のワンクリック方式
- 買物対象商品をカートに入れて支払手続を一度済ませる「ショッピングカートの仕組み」
格安航空チケットなどを探し出す際の「逆オークション方式」
これらの手法が特許権の対象となることを知らないまま、ライセンス契約を締結しないで利用してしまうと、特許権者から、特許権侵害を理由として差止請求がなされることになります。
新たにプラットフォームビジネスを始める場合には、知的財産権に配慮して、手法を選択する必要があります。
システムについてのトラブル
インターネットを利用するプラットフォームビジネスは、取引のしやすさ、操作ミスや勘違いの起きやすさなどが、プラットフォーム事業者の提供するシステムに依存します。
また、ユーザーに過失がなくても、システムに問題があるために適切な取引ができない場合があります。
提供するシステムの問題を理由として生じるトラブルには、次のようなものがあります。
- 出品者に不満のある購入者が、相手方からの報復を恐れてありのままのレビューを記載することができない。
- リンク先の情報を見るつもりで、誤って申し込みや注文のボタンをクリックしてしまった。
- スマホで返品規定のところが確認できなかった。
- システム上の支払いエラーで、代金支払いが行えない。
- 不正利用されたことに伴い再発行を受けた新カードを一度利用したら、プラットフォームにログインできなくなった。
このようなトラブルが生じないよう、プラットフォーム事業者は、安全で、ユーザーにわかりやすく、取引しやすいシステムを提供する必要があります。
個人情報についてのトラブル
ユーザ―は、プラットフォーム上で取引する場合、通常、クレジットカード番号、銀行口座やメールアドレスなどの重要な個人情報をプラットフォーム事業者に提供します。
このような情報を不正に利用したり、システムの脆弱性により情報が漏洩するなどのトラブルが生じることがあります。
具体的には、次のようなトラブルがあります。
- 身に覚えがないのに、ホームページ開設者から、会員登録したこと、ID、パスワード及び銀行振り込み口座の書かれたメールが届いた。
- ホームページ上で募集している懸賞に応募したところ知らない業者から頻繁に商品購入を求めるメールが来るようになった。
- 不正アクセスによってクレジットカードを他人に不正使用された。
個人のプライバシー情報が漏れだす事故があると、企業は消費者の信頼を失い甚大な被害をこうむります。
プラットフォーム事業者は、顧客情報の保護をしっかりとして情報管理体制を構築する必要があります。
個人情報保護法とは?【プラットフォームと個人情報保護法1】
プラットフォームビジネスを始めるために知っておくべきことは?
プラットフォームビジネスを始めるにあたって、プラットフォーム事業者や提供者が、所轄官庁に対して、許認可、届出、登録等をする必要がある場合があります。
プラットフォーム事業者は、経営するビジネスについて、
①許認可等を得る必要があるのか
②必要があるとして、誰が得なければならないのか
を知っている必要があります。
事業が軌道に乗ってきたにもかかわらず、これらの法規制を知らなかったがゆえに、事業が失敗した事例も多く発生しています。
また、インターネット上での取引には、様々な法規制があります。
プラットフォーム事業者は、これらの法規制に違反しないようにビジネスをする必要があります。
インターネット上の取引についての法規制のうち、何が適用されるかは、プラットフォームビジネスの手法や取り扱う製品によって異なります。
以下に、プラットフォームビジネスを営む上で適用されることの多い法規制の例をあげます。
法律を事前に調べておいて、自社事業に関連のある法規制を調査するか、専門家に確認を依頼されるとよいでしょう。
- 特商法
- 割賦販売法
- 不当景品類及び不当表示防止法
- 古物営業法
- 無限連鎖講防止法
- 薬事法
- 健康増進法、食品衛生法、JAS法
- 貸金業法
- 旅行業法
- 医療法
- 宅建業法
- 金融商品販売法
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インターネットオークションサイトビジネス開設に伴う法規制
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