澤田直彦
監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 代表弁護士
IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「【自炊代行サービス】著作権侵害で違法になる?法的問題点を解説」
について、詳しくご解説します。
書籍のデータ化の代行について
1−1 書籍のデータ化について
近年、電子機器類の高度化により、出版物を電子端末で楽しむニーズが高まっています。本のデータ化により、書籍の持ち歩きや保管が容易となり、電子端末でいつでも楽しむことができます。また、書籍データをテキスト化することで、書籍の内容の検索を瞬時に行うことが可能となりました。
特に、すでに個人が蔵書として所有している書籍を、PDFファイル等の電子データにする行為は、データを自分で吸い出すという行為であることから俗に「自炊」(じすい)と呼ばれています。
「自炊」のメリット
すでに紙の書籍を所持している場合に、あらためて電子書籍を購入すると、同じ本を2冊買うのと同様の経済的負担が生じます。
→所有している紙の書籍をデータ化すれば、上記の経済的負担は生じません。書籍が紙媒体のみで、電子書籍として販売されていない場合があります。
→紙の書籍をデータ化することで、電子書籍化されていないタイトルについても、電子端末での閲覧が可能となります。紙は重いので持ち歩きたくないという方にとっても、データをスマートフォンやKindle等の電子端末で閲覧できるのにはメリットがあります。
1−2 「自炊代行サービス」について
「自炊」は、以下の流れで行います。
書籍の裁断
書籍を背表紙から切り離し、各ページごとに分けます。書籍のスキャン
裁断済みの書籍の各ページをスキャナーで読み取ります。書籍データの保存
スキャンしたデータをパソコンに保存します。これらの作業を個人で行うには、裁断機・スキャナー・パソコンを準備する必要がある上、時間と労力がかかります。
そこで、個人からの依頼を受けて自炊を代行する事業者が登場しました。
自炊代行サービスの法的問題点とは
2−1 「自炊」は書籍の複製行為か
書籍には、著作者の著作権があります。
第二十一条
著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。
「複製」とは、著作物を「印刷、写真、複写その他の方法により有形的に再製すること」をいいます(同法2条1項15号)。
裁断した書籍をスキャナーで読み込み、電子ファイル化する行為は、書籍について有形的再製をする行為であり「複製」行為にあたります。
したがって、「自炊」は書籍の複製行為となります。
2−2 自炊代行サービスは「私的利用」に含まれるか
一方、著作権法にはこのような規定もあります。
第三十条
著作権の目的となっている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。
自炊行為であっても、私的使用の範囲内であれば、著作権侵害にはあたりません。
つまり、個人で機器を揃えた上で、自らの蔵書を電子データ化する自炊行為については、
①「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とする」
こと、及び
②「その使用する者が複製する」
こと、という2つの要件を満たせば、問題なく行うことができます。
では、自炊行為を事業者が代行する場合は、どうでしょうか。
自炊代行サービス事業者が、データ化の注文を受けた書籍の著作権者の複製権を侵害するか争われた裁判例(知財高裁平成26・10・22判タ1414号227頁)があります。
2-3 裁判例(知財高裁平成26・10・22判タ1414号227頁)について
事案の概要
自炊代行サービスを行うY社が、小説家、漫画家または漫画原作者であるXらの著作権(複製権)を侵害したとして、①自炊代行サービスによる書籍の「複製」の差止めとともに、②Y社とY社の取締役に対し、不法行為に基づく損害賠償を請求されました。結論
Y社によるXらの複製権の侵害を認め、著作権法30条(私的利用)の適用を否定されたので、Xらの請求は一部認容されました。理由
「複製行為の主体とは、複製の意思をもって自ら複製行為を行う者をいう。……Y社は利用者と対等な契約主体であり、営利を目的とする独立した事業主体として、本件サービスにおける複製行為を行っているのであるから、本件サービスにおける複製行為の主体であると認めるのが相当である。」
→複製行為の主体はY社とされました。
「著作権法30条1項は、① 『個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とする』こと、及び② 『その使用する者が複製する』ことを要件として、私的使用のための複製に対して著作権者の複製権を制限している。そして、……Yは本件サービスにおける複製行為の主体と認められるから、Yについて、上記要件の有無を検討することとなる。
しかるに、Yは営利を目的として、顧客である不特定多数の利用者に複製物である電子ファイルを納品・提供するために複製を行っているのであるから、 『個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とする」ということはできず、上記①の要件を欠く。また、Yは複製行為の主体であるのに対し、複製された電子ファイルを私的使用する者は利用者であることから、「その使用する者が複製する」ということはできず、上記②の要件も欠く。したがって、Yについて同法30条1項を適用する余地はないというべきである。」
→Y社の行為について著作権法30条の適用はないとされました。
問題の結論(著作権侵害にあたるか?)
個人が所蔵している書籍を、事業者が当該個人の依頼を受けてスキャンして、電子ファイル化するサービスは、書籍の「複製」行為(著作権法2条1項15号)にあたります。
そして、当該書籍の著作者の許諾を受けずに、事業者が書籍を「複製」する行為は、私的利用にはあたらず、著作権侵害にあたり、違法行為となります。
また、スキャンしたデータについて著作権者の許可なくダウンロードして閲覧させることは、当然、著作権侵害(公衆送信権侵害)となるので、著作権者の許可なく行うことは許されません。
※実際に自炊代行サービスを行っている会社は、ホームページに著作権や利用規約などを公開しており、中には対応不可の著作者リストを公開している会社もあります。
その他の形態での自炊支援サービスについて
自炊行為を支援するビジネスとして、他にも
- 自炊に使用するための裁断機、スキャナー等の機器の販売又はレンタル
- 自炊をするための裁断機、スキャナー等を設置した場所を提供し、来場者に使用してもらうサービス
があります。 これらのビジネス形態であれば、「利用者が私的使用目的複製として適法に行うことのできる行為を支援するサービス」と評価されることとなります。 上記形態の自炊支援サービスであれば、適法に行うことが可能です。
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