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落札者に対するマッチングプラットフォーム事業者の法的責任は?

Q
 当社は、マッチングプラットフォームサービスのビジネスを展開しています。店舗・出品者の違法行為によって落札者が損害を被った場合、当社は、どのような責任を負いますか?

A
 CtoCオークション裁判(名古屋地判平20・3・28、名古屋高判平20・11・11)によると、マッチングプラットフォーム事業者(以下「プラットフォーマー」といいます)はユーザーに対して「欠陥のないシステム」を構築してサービスを提供すべき義務を負っている、と判示しています。そのため、システム構築及び提供義務違反が認められる場合に、店舗・出品者の違法行為によって落札者が損害を被ったときは、損害賠償義務を負う可能性があります。


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「落札者に対するマッチングプラットフォーム事業者の法的責任は?」
について、詳しくご解説します。

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そもそもマッチングプラットフォームとは?

解説の前にそもそもマッチングプラットフォームとは何か簡単に述べると、
事業者が提供者と利用者を仲介する機能を有するもので、例えば、ネットオークションやAmazonや楽天といったモール等、民泊やカーシェア等のシェアリングエコノミービジネスにかかる仲介サイト等があります。

契約責任の有無~プラットフォームサービス事業者とユーザーとの関係~

プラットフォームビジネスでは、ユーザーはプラットフォームサービスを利用するにあたり、プラットフォーマーが定める利用規約に同意することが通常です。そのためプラットフォーマーとユーザーとの間には利用規約で定める内容で利用契約が成立しますので、両者の法律関係も利用規約に定めるところに従うことになります。

そこで、利用規約においてプラットフォーマーは利用者に対してオークションシステムや売買システムを提供するのみで、個々の取引に直接関与しないとしている場合には、プラットフォーマーはユーザー間売買契約の当事者とはならないため、売買契約におけるトラブルについて責任を負わないのが原則となります。

他方、利用規約において、プラットフォーマーがオークションシステムや売買システムの提供を超えて個々の取引に実質的に関与する場合には、その関与の度合いによって応じてユーザー間のトラブルに関して契約当事者としての責任を負う可能性があります。

例えば、CtoCオークション裁判はインターネットオークションサイト利用者が詐欺被害にあったとしてオークション事業者を訴えた事案ですが、オークションサービスの利用契約がユーザー間売買契約成立に向けた仲立契約(商法543条)や請負契約(民法632条)であると解される場合には、ユーザー間のトラブルについてプラットフォーマーが契約当事者として善管注意義務違反(民法644条、656条)等の責任を負う可能性があることを示唆しています。

【CtoCオークション裁判におけるオークションサイト利用契約の法的性質】
名古屋地判平20・3・28 名古屋高判平20・11・11
「本件利用料は本件サービスのシステムの利用の対価にすぎないものと認められる。……そのほか、被告が利用者間の取引に積極的に介入してその取引成立に尽力するとまで認めるに足りる証拠はなく、本件利用契約が仲立ちとしての性質を有するものとはいえない。また、本件利用契約は……事実行為を委任したり、目的物の完成を請け負わせたりするものとか、あるいはこれに類似するものともいえない」 控訴人らがオークション事業者を民事仲立人に該当すると主張したことについて「仲立人は、他人間の法律行為の媒介をすること、すなわち他人間の法律行為に尽力する者をいう」が、オークション事業者は「何ら、出品者と落札者との間の売買契約の締結に尽力していない。」

信義則上の責任の有無~裁判例でみるユーザーに対する義務~

「欠陥のないシステム」構築及び提供義務の有無について

もっとも、利用規約等明文による定めがない以上、プラットフォーマーがユーザーに対して何ら責任も義務も負わないとは限りません。なぜなら、ユーザーはプラットフォーマーの提供するサービスのシステム利用を当然の前提としているからです。そこでCtoCオークション裁判では、プラットフォーマーはユーザーに対して、利用契約における信義則上、欠陥のないシステムを構築してサービスを提供する義務があることを認めています。

そして裁判所は、かかる義務の具体的内容について「そのサービスの提供当時におけるインターネットオークションを巡る社会情勢、関連法規、システムの技術水準、システムの構築及び維持管理に要する費用、システム導入による効果、システム利用者の利便性等を総合考慮して判断される」としています。

「欠陥のないシステム」構築及び提供義務の具体的内容について

CtoCオークション裁判は、インターネットオークションサイト利用者が詐欺被害にあったとしてオークション事業者を訴えた事案です。
その中で、原告が主張したプラットフォーマーの義務内容は

① 詐欺被害等にあわないようにユーザーに対して注意喚起措置をとる義務、
② 第三者機関による出品者の信頼性評価システムを導入する義務、
③ 出品者情報の提供・開示義務、
④ エスクローサービスの利用を原則的に義務付ける義務及び
⑤ 補償制度充実義務

です。

裁判所は、①の注意喚起義務のみを肯定したうえで義務違反を認めず、②から⑤までの義務については存在を認めませんでした。

【CtoCオークション裁判における裁判所の判断】
義務の内容 義務の存否 義務違反の有無
①注意喚起措置義務 有り。
サービス提供時においては、詐欺等犯罪的行為が発生していた状況があり、相応の注意喚起措置をとる義務が認められる。
無し。
利用者にトラブル事例等を紹介するページを設けるなど、時宜に応じて詐欺被害防止に向けた相応の注意喚起措置をしていた。
②信頼性評価システムの導入義務 無し。
日本において、オークション利用者の信用性を評価する第三者機関は存在していないため、かかるシステムの導入は事業者に相当な困難を強いることになるため。
③出品者情報提供・開示義務 無し。
詐欺を行う者は虚偽情報を提供することが想定されるのであるから、情報提供に詐欺的行為の一般的予防効果を期待できない。また、出品者情報の開示には法令の規定上相当の困難がある(個人情報保護法23条参照)。さらに、商品の有無について逐一確認する義務を負わせることは営利事業上相当の支障が生ずる可能性があるため。
④エスクローサービス(物品などを売買する際に取引の安全性を保証する仲介サービス)の利用を義務づける義務 無し。
利用者の代金その他の手数料に関する心理を考慮することなく、エスクローサービスの利用を義務付けることは営利事業としてのサービスの運営に困難を強いることになるといえるため。
⑤補償制度充実義務 無し。
補償制度は事後的被害を補償するものであって、詐欺被害の事前防止に結び付くといった関係にあるとは認めがたいため。

まとめ

CtoCオークション裁判で示された利用契約における信義則上の「欠陥のないシステム」を構築してサービスを提供すべき義務はオークションサイトだけでなく、一般的なマッチング型プラットフォームビジネス全般に妥当すると考えられます。

そこで店舗・出品者の違法行為によって落札者が損害を被った場合に、プラットフォーマーが損害賠償義務を負う可能性は上記判例の判断基準を参考にして判断されます。

具体的には、違法行為の内容、程度に応じて、経済的技術的な事業者の負担も考慮に入れたうえで違法行為の防止に必要な措置をとったか否かによって判断されると解されます。

そこで、店舗・出品者に対しては、違法行為の類型に応じた罰則(サービス利用者の通報に基づく注意喚起、違法行為の有無の公表、アカウント停止、罰金等)のガイドラインをあらかじめ作成することにより、店舗・出品者による違法行為の防止を図ることが重要になります。

また、落札者に対しては、詐欺などの違法行為があった場合には、これらの違法行為を行った事業者や違法行為の内容について、プラットフォーマーに通知してもらう等の措置をとり、更なる被害者を発生させないよう、注意喚起をしなければなりません。

以上のように、「欠陥のないシステム」の構築及び提供義務の具体的内容は、その時期や状況、法改正に応じた対応が必要になりますので一定期間毎の見直しが必要不可欠となりますが、かかる義務を果たしている場合には、店舗・出品者の違法行為によって落札者が損害を被った場合にも、プラットフォーマーは原則として、損害賠償責任を負うことはありません。

ただ、上記事項について利用規約に明示することで、無用なトラブルを防止することができますので、利用規約の作成は必要です。

利用規約の作り方については
【法務担当者が一人でできる!】利用規約作成マニュアル【ひな形付】
をご覧ください。こちらの記事では利用規約の典型的な条項や法的な意味などを解説しております。

補足~対第三者責任について~

店舗・出品者が商標権侵害の商品を販売した事案(東京地判平22・8・31、知財高判平24・2・14)では、「事業者は、権利侵害の申告を受けた時は、その有無を調査する義務がある」として事業者の一般的義務を肯定しました。

この事案では、事業者が調査のうえ短期間で権利侵害情報を削除したことから、事業者に損害賠償義務はないとしました。しかし、プラットフォームサービスを利用するユーザー以外の第三者との関係においても、損害賠償責任が生じ得ることを認めていることから、プラットフォーマーとしては、ユーザーが、ユーザー以外の第三者の権利を侵害していないか注意をすることが必要となります。

その他

①契約関係
プラットフォーマー、サービス利用者、サービス提供者の法律関係(契約関係)は、
プラットフォームビジネスのよくある法務トラブルとは?
BtoC(B2C)型取引においてプラットフォーム取引契約と法的構造について
の記事に紹介していますので、ご参考にしてください。


②プラットフォーマーと個人情報保護法
 プラットフォームビジネス運営者に対して、近時規制を及ぼすべきではないかと指摘されている項目となります(2019年に公正取引委員会が取締り方針であることを明確にしています)。
プラットフォームビジネスと個人情報保護法の問題については、
個人情報保護法とは?【プラットフォームと個人情報保護法1】
個人情報漏えい等が発生した場合の法的責任【プラットフォームと個人情報保護法2】
情報漏えいの予防と対応【プラットフォームと個人情報保護法3】
の記事で紹介していますので、ご参考にしてください。


③特定商取引法上の問題
 BtoC、CtoC型のマッチングプラットフォームにおいて、個人の利用者に対して、有償でサービス提供している場合には、特定商取引法上の通信販売に該当し、マッチングサービス提供者は、広告における取引条件等の表示義務など特定商取引法上の規定に従う必要があります。
詳しくは、
BtoC(B2C)型取引においてプラットフォーム取引契約と法的構造について
CtoCマッチング型プラットフォームサービス ユーザーの名前や電話番号の表示義務は?
の記事に掲載しておりますので、ご参考にしてください。


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