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電子掲示板管理者の法的責任(プロバイダ責任制限法)3つの義務を解説


 当社は、電子掲示板を管理運営していますが、最近、掲示板のコメントで名誉を棄損されたといって、当社に削除要請(削除依頼)が多発しています。
 当社としては、削除要請に応じるべきなのか、法的な問題点をわかりやすく教えて欲しいと思いますし、当社としてトラブルを未然に防ぐ具体的措置を提案してください。


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「電子掲示板管理者の法的責任(プロバイダ責任制限法)3つの義務」
について、詳しくご解説します。

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はじめに

まず、電子掲示板管理者の基本的な立ち位置を簡単に確認しておきます。これを確認することにより、法的責任の基本的な考え方が見えてきます。

電子掲示板管理者は、情報発信者ではなく、あくまで情報発信の場を提供するアクセス・プロバイダです。ですから、投稿者とは異なり、情報の内容まで法的責任を負わないのが原則です。これは、判例でも確認されています。(ニフティサーブ事件、東京高等裁判所2001年9月5日判決、判例タイムズ1088号94頁)

但し、電子掲示板管理者が表現の場を提供するからこそ、問題投稿の発表が可能になります。そこで、違法な情報の流通に関与したことが認められる場合には、例外的に、民法上の不法行為責任(民法709条)ないし刑事責任(刑法230条等)を負う事になります。
電子掲示板管理者は、一方で被害者の救済を怠れば被害者から責任を追及されますが、他方で、被害者を救済するために投稿を削除するなどすれば、投稿者の表現の自由を不当に侵害したとして投稿者から責任を追及される危険があります。
このように、電子掲示板管理者は常に板挟みのリスクを負います。

そこで、2001年に、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(通称、プロバイダ責任制限法)が公布されました。
これによれば、電子掲示板管理者は『特定電気通信役務提供者』に該当します(プロバイダ責任制限法2条3号)。
よって、以下では、基本的にこの法律の条文を解釈しつつ、電子掲示板管理者の法的責任が具体的にどのような場面で生じ得るのか、考察し解説していきます。
電子掲示板管理者が注意すべき権利としては、名誉権・プライバシー権だけではありません。氏名権・肖像権・パブリシティー権・著作権・商標権・意匠権・営業秘密・特許権などもあります。
これらの権利についての詳細は 参考⑵電子掲示板管理者が注意すべき権利をご覧ください。

削除義務

削除義務は投稿された情報が権利侵害をするものであると判断される場合、サイト管理者は、そのような情報を「削除する義務」を負うことがあります。
また、下記はよくあるご質問のうち2つ抜粋して載せておりますのでご参照ください。

⑴被害者から未だ削除要求が無い段階で、偶然、管理者が問題投稿を見つけた場合、自らの判断で削除してよいのか?

まず、原則として、電子掲示板管理者には、違法な投稿を監視する義務はありません(プロバイダ責任制限法3条1項参照)。なぜなら、全ての投稿を常時確認する事は事実上不可能だからです。
知らなかったので削除しなかったのであれば、責任を問われる事はありません(同法3条1項1号)。
よって、基本的な姿勢としては、安易な削除を慎むべきといえます。安易に削除すれば、かえって発信者(投稿者)から、「表現の自由を侵害した」と責任追及される危険があるからです。
そこで、まずは、被害者に通知し、削除要求をする意思があるかを確認しましょう。仮に、被害者の意思を確認できない場合に、削除して、後に実際には権利侵害が無かったことが判明したとしても、削除が必要な限度で行われ、権利侵害だと判断した事に相当な根拠があれば、基本的には責任を負いません(同法3条2項1号)。


⑵ユーザーから削除要求があった場合に、常にそれに応じて削除してよいのか?

まず、誰から削除要求があったかを確認しましょう。 削除要求ができるのは、基本的に被害者本人だけです。被害者本人以外の者から削除要求がある場合、成りすましの可能性があります。
被害者本人からの要求である事が分かった場合、 次に、削除等の措置を講じるべき場合か否かを判断する必要があります。 措置を講じるべきなのに、これを怠った場合には、責任を問われる可能性があるからです。これについては、 専門家へ相談しましょう。
削除等の措置を講じるべき場合であると判明した場合、被害者から削除要求があったことを発言者に通知し、7日以内に発言者が異議を唱えない場合に、削除しましょう。この場合には、プロバイダが書き込みを削除しても、発信者に対して一切責任を負う必要はないとされます。(プロバイダ責任制限法3条2項2号)。

発信者情報開示義務

問題投稿が匿名でなされた場合、被害者が権利救済措置を講じるには、発信者を特定する必要があります。その為、被害者が管理者に発信者情報(IPアドレス等)を要求してくる場合があります。
発信者情報(IPアドレス)を他人に開示する行為は、他人のプライバシー、個人情報を伝えることにつながり、本人の同意なく他人に伝える行為は違法な行為となる場合があります

プロバイダ責任制限法では、書き込みによって権利を侵害されたことが明らかであり、発言者情報の開示を受ける正当な理由があるときに限り、被害者が発信者情報の開示を請求できるが、プロバイダが開示を拒否したとしても、故意又は重大な過失が無い限り、損害賠償責任を負わない、とされています(同法4条参照)。
したがって、むやみに開示に応じないようにしましょう。

損害賠償義務

前述のように、2,3に応じなかった事が、違法な情報流通に加担したと判断された場合には、責任を問われる可能性があります

事例として、判例(東京地方裁判所2002年6月26日判決、判例タイムズ1110号92頁)は、動物病院と獣医が、2チャンネルの掲示板で、名誉毀損に当たる発言『動物実験はやめてください』「責任感のかけらもない」「精神異常」をされた事件において、『掲示板の運営・管理者は、他人の名誉を毀損する書き込みがある事を知った場合、又は知り得た場合には、直ちに書き込み削除などの措置を取る条理上の義務を負う。書き込みが真実か否か不明である事を理由に削除義務を免れることはない』とし、2チャンネルの管理者に対し不法行為責任(民法709条)に基づき400万円の損害賠償を命じました。

プロバイダ責任制限法では、電子掲示板管理者が被害者に対して損害賠償などの責任を負う要件も、書き込みが権利を侵害していることを知ることができ、かつ削除が技術的に可能であるのに削除しなかった場合に限られています(同法3条)。

もっとも、仮に責任が認められれば、賠償額は400万円になることもあるということは知っておく必要があります。

トラブルを未然に防ぐ具体的措置の提案

⑴ 侵害行為の苦情受付方法を明示しておきましょう。
これにより、トラブルの処理を円滑に行うことができます。

⑵ 申告の記録を保管しておきましょう。
これにより、侵害行為を知ったか否か、知った時点が明確になります。実際に被害の存在を知らなかった場合に、訴訟で申告記録が無い事を証拠として提出することができ、信用されやすくなります。

⑶ 投稿者に削除の同意を照会する時には、反論の機会を与えましょう。
これにより、安易に削除したと発信者に主張された場合に、慎重に削除したことを主張することができます。

⑷ 削除等の措置を行った場合は必ず被害者に通知しましょう。
これにより、被害者から『削除措置を放置した』と主張されるのを防ぐことができます。

⑸ ユーザー登録をしてもらう際などに示すものとして、利用者との関係で、利用規約・利用契約は必ず作成しましょう。
この際、管理者による投稿の削除や、投稿者の情報開示があり得る事、それをしても免責され得る事を明記しておきましょう。

⑹ 送信防止措置手続を希望する被害者は、 http://www.isplaw.jp/index.html のHPの書式により申請する必要があります。よって、これらの申請方式についても、説明しておきましょう。
詳しくは、上記URL先のHPの、送信防止措置手続のカテゴリーの中の、「~関係書式(PDF)」をクリックしてください。

参考

プロバイダ責任制限法3条・4条の解釈

※条文の文言はわかりやすくなるよう変えています。括弧書きの中が解釈です。

「3条
1項 特定電気通信による情報の流通により他人の権利が侵害された時、管理者は、①侵害情報(他人の権利を侵害した情報)の不特定者に対する送信を防止する措置(以下、単に送信防止措置という)を講じることが技術的な可能であって、かつ、②次の各号のいずれかに該当する時以外は、損害賠償責任を負わない。但し、管理者が侵害情報の発信者である場合を除く。
1号 管理者が当該情報の流通によって他人の権利が侵害されている事を知っていた時
2号 管理者が当該情報の流通を知っていた場合であり、かつ、それにより他人の権利が侵害されていることを知る事ができたと認めるに足りる相当な理由がある時(通常の管理者であれば知る事ができたと判断される時)

2項 管理者は、送信防止措置を講じた場合、①その措置が必要な限度で行われ、かつ、②次の各号のいずれかに該当する場合には、当該措置により当該情報の発信者に生じた損害については、賠償責任を負わない。
1号 管理者が当該情報の流通によって他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由があった時(通常の管理者であれば信じてもやむなしと判断される時)
2号 被害者から、侵害情報、侵害された権利、権利侵害された理由(以下、申出内容という)を示して送信防止措置を講じるよう申出があった場合に、侵害情報の発信者に申出内容を示して送信防止措置を講じる事に同意するか否かを照会した場合、発信者が照会を受けた日から7日を経過しても同意しない旨の申出をしなかった時」

「4条
1項 被害者は、次の各号のいずれにも該当するときに限り、管理者に対し、管理者が保有する当該権利侵害に係る発信者情報の開示を請求できる。
1号 侵害情報の流通によって当該開示請求者の権利が侵害されたことが明らかな場合
2号 当該発信者情報が当該開示請求者の損害賠償請求権の行使に必要な場合、その他開示を受ける事に正当な理由がある場合

2項 管理者は、1項の開示請求を受けた時は、発信者と連絡が取れない場合その他特別の事情が無い限り、開示するか否かについて発信者の意見を聴かなければならない。

3項 1項により発信者情報の開示を受けた者は、当該発信者情報をみだりに用いて、不当に発信者の名誉や生活の平穏を害する行為をしてはならない。

4項 管理者は、1項による開示請求に応じないことにより当該開示請求者に生じた損害については、故意又は重大な過失が無い限り、賠償責任を負わない。ただし、当該管理者が開示請求に係る侵害情報の発信者である場合は、この限りでない。

電子掲示板管理者が注意すべき権利

  • 名誉権:
    人の品性や信用性等の人格的価値について社会から受ける評価を侵害されない権利。電子掲示板では、発信者が名誉毀損となる情報を発信し、一般のユーザーがこれを閲覧できる状態になった時点で名誉棄損が成立し、被害者がその情報を知っているか否かは関係ありません。リンク先記事まで摘示内容に含まれるとした判例もあります(東京地裁平成28年7月21日判決)
    ①当該情報が公共の利害に関する事実であり、
    ②公益を図る目的で掲載された情報で、
    ➂当該情報が真実であるか、又は発信者が真実と信じた事に相当の理由がある時は、例外的に違法性が阻却されます。

  • プライバシー権:
    個人に関する情報がプライバシーとして保護される為には、
    ①私生活上の事実又はそれらしく受け取られるおそれのある情報であって、
    ②一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立った時に、他人に開示される事を欲しないであると認められ、
    ➂一般人に未だ知られていない情報であることが必要とされています。
    例外的に、公人(政治家などの公務員)ないし公人に準じる者(会社の代表者や著名人)に関する情報については、表現の内容・方法が不当でない場合に例外的に違法性が阻却されることもあります。

  • 氏名権:
    氏名を他人に使用させず、排他的に占有する権利。

  • 肖像権:
    むやみに私生活上の容姿を無断で撮影されたり、撮影された写真を勝手に公表されたりされない権利。人格権としてのプライバシー権と財産権としてのパブリシティー権の2つの側面があります。

  • パブリシティー権:
    女優やスポーツ選手等、一般的に知られた著名人の顧客吸引力から生じる経済的な利益・価値を排他的に支配する権利。

  • 著作権:
    例えば、複製権(録音権)を侵害する行為、公衆送信権を侵害する行為、等が挙げられます。

  • 商標権:
    商品を区別するために使用するマークを保護するものです。商標法上の解釈上、業として商品を譲渡等する者が、商標権者の許諾なく、指定商品又はこれに類似する商品について、商品を譲渡するために商標が付された商品の写真をウェブページ上に掲載している場合、又は、登録商標と同一又は類似の商標を、広告等に付してウェブページ上に表示している場合には、特定電気通信による情報流通により商標権が侵害されていると考えられています。
    具体的には、
    ⑴ネットオークションへの偽ブランド品等の出品、
    ⑵ショッピングモールにおける偽ブランド品等の出品、
    ⑶その他ウェブサイト上での偽ブランド品等を譲渡する旨の広告等がこれに当たります。

  • 意匠権:
    物品のデザインについて排他的に支配する権利。特許庁に意匠登録出願をし、意匠登録を受けたものだけが、意匠権による保護の対象となります。

  • 営業秘密:
    不正競争防止法上、営業秘密として管理されているもの。
    ①当該情報が客観的に事業の経営効率の改善等に有用であり、
    ②当該情報を秘密として管理する意思が従業員等に対して明確に示され、
    ➂保有者の管理下以外では一般に入手できないことが主な条件です。

  • 特許権:
    自然法則を利用した、新規かつ高度で産業上利用可能な発明を保護するものです。これも、特許出願が認められた場合にのみ、保護の対象となります。


詳しくは、プロバイダ責任制限法関連情報webサイト http://www.isplaw.jp/index.html のガイドラインのカテゴリーの中にある「~関係ガイドライン(PDF)」をご覧ください。


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