澤田直彦
監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 代表弁護士
IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「ショッピングモールの運営上の留意点1~利用者(消費者)との関係~」
について、詳しくご解説します。
ショッピングモールサイトとは
そもそもショッピングモール(ショッピングセンター)とは、様々な小売店や飲食店などが集まった商業施設をいいます。
(*例えばイオンモール、アリオ、ららぽーと、他にもアウトレットモールと呼ばれる施設なども)
インターネット上のショッピングサイトの形態としては、
① サイト運営者がウェブサイト上の場所を複数の出店者に提供し、出店者が利用者に対して商品やサービスを販売するタイプと、
② サイト運営者自身が直接利用者に対して商品やサービスを販売するタイプがあります。
①のタイプは、一般的に「インターネットショッピングモール」や「サイバーモール」と呼ばれています。(以下、単に「モール」といいます。)
①のタイプと②のタイプとでは、個々の商品等の取引において、サイト運営者と利用者とが契約関係にあるか否かという点で異なります。
そのため、まずは、①②どちらのタイプのサイトを運営するのかということに留意する必要があります。
以下では、①の「モール」タイプを運営する上での留意点、特に、利用者との関係における留意点について解説してきます。
なお、モールを運営する上では出店者との関係でも留意するべきポイントがありますが、その点については別の記事をご覧ください。
モール運営者と利用者との法律関係(モール運営者の責任)とは
モールでは、通常、個別の出店者と利用者が商品やサービスの取引を行うわけですから、その両者に当該取引の契約関係が生じます。
一方、モール運営者は、あくまで取引を行う「場」を提供しているに過ぎない者として、出店者と利用者の個別の取引について、利用者と直接の契約関係には立ちません。
そのため、出店者から購入した商品に欠陥があったり、出店者が商品等の提供を行わなかったなど、利用者に損害が生じた場合でも、モール運営者は基本的に利用者に対する法的責任を負うことにはなりません。
経済産業省が策定した「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」(令和元年12月、以下、単に「準則」といいます。)においても、利用者が「個別の店舗との取引によって生じた損害について、モール運営者は原則として責任を負わない。」とされています。
しかし、準則は、例外的にモール運営者も責任を負う場合があるとして、以下のようなケースを挙げています。
- 利用者がモール運営者を売主と誤解しうる場合
- モール運営者が商品やサービスの品質等を保証したような場合
- モール運営者が出店者のトラブルを放置している場合
これら3つケースについてその類型と、責任を負わないようにするための対策について解説していきます。
モール運営者が責任を負うケース①:利用者がモール運営者を売主と誤解しうる場合
利用者がモール運営者を売主と誤解しうる場合について
準則によると、モールでの取引において、利用者がモール運営者を売主と誤解しうる場合には、例外的に、モール運営者も利用者の損害について責任を負う場合があるとしています。
具体的には、
②その外観が存在することについてモール運営者に責任があり(帰責事由)、
③モール利用者が重大な過失なしに営業主を誤って判断して取引をした(相手方の善意無重過失)場合には、
商法14条又は会社法9条(以下、「商法14条等」といいます。)の類推適用によりモール運営者が責任を負う場合もあり得るとされています。
現実の店舗での事例ですが、参考となる判例として、最高裁平成7年11月30日第一小法廷判決(民集49巻9号2972頁)があります。
この事件は、スーパーマーケットにテナントとして出店していたペットショップからインコを購入した買物客の家族が、オウム病性肺炎にかかり死亡したため、買物客がスーパーマーケットに対して損害賠償を請求したというものです。
最高裁の判断としては、スーパーマーケットの外部にテナント名が表示されていなかったことや、店内の案内板には「ペットショップ」とだけ表示されており営業主体が明らかではなかったこと、スーパーマーケット側の黙認のもと、ペットショップが契約場所から大きくはみだして営業していたことなどから、買物客がペットショップの営業主体がスーパーマーケットであると誤認するのもやむを得ない外観の存在を認定し、スーパーマーケットはその外観の作出に関与していたとして、スーパーマーケットの責任を認めました。
この判例の判断がモールにおいても直接適用されるかは今後の裁判例を待つしかありませんが、スーパーマーケットとそのテナントの関係と、モールとその店舗の関係には、一定の類似性があることから、モールにおいても、
①店舗の営業がモール運営者の営業であると一般のモール利用者が誤認するのもやむを得ない外観が存在し、
②外観の作出にモール運営者に帰責事由があり、
③モール利用者が重大な過失無くして営業主を誤認して取引をした場合には、
商法14条等の類推適用によりモール運営者が責任を負う場合もあると解されています。
対策
モールを運営する際には、利用者にモール運営者自身が売主であると誤解されないようにするため、モール画面のデザインに気を付ける必要があります。
画面のデザインをモールとテナントで統一していると、利用者からみてモール運営者が売主であると誤解される可能性が高くなります。
このような場合には、モール運営者が売主ではないことを分かりやすく表示しておくことが必要です。
具体的には、ウェブ上に利用者が通常認識することができるような形で「当モールに出店する店舗は、当社とは独立した事業者が自己の責任において運営しており、特に明示している場合を除いて、当社及び関連会社が管理又は運営しているものではありません。」といった表示をすることが考えられます。このような表示はモール運営者の責任を否定する有力な根拠となり得ます。
利用規約やホーム画面の下部などに記載しておくのがよいでしょう。
モール運営者が責任を負うケース②:商品やサービスの品質等を保証したような場合
商品やサービスの品質等を保証したような場合について
準則によると、モール運営者が利用者に対して、単なる情報提供や紹介を超えて特定の商品やサービスの品質等を保証したような場合には、その商品等の購入によって生じた損害について、モール運営者も責任(保証に基づく責任)を負う場合があります。
具体的には、「モール運営者が特集ページを設けてインタビュー等を掲載するなどして、特定の店舗の特定商品を優良であるとして積極的に品質等を保証し、これを信じたがためにモール利用者が当該商品を購入したところ、当該商品の不良に起因してモール利用者に損害が発生した場合」という例が準則に挙げられています。
現実の月刊誌の事例ですが、参考となる裁判例として、東京地裁昭和60年6月27日判決(判時1199号94頁)があります。
この事件は、官公庁の共済組合関係の記事を掲載している月刊誌の広告を見て不動産の購入を決めた者が、その不動産業者から手付金などを詐取されたことから、月刊誌の発行者に対して、損害賠償を請求したものです。(なお、この事案において当該月刊誌では、問題となった不動産を「特選分譲地情報」として掲載していました。)
裁判所としては次のように判断して、月刊誌の発行者の責任を認め、請求の一部を認容しました。
本件月刊誌は、公務員共済組合の機関紙かもしくはそれと密接な関係にあるものとして信頼される可能性が極めて高く、月刊誌としてもその信頼のために広告掲載による利益を得ていたのだから、月刊誌の発行者としては、月刊誌を信用し、月刊誌の推薦する業者や物件であるということで取引に入る顧客の信用を裏切らないようにすべき注意義務があり、これを避けようとするなら、発行者は単に広告を掲載するだけで、取引については何らの責任を負うものではないことを表示するなどして、顧客がより慎重に取引に臨むよう配慮すべきであった、というものです。
このように広告媒体の注意義務違反を認めて一部でも請求を認容する裁判例は珍しいものですが、このような判断が、インターネット上のモールに対しても置き換えられるかは今後の裁判例を待つしかありません。
もっとも、モールも月刊誌という広告媒体も、出店者ないしは広告主から掲載を求められた情報をインターネットないしは月刊誌を通じて消費者に提供する、という点では一定の類似性があるので、モールにおける事案でも同様の判断がなされる可能性もあります。
なお、最高裁においても、広告媒体には、広告内容に関する真実性の調査確認義務があると判断したものがあります(最高裁平成元年9月19日裁判集民事157号601頁)。
この事件は、全国紙に掲載された広告を見て不動産の購入を決めた者が、広告主である販売業者が倒産したために不動産の引渡しや内金の返還を受けられなかったため、新聞社に損害賠償を請求したものです。
最高裁は、結論としては本件新聞社の調査確認義務違反を否定しましたが、次のように、一般論として、広告媒体である新聞社の広告内容に関する真実性の調査確認義務を認めました。
「新聞広告は、新聞紙上への掲載行為によってはじめて実現されるものであり、右広告に対する読者らの信頼は、高い情報収集能力を有する当該新聞社の報道記事に対する信頼と全く無関係に存在するものではなく、広告媒体業務にも携わる新聞社・・・としては、新聞広告のもつ影響力の大きさに照らし、広告内容の真実性に疑念を抱くべき特別の事情があって読者らに不測の損害を及ぼすおそれがあることを予見し、又は予見しえた場合には、真実性の調査確認をして虚偽広告を読者らに提供してはならない義務があり、その限りにおいて新聞広告に対する読者らの信頼を保護する必要がある」
対策
モール運営者が店舗や商品等の紹介をする際には、保証に基づく責任を負わないようにするために、その紹介の仕方に気を付ける必要があります。
準則によると、品質等に関してモー ル運営者の判断が入らない形で商品または店舗の広告を掲載しているにすぎないような場合には、モール運営者が責任を負うことは原則としてないと考えられています。
具体的には、以下のような場合には保証に基づく責任は生じないと考えられています。
- よく売れている商品に「売れ筋」と表示した場合や、売上高やモール利用者による人気投票結果等のデータに基づいた商品や店舗の「ランキング」、「上半期ベスト3」を単に表示したにとどまる場合
- モール利用者の購買履歴等に基づき、個々のモール利用者に対して、当該モール利用者の嗜好や購入商品等に関連する商品等を、当該商品の品質等に関する判断を含まない形で単に表示したにとどまる場合
モール運営者が責任を負うケース③:出店者のトラブルを放置している場合
出店者のトラブルを放置している場合について
準則によると、重大な製品事故の発生が多数確認されている商品の販売が店舗でなされていることをモール運営者が知りつつ、合理的期間を超えて放置した結果、当該店舗から当該商品を購入したモール利用者に同種の製品事故による損害が発生した場合のような特段の事情がある場合には、不法行為責任又はモール利用者に対する注意義務違反(モール利用契約に付随する義務違反)に基づく責任を問われる場合があります。
モール運営者と利用者は、個別の取引に関しては契約関係にありませんが、モールの利用自体に関しては、モール利用契約の関係にあると考えられています。
そのため、モール運営者としては、モール利用契約に付随する義務として出店者を調査・管理し、取引環境を整備する義務があるとされています。
対策
出店者のトラブルを放置して更なるトラブルが発生することを防ぐには、モール内の状況を適切に管理・把握しておく必要があります。
具体的には、利用者からの苦情対応を適切に行うことにより、問題のある出店者を把握することに努めることが大切です。利用者が相談しやすい窓口を設けておく必要があります。
また、出店者からトラブルの報告を受けるという方法もあります。
出店契約においてトラブルが発生した場合の報告義務を定めておくなど、トラブルの情報が運営者側に上がってきやすいシステムを構築し、また、出店者に対する改善要求や改善されない場合に出店契約を解除できるようにしておく必要があります。
更には、運営者自身が動いて定期的に出品状況のパトロールをするという方法もあります。問題のある商品や店舗を調査し、未然にトラブルを防ぐということも大切です。
利用者の個人情報を取得・利用する際の規制
個人情報保護法による規制
モールを運営する際の利用者との関係では、利用者の個人情報の取扱いについても気を付ける必要があります。
個人情報の取得や利用に関する一般的な規制は個人情報保護法によってなされています。
モール運営者が利用者の個人情報を取り扱う際には個人情報保護法の規制に服するため、その規制内容を知っておく必要があります。
なお、モール運営者のようなプラットフォーム事業者と個人情報保護法については別の記事で詳しく解説してありますので、そちらをご覧ください。
個人情報漏えい等が発生した場合の法的責任【プラットフォームと個人情報保護法2】
情報漏えいの予防と対応【プラットフォームと個人情報保護法3】
独占禁止法による規制
デジタル・プラットフォーム事業者による不公正な個人情報の取得・利用に対しては、消費者に不利益を与えるとともに、公正かつ自由な競争に悪影響を及ぼす場合には、独占禁止法上の問題が生じることになる、という考え方が公正取引委員会から示されました(「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」(令和元年12月))。
そのため、モール運営者としては、この点についても気を付ける必要があります。
公正取引委員会は、「自己の取引上の地位が取引の相手方である消費者に優越しているデジタル・プラットフォーム事業者が、取引の相手方である消費者に対し、その地位を利用して、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることは、当該取引の相手方である消費者の自由かつ自主的な判断による取引を阻害する一方で、デジタル・プラットフォーム事業者はその競争者との関係において競争上有利となるおそれがあるものである。このような行為は、公正な競争を阻害するおそれがあることから、不公正な取引方法の一つである優越的地位の濫用として、独占禁止法により規制される。」としています。
「自己の取引上の地位が取引の相手方である消費者に優越している」とは、消費者がデジタル・プラットフォーム事業者から不利益な取扱いを受けても、消費者が当該デジタル・プラットフォーム事業者の提供するサービスを利用するためにはこれを受け入れざるを得ないような場合のことを指します。
具体的には、消費者にとって、
②代替可能なサービスを提供するデジタ ル・プラットフォーム事業者が存在していたとしても当該サービスの利用をやめることが事実上困難な場合、又は
③当該サービスにおいて、当該サービスを提供するデジタル・プラットフォーム事業者が、その意思で、ある程度自由に、価格・品質・ 数量・その他各般の取引条件を左右することができる地位にある場合には、
通常、当該サービスを提供するデジタル・プラットフォーム事業者は、消費者に対して取引上の地位が優越していると認められます。
このような力関係の場合に、デジタル・プラットフォーム事業者が、消費者の個人情報を利用目的を知らせずに取得したり、取得した利用目的を超えて個人情報を利用するなど、個人情報の不当な取得・利用行為を行った場合には、優越的地位の濫用(独占禁止法2条9項5号)として規制される可能性があります。
そのため、モール運営者としても、今後、公正取引委員会が実際にどのような対応をしてくのかなど、その動向を注視しておく必要があるでしょう。
モール運営者のようなプラットフォーム事業者と独占禁止法については別の記事で詳しく解説してありますので、そちらをご覧ください。
独占禁止法とは? デジタル・プラットフォームと独占禁止法1
独占禁止法上問題となる行為 デジタル・プラットフォームと独占禁止法2
独占禁止法に違反した場合の罰則と処分など デジタル・プラットフォームと独占禁止法3
モールで生じたトラブル事例
近年は、モールをはじめ、デジタル・プラットフォームが介在する取引においてトラブルが多く発生しています。
モールにおける具体的なトラブル事例としては、国民生活センターが以下のようなものを公表しています(国民生活センター「デジタル・プラットフォームに関するトラブル」2019年7月5日公表)。
●オンライン・ショッピング・モールに出店している販売事業者(店舗)で商品を注文したところ、「注文した商品が届かない」「注文したものとは別の商品が届いた」「商品のイメージが違う」「届いた商品に不具合がある」「商品を使用したところ事故が発生した」などのトラブルが発生しています。
●トラブルが発生した場合、消費者が返金・返品・交換等を求めても販売事業者が対応しないケースがみられます。また、販売事業者に連絡しても返事がなかったり、サイト上に販売事業者の連絡先の表示がないため連絡が取れないケースもあります。
上記の例はもっぱら出店者と利用者の間でのトラブルですが、以下のように、モール運営者がトラブルの当事者となるケースもあります。
●オンライン・ショッピング・モール内の店舗で、代金を前払いし商品を購入したが、商品が送られてこないまま店舗が破産してしまった。モールの運営事業者が補償制度を設けていたので補償を求めたが、適用対象外と言われた。
この事例のように補償制度を設ける場合には、明確にかつ利用者にとって分かりやすい基準をあらかじめ公表しておく必要があるでしょう。
その他にも、プラットフォーム事業者全体に共通するトラブルとして、利用契約についてのトラブルや知的財産権についてのトラブル、個人情報についてのトラブルなどがありますが、それらは別の記事で詳しく解説してありますので、そちらをご覧ください。
まとめ
モールの運営者は、個々の取引について利用者と直接の契約関係にあるわけではないので、個々の取引によって利用者が受けた損害に関し、法的責任は生じないのが原則です。もっとも、一定の場合にはモール運営者にも法的責任が生じる場合があるので、その類型をよく知っておき、事前に対策を講じることが大切です。
また、利用者の個人情報を扱う際には、個人情報保護法、また、場合によっては独占禁止法の規制があることに留意する必要があります。
今回説明してきた内容に関する法律やガイドライン等は以下のものがあるので、確認しておくのがよいでしょう。
【モール運営者の責任に関して】
・経済産業省「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」
【個人情報の取り扱いに関して】
・個人情報保護法
・個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン (通則編)」
・独占禁止法
・公正取引委員会「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」
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