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独占禁止法上問題となる行為 デジタル・プラットフォームと独占禁止法2


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「独占禁止法上問題となる行為 デジタル・プラットフォームと独占禁止法2」
について、詳しくご解説します。

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はじめに

この記事は、「独占禁止法とは?デジタル・プラットフォームと独占禁止法1」の続きです。
前回は、独占禁止法上、デジタル・プラットフォームに特別な規制を課す必要があるとされている理由について詳しく解説しました。
本稿からは、デジタル・プラットフォームを運営する上で、独占禁止法上問題となる行為について、具体的に解説していきます。

独占禁止法上問題となる行為

デジタル・プラットフォームに対する独占禁止法上の懸念

デジタル・プラットフォーマー(デジタル・プラットフォーム事業者)の行為のうち、独占禁止法上特に問題視されている行為として、以下が挙げられます。

  • 優越的地位の濫用
  • 競合事業者を排除し得る行為
  • 取引先の事業活動を制限し得る行為
  • 競争制限的な企業結合


これらはいずれも、デジタル・プラットフォームビジネスにおいて公正な競争を阻害する効果を有しており、独占禁止法の観点から禁止する必要があります。
以下、問題とされる行為とデジタル・プラットフォーマー(デジタル・プラットフォーム事業者)の対応について、具体例を交えて説明していきます。

優越的地位の濫用

(1)規制の基本的な考え方

市場を独占・寡占しやすいというデジタル・プラットフォームの特徴から、デジタル・プラットフォーマー(デジタル・プラットフォーム事業者)は、その取引先(利用事業者のみならず、消費者も含む)に対して優越した地位に立つことがあります。
そして、デジタル・プラットフォーマー(デジタル・プラットフォーム事業者)が、その地位を利用して取引先に不当な不利益を与えると、取引の相手方の自由かつ自主的な判断による取引が阻害されます。

また、優越的地位を利用したデジタル・プラットフォーマー(デジタル・プラットフォーム事業者)は、不当な不利益を与えることで削減した費用又は得た利益を事業の拡大に投入することで、競争者との関係において、さらに競争上有利な地位に立つことができます。
このように、優越的地位の濫用は、公正な競争を阻害し得ることから、独占禁止法によって禁止されています。

なお、優越的地位の濫用規制は、それが競争回避的な行為であるかどうか、あるいは競争者を排除する行為であるかどうかは問題にしておらず、その点で、独占禁止法の中で異質な規制であるといえます。

(2)判断要素

優越的地位の濫用は、独占禁止法2条9項5号(イ~ハ)に規定されています。
優越的地位の濫用に当たるか否かは、ある企業が取引の相手方に対して行った行為が
(ⅰ) 優越的地位
(ⅱ) 正常な商慣習に照らして不当に
(ⅲ) 濫用行為

という3つの要素を満たすか否かによって個別的に判断されます。

(ⅰ)の 優越的地位とは、取引の相手方にとって、デジタル・プラットフォーマー(デジタル・プラットフォーム事業者)の運営するデジタル・プラットフォームを利用できなくなることが事業経営上大きな支障をきたすため、デジタル・プラットフォーマー(デジタル・プラットフォーム事業者)が取引の相手方にとって著しく不利益な要請等を行っても取引の相手方がこれを受け入れざるを得ないような場合をいいます。

具体的には、

  • 当該サービスと代替可能なサービスを提供する事業者が存在しない場合
  • 代替可能なサービスを提供する事業者が存在していたとしても当該サービスの利用をやめることが事実上困難な場合
  • 当該サービスにおいて、当該サービスを提供するデジタル・プラットフォーマー(デジタル・プラットフォーム事業者)が、その意思で、ある程度自由に、価格・品質・ 数量・その他各般の取引条件を左右することができる地位にある場合


に、優越的地位が認められます。

(ⅱ)は、優越的地位の濫用の有無が、公正な競争秩序の維持・促進の観点から個別の事案ごとに判断されることを示すものであり、現に存在する商慣習に合致しているからといって、直ちにその行為が正当化されることにはなりません。

(ⅲ)は、独占禁止法2条9項5号イないしハに該当する行為をいいます。

~独占禁止法2条9項5号~
五 自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次のいずれかに該当する行為をすること。 イ 継続して取引する相手方(新たに継続して取引しようとする相手方を含む。ロにおいて同じ。)に対して、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること。
ロ 継続して取引する相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。
ハ 取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み、取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ、取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ、若しくはその額を減じ、その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること。

上記条文で規定される「取引する相手方」ですが、デジタル・プラットフォーマー(デジタル・プラットフォーム事業者)の取引の相手方は、利用事業者の場合と、消費者の場合が考えられます。

(3)利用事業者に対する優越的地位の濫用

利用事業者に対する優越的地位の濫用に当たり得る行為として、

  1. 利用事業者に不当な不利益を及ぼす規約変更
  2. 不当な手数料の設定
  3. 利用事業者に対する、出品する商品の画像等の編集作業の強制
  4. 利用事業者の代わりに収受した売上金の支払の留保
  5. 運営事業者の倉庫内における商品の破損・紛失に伴う損失の負担の強制
  6. 消費者に対する返品・返金に伴う損失の負担の強制
  7. 広告枠の購入の実質的な強制
  8. 規約違反に対する過剰なペナルティ制度


が挙げられます。

デジタル・プラットフォーマー(デジタル・プラットフォーム事業者)は、自己の行為がこれらに該当しないよう、取引上の地位が利用事業者に優越すると判断されるか否かについて常に自覚的である必要があります。
また、デジタル・プラットフォームを運営するにあたっては、

  • 利用事業者に不利益を与え得る行為について、あらかじめ合理的な基準を定め、これを公表すること
  • 利用事業者への説明を徹底すること
  • 利用事業者から意見が寄せられた場合にはできる限り考慮すること


等、利用事業者の利益に配慮することが必要です。

~コラム~
公正取引委員会は、2020年2月28日、公正取引委員会は、同年3月18日から「楽天市場」において導入予定であった、1回の合計注文金額が税込み3980円以上の場合等に商品の販売価格とともに「送料無料」と自動的にウェブページ上で表示させる一方で追加送料を徴収することを認めない施策が、優越的地位の濫用に該当するとして、独占禁止法70条の4第1項に基づき、緊急停止命令の申立てを行いました。
https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2020/feb/200228.html
もっとも、楽天は、2020年3月6日、同月18日から実施予定の上記施策について、新型コロナウイルスの感染拡大等の影響に鑑みて出店事業者が参加するか否かを自らの判断で選択できるようにすること等を公表し、東京地方裁判所における緊急停止命令に係る手続においてもその旨を表明しました。
そのため、公正取引委員会は、上記施策について、出店事業者が参加するか否かを自らの判断で選択できるようになるのであれば、当面は、一時停止を求める緊急性が薄れるものと判断し、本日、東京地方裁判所に対して行っていた緊急停止命令の申立てを取り下げました。

(4)消費者に対する優越的地位の濫用

公正取引委員会は、2019年12月、デジタル・プラットフォーマー(デジタル・プラットフォーム事業者)が財やサービスを無料で提供することと引換えに個人情報等を取得し又は利用することに対する懸念を背景として、「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」を公表しました(以下「考え方」といいます)。
「考え方」では、デジタル・プラットフォーマー(デジタル・プラットフォーム事業者)が消費者から個人情報等を不当に取得したり不当に利用したりする行為にも優越的地位の濫用の規制が適用されることが明らかになりました。

「考え方」において、優越的地位の濫用に当たり得るとして示されているのは、以下の行為です。

●個人情報等の不当な取得

  1. 利用目的を消費者に知らせずに個人情報を取得すること。
  2. 利用目的の達成に必要な範囲を超えて、消費者の意に反して個人情報を取得すること。
  3. 個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じずに、個人情報を取得すること。
  4. 自己の提供するサービスを継続して利用する消費者に対して、消費者がサービスを利用するための対価として提供している個人情報等とは別に、個人情報等その他の経済上の利益を提供させること。


●個人情報等の不当な利用

  1. 利用目的の達成に必要な範囲を超えて、消費者の意に反して個人情報等を利用すること。
  2. 個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じずに、個人情報等を利用すること。


上記の行為は個人情報保護法にも違反する、又は、そのおそれのある行為となりますが、デジタル・プラットフォーマー(デジタル・プラットフォーム事業者)は、自己の行為がこれらに該当しないよう、消費者から氏名や生年月日等の個人情報やその他個人に関する情報を取得し、利用するにあたっては、消費者に対して必要な説明や措置がなされているかをチェックする必要があります。

個人情報保護法については下記記事にて解説しておりますのでご参照ください。

個人情報保護法とは?【プラットフォームと個人情報保護法1】

個人情報漏えい等が発生した場合の法的責任【プラットフォームと個人情報保護法2】

情報漏えいの予防と対応【プラットフォームと個人情報保護法3】

競合事業者を排除し得る行為

(1)規制の基本的な考え方

取引先に対して、競合事業者との取引ではなく自社との取引を選択するように働きかけることは原則として正当な事業活動です。
もっとも、デジタル・プラットフォーマー(デジタル・プラットフォーム事業者)が、独占・寡占的な地位を得たことを奇貨として競合事業者を排除する場合、公正な競争が阻害されることがあります。そのため、競合事業者を排除し得る行為は、独占禁止法により禁止されています。
競合事業者を排除し得る行為の内容は、他のデジタル・プラットフォーマー(デジタル・プラットフォーム事業者)の排除と、競合する利用事業者の排除に大別されます。利用事業者とは、デジタル・プラットフォームを利用して、消費者に商品を提供する事業者のことをいいます。

(2)他のデジタル・プラットフォーマー(デジタル・プラットフォーム事業者)の排除

競合するデジタル・プラットフォーマー(デジタル・プラットフォーム事業者)を排除し得る行為として、例えば、アプリストア(App StoreやGoogle Play等)を運営するデジタル・プラットフォーマー(デジタル・プラットフォーム事業者)が、他のアプリストア等の利用制限する行為が挙げられます。
他のアプリストア等の利用制限は、次のような行為によって実現されています。

  1. 消費者が、特定のOS(iOS、android等)を開発したアプリストア運営事業者(apple、Google等)以外の第三者のアプリストアを当該OS上にダウンロードすることを制限している。
  2. 消費者が、ウェブサイトを通じてアプリをダウンロードしようとすると警告画面が表示される。
  3. 他のアプリストアの名称を表示することを制限されている。


このような行為が、アプリの安全性を確保し消費者を保護するために必要不可欠であれば、消費者にとっても利益になるため、規制する必要はありません。
しかし、競合するサービスを提供する事業者と消費者との間の取引を不当に妨害するために行われる場合には、独占禁止法上問題となるおそれがあります。
したがって、デジタル・プラットフォーマー(デジタル・プラットフォーム事業者)は、できる限り、アプリストア等の利用制限以外の方法でアプリの安全性が確保できないか検討することが必要です。

(3)競合する利用事業者の排除

競合する利用事業者を排除し得る行為として、

  1. 取引データを利用したデジタル・プラットフォーム上での商品販売
  2. デジタル・プラットフォーム上での自己及び関連会社の優遇
  3. 競合する利用事業者の出店・出品の不承認


が挙げられます。

1.取引データを利用したデジタル・プラットフォーム上での商品販売は、
デジタル・プラットフォーマー(デジタル・プラットフォーム事業者)又はその関連会社(以下「運営者等」といいます)が、デジタル・プラットフォームを運営することにより得た取引データを利用して、デジタル・プラットフォーム上で商品を販売する行為のことです。
デジタル・プラットフォーマー(デジタル・プラットフォーム事業者)は、デジタル・プラットフォーム上で行われた取引データから、「どの商品がどれだけ売れるか」という情報を取得することができます。この情報を利用すれば、運営者等は、確実に売れる商品を選択して販売することができます。
しかし、運営者等にこの情報の利用を許すと、先行して利益を上げていた利用事業者の顧客が、同一の商品を後追いで販売した運営者等によって奪われることになってしまいます。
そこで、このような行為は、競合する利用事業者と消費者との取引の不当な妨害として、独占禁止法上問題となるおそれがあるとされています。
したがって、デジタル・プラットフォーマー(デジタル・プラットフォーム事業者)は、取引データを利用しないか、利用する場合には、その目的や利用範囲等について、利用事業者や消費者に明示する必要があります。

2.デジタル・プラットフォーム上での自己及び関連会社の優遇は、
運営者等がデジタル・プラットフォーム上で商品を販売する場合に、運営者等の手数料や決済方法を利用事業者よりも有利に設定したり、運営者等の販売する商品を利用事業者の商品よりも検索結果の上位に表示させたりする行為のことです。
このような行為は、競合する利用事業者と消費者との取引の不当な妨害として、独占禁止法上問題となるおそれがあります。
したがって、デジタル・プラットフォーマー(デジタル・プラットフォーム事業者)は、運営者等と利用事業者を公平に取り扱うか、異なる取り扱いをする場合には、その内容及び理由を利用事業者や消費者に明示する必要があります。

3.競合する利用事業者の出店・出品の不承認は、
デジタル・プラットフォーマー(デジタル・プラットフォーム事業者)が、運営者等の販売している商品と同種の商品を販売する利用事業者の出店・出品を認めない行為のことです。
いかなる事業者の出店を承認するか、いかなる商品の出品を承認するかは、基本的にはデジタル・プラットフォーマー(デジタル・プラットフォーム事業者)の自由です。しかし、不承認が利用事業者の排除等不当な目的を達成するために行われる場合には、独占禁止法上問題となるおそれがあります。
したがって、デジタル・プラットフォーマー(デジタル・プラットフォーム事業者)は、出店・出品の承認について明確かつ公平な審査基準を設け、これを公表する必要があります。また、審査の結果不承認とする場合には、利用事業者に対して、その理由を開示することが必要です。

まとめ

本稿では、独占禁止法上問題となる行為のうち、優越的地位の濫用と、競合事業者を排除し得る行為について解説しました。
もっとも、これらは、デジタル・プラットフォーマー(デジタル・プラットフォーム事業者)の行為として特に注目されているものをピックアップしたにすぎず、本稿で解説した以外の行為であっても、独占禁止法上禁止され得ることには注意が必要です。
次回の記事では、取引先の事業活動を制限し得る行為、競争制限的な企業結合について、具体的に解説していきます。

独占禁止法に違反した場合の罰則と処分など デジタル・プラットフォームと独占禁止法3
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