澤田直彦
監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所
代表弁護士
IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「管理監督者の要件とは? 日本硝子産業事件の判例をもとに弁護士が解説」
について、詳しくご説明します。
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日本硝子産業事件の概要
日本硝子産業事件において、原告である元執行役員は、未払い残業代の請求および休職期間満了による退職の無効を主張し、会社を提訴しました。
原告は、長時間労働を行っていたにもかかわらず、残業代が支払われなかったと訴えました。また、病気による休職期間が満了し、会社から退職扱いとされたことに対し、復職の意思があったにもかかわらず、会社が復職を認めなかったことは不当であると主張しました。
これに対し、被告企業である日本硝子産業は、原告が労働基準法上の「管理監督者」に該当するため、残業代の支払い義務はないと反論しました。また、休職期間の満了により適正な手続きを経て退職扱いとなったため、原告には復職の権利がないと主張しました。
本件では、原告が「管理監督者」に該当するか否かが、未払い残業代請求の可否を大きく左右するポイントとなりました。また、休職制度の運用の適正性や、復職の可否についての判断も重要な争点となり、裁判所の判断が注目されました。
争点と裁判所の判断
管理監督者に該当するか
本件において、最大の争点となったのは、原告が労働基準法上の「管理監督者」に該当するかどうかという点でした。管理監督者に該当する場合、深夜残業以外、労働時間の規制対象外となり、未払い残業代の請求は認められません。
裁判所は、管理監督者の該当性を判断するにあたり、職務内容・権限の重要性、勤務実態の自由度、給与・待遇の3要件をもとに審理を行いました。
職務内容・権限の重要性
まず、職務内容および権限の重要性については、原告が執行役員の地位にあり、品質保証部の統括的な業務を担当していたことが認められました。原告は品質管理に関する重要な決定に関与し、実質的な管理権限を有していたほか、他の管理職と比較しても経営の一端を担う立場にあったことが確認されました。
勤務実態の自由度
1.原告は自身の裁量で勤務時間を調整する権限を持っていた。
次に、勤務実態の自由度については、原告が自身の裁量で勤務時間を調整する権限を持っており、遅刻や早退、欠勤に対して減給などのペナルティが科されることはなかった点が重視されました。
2.早朝出勤の必要性については、業務上の必然性が認められなかった。
さらに、会社から厳格な労働時間の管理を受ける立場ではなかったことも指摘されました。原告は業務上の必要性を理由に早朝出勤を行っていたと主張しましたが、裁判所はこれについて、早朝出勤は原告自身の判断によるものであり、会社からの指示によるものではなかったため、管理監督者としての勤務実態に影響を及ぼさないと判断しました。
給与・待遇
最後に、給与および待遇についても審理が行われました。
原告の月額給与は58万7000円であり、これは一般的な管理職と比較しても高額であったことが確認されました。加えて、役職手当や諸手当を含めた待遇面においても、社会通念上、管理監督者にふさわしい水準の処遇がなされていたと認められました。
このような待遇が保証されていたことから、裁判所は原告が、労働基準法上の管理監督者に該当することは妥当であると結論づけました。
裁判所の結論
これらの判断を総合した結果、裁判所は原告を「管理監督者」として認定し、未払い残業代の請求を棄却しました。
この判決を通じて、管理監督者の要件は単なる職務の名称にとらわれるものではなく、実際の職務内容、勤務実態、給与・待遇を総合的に考慮して決定されるべきであることが、改めて確認されました。
休職と退職に関する争点
本件では、原告が休職後に復職できるかどうか、また休職の原因が業務に起因するものかどうかが争点となりました。
裁判所は、以下の点について判断を示しました。
休職の原因と業務起因性
まず、休職の原因と業務起因性について、原告は「業務によるストレスが原因で体調を崩し、抑うつ状態やめまいなどの症状が発生した」と主張し、休職の原因は業務に起因するものであると訴えました。
しかし、裁判所は次の点を指摘し、原告の主張を退けました。
① 原告の時間外労働時間は、最大でも月60時間未満であり、過重労働による健康被害が発生したとは認められない。
② 原告が業務上のハラスメントを受けたとする主張についても、客観的証拠が不足しており、業務起因性を認めるには至らない。
③ 原告の疾病(抑うつ状態、めまい症)は、被告企業での勤務以前から発症していた可能性が高く、業務との因果関係は認められない。
この判断により、裁判所は休職の原因は業務とは関係のない「私傷病」によるものであると認定しました。
休職期間経過後の復職可否
次に、休職期間経過後の復職の可否について、原告は休職期間が満了しても復職が可能であったと主張し、会社が復職を認めなかったことは不当であると訴えました。
しかし、被告企業は休職期間満了の前に、復職の機会として「試し勤務」を提案していました。この試し勤務は、原告の健康状態を確認し、通常業務への復帰が可能かどうかを判断するための措置であり、軽度な業務を行いながら勤務可能な状態かを会社側が確認する手続きとして実施されるものでした。しかし、原告は試し勤務の条件が不当であるとして、これを拒否しました。
これに対して、裁判所は、この試し勤務について、企業が合理的な復職プロセスの一環として実施したものであり、原告がこれに協力しなかったことは復職の協力義務違反にあたると判断しました。
また、復職には一定の手続きを経る必要があり、企業側が適正な手続きを踏まえて復職の可否を判断する権利を有することを認めました。さらに、原告が試し勤務を拒否したことで、会社側は原告の健康状態を適切に評価できず、結果として休職期間満了による退職とする判断は妥当であると結論付けました。
裁判所の結論
以上の判断を踏まえ、裁判所は、以下の点を認定しました。
- 休職の原因が業務起因ではなく私傷病によるものであること
- 会社が適正な復職プロセスを経て復職の可否を判断しており違法性がないこと
- 試し勤務の拒否が復職の協力義務違反にあたること
その結果、休職期間満了による退職処分は適法であり、原告の「解雇無効」の主張は認められませんでした。裁判所は、会社の対応に違法性はないと判断し、本件に関する原告の請求を棄却しました。
企業が学ぶべきポイント
本件判例から、企業が適正な労務管理を行う上で重要なポイントが明確になりました。企業は、人事管理に関するリスクを回避し、トラブルを未然に防ぐために、以下の点を意識する必要があります。
管理監督者とは?要件を明確化する
「管理監督者」の要件は、職務の名称だけで決まるものではありません。
裁判所は、以下の要素を総合的に考慮して判断しました。
2. 勤務実態:労働時間の裁量がどの程度認められているか
3. 待遇:給与や手当が管理監督者にふさわしい水準であるか
企業としては、管理監督者の役割や権限を明確に定義し、適切な賃金体系を整備することが求められます。また、従業員とのトラブルを防ぐために、就業規則や雇用契約に「管理監督者の判断基準」を明文化することも重要です。
休職対応の適正化
本件では、休職期間中の対応や復職プロセスが重要な争点となりました。企業が適正な休職対応を行うためには、以下の点を徹底する必要があります。
休職のルールを明確に定める
・休職の発令基準、休職期間、給与支給の有無などを明文化する。
・復職時の判断基準や手続きを具体的に定める。
合理的な復職プロセスを設ける
・「試し勤務」や「健康診断」など、復職判断のための手続きを導入する。
・従業員が復職を拒否した場合の対応を明確にしておく。
適切な休職対応を整備することで、不当解雇のリスクを回避し、トラブルを未然に防ぐことができます。
判例を踏まえた人事管理の見直し
労務トラブルを防ぐためには、最新の裁判例を参考にしながら、自社の人事制度を見直すことが重要です。
特に、本件判例から以下の点を学ぶべきです。
管理監督者の判断基準の見直し
・形式的な役職だけでなく、実質的な業務内容や勤務実態を踏まえた管理監督者の設定を行う。
休職・復職プロセスの整備
・労働契約や就業規則を最新の法令や判例に合わせて更新する。
・休職者が円滑に復職できるよう、企業として合理的な措置を講じる。
企業は、最新の労働法制や判例を定期的にチェックし、労務リスクを適切に管理していくことが不可欠です。
まとめ
本件判例から分かるように、管理監督者の該当性は単なる役職名ではなく、実際の職務内容や勤務実態をもとに総合的に判断されることが明確になりました。
また、休職期間中の対応や復職のルールも、企業側に適切な運用が求められるポイントです。
企業としては、以下の対応が求められます。
✓ 管理監督者の基準を明確にし、適正な人事運用を行うこと
✓ 休職・復職プロセスを整理し、トラブルを未然に防ぐこと
✓ 最新の裁判例をもとに、人事管理の見直しを行うこと
適切な労務管理を実施し、法的リスクを回避することが、企業経営の安定にもつながるでしょう。
労働法務に関するご相談は、東京都千代田区直法律事務所の弁護士まで
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