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労働時間に関する法規制とポイント【上場審査準備】

Q
 弊社では将来、株式を上場することを考えています。そのため、上場審査に向けて、まずは従業員の労働時間について見直しを図ろうと思っているので、労働時間に関する法規制を教えてください。

A
 上場審査においては、労働時間に関する法規制を遵守できているかどうかという点は非常に重要なポイントになります。また、社内の労働時間体制を変更することは、従業員に対する影響が大きいため、早期に見直しを図ることは効果的でしょう。
 労働時間に関する法規制は細かいところが多く複雑です。そのため、労働時間規制の原則として、「労働時間」とは何か、どこまでが労働時間に当たるのか、例外的な規制としてどのような制度があるのか、というポイントを押さえて理解することが大切です。


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「労働時間に関する法規制とポイント【上場審査準備】」
について、詳しくご解説します。

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はじめに

社内の労働時間体制が法律に則ったものであるか、従業員の労働時間を適切に管理できているか、という点は、上場審査において注目されるポイントです。
そのため、労働時間に関する法規制を理解しておく必要がありますが、労働時間規制は細かく複雑になっており、また、改正による変更も度々なされるため、不十分な理解による違法な運用となってしまうことが多くあります。したがって、労働時間に関する法規制は注意深く見ていく必要があります。

労働時間の原則

まずは、「労働時間」の定義、どこまでが労働時間に当たるのか、労働時間制度の原則的な規制という、労働時間規制の基本となるところから説明していきます。

労働時間とは

労働基準法は、32条以下に労働時間に関する規定を置いていますが、法律上、「労働時間」とは何をいうかという定義規定は設けられていません。そこで、最高裁判所の判例等を参考に判断することになりますが、判例としては、「労働時間」を次のように定義しています。

労働基準法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないと解するのが相当である。

(最高裁平成12年3月9日第一小法廷判決・三菱重工長崎造船所事件)

また、厚生労働省も、「労働時間」について上記判例と同様の考え方を示しています。

労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たる。
なお、労働時間に該当するか否かは、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんによらず、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであること。また、客観的に見て使用者の指揮命令下に置かれていると評価されるかどうかは、労働者の行為が使用者から義務づけられ、又はこれを余儀なくされていた等の状況の有無等から、個別具体的に判断されるものであること。

(労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン)

どこまでが労働時間か

以上のように、「労働時間」とは、客観的に評価して労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間のこと、ということになりますが、実際にどこまでが労働時間に当たるかの判断は微妙なところもあります。
例えば、労働者に対して、始業時間前に制服や作業服に着替えることや、朝礼やミーティングに参加することを求める場合、この時間は労働時間に当たるのでしょうか。
上記の労働時間の定義からして、使用者が労働者に対して、始業時間前の制服等の着用を義務付けていた場合、その着替え時間は使用者の指揮命令下にあるものと評価されるため、労働時間に当たることになります。また、始業時間前の朝礼やミーティングも、明示的に参加を強制するものであったり、明示的な強制がなくても、参加しなければ不利益が生じる場合には、労働時間に当たることになります。

労働時間規制の原則

労働時間規制の原則としては、使用者は、労働者に、休憩時間を除いて、1日8時間を超えて労働させてはならず、かつ、1週40時間を超えて労働させてはいけません(労働基準法32条)。そして、休憩時間としては、労働時間が6時間を超え8時間以内の場合には少なくとも45分、8時間を超える場合には少なくとも1時間の休憩を、労働時間の途中に与える必要があります(労働基準法34条1項)。

このような原則の理解はもちろん大切ですが、多くの場合問題となるのは、原則的な規制から外れるケースであるため、以下で説明する例外的な規制の理解が非常に重要です。

例外としてのさまざまな規制

次に、上記労働時間規制の原則に対する例外として用意されている、さまざまな制度を説明していきます。

例外規制の理解が大切

労働時間は「1日8時間・1週40時間」までしか許されないとすると、業種や職種によっては不都合が生じることになります。そのため、法律は、業種や職種のニーズに合わせてさまざまな労働時間制度を用意しています。
このようなさまざまな制度を理解することは、労働法規の遵守という意味で大切なことですが、企業を成長させるために自社に合った労働時間制度を積極的に取り入れて、従業員が効率よく働けるように勤務時間体制を整えるという意味でも大切です。

時間外労働(残業)ー36協定

前に説明したとおり、使用者は、労働者に、法定労働時間を超えて労働させることができないのが原則ですが、労働者の過半数で組織する労働組合(このような労働組合がない場合には、労働者の過半数を代表する者)との間で、時間外労働・休日労働に関する協定書(いわゆる36協定)を締結し、これを労働基準監督署に届け出れば、法定労働時間を超えて、時間外労働(残業)をさせることができます(労働基準法36条)。

36協定では、次の事項を定める必要があります(労働基準法36条2項)。

① 労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる労働者の範囲(1号)

② 対象期間(2号)

③ 労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる場合(3号)

④ 対象期間における1日、1か月及び1年のそれぞれの期間について労働時間を延長して労働させることができる時間又は労働させることができる休日の日数(4号)

⑤ 労働時間の延長及び休日の労働を適正なものとするために必要な事項として厚生労働省令で定める事項(5号、労働基準法施行規則17条1項)

上記表の④に関しては、従来、法律上の上限規制がなく、事実上無制限に時間外労働や休日労働をさせることができる仕組みとなっていました。しかし、2019年4月1日より施行された改正労働基準法では、新たに法律上の上限規制が罰則付きで設けられ、その上限を超える内容の36協定は違法ということになりました(労働基準法36条3~6項、119条1号)。
今後は、原則として、36協定で定める延長時間は、次の限度時間を超えないものとしなければなりません。

期間 限度時間
1週間 15時間
2週間 27時間
4週間 43時間
1か月 45時間
2か月 81時間
3か月 120時間
1年間 36時間

臨時的な特別の事情がある場合には、上記限度時間を超えて時間外労働・休日労働をさせることも認められていますが、その場合でも、次の上限規制は守らなければなりません。

① 時間外労働が年720時間以内であること

② 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満であること

③ 時間外労働と休日労働の合計について、複数月を平均して1か月あたり80時間以内であること

④ 時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6回までであること

変形労働時間制・フレックスタイム制

労働基準法には、法定労働時間の枠を柔軟化する制度として、「変形労働時間制」と「フレックスタイム制」が設けられています。

変形労働時間制とは

変形労働時間制とは、一定の単位期間について、週あたりの労働時間数の平均が週法定労働時間の枠内に収まっていれば、その期間内のある日またはある週の所定労働時間が法定労働時間を超えても割増賃金を支払わないでよいとする制度です(労働基準法32条の2、32条の4、32条の5)。
簡単な例を挙げると、例えば、単位期間を4週間とした場合、第4週の労働時間を45時間としても、その他の週の労働時間を短くして合計4週間で160時間(1週平均40時間)を超えないようにすれば、第4週の40時間を超える部分の5時間についても時間外労働とはなりません。

原則(1週40時間) 変形労働時間制
第1週 40時間 37時間
第2週 40時間 38時間
第3週 40時間 40時間
第4週 40時間 45時間
合計 160時間 160時間

なお、変形労働時間制の種類としては、「1週間単位」、「1か月単位」、「1年単位」の3種類が定められており、業務の繁閑の期間に応じて多様な期間を設定することができるようになっています。

フレックスタイム制とは

フレックスタイム制とは、一定の清算期間における総労働時間を定めておき、その総労働時間の範囲内で、各労働日の労働時間を労働者の決定に委ねる制度のことです(労働基準法32条の3)。 フレックスタイム制は、労働者側に労働時間決定のイニシアティブを与え、労働者の日々の都合に併せて労働時間を柔軟にすることを認めるものです。そのため、労働者のワーク・ライフ・バランスを図ることができ、効率的な労働時間の配分も期待できることから、労働生産性の向上というメリットがあります。 フレックスタイム制を導入するためには、①就業規則等にフレックスタイム制を導入する旨を定め必要があり、また、②労使協定で次の事項を定める必要もあります(労働基準法32条の3第1項)。

① 対象となる労働者の範囲(1号)
② 清算期間(2号)
③ 清算期間における総労働時間(3号)
④ 標準となる1日の労働時間(4号、労働基準法施行規則12条の3)
⑤ コアタイム(同上)
⑥ フレキシブルタイム(同上)

上記②の清算期間とは、フレックスタイム制において労働者が労働すべき時間を定める期間のことをいいます。従来は、この清算期間の上限が「1か月」までとされていましたが、2019年4月1日より施行された改正労働基準法では、「3か月」までに延長されています。これにより、長いスパンでの労働時間の調整が可能となり、より柔軟な働き方ができるようになりましたが、清算期間が1か月を超えない場合には労使協定の届出は不要なところ、1か月を超える場合には、労使協定を労働基準監督署に届け出ることが必要となる点には注意が必要です(労働基準法32条の3第4項)。

みなし労働時間制

労働時間の算定は実労働時間によるのが原則ですが、正確な実労働時間の算定が困難な場合もあります。このような場合に、実際に何時間労働したかにかかわらず、一定時間労働したものとみなすことができる制度が、「みなし労働時間制」です。 みなし労働時間制には、「事業場外労働のみなし制」と「裁量労働のみなし制」の2種類があります。

事業場外労働のみなし制とは、労働者が労働時間の全部または一部について事業場外で業務に従事し、かつ、労働時間の算定が困難な場合には、所定の労働時間だけ労働したものとみなす制度のことです(労働基準法38条の2)。 この制度は、あくまで所定の労働時間だけ労働したものとみなす制度であるため、とある業務について、その遂行のために必要と見込まれる時間が、通常の所定労働時間を超える場合には時間外手当が必要となります。 また、「労働時間を算定し難いとき」に当たるか否かの判断には注意が必要です。この要件は、使用者が主観的に算定困難と認識したり、労使が算定困難と合意すれば足りるというものではなく、就労実態などの具体的事情を客観的にみて判断する必要があります。そのため、次のようなケースでは、労働時間の算定が可能であるとされ、この制度は適用できないこととされています。

  • 複数人でのグループ業務において、そのメンバーの中にリーダー的な者がいて、個々の労働者の労働時間の把握が可能な場合
  • 社外における業務であっても、携帯電話などで常時使用者の指揮命令を受けながら労働している場合
  • 社内で訪問先や帰社時刻など、当日の業務に関して具体的な指示を受けたのち、社外でその指示どおりに業務をし、その後帰社する場合


以上から、実態としては、ほとんどの企業で「事業場外労働のみなし制」は利用されていません。
裁量労働のみなし制とは、業務の遂行方法が大幅に労働者の裁量に委ねられる一定の業務に携わる労働者については、実労働時間による管理になじみにくいことから、所定の労働時間だけ労働したものとみなす制度のことです。
この制度には、「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2種類があります。

専門業務型裁量労働制とは、研究開発業務など、労働者の裁量の余地が大きく、その報酬も労働の質や成果によって決定されるのが適切な専門的業務のうちで一定の業務に適用できる制度のことです(労働基準法38条の3)。
一定の業務については、労働基準法施行規則24条2の2第2項と平成9年2月14日労働省告示第7号で19の業務に限定されています。これらの業務について、労使協定を締結し、一定の事項を定めて労働基準監督署に届け出ることによって、その業務については労使協定で定めた時間だけ労働したものとみなされます。

企画業務型裁量労働制とは、事業の運営に関する事項についての企画・立案・調査・分析の業務であって、業務の性質上その遂行方法を大幅に労働者に委ねる必要がある場合には、業務の遂行手段や時間配分の決定などに関し使用者が具体的な指示をしないとする制度のことです。
この制度は、労使委員会の設置が必要であったり、一定の事項について、当該委員会の5分の4という多数の決議が必要であったりと、導入の条件が厳しいことから、導入している企業は多くありません。

なお、両制度とも、裁量労働制の下での働きすぎや制度の濫用を防止するために、健康確保のための措置や、苦情処理に関する措置を講じることが労使間の取り決めとして求められています(労働基準法38条の3第1項4号、5号、38条の4第1項4号、5号)。

適用除外

労働基準法41条は、一定の者については、労働時間、休憩、休日に関する規制を適用しないと定めています。
この適用除外について最も問題となるのが、「管理監督者」(労働基準法41条2号)の範囲です。一時期、肩書が管理職というだけで残業代が支払われない従業員、いわゆる「名ばかり管理職」が話題となりましたが、この問題を受けて、「多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について」という通達が出され、管理監督者性を否定する重要な要素が明示されました。
同通達は、管理監督者に該当するか否かは、「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者であって、労働時間、休憩及び休日に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない重要な職務と責任を有し、現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないような立場にあるかを、職務内容、責任と権限、勤務態様及び賃金等の待遇を踏まえ、総合的に判断する」としています。
具体的には、アルバイト等の採用に関する責任と権限が実質的にない場合や、一般の労働者と同様の勤務態様が労働時間の大判を占めている場合、基本給や役職手当等の優遇措置が不十分である場合などの事情が、管理監督者性を否定する要素として挙げられています。

おわりに

ここまで説明してきたとおり、労働時間制度にはさまざまなものがあります。このような制度を積極的に取り入れれば、使用者としては、自社に合った労働時間制度を導入することにより、労働者に効率よく働いてもらうことができるでしょう。そうすれば、株式上場に向けて会社を成長させることにも繋がります。
しかし、規制が細かいことから、不十分な理解による違法な運用とならないように注意しなければなりません。また、労働法分野は頻繁に改正がなされることから、定期的に見直しをする必要もあります。最新の法規制に対応できているかどうかは、上場審査の際にも注目されるポイントであるため、改正の都度チェックしておく必要があるでしょう。


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