澤田直彦
監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所
代表弁護士
IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「スポットワーク導入のメリットと法的注意点を徹底解説!トラブル回避のための企業向けガイド」
について、詳しくご説明します。
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はじめに : 「すぐに人手が欲しい」企業に急増するスポットワーク活用
人手不足 ・ コスト抑制の打開策として注目される理由
近年、「今すぐ人が必要だが、正社員やアルバイトを雇うほどではない」といったニーズに応える手段として、スポットワーク(短時間・単発の雇用)の活用が企業の間で急速に拡大しています。
飲食業、物流、販売、イベント運営など、多様な業界で導入が進んでおり、とりわけ繁忙期や急な欠員対応、週末だけの業務などにおいて非常に効果的な人材確保手段となっています。
特に注目すべきは、「面接不要・履歴書不要」「アプリから即日勤務」という利便性の高さです。こうしたスポットワークのマッチングサービス(SWサービス)を利用すれば、求人票の掲載からマッチング、勤怠管理、賃金支払いまでを一括して管理でき、従来の採用活動と比べて大幅な工数削減が可能となります。
さらに、スポットワークは「1日単位」「数時間単位」での雇用が前提となるため、人件費を柔軟にコントロールできる点も企業にとって大きな魅力です。必要な時に必要な分だけ人材を確保することができるこのモデルは、慢性的な人手不足に悩む中小企業やスタートアップ企業にとって、非常に有効な手段といえるでしょう。
しかしその一方で、労働契約の成立時期や賃金の支払方法、サービス利用停止の可否といった法的論点も多く存在しており、企業側が十分な法的理解を持たずに導入を進めてしまうと、トラブルやコンプライアンス違反に発展するおそれもあります。
本記事では、スポットワークを活用しようとする企業に向けて、導入時のメリットと法的な注意点を分かりやすく解説し、安心・安全な人材活用の一助となる情報をご提供いたします。
スポットワークとは?
「スポットワーク」とは、1日単位あるいは数時間単位で労働契約を結び、短期間だけ働くことができる新しい雇用形態を指します。
従来のパート・アルバイトよりもさらに柔軟で、スキマ時間を活かして働くスタイルとして、若年層や副業希望者、シニア層を中心に広がっています。
ギグワークとの違い
スポットワークとよく比較されるのが「ギグワーク」です。ギグワークとは、Uber Eats やクラウドソーシングのように業務委託契約に基づいて単発の仕事を請け負う働き方を指します。
これに対して、スポットワークでは多くの場合、企業とワーカーの間に「雇用契約」が成立しており、労働基準法や労働契約法の適用対象となります。この違いにより、スポットワークでは労働条件の明示義務や安全配慮義務、通勤災害なども考慮すべき法的要素になります。
スポットワークの仕組み
企業がスポットワークを活用する際は、「SW(スポットワーク)サービス」と呼ばれるマッチングプラットフォームを介して求人を行うのが一般的です。たとえば、「タイミー」や「シェアフル」などのアプリでは、企業が求人を掲載し、それを見た求職者がアプリ上で直接応募します。
企業とワーカーは、応募・承諾のタイミングで雇用契約を締結し、当日はアプリ内でQRコードを読み取るなどして出退勤が記録されます。労働時間・賃金はプラットフォーム上で自動的に管理され、賃金の支払いも原則としてSWサービス事業者が代行する形が取られることが多いです。
有料職業紹介事業と募集情報等提供事業の違い
SWサービスの法的な位置づけには2つの類型があります。それが、「有料職業紹介事業」と「募集情報等提供事業」です。
• 有料職業紹介事業 : 労働者と求人者との間での雇用関係の成立を目的として、あっせん・仲介まで行うサービス。原則として厚生労働大臣の許可が必要であり、求職申込みの全件受理義務や労働条件の明示義務、適格紹介義務などの規制を受けます。
• 募集情報等提供事業 : 求人情報をプラットフォーム上に掲載するだけのモデル。あくまで情報の提供にとどまり、求人者と求職者の間で行われるやりとりには原則として関与しません(許可は不要ですが届出は必要な場合があります)。
現在の多くのSWサービス(特にスポットワーク型のサービス)は、有料職業紹介事業として運営されているケースが大半であり、これにより、企業とワーカーの間で雇用契約が成立する前提で動いています。
※令和4年の職安法改正に合わせて厚生労働省から出された「令和4年 改正職業安定法Q&A」問9-1では、「求人者に応募を確約するような宣伝広告や、提供されている募集情報等に応募・連絡した時点で原則として雇用契約が成立するようなサービスがこれに該当します」とされており、行政としては、スポットワークを基本的に職業紹介事業に該当するものと整理しているように思われます。
実務上の注意点
企業側がSWサービスを利用する際は、そのサービスがどちらの類型に該当しているのかを確認することが重要です。有料職業紹介事業に該当するサービスを利用していれば、雇用関係成立時の契約義務・労働条件通知・適切な勤怠管理といった責任が当然に発生します。
また、サービスによっては、「求人者が応募を断れない仕組み」=事実上の雇用契約自動成立のような設計になっていることもあり、契約成立のタイミングやキャンセル可否に関する社内運用の明確化が求められます。
労働者派遣との違い
スポットワークはしばしば「派遣のようなものではないか」と誤解されることがありますが、労働者派遣とは法的に明確に区別されます。
派遣の場合、労働者は「派遣元」との間で雇用契約を締結し、指揮命令は「派遣先」が行います。
一方、スポットワークでは、求人企業が直接ワーカーと雇用契約を結び、指揮命令もその企業が行います。SWサービス事業者はあくまで「雇用仲介事業者」であり、派遣元ではありません。
このように、スポットワークの制度設計は柔軟である一方、職業安定法や労働契約法上の誤解に基づいた運用は企業にとってリスクとなり得ます。
スポットワークのメリットと落とし穴
スポットワークの最大の特徴は、「必要な時に必要なだけ人を雇える」という圧倒的な柔軟性にあります。繁忙期の臨時対応や、急な欠員、短期間のプロジェクトなど、従来であれば派遣やアルバイト募集に頼らざるを得なかった場面で、短期間で人材確保が可能となる点が、多くの企業で導入が進んでいる理由です。
一方で、その利便性の裏側には、雇用契約上の誤解やトラブルリスクが潜んでおり、法的観点からの注意が不可欠です。ここでは、企業にとっての代表的なメリットと、導入時に見落とされがちな落とし穴について解説します。
スポットワーク活用のメリット
① 短期 ・ 急な人手不足への即時対応
スポットワークの最大の魅力は、「その日のうちに人が確保できる」という即応性です。
多くのSWサービスでは、求人を出すと数時間以内に応募があり、面接や履歴書提出も不要で即日勤務が可能な仕組みが整っています。このため、急な欠員や繁忙日などにも柔軟に対応でき、イベントや飲食、物流業など、現場対応力が求められる業種では特に効果を発揮します。
② 面接 ・ 採用コストの削減
スポットワークでは、従来の採用活動に必要だった求人広告費・面接調整・書類管理などのコストと工数を大幅に削減できます。求人票の作成と掲載はSWサービスの専用画面で完結し、労働条件通知書や賃金明細などもアプリ上で自動生成されるため、企業側の事務負担は最小限に抑えられます。
また、多くのSWサービスでは賃金の立替払い制度があり、企業は月末などのタイミングで一括清算するだけで済みます。
※ 賃金の立替払いについては、賃金直接払いの原則(労働基準法第24条第1項)との抵触が問題となりえますが、この点については、グレーゾーン解消制度で以下のスキームについては、適法である旨が回答されています。
「労働者及び照会者が、労働者の既往の労働に対応する賃金の額を管理、把握しており、他方、使用者は、この額及び照会者による支払状況を把握できるようになっていること、また、照会者を通じて労働者に対して支払われる賃金は、同サービスのアプリ上及び支払(振込)結果により、どの使用者との間での賃金か、及び金額の内訳がわかるようになっており、使用者からの賃金の支払であることが明確になっていることから、かかるサービスは、労働基準法第24条に違反するものではない。」
参照:
確認の求めに対する回答の内容の公表
③ 評価機能を活かした良質人材のリピート活用
一部のSWサービスでは、ワーカーの働きぶりを企業側が評価できる機能があり、評価の高いワーカーのみを対象に求人を限定公開することも可能です。
これにより、過去に勤務実績のあるワーカーを再び呼び戻すことができるほか、未経験者による業務混乱を抑え、業務品質の安定につなげることができます。正社員採用につながるケースもあり、採用戦略の一環としても活用が可能です。
スポットワーク活用の落とし穴
① 無断欠勤者への対応とリスク
便利なスポットワークにも、現場でよく問題となるのが無断欠勤や当日キャンセルです。多くのSWサービスでは、無断欠勤者には「ペナルティポイント」が付与され、一定数に達するとサービス利用停止となる仕組みが整備されています。
しかし、SWサービスが「有料職業紹介事業」として運営されている場合、企業側が無断欠勤を理由に以後の応募を一律拒否することは、「求職申込みの全件受理義務」(職業安定法第5条の7)との関係で問題となる場合があります。
実際に厚生労働省は、無期限利用停止措置は原則として認められず、事案ごとに合理的な判断が必要である旨の見解を示しています。
企業側としては、SWサービスのガイドラインや厚労省の解釈を確認しつつ、欠勤時の事実確認、適切な就労記録の保管、及びSWサービスとの連携による再発防止策を講じておく必要があります。
② 休業手当発生のリスク
スポットワークでは、「雇用契約がいつ成立するのか」が実務上の大きな争点となります。
多くのサービスでは、出勤当日のQRコード読取時点で雇用契約が成立する設計になっていますが、企業とワーカー間でそれ以前に契約が成立していたと評価される場合には、企業都合によるキャンセルが「解雇」や「休業」に該当する可能性があります。
この場合、休業手当(労働基準法第26条)や、民法第536条に基づく賃金支払義務が生じるリスクもあり、法的トラブルに発展する可能性があります。
企業側としては、サービス上の労働契約成立時点のルールを把握したうえで、就労日前のキャンセル可否や対応ルールを社内で整備しておくことが重要です。
スポットワークは、人手不足に悩む企業にとって非常に有効な人材確保ツールですが、サービスの設計を誤解したまま導入すると、思わぬ法的責任を負うことになりかねませんので注意しましょう。
よくある法的トラブルとその背景
スポットワークは、その利便性と柔軟性から多くの企業で導入が進んでいますが、従来の採用スキームとは異なる性質を持つため、法的な誤解やトラブルが発生しやすいのも事実です。
ここでは、実際に企業から寄せられることの多い法的トラブルを5つの類型に整理し、その背景にある法的構造をわかりやすく解説します。
① 労働契約の成立時期をめぐる誤解
スポットワークでは「求人に応募=すぐに働ける」という設計が多い一方で、前述しましたとおり、労働契約がいつ成立したとみなされるかによって、企業側の法的責任が大きく異なります。
労働契約の成立時期を「出勤時」や「QRコード読取時」と定めるSWサービスが多く存在しますが、実際には企業と求職者の意思表示が明示的に合致していれば、それ以前の段階で契約成立と評価される可能性も否定できません。
この誤解が引き起こす代表的なリスクが、企業側の直前キャンセルにより「休業手当」(労基法第26条)が発生するリスクです。
したがって企業としては、利用するSWサービスの契約成立プロセスを正確に理解し、自社内でのキャンセルポリシーや契約条項を整備することが不可欠です。
② 「賃金の立替払い」は違法か?
多くのSWサービスでは、ワーカーに対する賃金をサービス側が一時的に立替払いし、企業からは後日一括精算するという仕組みが採られています。
一見すると便利な制度ですが、労働基準法第24条の「賃金は直接労働者に支払わなければならない」という「直接払いの原則」との整合性が問題になります。
この点については、前述したように、厚生労働省がグレーゾーン解消制度を通じて見解を示しており、以下の要件を満たせば「違法ではない」と整理されています。
• SWサービス事業者が使用者(企業)からの受託者として賃金を労働者に確実に支払うこと
• 使用者(企業)が支払い状況を適切に確認し、労働者の手に渡るまで支払義務を免れないこと
つまり、企業側がSWサービスに完全依存して賃金支払いを「放置」することは許されず、使用者責任としての管理義務が残る点に注意が必要です。
③ 問題行動者への「利用停止」と全件受理義務の衝突
SWサービスにおいては、無断欠勤や遅刻を繰り返すワーカーに対し、「利用停止」や「強制退会」の措置が設けられているのが一般的です。
しかし、サービスが「有料職業紹介事業」に該当する場合、職業安定法上は「求職申込みはすべて受理しなければならない」(全件受理義務)とされており、これとの衝突が問題となります。
厚労省はこれに対して、下記の見解を明示しています。
• 無期限の利用停止措置は原則として違法
• 利用停止期間を設ける場合でも、「画一的ではなく個別の事情に応じて対応すべき」
企業側としては、問題ワーカーへの対応をSWサービス任せにせず、自社内でも記録の保存・報告連携・再就業時の条件設定など、実務対応体制を構築しておくことが求められます。
④ 労働者供給事業とみなされるリスク
スポットワークに関してしばしば誤解されるのが、「実質的に派遣ではないか?」という問題です。
労働者供給事業(職安法第44条)は原則として禁止されており、もしSWサービスが単に労働力を「供給」しているだけの構造であると判断されれば、違法となる可能性があります。
ただし、以下の点を満たしていれば、労働者供給事業には該当しないとされています。
• SWサービス事業者はワーカーと雇用契約を結ばず、雇用関係は求人企業とワーカー間に成立している
• ワーカーの就業意思に基づく応募・勤務であり、「支配従属関係」がない
企業としては、SWサービスの提供形態をよく確認し、「指揮命令を誰が行っているか」「雇用関係が誰と結ばれているか」を明確に把握しておく必要があります。
⑤ 複数サービス併用によるリスク
スポットワークでは、ワーカーが複数のSWサービスを同時に利用しているケースが少なくありません。この場合、企業にとって重要なのが「労働時間の通算ルール」と「社会保険の適用基準」です。
労働基準法第38条第1項では、異なる事業者間の労働時間も通算することが求められるとされており、たとえば以下のようなリスクが生じ得ます。
• Aサービスで午前3時間、Bサービスで午後6時間 = 計9時間労働
• これを把握せず通常賃金で処理すると、割増賃金未払いに該当
また、通算により週の労働時間が社保加入基準を超える場合、企業側に加入義務が発生するリスクもありえます。ただし、これらのリスクは、労働者の申告なしに企業が自動的に把握することは困難です。
そのため、企業側では、下記のような複数SWサービス併用を想定した労務設計が求められます。
• 同一日に複数回の勤務履歴がないか確認
• 「1日1勤務」など就業制限設定
• 社保加入条件の社内ガイドライン整備
澤田直彦
<スポットワークは「便利」だけでなく、「慎重な設計」が不可欠です。>
スポットワークは魅力的な仕組みである一方、法律上のルールや解釈を踏まえた設計を怠ると、企業にとって重大なトラブルに発展しかねません。
トラブルを未然に防ぐための実務対応と契約設計
スポットワークを導入する企業にとって、利便性とスピードを重視するあまり、法的整備が後回しになることは少なくありません。しかし、実務上のトラブルやコンプライアンスリスクを回避するためには、事前に最低限整えておくべき法務対応項目を明確にしておくことが不可欠です。
以下では、企業がスポットワーク活用にあたって押さえておくべき実務上の4つの重要ポイントと、そのチェックリスト項目を解説します。
① 募集内容と労働条件通知書の明示義務
スポットワークであっても、企業とワーカーとの間には雇用契約が成立するため、労働基準法第15条に基づく労働条件の明示義務が適用されます。
特に、SWサービスを利用する場合でも、求人情報の掲載内容が労働条件通知書の代替として機能する以上、以下の項目を正確かつ具体的に記載する必要があります。
なお、ワード資料でも言及されているように、労働条件の電子的明示(PDFやアプリ上での表示)も認められており、SWサービスを通じて整備されている場合でも、掲載内容に不備がないか企業自身で確認することが求められます。
② 勤怠・賃金記録の保存方法
スポットワークでは、勤務実績の記録がQRコードによって自動管理されることが一般的ですが、それだけに頼るのではなく、企業自身でも以下のような記録の保存体制を持っておくことが望まれます。
特に、賃金が労働者に実際に支払われたことを確認する管理記録は、労基法第24条との関係で非常に重要です。使用者としての責任を問われないためには、立替払いでも企業側に証明責任があることを意識すべきです。
③ 問題発生時の内部対応フロー整備
無断欠勤、業務放棄、トラブル対応といった問題が発生した場合の初動対応ルールが曖昧だと、サービス利用者全体の信頼にも関わります。SWサービス任せにせず、企業内部にも以下のような対応フローを定めておくことが重要です。
④ スポットワーク契約条項に盛り込むべき契約文例
スポットワークに特有なのが、勤務直前でのキャンセルや当日現地での勤務拒否といった突発的なリスクです。これに対処するには、雇用契約書や社内利用規程上に明確な「キャンセル条項」「契約解除条項」を設けておくべきです。
このような条項があることで、契約関係が明確になり、キャンセル時の補償や責任範囲をめぐるトラブルを事前に防止できます。
まとめ : 事前チェックで法的リスクを最小限に
スポットワークは「簡単に使える」からこそ、企業側には簡単に見過ごしてしまう法的義務が数多く存在します。トラブルが発生してから慌てるのではなく、導入前の社内整備と契約設計が最大の予防策です。
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スポットワークを導入・活用する企業の現場では、法的なグレーゾーンや判断が難しい局面に日々直面します。本章では、実務上頻繁に寄せられる疑問を3つ取り上げ、法令をもとに明確な方向性を示します。
Q1 : スポットワーカーが就労前にドタキャンしたが、損害賠償請求できるか?
A : 実務的には困難であり、損害賠償請求は限定的です。
スポットワークにおける「ドタキャン」(無断キャンセルや直前キャンセル)は現場の大きな悩みの種です。
一見すると、既に契約が成立していれば「契約違反」として損害賠償請求できそうに思えますが、実務上は以下の理由から請求のハードルが極めて高いのが実情です。
• スポットワークの多くは1日 ・ 数時間単位の短期雇用であり、契約違反による損害の立証が困難
• 多くのSWサービスでは、キャンセル可能な仕組みが明示されており、労働者にも「自由な離脱の余地」が設計上組み込まれている
• 仮に契約が成立していたとしても、「やむを得ない理由」があれば、労働契約法第17条の制限により労働者側の契約解除が認められる余地がある
ただし、一部のサービスでは「直前キャンセルに対するペナルティポイント」制度や、企業による事後評価によって再応募制限が事実上の抑止力となっています。
したがって、損害賠償請求よりも、再発防止に向けた運用ルール整備・社内記録管理に重きを置くべきといえるでしょう。
Q2 : 無断欠勤者を再度応募不可にするのは違法?
A : 無条件 ・ 一律の応募制限は違法とされる可能性があります。ただし、個別事情に応じた対応は許容されます。
職業安定法第5条の7第1項では、職業紹介事業者には「求職申込みの全件受理義務」が課されています。
多くのSWサービスはこの「職業紹介事業」に該当するため、企業側が一方的にワーカーの応募をブロックすることは、法的には制限される余地があります。
本記事で、上述したとおり、厚生労働省はこの点に対し、下記のような明確な見解を示しています。
• 無期限の利用停止措置は原則として違法
• 有期の利用停止を行う場合も、個別事情を踏まえた合理性が求められる
そのため、企業が「このワーカーは再度雇いたくない」と思っても、SWサービス上での応募制限はサービス側の設計に委ねる必要があります。
企業としてできることは、以下のような実務対応です。
• SWサービスへの報告 ・ 評価入力を的確に行う
• 評価済みワーカーのみを対象とする「限定公開求人」機能の活用
• 社内記録として無断欠勤者を明記し、以降の選考判断に反映させる
「一律拒否」は避け、個別事情に応じた柔軟な判断が求められます。
Q3 : SWサービスの利用だけで職業安定法違反にならないか?
A : 原則としてSWサービスを正規に利用する限り、企業側が職業安定法違反となることはありません。
SWサービスの大半は有料職業紹介事業者として厚労省の許可を受けて運営されています。企業側は、これらのサービスを通じて人材を確保する場合、紹介を受ける「求人者」としての立場に立つため、職業安定法に違反することは基本的にありません。
ただし、以下の点には留意が必要です。
• 実質的に「労働者派遣」に近い形態 (例:他社指揮下で働かせる、反復継続する等) になっている場合、違法な労働者供給とみなされるリスクがある
• 求人情報の表示義務 (職安法5条の4) や、労働条件等の明示義務 (職安法5条の3) が企業にも課される場合がある
• 個人情報の不適切な取り扱いや、差別的な求人制限が問題視されるケースもある
企業としては、SWサービスが有料職業紹介事業者であることを確認し、求人内容の正確性・労働条件の適正表示に注意することで、法令遵守を図ることが可能です。
まとめ : 判断に迷ったら「契約関係」「サービスの類型」をまず確認
スポットワークにまつわる法的判断は、表面的には曖昧に見える部分も多いですが、
• どの時点で契約が成立するのか
• 誰が誰と雇用契約を結んでいるのか
• SWサービスは職業紹介か、単なる情報提供か
といった「契約関係」と「サービス類型」を正しく把握することで、多くの問題は予防できます。
導入前に行うべき3つのこと
スポットワークの導入は、企業にとって人手不足対策として極めて有効な手段ですが、一方で、労働法や職業安定法と密接に関わる領域である以上、「思わぬ法的リスク」に備える体制整備が不可欠です。
本章では、企業がスポットワーク導入を検討する際に、最低限取り組むべき3つの事項について、弁護士の視点から具体的に解説します。
① 労務 ・ 法務チェックリストによる導入前審査
まず行うべきは、社内における労務・法務面の事前点検です。
スポットワーク導入時には、以下のような労働関連法令への対応が求められます。
• 労働契約法 (契約成立時期 ・ キャンセルの可否)
• 労働基準法 (賃金支払義務 ・ 休業手当 ・ 労働時間の管理)
• 職業安定法 (職業紹介事業との関係 、 労働条件の明示)
• 社会保険法 / 雇用保険法 (短時間就労の通算)
短時間勤務であっても労働契約に該当する以上、最低限の法令対応を怠るとリスクが顕在化します。
② SWサービス事業者との契約内容の確認
スポットワークの実務は、SWサービス(スポットワークマッチングプラットフォーム)の仕組みに大きく依存します。したがって、SWサービス提供事業者との契約内容や利用規約の確認は、法務部門が必ず行うべきです。
確認すべき主なポイントは以下のとおりです。
• SWサービスの法的類型は「有料職業紹介事業」か「募集情報提供事業」か
• 契約成立時期のルール (応募時か、勤務当日の打刻時か)
• 直前キャンセル ・ 無断欠勤時の対応方針 (ペナルティ有無 、 再応募制限の範囲)
• 賃金支払の方法 (企業がSWに立替払いを依頼する形式か 、 直接払いか)
• 利用規約に含まれる責任分担条項 (損害 ・ 事故発生時の取扱い)
中には、「契約書を締結せず、すべてはサービス規約に従う」モデルも多く見られますが、それでも企業側として免責にならない法的責任 (例:賃金支払い義務、労働災害補償義務) が残る点に注意が必要です。
③ 問題発生時の初動対応マニュアルの整備
スポットワークでは、次のようなトラブルが一定の頻度で発生します。
• 無断欠勤や遅刻 、 直前キャンセル
• 勤務中の態度不良 、 事故 ・ ミス
• 勤怠記録の不一致 、 労働者からの苦情
これらに迅速かつ法的に適正に対応するためには、社内での対応フローをあらかじめマニュアル化しておくことが重要です。
また、労務トラブルを第三者(法務部門や顧問弁護士)と連携して処理する体制を整えておくことで、現場の負担を減らしつつ法的リスクにも備えることが可能です。
まとめ : 導入前の準備がリスクマネジメントの第一歩
スポットワークは魅力的な人材確保ツールですが、制度としての新しさゆえに、法的論点やトラブルリスクも多数存在します。
導入を検討する段階で、労務・法務・サービス仕様の3点を必ず事前確認し、社内体制を整備してから活用することが、結果的に長期的な安定運用につながります。
スポットワーク導入をご検討中の企業様は、東京都千代田区直法律事務所の弁護士までご相談ください
スポットワークは、急な人手不足に柔軟に対応できる現代的な働き方として、多くの企業にとって非常に魅力的な手段です。
しかしその一方で、従来の雇用形態とは異なる点が多く、労働法・職業安定法・社会保険制度などに関わるリスクが潜んでいます。「契約書の不備」「就労トラブルへの初動の遅れ」「制度誤解による行政対応」などのリスクは、便利だからと導入を急いでしまった企業ほど、後から大きな負担となることも少なくありません。
私たち直法律事務所では、スポットワークの導入・活用にあたって、以下のような実務支援サービスをご提供しています。
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▸ 無断欠勤 ・ キャンセル対応に関する社内規程 ・ マニュアル整備
▸ 労働時間通算 ・ 社保適用などに関する労務相談
▸ スポットワークに起因する労使トラブルへの法的対応
▸ 厚労省対応 ・ 行政調査時の支援
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