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IPO準備企業が知っておくべき上場審査の実務と法務対応|審査通過のための視点と落とし穴

Q
IPO(新規上場)を目指しているのですが、審査でどこまで整備すべきか分からず不安です。
コーポレート・ガバナンスや内部管理体制は、具体的にどのようなレベルで求められるのでしょうか?

A
上場審査では、単なる形式基準(財務・株主数等)を満たすだけでは不十分です。
東証の審査では、「企業として本当に投資に値する存在か」が問われ、ガバナンスや開示、関連当事者取引の管理など、実態として機能する仕組みを備えていることが求められます。

審査は「合否を決める場」ではなく、「企業の体質を見直す機会」と捉えることが成功の鍵です。

IPOを「成長の出発点」とするために、ぜひ本記事をご活用ください。


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 
代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。

本記事では、「IPO準備企業が知っておくべき上場審査の実務と法務対応|審査通過のための視点と落とし穴」について、詳しくご説明します。

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はじめに

上場審査とは何か

株式会社が証券取引所に株式を上場する際には、取引所が実施する厳格な審査を通過する必要があります。これがいわゆる「上場審査」です。

上場審査とは、単に形式的な基準を満たしているかを確認するだけではなく、企業の事業の継続性や収益性、経営の健全性、コーポレート・ガバナンス、内部管理体制、情報開示体制など、企業の本質的な信頼性や成長性を多角的に評価するプロセスです。

上場とは、企業が不特定多数の投資家から資金を調達し、社会的な公器としての役割を担うことを意味します。そのため、上場審査は、投資家保護の観点から非常に重要な制度的関門として位置付けられています。

澤田直彦

上場準備においては、証券会社や監査法人に加え、法律専門家の関与が不可欠です。

特に、コーポレート・ガバナンス、契約整備、関連当事者管理、情報開示ルールへの対応といった分野は、上場審査での重要な法的論点であり、早期の法務支援が審査結果を左右する可能性もあります。

なぜ企業にとって重要なのか

上場審査に合格し、株式を公開することは、企業にとって資金調達の手段としてだけでなく、信用力の向上、人材採用力の強化、M&A戦略の加速、ブランド力の確立といった多くの経営的メリットをもたらします。

しかし一方で、上場はゴールではなくスタートに過ぎません。審査の過程で指摘される内部統制の不備や開示体制の脆弱性は、上場後も企業の成長と信頼維持に直結する重要な課題です。
上場審査を単なる通過儀礼としてではなく、企業体制を抜本的に見直す機会として捉えることが、真に上場を成功させるための鍵となります。

本記事の目的と想定読者

本記事では、日本取引所(東京証券取引所)における上場審査制度の概要と審査実務のポイント、最新の審査動向、上場準備企業が陥りやすい問題点などを網羅的に解説します。

特に以下のような方々にとって、本記事は有益な指針となることを目指しています。

▸ IPOを目指すベンチャー企業の経営陣・管理部門担当者
▸ 上場準備企業に関与する監査役・社外取締役
▸ IPO支援に携わる証券会社・監査法人・法務・IRコンサルタント
▸ スタートアップの事業開発担当者・CFO候補者

これからIPOに取り組む企業にとって、上場審査の実態を正しく理解し、準備の優先順位と落とし穴を把握することは極めて重要です。ぜひ、本記事を通じて、制度理解の深化と実務対応の一助としていただければ幸いです。

上場審査の基本構造

東証の市場区分と審査機関の概要

東京証券取引所(東証)では、2022年4月の市場再編を経て、一般投資家向けに「プライム市場」「スタンダード市場」「グロース市場」の3つの市場区分が設けられています。また、プロ投資家向けの「TOKYO PRO Market」を加え、全体で4つの市場が存在しています。

▸ プライム市場 : 高い流動性とガバナンスを求められる大規模企業向け
▸ スタンダード市場 : 一定規模と安定性を有する中堅企業向け
▸ グロース市場 : 成長志向の高いスタートアップ・新興企業向け
▸ TOKYO PRO Market : プロ向けで制度的柔軟性のある市場

これらの市場において株式を上場するためには、日本取引所自主規制法人(JPX-R)による審査を経る必要があります。
JPX-Rは、東証とは別法人であり、市場運営から独立した中立的な立場で、上場審査を実施しています。上場審査部には約50名の専門スタッフが在籍しており、IPO(新規上場)だけでなく、市場区分の変更審査も担っています。

上場審査基準の構成

上場審査は、大きく分けて以下の2つの観点から行われます。

形式基準(定量的要件)

企業の客観的な規模や株主構成など、数値に基づく基準です。
主な項目としては以下のとおりです。

項目 プライム市場 スタンダード市場 グロース市場
株主数 800人以上 400人以上 150人以上
流通株式数 20,000単位以上 2,000単位以上 1,000単位以上
流通株式時価総額 100億円以上 10億円以上 5億円以上
時価総額 250億円以上 - -
経常利益・売上等 一定以上 一定以上 高い成長可能性があること
公募の実施 - - 500単位以上
(時価総額250億円未満の場合)

※グロース市場においては、財務的基準よりも高い成長可能性を重視した審査がなされます。

実質基準(定性的要件)

「企業の持続的成長」「ガバナンス体制」「リスク情報開示」など、定性的・実務的な観点からの評価です。
主な審査項目は以下のとおりです。

 事業の継続性・収益性
安定した収益モデルを有しているか

 事業計画の合理性
成長シナリオと経営資源の整合性

 経営の健全性
不適切な取引やガバナンス欠如の有無

 内部管理体制の整備状況
業務フロー、内部統制、コンプライアンス体制など

 情報開示体制
適時開示、IR、リスク開示の充実度

 その他投資者保護に関わる事項
特異な資本構造や利害関係人との関係など

実質基準は形式基準以上に審査の核心をなす領域であり、企業文化や経営陣のスタンスが試される場面でもあります。

審査機関の中立性と透明性

JPX-Rは、東証という市場運営者と切り離された独立機関として、投資者保護と市場の健全性の確保を目的に審査を行います。そのため、主幹事証券会社の公開指導結果や監査法人の監査結果とは独立して、独自に企業の実態を精査します。

また、近年はフォローアップ会議やFAQ集の公開を通じて、審査基準の透明性や予見可能性の向上にも取り組んでおり、スタートアップを含む上場準備企業が誤った先入観に基づく過剰な防衛的行動に陥らないよう支援する体制も整えられつつあります。

澤田直彦

グロース市場でも黒字化しないと上場できないと誤解されている事例等が散見されますが、このようなよくある質問例もFAQ集から確認できるので、IPOを検討されている企業は必見です!

本来、企業の成長のために行うはずのIPOであるにもかかわらず、上場審査の支障になるとの認識から、上場準備期間においてM&Aや先行投資を見送る等の対応は損をすることが多いように思います。

上場審査の流れ

企業が東証への上場を実現するためには、数年単位の上場準備期間を経て、日本取引所自主規制法人(JPX-R)による上場審査を受ける必要があります。

上場準備のスケジュール

上場審査に臨む企業は、少なくとも申請前2期分の監査済財務諸表を用意する必要があり、一般的に準備期間は3~5年程度に及びます。

準備初期から、次のような専門関係者と密に連携する体制が必要です。

▸ 主幹事証券会社 : IPO全体の進行管理、企業価値評価、投資家との橋渡し
▸ 監査法人 : 法定監査およびショートレビュー(事前調査)の実施
▸ 株式事務代行機関 : 株主名簿管理、上場後の株式事務運営
▸ 弁護士・IRコンサル等 : 契約整備、社内規程整備、適時開示体制構築など

上場審査は「申請 ➡ ヒアリング・実地調査 ➡ 承認」という流れで進行しますが、審査に臨む段階までに、こうした実務面の整備を完了しておくことが前提となります。

上場申請から審査開始まで

上場を希望する企業は、主幹事証券会社による公開指導(いわゆる予備審査)を経て、正式な上場申請書類を提出します。

提出書類には、以下のような情報が含まれます。

• 会社概要(沿革、事業内容、業界環境、成長戦略等)

• 財務諸表と監査報告書

• コーポレート・ガバナンス体制の説明資料

• 「Iの部」「IIの部」等の有価証券報告書準拠書類

• 成長可能性・事業計画に関する資料

グロース市場に申請する場合は、「高い成長可能性があること」を示す資料が特に重視されます。

澤田直彦

主幹事証券会社による「公開指導(予備審査)」「引受審査」は全く異なる手続きです。それぞれの概要は以下のとおりです。

■ 公開指導(予備審査)
実施者:主幹事証券会社
目 的:上場申請に向けた企業の体制整備とリスク洗い出し

上場準備の初期段階から、主幹事証券会社が申請企業に対して、ガバナンス、開示体制、財務・会計、コンプライアンス等の観点で助言・指導を行います。
一種の社内審査のような役割で、問題点を洗い出し、上場審査に耐え得る水準へ引き上げることが目的です。
これは非公開のプロセスであり、証券取引所には報告されません。

■ 引受審査
実施者:主幹事証券会社の「引受審査部門」
目 的:証券会社が新規公開株を引き受けられるかを判断する審査

証券会社自身がIPO時の株式を投資家に販売(引受)する立場として、「販売してよい企業か」という視点で審査します。
公開価格の決定や投資家説明資料(有価証券届出書など)の信頼性評価を含みます。
引受契約の前提として行われ、審査結果によっては引受を断念するケースもあります。

上場審査の実施内容

上場審査では、主に次の3つの手法が用いられます。

  1. 書面審査
    提出された資料をもとに、ビジネスモデル、財務状況、取引先との関係、関連当事者取引の有無などが審査されます。特に、収益モデルや利益構造に継続性・再現性があるか、ガバナンスが実質的に機能しているかが焦点となります。

  2. ヒアリング(3回程度)
    企業の代表者や経営幹部に対し、審査官が直接ヒアリングを実施します。質問内容は、以下のようなものが想定されます。
    社長 : 上場の目的、利益還元方針、経営の公私分離に関する姿勢
    CFO/経理責任者 : 財務諸表の整合性、会計方針、内部統制
    監査役/独立役員 : 監査の独立性、ガバナンスの実効性
    監査法人 : 特異な会計処理、監査手続の信頼性

  3. 実地調査(必要に応じて)
    製造業であれば工場、研究開発型企業であれば研究所など、実際の業務現場に審査官が赴き、内部統制や業務実態の確認を行う場合があります。

上場承認とその後のプロセス

審査が問題なく完了した場合、最終的には「上場承認 ➡ 社長面談(説明会)➡ 対外公表」という手順を経て、公募・売出しの実施、上場日を迎えることになります。

なお、審査期間の目安は以下のとおりです。

市場区分 審査期間の目安
プライム市場 約3か月間
スタンダード市場 約3か月間
グロース市場 約2か月間

※特段の問題が発見された場合には、追加のヒアリングや審査期間の延長が行われる可能性があります。

上場審査のポイントと事例分析

上場審査では、形式基準を満たしていても、実質基準における不備が発見されることで申請の取下げや上場見送りに至るケースが少なくありません。
本章では、東証の最新審査動向とともに、実際に問題となった事例を紹介しながら、上場準備企業が注意すべきポイントを整理します。

上場審査で重視される5つの実質ポイント

上場審査の現場では、以下の観点が重点的に確認されます。

観点 審査のポイント
① 継続性・収益性 本業の収益性に安定性があるか/成長戦略が実行可能か
② 健全性 経営者の公私混同の排除/反社会的勢力との関係の遮断
③ コーポレート・ガバナンス 社外取締役の機能、内部牽制の有効性
④ 情報開示の適正性 事業リスクや関連当事者取引の開示/過去の誤解を招く表現の排除
⑤ 投資者保護 少数株主に配慮した意思決定/外部専門家による検証体制

これらは定性的な評価となるため、単なる形式的整備ではなく、「実態として機能しているか」が問われる点に留意が必要です。

【事例①】親族が役員の企業との取引が不透明だったケース

<背景>
広告制作を主業とするX社は、社長の姉が役員を務める映像制作会社と継続的な業務委託契約を締結していた。制作内容は同業他社と比較して高品質とされていたものの、価格設定や発注プロセスに関する社内統制が不十分だった。

<問題点>
• 取引が関連当事者取引に該当するにもかかわらず、取締役会での承認手続が形骸化していた
• 市場価格との比較や取引の妥当性を示す資料が存在しなかった

<審査結果>
• 上場審査部は、関連当事者取引に対する牽制手段や開示の整備が不十分と判断
• 結果として、申請企業は自ら上場申請を取下げ、社内規程の見直しに着手

<教訓>
親族や利害関係者との取引は、適正であっても「牽制・承認・開示のプロセス」が社内規程と実態の両面で整っていることが審査上不可欠である。

【事例②】事実上機能していないサブ事業を前面に出したケース

<背景>
デジタル教材の開発を主業とするY社は、注目度を高める目的で「メタバース教育事業」の立ち上げを強調し、成長戦略資料の冒頭にこの新事業を大々的に掲載した。

<問題点>
• メタバース事業は企画段階にとどまり、サービス提供も売上も未発生だった
• 市場分析が不正確で、他社の成功事例をそのまま引用し、自社の実行可能性への言及がなかった
• 売上予測に現実的根拠が乏しく、既存事業との整合性が取れていなかった

<審査結果>
• 実体のない新規事業を誇張し、投資者の期待を過度に煽る構成であるとして、開示資料の信頼性に疑義が生じた
• 企業は申請を一旦取下げ、成長戦略の再整理に取り組むこととなった

<教訓>
「話題性のある新事業」を打ち出す際には、実態と整合性を欠いた過大な表現が審査上のリスクとなる。将来計画には裏付けある前提と説明が求められる。

審査における姿勢の重要性

審査をパスすることだけが目的化すると、企業は「形だけ整える」「審査に通ればそれで良い」といった形式主義的対応に陥りがちです。しかし、審査の担当者は、そうした上場審査を軽視する姿勢を見抜く視点を持っています。

次のようなケースでは、審査が厳しくなり、承認が遠のく可能性があります。

・ これまで問題なかったから今後も問題ないだろうという惰性的な経営判断
・ ガバナンスや内部管理体制を「上場のための一時的整備」と捉えている姿勢
・ 証券会社や監査法人の指摘に耳を貸さない経営陣

審査を「パスする」から「活かす」へ

審査過程で指摘される事項は、すべて上場後の信頼性・成長性に直結する論点です。

したがって、審査とは「合否を決めるテスト」ではなく、「企業体質の健全性を向上させる検査機会」と捉えるべきです。逆にいえば、上場審査での失敗とは、落とされることではなく、改善すべき課題を見逃すことにあります。

このようなお悩みがある場合は、IPO法務に精通した弁護士にお気軽にご相談ください。

 上場審査のリスクを事前に把握しておきたい

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最新の制度改正と東証の取組み

東証は、市場の信頼性向上と企業価値の持続的成長を促進するため、上場制度の見直しと各種支援策を進めています。
2025年現在、特に注目すべき制度改正と取組みは以下のとおりです。

上場維持基準の経過措置終了と本基準の適用

2022年4月の市場区分再編に伴い導入された上場維持基準の経過措置が、2025年3月1日をもって終了しました。

これにより、従来の緩和基準から本来の上場維持基準が適用され、基準に適合しない場合は原則として1年間(売買高基準は6か月)の改善期間が設けられます。

改善が見られない場合、監理銘柄・整理銘柄への指定を経て上場廃止となる可能性があります。

グロース市場の機能強化と成長企業支援

東証は、グロース市場の機能発揮に向けた対応を進めています。

具体的には、成長可能性に関する情報開示の充実上場後のモニタリング強化少数株主保護の観点からの独立社外取締役の役割明確化などが挙げられます。

これらの取組みにより、成長企業が適切なガバナンス体制を構築し、持続的な成長を実現できるよう支援しています。

情報開示の充実とガバナンス強化

東証は、「上場企業の情報開示の充実」「ガバナンス強化を目的とした取組み」を推進しています。

例えば、親子関係にある上場会社や持分法適用関係にある上場会社に対して、開示が望まれる項目や記載上のポイントを整理し、新たな開示を勧奨しています。

また、支配株主を有する上場会社において、少数株主保護の観点から独立社外取締役に期待される役割を具体的に整理し、公表しています。

市場区分の変更手続きと相談体制の整備

東証は、上場企業が市場区分の変更を検討する際の手続きや審査基準を明確化し、相談体制を整備しています。

例えば、スタンダード市場への市場区分の変更を希望する企業に対しては、変更手続きの流れや審査基準の概要を説明する資料を提供し、個別の相談も受け付けています。



これらの制度改正と取組みにより、東証は上場企業の持続的な成長と市場の信頼性向上を目指しています。
IPOを検討する企業や既存の上場企業は、これらの動向を踏まえた対応が求められます。

監査役・社外役員に求められる役割

上場審査において、監査役や社外取締役の存在は形式的な設置義務ではなく、「ガバナンスの実効性を担保する重要な要素」として位置づけられています。

とりわけ東証は、上場準備段階から上場後に至るまで、社外役員の役割と機能に着目しており、企業に対して「機関設計の有効性」だけでなく「実際に機能しているか」を厳しく見ています。

上場審査における監査役・社外役員へのヒアリング

上場審査の過程では、社外役員や監査役に対する「個別面談」(ヒアリング)が実施されることが一般的です。
ここでは、単に役職に就いていること以上に、以下のような観点が問われます。

・ ガバナンスに対する関与の度合い(経営陣への提言、牽制の実績)

・ 内部統制やリスク管理体制に対する理解と評価

・ 取締役会・監査役会での実質的な議論状況

・ 利益相反の管理や関連当事者取引への関与

・ 経営者との関係性や独立性の認識

形式的な説明ではなく、実務として何をしているかが具体的に問われるため、企業側の準備と並行して、社外役員自身の意識と対応力が求められます。

上場準備段階における役割

監査役・社外役員は、上場準備の初期段階から次のような役割を担うべきです。

・ 経営体制や社内ルールの整備に対する助言
経営陣が適切な責任分担と説明責任を果たせるよう、組織体制や社内規程の整備をチェック

・ リスク管理と内部統制体制の構築支援
業務上の不正やガバナンス欠如が上場審査で指摘されることが多いため、その芽を早期に察知・是正

・ 関連当事者取引・利益相反の監視
経営者の親族・グループ会社・投資家などとの関係が複雑な場合、社外からの独立した監視機能を発揮

・ 上場理由や成長戦略の妥当性評価
東証が重視する「上場目的の明確性」について、経営陣の説明に対する第三者視点の検証が必要

上場後に求められる継続的な役割

上場後も、監査役や社外役員は次のような責任を継続的に果たすことが求められます。

・ 適時開示やIR活動の健全性チェック

・ 上場維持基準への適合状況の監視

・ M&A・ファイナンス・役員報酬などの重要事項に対する独立的助言

・ 株主との対話における建設的関与

特にグロース市場のように、経営者主導型で上場した企業においては、社外役員がブレーキとアクセルのバランスを取る機能として不可欠です。

東証が期待する「実効性あるガバナンス」への対応

東証では、コーポレート・ガバナンス・コードの実質的な履行状況を重視しており、上場審査や市場区分再編においても、社外役員の人数や肩書きだけではなく、次のような「実効性のある機能発揮」に注目しています。

・ 形だけの社外役員でなく、「発言し、動く」役員が評価される

・ 複数の役職を兼務する人物の場合、時間的・実質的なコミットメントが問われる

・ 経営者とのなれ合いが疑われる関係性は、独立性を損なう要因とされる

まとめ:ガバナンスの「顔」としての社外役員

IPOは単に財務や事業の魅力を訴求するだけでなく、「企業として信頼される存在か」を示す機会でもあります。その信頼の顔として、監査役や社外役員の役割は非常に大きく、投資家や審査当局から見たときの安心感を左右します。

形式要件を満たすだけでは不十分であり、実質的にガバナンスが機能していることを、社外の目線で証明することこそが、彼らの最も重要な任務です。

最近のIPO後の不正事案

近年、IPO直後または上場後数年以内に発覚する不正事案が相次いでいます。これらの事案は、企業のガバナンス体制や内部統制の脆弱性を浮き彫りにし、投資家や市場関係者に大きな影響を与えています。

会計不正の動向と主な事例

日本公認会計士協会が2024年7月に公表した「上場会社等における会計不正の動向(2024年版)」によれば、2023年度に公表された会計不正事案は38件で、特にサービス業において多くの事例が報告されています。

また、同協会の調査によると、会計不正事案の約68%で役員・上級管理者が関与しており、経営陣自らが不正に関与するケースが依然として多いことが明らかになっています。

不正の主な原因と背景

IPO後の不正事案には、以下のような原因や背景が指摘されています。

経営者の過度なプレッシャー
上場による資金調達や株式価値の向上を目的とした過度なプレッシャーが、不正行為の動機となる場合があります。

ガバナンス体制の未成熟
上場準備期間が短く、内部統制や監査体制が整備されていない企業では、不正が発生しやすい傾向があります。

内部通報制度の不備
不正を早期に発見・是正するための内部通報制度が機能していない場合、不正が長期間にわたり継続する可能性があります。

教訓と再発防止策

これらの不正事案から得られる教訓として、以下の点が挙げられます。

経営陣の倫理観の醸成
企業文化として、誠実性や透明性を重視する風土を築くことが重要です。

ガバナンス体制の強化
社外取締役や監査役の機能を実効的に活用し、経営陣への牽制機能を高める必要があります。

内部通報制度の整備
従業員が安心して不正を報告できる体制を構築し、早期発見・是正を図ることが求められます。


IPOを目指す企業や上場企業は、これらの教訓を踏まえ、ガバナンス体制や内部統制の強化に努めることが、持続的な成長と市場からの信頼確保につながります。

IPO準備企業における不正リスクへの対応

IPOを目指す企業にとって、会計不正やガバナンス上の不備は、単に上場審査でのマイナスポイントにとどまらず、審査中止や上場後の信頼失墜といった致命的なリスクに直結します。
特に、近年の不正事案の教訓を踏まえると、上場準備段階から「不正を生まない仕組みづくり」が極めて重要です。

本章では、IPO準備企業が取るべき不正リスクへの対応策を5つの観点から解説します。

トップマネジメントの倫理観とメッセージ発信

不正の最大の予防策は、「経営者自身が不正を許容しない姿勢を明確にすること」です。
経営トップが自ら、以下のようなメッセージを社内外に発信することが重要です。

・「業績よりも健全な経営を重視する」
・「ルールを逸脱しての成果は認めない」
・「内部通報や指摘は歓迎されるべき行為である」

このような価値観を言葉と行動の両面で示すことが、企業文化に根差す抑止力となります。

内部統制と業務プロセスの可視化

IPO準備においては、財務・会計のみならず、以下の業務プロセスの整備と文書化が求められます。

・ 承認ルール(取引、契約、支払等)
・ 権限規程(役職に応じた決裁範囲)
・ 帳簿書類の保存・点検フロー
・ 会計処理のルール(引当金、売上計上など)

これらの整備は単なる上場審査対応ではなく、不正の余地を減らす組織的な牽制構造の構築に直結します。

関連当事者取引の適正管理

IPO準備企業では、創業者やファミリー企業との資本・取引関係が残っていることが多く、これが不正や利益相反の温床となり得ます。

・ 関連当事者取引(親族企業、旧代表者、VC関係先など)は、すべて洗い出し
・ 取引の有無、内容、金額、契約書の有無を明確に管理
・ 取締役会または社外役員による承認をルール化

審査上も、関連当事者取引の開示・統制は最も注目される論点のひとつです。

内部通報制度と「声を上げやすい環境」の整備

いかにガバナンス体制を整えても、現場での不正の兆候を見逃してしまえば意味がありません。そのためには、従業員が異変を感じたときに迷わず声を上げられる仕組みが不可欠です。

・ 匿名での通報が可能な窓口(外部通報も含む)の設置
・ 報復を禁止するルールと周知
・ 受付・調査・改善のプロセス明示と運用記録

東証は上場審査において、内部通報制度の実効性にも言及しており、単なる制度の設置だけでなく、「実際に活用されているか」が問われます。

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外部からの情報提供と取引所の対応

上場審査や上場後の市場監視において、証券取引所が頼りにしている情報源のひとつが、社外からの情報提供や通報です。
近年では、SNSや報道機関、匿名通報など多様なチャネルから情報がもたらされる中、日本取引所自主規制法人(JPX-R)はこれらを重要な審査・調査資料と位置づけています。

情報提供の種類と窓口

JPX-Rでは、上場審査中・上場後を問わず、第三者からの以下のような情報提供を受け付けています。

▸ 企業の財務・会計上の不正に関する通報
▸ 経営陣の反社会的勢力との関係に関する情報
▸ 表示・広告の不当性(虚偽・誤認表示)
▸ 内部通報者や関係者による内部統制に関する指摘
▸ 上場申請書類や成長可能性資料に対する疑義


これらの情報は、電話・書面・Webフォーム等で提供が可能であり、匿名による通報も一定範囲で受理されています。

通報がもたらす影響と審査対応

外部通報によって審査が中断・再審査となる例は少なくありません。特に、下記のようなケースでは、上場申請企業側に重大な対応を求められることがあります。

・ 成長可能性資料に記載された事業内容と実態に食い違いがあるとの通報
・ 社外取締役の経歴詐称や兼職制限に関する指摘
・ 役員が過去に関与した企業で粉飾・不祥事があったことの告発

このような通報内容については、JPX-Rがヒアリング・実地調査・関係者面談などを通じて裏付けを行い、必要に応じて上場申請の取下げ勧告や審査中断がなされることもあります。

澤田直彦

弊所が過去に経験した事例ですが、役員陣によるパワハラ・多額の未払い残業代の発生等が、社員(元社員)からJPX-Rに情報提供され、上場審査が中断した事例がありました。

上場後の継続開示とモニタリング強化の流れ

近年、取引所は「開示資料の信頼性向上」に向けた取り組みを強化しており、上場後も以下のような情報に対して注意深く対応しています。

▸ 開示されたIR資料に対する投資家・アナリストの指摘
▸ メディア報道におけるネガティブ情報との整合性確認
▸ SNSで拡散された経営陣や企業行動に関する疑義

例えば、上場企業のIR資料に関し「表現が誤解を招くのではないか」との情報があった場合、JPX-Rから企業に対し、任意の聞き取りや資料再提出の要請がなされるケースがあります。
こうしたフィードバックループにより、企業の情報開示の質が継続的に改善されていく仕組みが整えられつつあります。

企業に求められる対応姿勢

IPO準備企業や上場企業にとって重要なのは、外部からの通報や指摘があった場合に、隠蔽や反発ではなく、事実関係を冷静に調査・是正する姿勢です。

・ 関連事実の即時確認と証拠保全
・ 取締役会や監査役会による第三者的な調査体制の立ち上げ
・ 必要に応じた外部弁護士・専門家の関与
・ 投資家・取引所に対するタイムリーかつ誠実な説明

特に、虚偽記載や隠ぺいがあった場合、上場企業としての信頼は根本から失われます。IPO直前での申請中断や、上場後の株価暴落・訴訟といった重大リスクに直結するため、初動対応が極めて重要です。

澤田直彦

<通報対応もガバナンスの一部と捉える>

上場企業や上場申請企業にとって、「外部の目を前提とした経営」「批判に正面から向き合う姿勢」が求められています。

外部からの情報提供は、企業にとってリスクであると同時に、健全な経営に立ち戻るチャンスでもあるという認識を持つことが、これからの上場企業の必須条件といえるでしょう。

おわりに:上場審査を「通過点」でなく「成長の機会」に

企業が株式公開(IPO)を目指す理由はさまざまです。資金調達の手段として、ブランド力や信用力の向上のため、あるいは創業者利潤の実現のため——。
しかし、上場は決してゴールではなく、その後の持続的な成長と市場からの信頼維持こそが、本当の意味での上場企業の責任です。

東証の上場審査制度は、単なる形式的なチェックリストではなく、企業の経営体質・統治構造・開示能力・成長戦略といった「企業としての総合力」が問われるプロセスです。
そして、この上場審査をどう捉えるかによって、企業の将来は大きく分かれます。

上場審査は監査ではなく鏡である

上場審査は、企業に対する外部からの検証であると同時に、企業自身が自らの経営を客観的に見直すための「鏡」の役割を果たします。

  • 自社のガバナンスは本当に機能しているか
  • 数字だけでなく、ビジネスモデルに再現性・継続性があるか
  • 説明責任を果たす体制が整っているか
  • 社員や投資家、顧客といったステークホルダーとの信頼関係を築けているか

これらの問いに真正面から向き合い、必要な修正・改善を加えていく過程そのものが、企業のレジリエンス(回復力)と成長力を高める基盤となります。

審査を「通る」だけでは価値がない

審査を通すことだけに注力してしまうと、形式主義・先送り・見せかけの改革に終始し、上場後に想定外の問題が噴出することになります。近年のIPO後の不正事案や市場からの厳しい視線は、そのリスクを如実に物語っています。

本当に価値があるのは、上場審査で得られた気づきを内部に定着させ、上場後もアップデートを続けられる経営体制を築くことです。

成長機会としての審査─企業の棚卸しと未来への道筋を描く時間に

上場審査は、過去を精査し、現在の企業力を見極め、将来の可能性を描く機会でもあります。財務・法務・人事・IR・内部統制といった機能を横断的に見直すことは、いわば「企業の総合的な棚卸し」です。

そして、その棚卸しを経た先には、より社会に開かれた企業として、市場との対話を通じて成長を加速できるフェーズが待っています。

澤田直彦

<「市場の信頼」こそが企業価値の源泉である>

上場とは、単に資金を得る手段ではなく、「市場に対して説明責任を果たす立場になる」という重大な意味を持ちます。審査制度はその入口に過ぎませんが、その入口での姿勢や取組みが、上場後の企業評価に直結することを忘れてはなりません。

IPO準備企業にとって、上場審査を「障害」ととらえるのではなく、「企業としての進化のチャンス」として真摯に受け止め、長期的な視点で自社の価値向上を追求すること。それが、上場を通過点ではなく、成長の出発点に変える第一歩となるのです。

ご相談は、東京都千代田区直法律事務所の弁護士まで

直法律事務所では、IPO準備企業向けに以下のようなサポートを行っています。

▸ 上場審査に向けた法務デューデリジェンス

▸ コーポレート・ガバナンスや社内規程の整備支援

▸ 上場審査書類のリーガルチェック

▸ 主幹事証券会社・監査法人との連携支援

▸ 社外役員・監査役候補者の選任に関するアドバイス


ご相談は随時受けつけておりますので、お困りの際はぜひお気軽にお問い合わせください。

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