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IPOにおける反社会的勢力排除と反社チェックの実務

IPOを目指す企業にとって、反社会的勢力との関与は即座に上場不適格とされかねない重大なリスクです。

しかし、「形式的な確認書があれば大丈夫!」と思われがちな一方で、近年の上場審査では実態としての排除体制の有無や、チェック結果の説明責任まで問われるようになっています。

本記事では、IPO支援に強い弁護士が「IPOにおける反社会的勢力排除と反社チェックの実務」について詳しく解説していきます。


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 
代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。

本記事では、
「IPOにおける反社会的勢力排除と反社チェックの実務」
について、詳しくご説明します。

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反社会的勢力とは何か

なぜ今、反社対策が問われているのか

IPO準備において「反社会的勢力との関係がないこと」は、もはや形式的な確認項目ではありません。証券取引所の審査ガイドライン、主幹事証券の引受審査基準、さらには金融庁や警察庁の動向においても、反社排除体制の整備・実効性の確保が重視されています。

一方で、反社の実態は年々巧妙化・曖昧化しており、単に「暴力団名簿に載っていないから安心」とは言えない時代です。

反社会的勢力の定義と類型

反社会的勢力の定義には法律上の明確な統一規定はありませんが、実務上は、警察庁および東京都暴力団排除条例の定義が基準となります。

【参考定義】東京都暴排条例より
「反社会的勢力」とは、暴力団、暴力団員、暴力団関係者、準暴力団、総会屋、社会運動標ぼうゴロ、特殊知能暴力集団(いわゆる半グレ)などを含む者を指します。

【代表的な類型】

分類 概要
暴力団 組織的に威力を用いて金銭等を得る団体(警察庁認定)
暴力団関係企業 一見すると一般企業だが、資金の一部を暴力団に流している
フロント企業 上場支援業者 、 建設会社 、 警備会社 、 芸能 ・ 広告業界に多数存在
半グレ ・ 特殊知能暴力集団 暴力団に属さず独立して活動、凶暴性 ・ 情報戦に長ける
総会屋 ・ 地上げ屋 株主総会等で企業をゆすり、経済的利益を得る

これらの者は、暴力だけでなく、「威迫」「詐欺的手法」「つながりを利用した間接支配」などにより企業を巻き込もうとします。

実態の巧妙化と企業が直面するリスク

現在の反社会的勢力は「表社会に溶け込む」形で活動しており、以下のような動きが見られます。

  • 名義を第三者に借りて会社設立(名義貸し)
  • 所在地を頻繁に変更して足取りを消す
  • SNSや情報商材サイトなどでクリーンなイメージを演出
  • 投資会社、アフィリエイト会社、暗号資産取引企業に偽装して接近

これにより、企業は「知らずに」反社会的勢力と取引してしまうリスクを負います。
IPO審査ではこのような「非意図的関係」であっても、審査のストップ・申請の取り下げ・上場延期といった事態になりかねません。

なぜ排除が求められるのか(法的・社会的観点)

【1】上場審査上の致命的リスク
・ 上場申請時には「反社会的勢力と一切関係がない」旨の確認書を提出
・ 主幹事証券会社は役員 ・ 株主 ・ 取引先の反社調査を必ず実施
・ 「疑いがある」だけで、J-Adviserから「適格性を欠く」と判断される事例あり

【2】法的・行政上のリスク
・ 暴力団排除条例 : 契約解除義務、利益供与禁止
・ 犯罪収益移転防止法 : 本人確認義務 ・ 取引拒否
・ 金融庁のAML / CFTガイドライン : 特定事業者に高度な管理義務
・ 金融機関との取引打ち切りリスク(例 : みずほ銀行事案)

【3】社会的信頼の喪失
・ 上場廃止 ・ 主幹事の辞任
・ 取引先の離脱 ・ 社員の離職 ・ レピュテーションリスク
・ 自社サービスにおけるプラットフォーム提供拒否(例 : ECモール、金融API)

企業の善管注意義務とガバナンス

反社と関係を持たないことは、単なる形式的遵守ではなく、会社法上の善管注意義務やコンプライアンス義務の一環と位置付けられます。

▸ 取締役には、反社排除を含むリスク管理体制の整備義務がある(会社法330条 ・ 民法644条)
▸ 過去には、反社関係者の登用や投資受入により、株主代表訴訟に発展した事例も

排除の姿勢 =「接点を持たないこと」の明確化

最後に確認したいのは、「関与しない」だけでなく、「接点すら持たない姿勢を示すこと」がガバナンス上も市場からも期待されているという点です。

・ 契約書における暴排条項の整備
・ 株主や取引先に対する反社チェックの徹底
・ 不当要求があった場合の毅然とした対応(後述で詳述)

反社排除はガバナンスの入り口

反社会的勢力の排除は、IPO準備における「通過点」ではなく、企業として持続可能な経営を実現するための最低限の前提です。上場審査では、「やっているか」ではなく、「体制として、継続的に排除し得る仕組みになっているか」が問われます。

IPO審査における反社リスクの位置付け

「反社との関係がないこと」は上場の絶対条件

上場審査において、反社会的勢力との関係排除は取引所の適格性審査の中心的項目の一つです。

東京証券取引所(TSE)の「上場審査基準(新規上場制度ガイドブック)」には、以下の通り明記されています。
「企業が反社会的勢力と関係を有していないことを確認し、かつ、その排除に向けた体制が整備されていることが必要」

つまり、「過去に関係があった」「関係があると疑われる人物が株主や役員にいる」といった状況では、上場は原則として不適格と判断されるのが実務です。

主幹事証券会社による実質的なチェック

IPO審査では、東京証券取引所が直接すべてを審査するのではなく、主幹事証券会社が事実認定とチェックの中心的役割を担います。

主幹事は、次のような実務を通じて、企業が反社会的勢力と無関係であることを確認します。

【主幹事の反社チェック項目】  役員 ・ 株主 ・ 親族 ・ 主要取引先のスクリーニング
 暴力団関係データベース(商業データベース 、 警察照会)によるチェック
 履歴書や経歴の裏付け確認(過去の職歴 、 登記 、 所在地)
 必要に応じて反社専門調査機関によるバックグラウンド調査
 疑義がある場合、直接面談を実施

調査の結果は、「上場適格性調査に関する報告書」にまとめられ、取引所に提出されます。
したがって、反社チェックは「社内対応」ではなく、「主幹事が証取に対して責任を持って報告する工程」であるという点が極めて重要です。

上場申請時に提出が求められる「確認書」

IPO申請時には、企業自身が「反社会的勢力との関係が一切ない」ことを明記した「確認書」を提出する必要があります。

【確認書の主な記載内容】 • 「当社および役職員、株主、取引先が、現在または過去において、反社会的勢力に該当または関係していないこと」
• 「反社会的勢力と判明した場合には、速やかに対応を行い、契約等を解除する体制を整備していること」
• 「虚偽記載や不十分な調査があった場合には、上場審査に重大な支障を及ぼすことを理解している」

※この確認書に虚偽があった場合、上場廃止、または訴訟等のリスクもあります。

審査における典型的な「否認事例」

過去の審査否認事例から、以下のようなケースは特にリスクが高いとされます。

ケース 主な否認理由
元役員が過去に反社関係会社を経営していた 経歴確認が不十分、説明責任を果たせていない
株主の一人が、過去に反社と報道された人物だった 調査を怠ったと主幹事が判断
外注先の社長が半グレと噂されていた 対応が遅れ、契約解除の意思決定が不明確
取引先を切れず、利益供与と見なされた 契約解除や対応の実行力が欠如

これらの事例から明らかなように、疑義が払拭できなかっただけで上場は止まります。

対応のポイントは「事後対応力」ではなく「事前備え」

IPO審査における反社リスクへの対応で最も重要なのは、「発覚してからどうするか」ではなく、「発覚する前にどう備えていたか」です。

• いつ、誰に、どのようなチェックを行っていたか?
• どの情報源を使って調査していたか?
• その調査の記録は残っているか?
• 疑義が出た場合、どのような意思決定フローで対処したか?

これらが説明可能な状態になっていない限り、上場審査の通過は困難です。

IPO準備企業がすべき対応

対応項目 概要
定義の理解 反社に該当する可能性のある人物 ・ 組織の範囲を広く想定する
チェック体制の構築 役員 ・ 株主 ・ 出資者 ・ 取引先について調査フローを明確にする
契約上の備え 契約書への暴排条項 ・ 解除条項の記載を徹底する
外部との連携 主幹事 ・ 顧問弁護士 ・ 調査会社と平時から連携体制を持つ

チェック体制の整備と実務対応

IPO準備における反社対策は、「チェックを一度すればよい」という単発の作業ではありません。上場審査では、企業として継続的 ・ 体系的な反社排除体制を構築しているかが問われます。

この章では、反社チェックの手法と体制構築のポイントを、実務の視点から詳しく解説します。

【基本的な対象範囲】

  • 役員 ・ 監査役 ・ 執行役員(現職 ・ 就任予定含む)
  • 株主(特に10%以上の大株主)
  • VC ・ ファンド等の出資者
  • 主要取引先 ・ 委託先
  • 不動産所有者や関係会社
  • 親族 ・ 同居人等(場合により)

実際の審査では、「形式的には別人でも、実質的に支配されている」「出資者の背後に反社関係者がいる」といった実態レベルの関与までチェック対象とされます。

スクリーニングの手法と情報源

【自社で実施可能なチェック手法】

手法 内容 解説
商業登記簿の取得 役員履歴 ・ 本店所在地の確認 本人の過去役職を確認可能
不動産登記の閲覧 本店所在地や担保設定を確認 抵当権者名で反社関連を察知
官報検索 公示される処分 ・ 登記情報をチェック 破産や法人解散履歴などが参考に
インターネット検索 個人名 ・ 法人名での風評 ・ 報道確認 信頼性 ・ 出所の確認が必要
SNS検索 名前 ・ ハンドル名 ・ 過去投稿 若手役員候補者などに有効


【外部機関による調査】
• 反社情報データベース(TSR、帝国データバンク、SDBなど)
• 調査会社のバックグラウンドチェック
• 暴追センターへの照会(※契約者に限られる)
• 主幹事証券会社との情報共有

調査会社の報告書は、記録として証券会社に提出可能な形式で残すとよいでしょう。

暴排条項(契約書上の整備)

反社排除体制の一環として、あらゆる契約書に「暴排条項(暴力団排除条項)」を入れることが不可欠です。

【典型的な構成要素】

  1. 表明 ・ 確約条項
    →「自らおよび関係者が反社会的勢力に該当しないことを確約する」
  2. 違反時の契約解除条項
    →「判明した場合には催告なしに契約を解除できる」
  3. 損害賠償 ・ 免責条項
    →「解除により損害が生じても責任を負わない」


【実務ポイント】
• 曖昧な表現(「重大な影響を与える場合」など)よりも端的な記載が有効
• 解除条項は「催告なし ・ 損害賠償請求なしで解除できる」旨を必ず明記
• 相手が削除を求めてきた場合 = リスクシグナルとして警戒する

記録の保存と更新頻度

IPO審査では、「過去にチェックした」ではなく、「いつ ・ 誰を ・ どの手法でチェックし、どう記録したか」が重視されます。

【記録保存の工夫】
• スクリーニング調査票(対象者 ・ 検索キーワード ・ 結果)を作成
• 登記簿 ・ データベース出力のPDF保存
• Excel等によるチェック日 ・ 担当者記録
• 顧問弁護士の意見書 ・ 確認メモ(あればベスト)


【更新頻度の目安】
• 上場審査中は「年1回 + 役員変更時 ・ 取引先追加時」が原則
• 上場後は「年1回の定期確認」を内部統制として継続
• 出資 ・ 融資 ・ 業務委託の新規時にも随時実施

実務でよくある落とし穴

ケース 解説
株主が個人であるためチェックを怠った 個人株主が反社関係者という事例あり。出資元を必ず確認
名義上の法人がクリーンだったが実質支配者が不明 持株会社やSPCを使った隠蔽は典型的手法。最終実質支配者を把握する
外注先の下請業者までは調査していなかった 建設 ・ イベント ・ 物流などでリスクが高い。委託元としての注意義務あり
インターネットで出てこなかったことを「問題なし」と誤認 ネット検索だけでは網羅性がなく、誤った安心感を与える

まとめ : 社内に「チェックする文化」を定着させる

反社排除体制は、マニュアルや調査票だけでは機能しません。
組織内に「相手が誰かを確認する」「不審な点があれば相談する」文化を根付かせることが最も重要です。

 担当者が1人で判断しないこと
 調査のたびに弁護士 ・ 証券会社と相談する体制にする
 スクリーニングの記録を残し、説明可能な体制にする

関与発覚時の対応とリスク管理

反社会的勢力との関係が「発覚した後」にどう対応したかは、IPO審査における極めて重要な判断材料になります。

この章では、発覚時の初動、契約解除の法的整理、そして主幹事 ・ 弁護士 ・ 警察との外部連携の要点を具体的に解説します。

関与が疑われたときの初動対応フロー

反社会的勢力との関与が疑われる情報を得た場合、組織として冷静かつ迅速な初動対応が必要です。

【初動フローの基本ステップ】

  1. 内部報告(コンプライアンス部門 ・ 役員へ)
    ▸ 匿名通報、証券会社からの照会、社外からの指摘など、情報源にかかわらず直ちに報告。

  2. 関係事実の把握 ・ 調査
    ▸ 契約内容 、 接点の有無 、 当該人物の経歴 ・ 資本関係 ・ 影響力を把握。
    ▸ 調査は「見解」ではなく「事実ベース」で記録。

  3. 法務 ・ 顧問弁護士への相談
    ▸ 調査記録 ・ 関係図 ・ メール等の証拠を揃えたうえで相談。

  4. 社内対応会議の開催
    ▸ 危機対応責任者(代表者 ・ 法務責任者等)を中心に、記録方針 ・ 対応方針を策定。

  5. 主幹事証券会社への即時連絡
    ▸ 対応を隠さず、「先に報告する」姿勢が信頼につながる。

  6. 外部連携の検討
    ▸ 警察 ・ 暴追センター 、 監査法人 、 必要に応じて金融機関への通知も検討。

取引停止 ・ 契約解除の法的手順と注意点

関与が判明した相手と継続取引することは、上場審査上のリスクとなります。契約解除の可否と方法は、契約書の条項内容と事実の確認レベルにより判断します。

【暴排条項がある場合】
• 「反社会的勢力であることが判明した場合は、催告なく契約を解除できる」などの記載があれば、即時解除が可能
• 解除通知は、書面(内容証明郵便) で行うのが原則。
• 必要に応じて弁護士名で送付し、トラブル抑止を図る。


【暴排条項がない ・ 曖昧な場合】
• 法的な解除は困難だが、契約更新拒否 ・ 業務縮小等による実質的な関係遮断を図る。
• 「契約解除に向けた協議開始」など、交渉段階から記録を残す。


【契約解除後の対応】
• 警察や暴追センターへ通知(義務ではないがリスク共有のため推奨)。
• 脅迫や街宣等の嫌がらせがあれば、仮処分や刑事告訴を検討

ケース別対応 : IPO準備企業で実際に起きた例

【事例① : VC出資者に反社疑義】
• 出資者の一部に反社疑いがかかり、企業は株式の買戻しを実施
• 出資契約に表明保証条項があり、解除 ➡ 買戻しという構造が可能だった。
• 主幹事は「対応が適切であった」と評価し、審査は継続


【事例② : 元役員の経歴に不透明さ】
• 退任済役員の過去勤務先が反社系企業とされ、ネット情報で発覚。
• 面談や書面調査を経て、関係性がないことを主幹事が確認し、報告書で補足説明。
• 「調査記録が整っていたこと」が主幹事の信頼に繋がった。

外部機関との連携方法

関与が発覚した際は、社内だけで抱え込まず、外部との連携を前提とした対応が求められます。

【主幹事証券会社】
• 調査結果 、 方針 、 解除手続の状況などを逐次共有。
• 「報告書に記載される」ことを意識した記録の整備を。


【顧問弁護士】
• 対象人物の法的リスク評価 、 解除可否の検討 、 通知書案の作成。
• 必要に応じて法的措置(仮処分、損害賠償請求等)の準備。


【警察 ・ 暴追センター】
• 実名確認や対象者の属性把握。
• 脅迫等の対応時に連携(警察との事前関係構築が有効)。

「隠さず、動き、記録する」姿勢が審査突破の鍵

反社関与が疑われること自体は、企業にとって避けがたいリスクです。IPO審査で問われるのは、「そのとき、どう動いたか」です。

よくあるNG例 推奨される対応
「様子を見る」として主幹事への報告を遅らせる 初期段階から主幹事に相談 ・ 連携
証拠が乏しい段階で解除を急ぐ 契約書 ・ 調査記録を整備し、法的根拠を明確に
通知をメールや口頭で済ませる 書面(内容証明)で正式に対応
弁護士や警察に相談せずに社内対応のみで済ませる 外部専門家との連携を前提にした体制を取る

まとめ : 発覚後の対応こそ「適格性審査の本番」

審査機関や投資家が重視するのは、企業の誠実さ ・ 説明力 ・ 迅速性です。 「何をしたか」だけでなく、「何を考えてどう判断したか」を文書で残すことが、上場審査での信頼構築につながります。

社内ガバナンスと反社対策の定着

IPO審査においては、形式的な書類の整備や一過性のチェックではなく、企業全体に反社排除の意識が根付いているかどうか = 文化としての定着が問われます。

この章では、反社排除を企業ガバナンスの中にどう組み込み、社員レベルまで落とし込んでいくかについて、具体的な制度や実務ポイントをご紹介します。

採用・登用段階での反社チェックの必要性

企業が反社排除に取り組むうえで、最も基本的かつ見落とされがちな点が、「入口段階」での対応です。

【対象者】
・ 新任役員 / 執行役員 / 管理職候補者
・ 正社員 / 契約社員 / アルバイト
・ 業務委託先 / 外部顧問 / 士業等


【実務ポイント】
・ 採用時に本人確認書類と履歴書の整合性を確認
・ 「誓約書」や「反社でないことの表明 ・ 確約書」の取得(暴排条項の個人版)
・ 前職での懲戒歴 ・ 退職理由の確認(できる範囲で)
・ エージェント利用時も反社チェックの実施を委託契約で明記


IPO審査では、「反社に該当する人物が採用されていた事実」自体がリスクになるため、採用 ・ 登用前のスクリーニングを制度化する必要があります。

社内規程と通報制度の整備

形式的に「反社排除を宣言している」だけでは足りず、それが社内規程に組み込まれているかが重要です。

【整備すべき社内文書】

文書名 記載すべき内容
就業規則 反社会的勢力との関与禁止 、 違反時の懲戒対象明記
コンプライアンス規程 定義 ・ 対応責任者 ・ 通報窓口 ・ 再発防止措置など
契約締結マニュアル 反社条項の確認 ・ 削除要求があった場合の対応方法
リスク管理方針 反社対応を「経営リスク」として明示し、体制構築の必要性を定義


【通報制度】
・ 通報窓口を社内と外部(弁護士事務所等)で2系統用意
・ 通報者の秘密保持 、 報復禁止を明文化
・ 虚偽 ・ 悪意ある通報への対応ルールも定める


証券取引所の審査では、「内部統制として反社排除が位置づけられているか」「有効に機能しているか」が問われます。形だけでなく「実効性」があるかを示せる資料の準備が必要です。

教育 ・ 研修制度の実施と継続

社内の反社対策が形式的なものに終わらないためには、全社的な教育と継続的な研修が不可欠です。

【教育 ・ 研修内容の例】
• 反社の定義と最近の動向(半グレ、フロント企業など)
• 反社と関与するリスク(社会的信用の喪失 、 刑事 ・ 民事責任)
• 不審な取引 ・ 要求への初動対応(用件確認 ・ 記録 ・ 報告)
• 外注先 ・ 契約書チェック時の注意点


【運用上のポイント】
• 毎年1回の全社研修(eラーニング含む)を制度化
• 新入社員研修への組み込み
• 「反社対策マニュアル」を社内イントラ等で常時閲覧可能に
• 研修受講記録の保存 (審査資料 ・ 監査対応用)


特にIPO審査においては、「役職員が反社排除についての知識を持ち、初動対応ができるか」が問われます。全社員が対話できるレベルで理解していることが、反社排除体制の実効性の証明となります。

内部統制システム(J-SOX)における反社対策の位置づけ】

内部統制報告制度(J-SOX)では、財務報告の信頼性確保のための体制整備が求められていますが、その中で「コンプライアンス」「リスク管理」の柱として反社対策を組み込むことが重要です。


【例 : 統制の整備として認められる措置】
• 定期的な反社チェックの仕組み (対象者 ・ 頻度 ・ 記録)
• 通報制度の運用実績 (受付件数 ・ 対応記録)
• 暴排条項の運用マニュアル
• 契約書のレビューフローにおける反社条項のチェック


【文書化のポイント】
• 「内部統制報告書」や「リスク評価文書」に反社対策を明記
• 社内監査項目に反社チェックの運用状況を含める


IPO時には、内部統制報告制度の整備状況も評価対象となるため、「ガバナンスの一部として反社対策をどう位置づけているか」を説明可能な状態にしておくことが重要です。

まとめ : 反社排除の文化を組織の血流に乗せる

反社排除は、「法務」や「総務」の仕事にとどまるものではなく、会社全体で共有され、実践されるべき文化です。
IPOという節目を機に、「反社と無関係であり続けること」が、企業の信頼性 ・ 継続性 ・ 資本市場との接続可能性を担保すると位置づけ、実務に落とし込んでいきましょう。

実際の対応事例から見るポイント

反社会的勢力排除に関する理解を深めるうえで、実際の上場支援や審査現場で生じたリアルな対応事例を知ることは極めて有益です。

実際に上場支援や顧問対応で遭遇した反社関連のリスク対応事例をベースに、成功例・失敗例を比較し、IPO審査において何が評価され、何が問題となったのかを明らかにしていきます。

成功事例 : VC株主に反社疑義が浮上したが、即時対応で審査通過

【状況】
あるIPO準備企業の第三者割当増資先の一社について、過去に反社関係者との取引歴が報道されたことが判明。主幹事証券会社からの照会により発覚。


【対応】
• 社内で即時報告 → 弁護士・主幹事と協議
• 出資契約書に「反社排除条項」及び「表明保証」が含まれていたことを確認
• 出資自体を解消(株式の自己株式取得+償却)
• 証拠書類・議事録を添付し、主幹事証券会社に報告書を提出


【結果】
• 「疑義を放置せず、具体的な措置を取った対応」が評価され、上場審査継続
• 出資者側への説明も法務主導で冷静に実施し、トラブルなし

失敗事例 : 外注業者の社長が半グレ系組織と関係 ➡ 上場断念

【状況】
上場準備中の企業が、物流業務を委託していた外注先の代表者について、「半グレ組織との資金関係がある」との通報を匿名で受領。 後日、地元紙でその実名が報道された。


【対応】
• 初動対応が遅れ、社内で2週間保留状態に
• 契約解除にも時間を要し、主幹事への報告も「事後的」だった
• 書面上は暴排条項があったが、解除通知をFAXで行い、証拠が曖昧


【結果】
• 主幹事が「ガバナンス対応が不十分」と評価し、引受中止
• 上場準備全体が中断 → 経営陣の交代を経て再挑戦へ

裁判例 ・ 実務対応例の補足

【民間調査機関と裁判例】
民間調査会社の調査結果(例:反社でない旨の証明)に対し、裁判では「合理的根拠がない限り信用できない」と判断された事例あり。
→ 自社での記録 + 複数の出典を組み合わせる調査が実務的に必須。


【反社関係者からの損害賠償請求事案】
企業側が反社関係者と認識し、契約を解除 → 相手から「名誉毀損」「損害賠償」請求。
→ 弁護士による記録 ・ 意思決定プロセスの助言と、解除理由の証拠化が重要。
→ 万一訴訟になっても「合理的な解除理由」があれば、敗訴は回避可能。

まとめ : 成功と失敗を分けるのは、「早期察知」と「意思決定の透明性」

反社リスク対応は、事実の有無よりも、対応の誠実さ ・ スピード ・ 記録の質で審査の結果が分かれます。

この章で共有した事例から、自社にとってのリスクポイントを想定し、事前の備えに活かしていただければと思います。

【IPO審査でよくある見落としポイント】

見落としポイント 補足解説
投資先・取引先の「実質的支配者」まで調査していない SPCや中間法人経由の実質的支配を見逃すと、実態審査で否認される
インターネットで反社情報が出てこないことを「問題なし」と判断 ネットに出ていない = 安全ではなく、信頼性ある情報源の活用が必要
主幹事への報告タイミングが遅い 「早期報告 ・ 外部連携の姿勢」こそ、適格性を判断する重要要素
曖昧な暴排条項や、不備のある解除手続き 契約書と初動記録が審査資料としてチェックされる

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