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ITビジネスと上場審査基準〔IPOと上場審査基準4〕

Q
弊社は、ITビジネスを手がける事業会社です。現在、株式上場を考えており、IPOに関する様々な手続きに着手しています。
そこで、ITビジネスを手がける企業が、上場審査で特に留意すべきポイントを教えていただきたいです。

A
IT企業には、特色があります。それは、「技術進歩が速い業種」であるということです。
そのため、会社の内部管理についても、技術革新に遅れを取らないよう十分なシステムが構築されている必要があります。
例えば、個人情報の管理、受注管理、労務費の管理等が重要なポイントとなります。
また、IT企業の性質上、業績が特定商品や特定顧客に依存することがあります。そのため、当該ビジネスの成長可能性についても、上場審査の対象となります。
例えば、新商品の開発体制、業績安定化を図るための対策について確認がされるので、注意が必要です。


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「ITビジネスと上場審査基準〔IPOと上場審査基準4〕」
について、詳しくご解説します。

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IT企業とは

まず、IT企業とは、どのようなビジネスを手がける企業を指すのでしょうか。
ここでは、大きく3つの分類で見ていきましょう。

①ハードウェアメーカー
コンピュータ本体や周辺機器、ネットワーク通信機器などを開発・製造・販売しています。
また、コンピュータを構成するCPUやメモリなどを提供する半導体メーカーも含まれます。

②情報サービス
受注ソフトウェア開発、ソフトウェア製品の開発、システム運用管理の受託、情報処理サービスなどがあります。

③ネットビジネス
インターネットの普及によって急速に拡大している分野です。これまでになかった新しいビジネスモデルを構築している会社もあります。

これらのIT産業に共通する特色は、「技術進歩の速さ」です。
日進月歩で進む技術革新に対応できる能力を備えているかどうかが、企業発展を左右するといっても過言ではありません。

IT企業における上場審査のポイント

内部管理について

ア 個人情報の管理

IT企業は、業務の性格上、システム等を通じて大量の個人情報に接することの多い産業です。例えば、インターネットのショッピングサイトの顧客情報などが挙げられます。
これらの情報が社外に漏れないよう、厳重に管理することが求められます。

顧客の内部情報が社外に漏れないよう、適切な内部統制を構築しているか、上場審査において確認されることになります。

例えば、
●顧客のデータベースへのアクセスを特定の者に限定する
●顧客のデータベースへアクセスした者の履歴を管理する
●社員教育を徹底する
こと等が必要です。

イ 受注管理

ITビジネスにおけるシステム開発は、顧客から業務を受注した初期段階では、開発スケジュール・開発体制の検討、リスク分析に時間がかかり、依頼業務の全体像を把握することに困難な場合が多くあります。

また、当初依頼時点では業務の全体像を把握していたとしても、その後、顧客の要求が変更になることも頻繁にあります。
特にシステム開発において、見積もりを低く提示していて、後で変更が生じたことを原因として、赤字受注が発生することはよくあります。
そのため、受注管理のための内部体制の構築について、上場審査において確認されることになります。

●適切な実行予算を適時に作成し、受注した業務の採算を常に管理することが必要です。

ウ 労務費の管理

IT産業は労働集約型の業種であり、労務費の管理をいかに行っているかが重要なポイントとなります。
IT産業では、製造業のように原材料や部品を調達するわけではありません。IT産業における「原価」とは、以下の3費目を指します。

①労務費
②外注委託費
③経費

システム開発の場合、受注した案件ごとに発生した原価を集計し、プロジェクト別の採算を管理することが必要です。

また、②の外注委託費とは、プロジェクトの一部について、社外のスタッフに委託したときに生じる費用です。外注先についても、その作業内容をプロジェクト別に管理し、プロジェクト別業績管理に反映させる必要があります。

●人件費を作業時間等の適切な割合で各々のプロジェクトに配分し、プロジェクト別業績管理を行うことが求められます。

●業務の遂行にあたり外注先を使う場合には、外注先の会社が、どのプロジェクトでどれだけの作業を行ったかを管理する必要があります。

エ ソフトウェアの会計処理

ソフトウェアは、「無形」であり、当事者以外の第三者が取引の実在性を客観的に証明することは、通常容易ではありません。
そのため、取引の実態を把握することが困難となる場合があります。

また、IT企業においては、独自の取引慣行が存在しており、取引の実態が把握しにくいという側面もあります。

実際、ソフトウェア取引に関連して、会計処理が取引の実態を正確に反映していない不正経理の事例が発生しています。
近時の事例では、開発会社A社などを中心とした、納品実体のない取引(循環取引)が話題となっています。
証券取引等監視委員会はA社に対し、有価証券報告書の虚偽記載による金融商品取引法違反で約8110万円の課徴金納付を命じるよう、金融庁に勧告しています。

このような状況への対応として、「ソフトウェア取引の収益の会計処理に関する実務上の取扱い」や、「我が国の収益認識に関する研究報告」が公表されているので、確認する必要があります。

「ソフトウェア取引の収益の会計処理に関する実務上の取扱い」
https://www.asb.or.jp/jp/wp-content/uploads/soft.pdf

我が国の収益認識に関する研究報告」
https://jicpa.or.jp/specialized_field/13ias18.html

●上場審査上においては、上記の基準に沿った会計処理の実施が求められています。
取引に関連した証憑書類等を適時・適切に入手し、取引実態を適正に会計処理に反映させるための内部統制を構築しておく必要があります。

●特に、取引慣行としてスルー取引・Uターン取引などの実態のない売上取引がないかどうかについて、確認がされるので注意が必要です。

スルー取引とは
実際の取引とは関係のない企業が形だけ取引に参加し、売上を計上する仕組みを言います。

Uターン取引とは
複数の企業を経由して、最終的に最初の企業に戻る(Uターン)する取引を言います。

ビジネスの成長可能性

IT企業では、提供するサービスの技術レベルが高くかつ専門性に富んでいます。
そのため、一部の大企業を除き、不特定多数の顧客に対して多様なタイプのサービスを提供することが困難な業界であるといえます。

したがって、多くの会社は特定商品(又は特定サービス)を不特定多数の顧客に対して提供するか、特定顧客へ多様なタイプのサービスを提供するというビジネスモデルを構築しており、必然的に特定商品(又は特定サービス)および特定顧客への依存度が高くなる傾向にあります。

そこで、特定商品(又は特定サービス)が収益を生まなくなった時や、特定顧客との取引が解消された時のインパクトを、最小限にとどめる体制が構築されているかについて重点的に審査されます。
リスク分散ができているか、という観点から上場審査がなされるのです。

●新商品の開発および新規取引先の開拓等により、特定商品(又は特定サービス)および特定顧客への依存度が過度に高くならないよう、注意が必要です。

まとめ

IT企業は技術革新の激しい業界です。そのため、現時点で会社が保有している技術が、すぐに陳腐化してしまうリスクを常に抱えています。
そこで、会社が、技術革新のスピードに対応し常に組織的に新しい技術を習得できる体制を整えていることが、上場審査においても重視されるのです。

新しい技術を会社として組織的に習得し、内部統制を徹底することで、従業員全体の能力の向上を図るような組織を構築していることが求められるのです。


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