澤田直彦
監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 代表弁護士
IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「上場審査基準について 形式基準と実質基準とは〔IPOと上場審査基準2〕」
について、詳しくご解説します。
上場審査とは?スケジュールなど概要については
上場審査について〔IPOと上場審査基準1〕
をご覧ください。
上場審査基準について
各上場市場は、上場申請を審査するための上場審査基準を設けています。
上場審査基準には、形式基準と実質基準があります。
詳細は、各上場市場により異なっているので、以下詳しく見ていきます。
形式基準とは
形式基準とは、上場するために最低限充足すべき定量的な条件をいいます。
上場にあたって満たすことが要求される受付基準と、上場にあたって一定期間行ってはならない行為を定めた不受理事項とに分類することができます。
受付基準
各上場市場ごとに、受付基準があります。
株主数、上場時公募・売出、流通株式の状況、時価総額、事業継続年数、上場時価総額、流通株式の状況、純資産の額、利益の額、時価総額などについて、定量的な基準が定められています。
ここでは、日本取引所グループ(J P X)の運営する、5つの市場の基準についてみていきましょう。
本則市場 | マザーズ | JASDAQ | |||
---|---|---|---|---|---|
市場第一部 | 市場第二部 | スタンダード | グローズ | ||
株式数 | 2200人以上 | 800人以上 | 200人以上 | 200人以上 | |
流通株式数 | 2万単位以上 | 4000単位以上 | 2000単位以上 | ||
流通株式比率 | 10億円以上 | 10億円以上 | 5億円以上 | 5億円以上 | |
公募の実施 | 500単位以上 | ①公募・売出1000単位以上 ②上場株数の10%以上の公募・売出 のどちらか |
|||
時価総額 | 250億円以上 | 20億円以上 | 10億円以上 | ||
事業継続年数 | 新規上場申請日の直前事業年度の末日から起算して3年前より前から取締役会を設置して継続的な事業活動をしていること | 新規上場申請日から起算して1年前より前から取締役会を設置して継続的に事業活動をしていること | |||
純資産の額 | 10億円以上 | 2億円以上 | |||
利益の額 | ①最近2年間の合計が5億円以上 ②最近1年間における売上高が100億円以上である場合でかつ、時価総額が500億円以上となる見込みがあること のどちらか |
①1億円以上(最近1年間) ②時価総額が50億円以上となる見込みのあること のどちらか |
不受理事項
不受理事項の具体例としては、以下のようなものがあります。
①上場前の第三者割当増資等上場前の第三者割当増資等による新株発行
申請会社が、上場前の一定期間における第三者割当等による募集株式の割当等に係る確約書を提出しない場合。また、割当を受けた者が確約に基づく所有を現に行っていない場合。
→新規上場に際し、特定の者が短期に多額の利益を得ることを防ぐため、上場申請は受理されません。
②合併、会社分割、子会社化等(マザーズを除く)
新規上場申請日以後において合併、会社分割、事業の譲受または譲渡、子会社化または非子会社化を行った場合、もしくは行う予定(上場申請日の直前事業年度の末日から起算して2年以内(JASDAQは、3年以内)に行う予定のある場合に限る)のある場合で、申請会社が実質的な存続会社でなくなる場合
→企業実態を把握することが困難となるため、上場申請は受理されません。
③合併、株式交換または株式移転(マザーズを除く)
申請会社が、解散会社となる合併、他の会社の完全子会社となる株式交換または株式移転を行う予定(上場申請日の直前事業年度の末日から起算して2年以内(JASDAQは3年以内)に行う予定のある場合で上場日以前に行う予定のある場合を除く)の場合
→上場廃止となる予定のある会社が上場することは好ましくないことから、上場申請は受理されません。
実質基準とは
上場審査で上場を認めるかどうかを判断する基準となる具体的な項目を「実質審査基準」といいます。
東京証券取引所は、有価証券上場規程で市場ごとに5つの適格要件を定めています。具体的な判断は「上場審査等に関するガイドライン」に基づき判断されることになります。
実質基準についても、各市場により、多少の違いはあります。ただし、上場会社として適格性の基本的な考え方は、共通しています。
以下で、「5つの適格要件」を見ていきましょう。
企業の継続性及び収益性
事業計画が適切に作成されていることを前提に、事業が安定的に継続または成長する見通しがあるかについて確認がされます。
また、事業計画を遂行するうえで必要な事業基盤の整備状況、またはその構築の見込みについても確認されます。
例えば、本則市場においては、以下のような基準で判断がされます。
①事業計画が、そのビジネスモデル、事業環境、リスク要因等を踏まえて、適切に策定されていると認められること
②今後において安定的に相応の利益を計上することができる合理的な見込みがあること
③経営活動が、安定かつ継続的に遂行することができる状況にあること
企業経営の健全性
株主(特に一般株主)の利益保護の観点から、公正に事業運営がなされているかについて確認がされます。
例えば、本則市場においては、以下のような基準で判断がされます。
①関連当事者その他の特定の者との間で、取引行為その他の経営活動を通じて不当に利益を供与又は享受していないこと
②役員の相互の親族関係、その構成、勤務実態又は他の会社等の役職員等との兼職の状況が、公正、忠実かつ十分な業務の執行又は有効な監査の実施を損なう状況でないこと
③(申請会社が親会社等を有している場合)親会社等からの独立性を有する状況にあること
企業のコーポレートガバナンス及び内部管理体制の有効性
企業の収益性の向上や公正な事業運営の確保、適切なディスクロージャーの実施などを組織的に継続できるかの観点から、コーポレート・ガバナンスおよび内部管理体制が構築されているかについて確認がされます。
例えば、本則市場においては、以下のような基準で判断がされます。
①役員の適正な職務の執行を確保するための体制が、適切に整備、運用されている状況にあること
②内部管理体制が適切に整備、運用されている状況にあること
③経営活動の安定かつ継続的な遂行及び適切な内部管理体制の維持のために必要な人員が確保されている状況にあること
④実態に即した会計処理基準を採用し、必要な会計組織が、適切に整備、運用されている状況にあること
⑤法令遵守の体制が適切に整備、運用され、重大な法令違反となるおそれのある行為を行っていない状況にあること
企業内容等の開示の適正性
投資家が判断するために必要な会社情報を適時・適切に開示できる体制の構築状況、情報管理の体制について確認がされます。
例えば、本則市場においては、以下のような基準で判断がされます。
①経営に重大な影響を与える事実等の会社情報を管理し、当該会社情報を適時、適切に開示することができる状況にあること及び内部者取引等の未然防止体制が適切に整備、運用されていること
②企業内容の開示に係る書類が法令等に準じて作成されており、かつ、投資者の投資判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項や、主要な事業活動の前提となる事項について適切に記載されていること
③関連当事者その他の特定の者との間の取引行為又は株式の所有割合の調整等により、企業グループの実態の開示を歪めていないこと
④(申請会社が親会社等を有している場合)当該親会社等に関する事実等の会社情報を、投資者に対して適時、適切に開示できる状況にあること
その他公益および投資者保護の観点から各取引所が必要と認める事項
公益および投資者保護の観点から問題がないか、確認されます。
例えば、本則市場においては、以下のような基準で判断がされます。
①株主の権利内容及びその行使の状況が公益又は投資者保護の観点で適当と認められること
②経営活動や業績に重大な影響を与える係争又は紛争等を抱えていないこと
③反社会的勢力による経営活動への関与を防止するための社内体制を整備し、当該関与の防止に努めていること及びその実態が公益又は投資者保護の観点から適当と認められること
④その他公益又は投資者保護の観点から適当と認められること
詳細を、日本取引所グループ(J P X)の運営する、5つの市場ごとにまとめたものです。
本則市場 | マザーズ | JASDAQスタンダード | JASDAQクローズ | |
---|---|---|---|---|
(1) | 継続的な事業かつ安定的な収益基盤 | 事業基盤の整備又は、整備する合理的な見込みがある | 存続に支障をきたす状況にない | 成長可能性を有する |
(2) | 事業の公正かつ忠実な遂行 | 事業の公正かつ忠実な遂行 | 市場を混乱させる企業行動を起こす見込みがない | 市場を混乱させる企業行動を起こす見込みがない |
(3) | 適切に整備され、機能している | 企業の規模や成熟性に応じた整備され、適切に機能している | 企業の規模に応じた企業統治および内部管理体制の確立、有効に機能している | 成長の段階に応じた企業統治及び内部管理体制が確立し、有効に機能している |
(4) | 企業内容等の開示を適正に行うことができる状況 | |||
(5) | 投資家保護の観点から、当取引所が必要と認める事項 |
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