澤田直彦
監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 代表弁護士
IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「関係会社とは?上場審査におけるチェックポイントも解説 関係会社の整備1」
について、わかりやすく解説します。
はじめに
上場審査では、株主の利益を保護する観点から、申請会社の企業グループが、事業を公正かつ忠実に遂行しているかどうかの、確認がされることになります。
そのため、まずは、関係会社の範囲を適切に把握することが必要となります。
以下で、その内容を詳しく見ていきましょう。
関係会社とは?定義(親会社・子会社・関連会社)
関係会社とは、親会社、子会社、関連会社、その他の関係会社をいいます(財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(以下「財規」といいます)8条8号)。
ここでは、【子会社、関連会社、親会社】の順に、説明をいたします。
子会社について
ア 判断基準
子会社とは、申請会社が財務及び営業又は事業の方針を決定する機関を支配している会社等をいいます(財規8条3号)。
他の会社等の意思決定機関を支配している会社等とは、次に掲げる会社等をいいます(財規8条4号)。
一 | 他の会社等の議決権の過半数を自己の計算において所有している会社等 | |
---|---|---|
二 | 他の会社等の議決権の100分の40以上、100分の50以下を自己の計算において所有している会社等であってかつ、次に掲げるいずれかの要件に該当する会社等 | |
イ | 自己の計算において所有している議決権と自己と出資、人事、資金、技術、取引等において緊密な関係があることにより自己の意思と同一の内容の議決権を行使すると認められる者及び自己の意思と同一の内容の議決権を行使することに同意している者が所有している議決権とを合わせて、他の会社等の議決権の過半数を占めていること。 | |
ロ | 役員若しくは使用人である者、又はこれらであつた者で自己が他の会社等の財務及び営業又は事業の方針の決定に関して影響を与えることができる者が、当該他の会社等の取締役会その他これに準ずる機関の構成員の過半数を占めていること。 | |
ハ | 他の会社等の重要な財務及び営業又は事業の方針の決定を支配する契約等が存在すること。 | |
ニ | 他の会社等の資金調達額(貸借対照表の負債の部に計上されているものに限る。)の総額の過半について融資(債務の保証及び担保の提供を含む。)を行っていること(自己と出資、人事、資金、技術、取引等において緊密な関係のあるものが行う融資の額を合わせれ総額の過半となる場合を含む。) | |
ホ | その他他の会社等の意思決定機関を支配していることが推測される事実が存在すること。 | |
三 | 自己の計算において所有している議決権と自己と出資、人事、資金、技術、取引等において緊密な関係があることにより自己の意思と同一の内容の議決権を行使すると認められる者及び自己の意思と同一の内容の議決権を行使することに同意している者が所有している議決権とを合わせた場合(自己の計算において議決権を所有していない場合を含む。)に他の会社等の議決権の過半数を占めている会社等であって、かつ、前号口からホまでに掲げるいずれかの要件に該当する会社等 |
イ 判断のポイント
従来、子会社にあたるかの判断については、議決権比率により形式的な判断がされていました。
しかし、近年では、実質的な支配力によって判定がなされるため注意が必要です。
子会社に該当するか否かの判断が非常に難しいケースが存在します。
判断にあたっては、主幹事証券会社や監査法人等の判断を仰ぐ必要があります。
そのため、申請会社としては子会社として認識していなかった会社を、監査法人に子会社として取り扱うよう指導されるケースもあります。
例えば、
議決権の過半数を所有しなければ子会社に該当しないであろうという安易な判断で出資や貸付けを実行したところ、その他役員の兼任の状況や取引、契約関係から実質的に当該会社を支配していると判定され、子会社として取り扱わなければならなくなるケースも発生しています。
子会社か否かの判断にあたっては、役員やその近親者の他の会社への出資の状況、それらの会社と申請会社との取引の状況にもあわせて留意する必要があります。
また、子会社がある場合、
●基本的には連結財務諸表の作成が必要です
●決算体制の構築や関連する規程の作成等、社内管理体制の整備にも大きく影響します
したがって、上場準備の早い段階で、申請会社と人的・資本的に関係のある会社について、子会社であるかどうか検討を行う必要があります。
関連会社について
ア 判断基準
関連会社とは、会社等及び当該会社等の子会社が、出資、人事、資金、技術、取引等の関係を通じて、子会社以外の他の会社等の財務及び営業又は事業の方針の決定に対して重要な影響を与えることができる場合における当該子会社以外の他の会社等をいいます(財規8条5号)。
また、重要な影響を与えることができる会社とは、次に掲げる会社等をいいます(財規8条6号)。
一 | 子会社以外の他の会社等の議決権の100分の20以上を自己の計算において所有している場合 | |
---|---|---|
二 | 子会社以外の他の会社等の議決権の100分の15以上、100分の20未満を自己の計算において所有している場合であって、かつ、次に掲げるいずれかの要件に該当する場合 | |
イ | 役員若しくは使用人である者、又はこれらであつた者で自己が子会社以外の他の会社等の財務及び営業又は事業の方針の決定に関して影響を与えることができる者が、当該子会社以外の他の会社等の代表取締役、取締役又はこれらに準ずる役職に就任していること。 | |
ロ | 子会社以外の他の会社等に対して重要な融資を行っていること。 | |
ハ | 子会社以外の他の会社等に対して重要な技術を提供していること。 | |
ニ | 子会社以外の他の会社等との間に重要な販売、仕入れその他の営業上又は事業上の取引があること。 | |
ホ | その他子会社以外の他の会社等の財務及び営業又は事業の方針の決定に対して重要な影響を与えることができることが推測される事実が存在すること。 | |
三 | 自己の計算において所有している議決権と自己と出資、人事、資金、技術、取引等において緊密な関係があることにより自己の意思と同一の内容の議決権を行使すると認められる者及び自己の意思と同一の内容の議決権を行使することに同意している者が所有している議決権とを合わせた場合(自己の計算において議決権を所有していない場合を含む。)に子会社以外の他の会社等の議決権の100分の20以上を占めているときであって、かつ、前号イからホまでに掲げるいずれかの要件に該当する場合 | |
四 | 複数の独立した企業により、契約等に基づいて共同で支配される企業に該当する場合 |
イ 判断のポイント
関連会社に該当するかどうかの判断についても、2(1)イで述べた【子会社の判断のポイント】の場合と同様の注意が必要です。
すなわち、形式のみではなく実質的に判断されます。そのため、子会社の場合と同様に、上場準備の早い段階で検討が必要です。
親会社について
ア 判断基準
親会社とは申請会社の財務及び営業又は事業の方針を決定する機関を支配している会社等をいいます(財規8条3号)。
その判定は、 2(1)ア で述べた、子会社の判定と同様です。
すなわち子会社においては、「他の会社に実質的に支配されて」いれば、子会社に該当すると判定されましたが、逆に「他の会社を実質的に支配している」と判定されれば、その会社は親会社に該当することになります。
イ 判断のポイント
親会社を有する場合は、申請会社は当然子会社となり、子会社上場という枠組みで上場審査がなされることになります。
近年、有価証券上場規程等が一部改正(2020年2月7日施行)され、子会社上場についての上場審査基準は、通常の上場準備に比較してハードルが高くなっています。
※ 詳しくは「上場子会社のガバナンスの向上等に関する上場制度の整備に係る 有価証券上場規程等の一部改正について」
をご覧ください。
したがって、申請会社が親会社を有するかどうかの検討も子会社や関連会社の場合と同様に、上場準備の早い段階で検討することが必要です。
また、他の会社から出資や融資を受け入れる場合にも、出資先や融資先の子会社に該当することになるかどうかを事前に検討し、場合によっては主幹事証券会社や監査法人に確認することが必要です。
特に、注意を要する場合として、2つの例を見ていきましょう。
①上場準備会社の株式が役員及び創業者一族の資産管理会社により所有されている場合
資産管理会社が上場準備会社の議決権の過半数を所有している場合、形式的に判断すれば親会社に該当する場合があります。
しかし、一定の条件を満たせば親会社として取り扱わないことができます。
すなわち、当該会社が役員及び創業者一族の純粋な資産管理のために存在し、当該会社が申請会社を支配している実態はなく、実質的に役員及び創業者一族が申請会社を支配していると判断することができれば、当該会社は親会社として取り扱わないことができるのです。
ただし、当該会社に、同族以外の役員が就任していたり、従業員を雇用していると資金管理のみを目的に存在した会社であるとは認められない場合もあるため、注意が必要です。
また、当該会社が資産管理以外の営利事業を別個に行っているような場合にも純粋な資産管理会社と判断することは難しく、親会社であると判断される可能性が高くなるので、留意すべきです。
② ベンチャーキャピタルからの出資を受け入れた結果、投資事業組合等のファンドが申請会社の議決権の過半数を持つ場合
このような場合において、当該投資事業組合等が他の会社の子会社であると判定された場合に、ファンドの親会社である会社が、申請会社の親会社に該当する可能性があります。
ただし、ベンチャーキャピタル等の投資企業が投資育成を図り、キャピタルゲインの獲得を目的とする営業取引として出資を行う場合に、申請会社の意思決定機関を支配していることに該当する要件を満たしていても、次の4つのうち全てをを満たすときは子会社に該当しないとされています。
b 申請会社との間で、出資以外の取引がほとんどない。
c 申請会社は、自己の事業を単に移転したり自己に代わって行うものとはみなせない。
d 申請会社との間に、シナジー効果も連携関係も見込まれない。
上場審査での視点
資本上位の関係会社が存在する場合
資本上位の関係会社(親会社やその他の関係会社、ここでは「親会社等」といいます。)が存在する場合、上場審査で通常の審査項目に加えて、どのような審査がなされるのか見ていきます。
審査の視点 | 具体的な検討項目 |
---|---|
① 親会社等からの独立性を有しているか | ア、 親会社等の一事業部門と認められる状況にないか イ、 申請会社グループの不利益となる取引がないか ウ、 親会社等からの出向者の受入状況が過度でないか |
②親会社情報を開示することができるか | エ、申請書類を作成することができるか オ、上場後の情報開示に問題はないか |
①親会社等からの独立性を有しているか
ア 親会社等の一事業部門と認められる状況にないか
申請会社が親会社等の一事業部門を分社化して設立されている場合は、申請会社の事業活動は親会社の事業活動の一部の機能を担っていると判断されます。
親会社等の関係会社の管理の方針に左右され、申請会社独自の経営を行えないような場合は、上場する会社として不適格と判断されます。
また、親会社等の企業グループのなかに、申請会社の事業内容と類似している事業を営んでいる会社が存在する場合は、親会社等が申請会社の利益よりもグループ全体の利益を優先させるおそれがあります。
!
親会社等のグループにおける申請会社の位置づけ、類似の事業を営むグループ企業の有無やその特徴等を検討する必要があります。
イ 申請会社グループの不利益となる取引がないか
申請会社と親会社等の取引が、通常の取引条件と著しく異なる条件で親会社から強制されている場合には、上場会社としての独立性が確保されていないと審査上判断されることになります。
!
親会社等との取引の有無を確認し、取引がなされている場合には、他の取引との取引条件の比較や、取引条件の設定方法、過去の推移を確認し、通常の取引条件と同様の条件かどうか検討する必要があります。
ウ 親会社等からの出向者の受入状況が過度でないか
申請会社の企業グループが、親会社等の企業グループから独立して事業を行ううえで、必要な人員を確保できる状況にあるかどうかが確認されます。
特に、申請会社の重要な意思決定にかかわる役職に、親会社等からの出向者が配置されている場合は、親会社等からの独立性が疑われる状況になります。
!
役員(特に常勤役員)やその他の重要な役職に親会社からの出向者がいるかどうか、出向契約が解消された場合に代替要員が確保できる状況にあるか、申請会社に転籍させることが可能かどうかを検討する必要があります。
②親会社情報を開示することができるか
エ 申請書類を作成することができるか
親会社等を有している場合で、特に当該会社が非上場の場合は、申請書類として親会社等に関する決算情報を作成しなければなりません。
そして決算情報の内容として、貸借対照表及び損益計算書を添付する必要があります。
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申請会社が親会社等の決算情報を適切に入手することができるか、親会社等が自らの決算情報を開示することに問題はないかを検討する必要があります。
オ 上場後の情報開示に問題はないか
申請会社は上場後においても、当該親会社等の決算情報を開示する必要があります。特に当該会社が非上場の場合に当該開示が可能かどうか検討する必要があります。
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申請会社が親会社等の決算情報を適時に把握できるか、当該親会社等との連絡体制を含め検討する必要があります。
資本下位の関係会社が存在する場合
資本下位の関係会社(子会社やその他の関係会社、ここでは「子会社等」といいます。)が存在する場合、上場審査で通常の審査項目に加えて、どのような審査がなされるのか見ていきます。
審査の視点 | 具体的な検討項目 |
---|---|
①不当な利益供与等の排除がなされているか | ア、 存在に合理性(事業上の必要性)があるか イ、 取引内容・条件に合理性(事業上の必要性)があるか |
②役員の構成かつ忠実な業務執行及び有効な監査が実施されているか | ウ、役員の状況に問題はないか |
③企業グループとしての利益管理の実施がなされているか | エ、経営状態が悪くないか オ、 管理体制が整備されているか |
①不当な利益供与等の排除がなされているか
ア 存在に合理性(事業上の必要性)があるか
申請会社の行っている事業との関連性が希薄で、シナジーも望めないような事業を行っている子会社や関連会社がある場合は、存在に合理性(事業上の必要性)があるとはいえません。
例えば、以下のような事例で問題となります。
●社歴が長い会社において、創業者親族の私的な趣味などのための会社に対して、申請会社が出資をしており、子会社になっている場合
子会社は申請会社の事業との関連性もなく、審査上問題となることが多いため株式の売却等の整理が必要となります。
●申請会社が行っている事業と同種の事業を関係会社が行っている場合
地理的な問題から特定の地域を別会社で分担させているような場合は、合理的に説明が可能です。
また、特定の地域における従業員の労働条件について、申請会社と区別が必要があるため別会社としているような場合も問題となりません。
!
子会社や関連会社となるに至った経緯は、出資日や出資比率の推移とあわせて合理的に説明できるように準備が必要です。
!
当該子会社や関連会社のグループ内における位置づけや事業上の必要性についても検討が必要です。
イ 取引内容・条件に合理性(事業上の必要性)があるか
子会社や関連会社と取引を行う場合、すべての取引について、当該取引を行う合理的な理由があるのかどうか検討する必要があります。
例えば、
●商品の売上・仕入については、外部業者との間に入ることで不透明な取引を行っていないか
●貸付けや債務保証について、申請会社がそれを行う必要があるか
●固定資産や不動産の売買・賃貸借取引についても行う必要があるか
また、申請会社が直接に取引行為を行っていなくとも、間接的に取引行為を行っている場合(債務の保証等)や、正当な対価がなく単にサービスとして業務を提供している場合についても確認の対象となります。
取引を行うこと自体に事業上の必要性がある場合には、更に取引条件についても検討が必要です。
●取引価格や支払条件、利率等は基本的にはグループ外の第三者と取引を行った場合と同様の条件である必要があります。
●取引条件が第三者との比較において妥当と認められる場合であったとしても、その取引行為に合理性(事業上の必要性)がない場合には、利益供与とみなされ、審査上問題となります。
②役員の構成かつ忠実な業務執行及び有効な監査が実施されているか
ウ 役員の状況に問題はないか
子会社や関連会社における経営上の意思決定が適切に行われているかどうか、役員の就任状況を調査する必要があります。
特に、子会社において同族色の強い役員構成の場合においては、同族役員の影響力が強いことが想定されるため、適切な意思決定が行えていない可能性があります。
!
各同族役員の就任経緯及び管轄業務、報酬の水準を検討する必要があります。
!
申請会社との兼任役員の報酬の支払状況についても留意する必要があります。
③企業グループとしての利益管理の実施がなされているか
エ 経営状況が悪くないか
上場審査は申請会社のグループ全体として実施されます。
そのため、経営状況が悪い子会社や関連会社がある場合は、注意が必要です。
!
赤字又は債務超過の会社が存在する場合、業績の回復の目処が立っているか、そのための施策は立案されているのか、事業計画が合理的に策定されているのかを検討する必要があります。
オ 関係会社の管理体制が整備されているか
上場審査は申請会社のグループ全体として実施されるため、子会社や関連会社の管理体制についても審査がなされます。
●それらの会社を管理する部署は定められているか
●管理する規程は整備されているか
●子会社や関連会社における重要な意思決定に関して申請会社が関与する方法及び決定事項の報告様式、頻度等について定められているか
について、検討する必要があります。
具体的な管理体制については、次回の記事関係会社との関係を解消・継続する場合の注意点 関係会社の整備2
にて、説明いたします。
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