澤田直彦
監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所
代表弁護士
IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「下請法とは?【違反した場合のペナルティについても解説】」
について、詳しくご説明します。
本記事の更新日:令和5年7月7日
下請法とは
下請代金支払遅延等防止法(下請法)は、資本金の規模が大きな企業と取引をした下請事業者が、大企業から不要な要求をされることを防ぐ目的で制定された法律です。
下請事業者は、大企業が重要な取引先となっているケースが多いので、大企業との関係が悪化してしまうと事業活動が立ち行かなくなってしまいます。
そのため、大企業から不当な要求をされたとしても、その要求をのまざるを得ない立場にあります。
そこで、下請事業者を大企業などによる不当な要求から守るために制定されたのが下請法です。この法律では、規模の大きな企業が小さい企業に対して不当な要求をすることを禁止しています。
下請法が適用される業務委託関係
下請法は、あらゆる業務委託関係に適用されるものではありません。
下請法が定める一定の内容の業務委託だけが、下請法によって規制を受けることになります。
また、下請法の定めるいずれかの業務について業務委託関係にあったとしても、それだけで下請法が適用されるわけではありません。発注側の事業者や受注側の事業者について、一定の資本条件がみたされていることが必要になってくるのです。
下請法の適用対象の基準
①取引の内容
②事業者の資本規模
下請法の適用対象取引~取引の内容
下請法の対象となる取引は大別して、①製造委託、②修理委託、③情報成果物作成委託、④役務提供委託の4つです(同法2条5項)。
製造委託とは
物品を販売し、または物品の製造を請け負っている事業者が、規格、品質、形状、デザインなどを指定して、他の事業者に物品の製造や加工などを委託することをいいます。ここでいう物品は動産のことを意味しており、家屋などの不動産は対象に含まれません。
なお、規格品や標準品を購入することは、原則として、事業者が仕様、内容等を指定していないため下請法上の「委託」にならず、製造委託に該当しません。しかし、規格品、標準品であっても事業者が仕様等を指定して他の事業者にその製造を依頼すれば「委託」に該当します。例えば、規格品の製造の依頼に際し、依頼者の刻印を打つ、ラベルを貼付する、社名を印刷する、又は、規格品の針金、パイプ鋼材等を自社の仕様に合わせて一定の長さ、幅に切断するというような作業を行わせること等がこの例です。
修理委託とは
物品の修理を請け負っている事業者が、その修理を他の事業者に委託したり、自社で使用する物品を自社で修理している場合に、その修理の一部を他の事業者に委託することなどをいいます。
情報成果物作成委託とは
ソフトウェア、映像コンテンツ、各種デザインなどの情報成果物の提供や作成を行う事業者が、他の事業者にその作成作業を委託することをいいます、情報成果物の代表的な例としては、以下のようなものがあり、物品の付属品・内臓部品、物品の設計・デザインに関わる作成物全般を含んでいます。
例
・プログラム
・映像や音声、音響などから構成されるもの
・文字、図形、記号などから構成されるもの
役務提供委託とは
他者から運送やビルメンテナンスなどの各種サービス(役務)の提供を請け負った事業者が、請け負った役務の提供を他の事業者に委託することをいいます。
ただし、建設業法に規定される建設業を営む事業者が請け負う建設工事は、下請法の対象とはなりません。
IT関係の会社で、特に注意しなければならないのは、「情報成果物作成委託」に該当するか否かについては、単に情報成果物の作成を委託したか否かで判断され、著作権の帰属とは関連しないということです。
結果的に下請業者に著作権が帰属するとしても、下請法が適用されない理由にはなりません。
弁護士 澤田 直彦
上述のとおり、建設工事に関する下請負(建設工事の再委託)には下請法は適用されません。
しかし、例えば、以下の場合には下請法の適用される行為となりますので、ご注意ください。
・建設業者が建設資材を業として販売しており、当該建設資材の製造を他の事業者に委託する場合:製造委託
・建設業者が請け負った建築物の設計や内装設計、又は工事図面の作成を他の事業者に委託する場合:情報成果物作成委託
・建売住宅を販売する建設業者が、建築物の設計図等の作成を他の事業者に委託する場合:情報成果物作成委託
下請法の適用対象事業者~事業者の資本規模
下請法では、取引当事者間の取引上の地位の優劣関係を各当事者の資本金の額(または出資の総額)を基準として定めています。
〈①製造委託、②修理委託、③プログラムにかかる情報成果物作成委託、④運送、物品の倉庫における保管及び情報処理に係る役務提供委託の場合〉
・親事業者が資本金3億円超の法人 → 子事業者が資本金3億円以下の法人、個人事業者
・親事業者が資本金1千万円超~3億円以下の法人 → 子事業者が資本金1千万円以下の法人、個人事業者
〈③情報成果物作成委託(プログラムの作成を除く)、④役務提供委託(運送、物品の倉庫における保管及び情報処理に係るものを除く)の場合〉
・親事業者が資本金5千万円超の法人 → 子事業者が資本金5千万以下の法人、個人事業者
・親事業者が資本金1千万円超~5千万円以下の法人 → 子事業者が資本金1千万円以下の法人、個人事業者
※この「情報成果物作成委託」は製造委託と類似の取引ですが、委託の対象となるものが物品ではなく情報成果物であるとの点で異なっています。
また、「役務提供委託」については、修理委託と類似の取引ですが、修理委託の場合と異なり、ユーザーから委託を受けた親事業者が再委託を行う場合のみが対象となっています。
適用された親事業者に対する規制
義務と遵守事項(禁止行為)の違い
下請法で定められた親事業者の義務については、下請法で規制されなければ親事業者は自由に判断できるはずの事項に関するものであり、親事業者が義務を履行しない場合は、罰則の対象となったり、下請法の規定に従った取り扱いがなされることになります。
一方、親事業者の遵守事項(禁止行為)については、下請法の規定がなくても契約法や独占禁止法上の優越的地位の濫用規制の観点から親事業者が遵守することが求められるような事項に関するもので、親事業者がこれを遵守しない場合は、公正取引委員会が勧告を行い是正を求めることになります。
親事業者の義務
下請法が適用された親事業者の義務は、以下のものがあります。
親事業者の義務
- 書面の交付義務(3条):発注の際は、ただちに3条書面を交付すること
- 支払期日を定める義務:下請代金の支払期日を給付の受領後60日以内に定めること
- 書類の作成、保存義務:下請取引の内容を記載した書類を作成し、2年間保存すること
- 遅延利息の支払義務 (4条の2):支払が遅延した場合は遅延利息を支払うこと
以下、各義務の内容について説明します。
書面の交付義務
親事業者は、発注に際して下記の具体的記載事項をすべて記載している書面(3条書面)を直ちに下請事業者に交付する義務があります。
〈3条書面に記載すべき具体的事項〉
(1) 親事業者及び下請事業者の名称(番号、記号等による記載も可)
(2) 製造委託、修理委託、情報成果物作成委託又は役務提供委託をした日
(3) 下請事業者の給付の内容(委託の内容が分かるよう、明確に記載する。)
(4) 下請事業者の給付を受領する期日(役務提供委託の場合は、役務が提供される期日又は期間)
(5) 下請事業者の給付を受領する場所
(6) 下請事業者の給付の内容について検査をする場合は、検査を完了する期日
(7) 下請代金の額(具体的な金額を記載する必要があるが、算定方法による記載も可)
(8) 下請代金の支払期日
(9) 手形を交付する場合は、手形の金額(支払比率でも可)及び手形の満期
(10) 一括決済方式で支払う場合は、金融機関名、貸付け又は支払可能額、親事業者が下請代金債権相当額又は下請代金債務相当額を金融 機関へ支払う期日
(11) 電子記録債権で支払う場合は、電子記録債権の額及び電子記録債権の満期日
(12) 原材料等を有償支給する場合は、品名、数量、対価、引渡しの期日、決済期日、決済方法
上記のような原則に対して、3条書面の必要記載事項のうち、その内容が定められないことについて正当な理由があるものについては、必要記載事項を記載しないままで書面を交付することができるという例外が認められています(3条1項ただし書)。
ただし、記載しなかった事項の内容が定まった後はただちにその事項を記載した書面を交付する必要があります。一定の事項を記載しないままに最初に交付する書面は「当初書面」、記載しなかった事項の内容が定まった後に交付する書面は「補充書面」と呼ばれています。
そして、「正当な理由」とは、「 取引の性質上、委託した時点では具体的な必要記載事項の内容を定めることができないと客観的に認められる理由 」のことをいうと考えられており、例えば、ソフトウェア作成の委託において、エンドユーザーが求める仕様が確定していないために、正確な委託内容を決定することができない場合がこれにあたります。
なお、取引を開始するにあたって契約書を取り交わすことは多いですが、契約書の内容が、3条書面の具体的な必要記載事項(下請代金の額については算定方法を記載することも可)を全て網羅していれば、個別の役務提供のたびに3条書面を交付する必要はありません。
支払期日を定める義務
親事業者は、下請事業者との合意の下に、親事業者が下請事業者の給付の内容について検査するかどうかを問わず、下請代金の支払期日を物品等を受領した日(役務提供委託の場合は,下請事業者が役務の提供をした日)から起算して60日以内でできる限り短い期間内で定める義務があります。
書類等の作成及び保存
「親事業者」は、「下請事業者」に対し、製造委託などをした場合に、給付内容、下請代金の金額など、取引に関する記録を書類(5条書類)として作成して、2年間保存することが義務付けられています。
〈5条書類に記載すべき具体的事項〉
- 下請事業者の名称(番号、記号等による記載も可)
- 製造委託、修理委託、情報成果物作成委託又は役務提供委託をした日
- 下請事業者の給付の内容(役務提供委託の場合は役務の提供の内容)
- 下請事業者の給付を受領する期日(役務提供委託の場合は、下請事業者が役務の提供をする期日・期間)
- 下請事業者から受領した給付の内容及び給付を受領した日(役務提供委託の場合は,下請事業者から役務が提供された日・期間)
- 下請事業者の給付の内容について検査をした場合は、検査を完了した日、検査の結果及び検査に合格しなかった給付の取扱い
- 下請事業者の給付の内容について、変更又はやり直しをさせた場合は、内容及び理由
- 下請代金の額(算定方法による記載も可)
- 下請代金の支払期日
- 下請代金の額に変更があった場合は、増減額及び理由
- 支払った下請代金の額、支払った日及び支払手段
- 下請代金の支払につき手形を交付した場合は、手形の金額、手形を交付した日及び手形の満期
- 一括決済方式で支払うこととした場合は、金融機関から貸付け又は支払を受けることができることとした額及び期間の始期並びに親 事業者が下請代金債権相当額又は下請代金債務相当額を金融機関へ支払った日
- 電子記録債権で支払うこととした場合は、電子記録債権の額、下請事業者が下請代金の支払を受けることができることとした期間の 始期及び電子記録債権の満期日
- 原材料等を有償支給した場合は、品名、数量、対価、引渡しの日、決済をした日及び決済方法
- 下請代金の一部を支払い又は原材料等の対価を控除した場合は、その後の下請代金の残額
- 遅延利息を支払った場合は、遅延利息の額及び遅延利息を支払った日
3条書面と5条書面の関係
発注内容、単価、納期等が記載された3条書面の写しを5条書類の一部とすることは可能です。
しかし、5条書類は取引の経緯を記載する書類なので、取引開始時に定めた事項のみが記載されて いる3条書面の写しを保存するだけでは、5条規則の記載事項を全て満たすことはできないため書類の作成・保存義務に違反することとなりますので、ご注意下さい。
遅延利息の支払義務
親事業者は、下請代金をその支払期日までに支払わなかったときは、下請事業者に対し、物品等を受領した日(役務提供委託の場合は、下請事業者が役務の提供をした日)から起算して60日を経過した日から実際に支払をする日までの期間について、その日数に応じ当該未払金額に年率14.6%を乗じた額の遅延損害金を支払う義務があります(下請法4条の2、下請代金支払遅延等防止法第4条の2の規定による遅延利息の率を定める規則)。
たとえ、契約で給付の70日後に支払いと定められており、70日後に下請代金の支払いをしたとしても、61日目から70日目までの分の遅延損害金を支払わなければならないことに注意が必要です。
親事業者の遵守事項(禁止行為)
親事業者には次の11項目の禁止事項が課せられています。たとえ下請事業者の了解を得ていても、また、親事業者に違法性の意識がなくても、これらの規定に触れるときには、下請法に違反することになるので十分注意が必要です。
〈親事業者の禁止行為〉
・受領拒否(1項1号):注文した物品等の受領を拒むこと
・下請代金の支払遅延 (1項2号):下請代金を受領後60日以内に定められた支払期日までに支払わないこと
・下請代金の減額(1項3号):あらかじめ定めた下請代金を減額すること
・返品(1項4号):受け取った物を返品すること
・買いたたき(1項5号):類似品等の価格又は市価に比べて著しく低い下請代金を不当に定めること
・購入,利用強制(1項6号):親事業者が指定する物、役務を強制的に購入、利用させること
・報復措置(1項7号):下請事業者が親事業者の不公正な行為を公正取引委員会又は中小企業庁に知らせたことを理由としてその下請事業者に対して、取引数量の削減、取引停止等の不利益な取扱いをすること
・有償支給原材料等の対価の早期決済(2項1号):有償で支給した原材料等の対価を、当該原材料等を用いた給付に係る下請代金の支払期日より早い時期に相殺したり支払わせたりすること
・割引困難な手形の交付 (2項2号):一般の金融機関で割引を受けることが困難であると認められる手形を交付すること
・不当な経済上の利益の提供要請(2項3号):下請事業者から金銭,労務の提供等をさせること
・不当な給付内容の変更及び不当なやり直し(2項4号):費用を負担せずに注文内容を変更し、又は受領後にやり直しをさせること
受領拒否の禁止
親事業者が下請事業者に対して委託した給付の目的物について、下請事業者が納入してきた場合、親事業者は下請事業者に責任がないのに受領を拒むと下請法違反となります。
〈違反行為事例〉
テレビ局 → 番組制作会社
下請事業者は放送番組の制作をすでに完了したところ、番組出演者の不祥事が発生したことを理由として当該番組を放送しないこととし、当該放送番組のVTRテープを受領しなかった場合。ジャスト・イン・タイム生産方式
いわゆるジャスト・イン・タイム生産方式においては、以下の事項を全て遵守することが必要となります。
ア 継続的な量産品であって、生産工程が平準化されているものについて、取引先下請事業者と の合意の上で導入する。
イ 3条書面は、事前に十分なリードタイムをとって交付する。この3条書面には、一定期間内において具体的に納入する日と、納入日ごとの納入数量を明確に記載する。
ウ ジャスト・イン・タイム生産方式による納入指示カードは、上記イの3条書面の納入日と納入日ごとの納入数量を微調整するために交付するものであるという考え方で運用する。
エ 納入回数及び1回当たりの納入数量を適正にし、かつ、無理な納入日(時間)の指示は行わないよう注意する。
オ ジャスト・イン・タイム生産方式の採用により輸送費等のコスト増が発生する場合には、下請代金について事前によく協議し、合意した上で実施する。
この方式では、上記イの3条書面が、一定期間における生産・納入を委託する3条書面に当たり、 上記ウの納入指示カードにより、その内容を変更していることとなります。
したがって、納入指示カードによる変更により、納入日が遅れたり、納入日ごとの納入数量が少なくなる場合には、それにより下請事業者に費用(保管費用、運送費用等の増加分)が発生したときにそれを全額負担しなければ、受領拒否又は不当な給付内容の変更として問題となります。
下請代金の支払遅延の防止(支払いは60日以内というルール)
親事業者は物品等を受領した日(役務提供委託の場合は,役務が提供された日)から起算して60日以内に定めた支払期日までに下請代金を全額支払わないと下請法違反となります。
〈違反行為事例〉
ソフトウェア販売事業者 → ソフトウェアメーカー
検収後支払を行う制度を採用しているところ、納入されたプログラムの検査に3ヵ月を要したため、納入後60日を超えて下請代金を支払っていた場合。
下請代金の減額
親事業者は発注時に決定した下請代金を「下請事業者の責に帰すべき理由」がないにもかかわらず発注後に減額すると下請法違反となります。
〈違反行為事例〉
ゲームソフトメーカー → デザイン制作会社
オンラインゲームの開発にあたり、キャラクターデザイン等の制作を委託しているところ、業績の悪化により制作に係る予算が減少したことを理由に、下請代金の額を減じていた場合。
「歩引き」や「手数料」等の名目で、慣行として下請事業者に支払う下請代金の額から差し引くことが行われている場合がありますが、このような行為も下請代金を差し引く名目にかかわらず、発注時に決定した下請代金の額を発注後に減ずることは本法違反となります。
返品の禁止
親事業者は下請事業者から納入された物品等を受領した後に、その物品等に瑕疵があるなど明らかに下請事業者に責任がある場合において、受領後速やかに不良品を返品するのは問題ありませんが、それ以外の場合に受領後に返品すると下請法違反となります。
〈違反行為事例〉
電気機器メーカー → 部品メーカー
生産計画の変更を理由に、余剰になった部品を返品していた場合。
買いたたきの禁止
親事業者が発注に際して下請代金の額を決定するときに、発注した内容と同種又は類似の給付の内容(又は役務の提供)に対して通常支払われる対価に比べて著しく低い額を不当に定めることは「買いたたき」として下請法違反になります。
通常支払われる対価とは、同種又は類似品等の市価です。下請代金は、下請事業者と事前に協議の上、定めることが必要です。
〈違反行為事例〉
ソフトウェア販売事業者 → ソフトウェアメーカー
下請事業者に見積させた当初よりも納期を大幅に短縮したにもかかわらず、当初の見積価格により通常の対価を大幅に下回る下請代金の額を定めた場合。
購入・利用強制の禁止
親事業者が、下請事業者に注文した給付の内容を維持するためなどの正当な理由がないのに、親事業者の指定する製品(自社製品を含む)・原材料等を強制的に下請事業者に購入させたり、サービス等を強制的に下請事業者に利用させて対価を支払わせたりすると購入・利用強制となり、下請法違反となります。
〈違反行為事例〉
生活用品メーカー → 生活用品加工業者
自社製品のセールスキャンペーンにあたり、各工場の購買・外注担当部門等を通じて、下請事業者ごとに目標額を定めて、自社製品の購入を要請し、購入させていた場合。
報復措置の禁止
親事業者が、下請事業者が親事業者の下請法違反行為を公正取引委員会又は中小企業庁に知らせたことを理由として、その下請事業者に対して取引数量を減じたり、取引を停止したり、その他不利益な取扱いをすると下請法違反となります。
有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止
親事業者が下請事業者の給付に必要な半製品、部品、付属品又は原材料を有償で支給している場合に、下請事業者の責任に帰すべき理由がないのにこの有償支給原材料等を用いて製造又は修理した物品の下請代金の支払期日より早い時期に当該原材料等の対価を下請事業者に支払わせたり下請代金から控除(相殺)したりすると下請法違反となります。
〈違反行為事例〉
金属メーカー → 部品メーカー
半年分の原材料をまとめて買い取らせ、当該原材料を用いた給付に係る下請代金の支払期日よりも早い時期に、当該原材料の代金を決済していた場合。
割引困難な手形の交付の禁止
親事業者は下請事業者に対し下請代金を手形で支払う場合、支払期日までに一般の金融機関で割り引くことが困難な手形を交付すると下請法違反となります。
〈違反行為事例〉
工業機械メーカー → 部品メーカー
手形期間が120日(繊維業以外の業種において認められる手形期間)を超える手形を交付していた場合。
※繊維業は、90日を超える手形を交付した場合、違反行為となります。
不当な経済上の利益の提供要請の禁止
親事業者が、下請事業者に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させることにより、下請事業者の利益を不当に害すると下請法違反となります。
下請代金の支払いとは独立して行われる、協賛金や従業員の派遣などの要請が該当します。
〈違反行為事例〉
番組制作会社 → 番組制作会社
下請け事業者との契約により、下請事業者に発生した番組の知的財産権を譲渡させていたところ、それに加えて、番組で使用しなかった映像素材の知的財産権を無償で譲渡させていた場合。
不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止
親事業者が下請事業者に責任がないのに、発注の取消若しくは発注内容の変更を行い、又は受領後にやり直しをさせることにより、下請事業者の利益を不当に害すると下請法違反となります。
〈違反行為事例〉
ソフトウェア販売業者 → ソフトウェアメーカー
既に一定の仕様を示してソフトウェアの開発を委託していたが、最終ユーザーとの打ち合わせの結果仕様が変更されたとして途中で仕様を変更し、このため下請事業者が当初の指示に基づいて行った作業が無駄になったが、当初仕様に基づく作業は納入されたソフトウェアとは関係がないとして当該作業に要した費用を負担しなかった場合。
下請法に違反した場合
公正取引委員会等によるペナルティ
下請取引が公正に行われているか否かを把握するため、公正取引委員会及び中小企業庁により毎年、親事業者、下請事業者に対する書面調査が行われています。また、必要に応じて、親事業者の事業所等に赴くなどして、親事業者の保存している取引記録などの帳簿書類等が調査されます。
親事業者が下請法に違反した場合、公正取引委員会により、それを取り止めて原状回復することが求められ、再発防止などの措置を実施するよう、勧告が行われます。勧告が行われた場合は、原則としてその旨が公表されます。
また、親事業者が以下のような違反行為を行った場合には、違反者である個人、そして親事業者である会社も罰せられます。罰金の上限額は、最高50万円となっています。
- 発注内容等を記載した書面の交付義務違反
- 取引内容を記載した書類の作成,保存義務違反
- 報告徴収に対する報告拒否,虚偽報告
- 立入検査の拒否、妨害、忌避
下請法違反行為の私法上の効力
下請法は、親事業者の下請事業者に対する取引を公正なものとするための取締法規であり、一般には、取締法規に反する行為であっても公序良俗に反するなどの事情がなければ、その民事法上の効力は否定されないと考えられています。
そのため、下請法に違反することを理由として、親事業者と下請事業者との間の契約や取決めが無効とされることはほとんどないと考えられます。
下請法に関するガイドライン
下請法に関する法令やガイドライン等については、下記の公正取引委員会のページをご参照ください。
まとめ
以上のように、一定の資本条件をみたす事業者に対して、指定される委託業務につき、下請法の規制を受けるため、雇用関係にないといえるからといって、油断してはいられないところです。
適用対象となるか否かの詳細な判断については、公正取引委員会のサイトも参考になるため、参照してみてください。
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