澤田直彦
監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所
代表弁護士
IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「試用期間を延長するにはどんな理由が必要?~労務トラブルの回避~」
について、詳しくご説明します。
試用期間とは?法的性質
試用期間とは、本採用の前に行われる従業員としての適格性判定のための試みの期間をいいます。
新入社員や中途採用者の入社後、正社員として本採用する前に、試用期間が設けられることも少なくありません。
この試用期間は、実際に就労をさせながら、採用した労働者が職業能力や企業適応性があるかの最終チェックを行うことが目的です。
もっとも、実際の試用期間は、このような適格性の判定期間としての目的だけでなく、実地による研修・教育期間としての目的(後述→4)を併せ持つことも少なくありません。
特に新卒採用の場合は、むしろ後者の意味合いの方が強いこともあります。
しかし、それによって適格性の判定期間としての性格が失われる訳ではなく、また能力主義型の雇用制度がとられている場合や即戦力として雇用される中途採用者の場合(後述→8)は、試用期間における適格性の判定期間としての性格がより強くなってくるでしょう。
そこで、試用期間終了時に、使用者は適格性の欠如を理由に本採用を自由に拒否できるのか、その前提として、そもそも試用期間は法的にどのような意味を持つのかが問題となります。
判例として、下記のようなものがあります。
最高裁は、試用期間の法的性質は個々のケースにより異なりうるとしつつも、新規学卒社員の一般的な試用期間について、従業員として不適格であると認めたときは解約できるという、特別の解約権が留保された労働契約であると判断しています(三菱樹脂本採用拒否事件・最大判昭48・12・12民集27巻11号1536頁)。
また裁判例には、中途採用社員の試用期間についても解約権留保付労働契約であると判断をしたものがあります(オープンタイドジャパン事件・東京地判平14・8・9労判836号94頁など)。
本採用拒否の可否
本採用拒否の適法要件(試用期間のルール)
このように、試用期間の法的性質を解約権留保付労働契約と解する場合には、試用期間中は特別の解約権が留保されているだけで、すでに期間の定めのない労働契約が成立しており、留保解約権が行使(本採用拒否)されなければ、そのまま労働契約が存続することになります。
また留保解約権が行使されても、それが無効であれば、労働者は使用者に対し本採用後の労働契約上の(従業員としての)地位を確認する請求ができます。
本採用拒否の可否については、留保解約権の行使の適法性によって判断されます。
裁判例は、新規学卒社員の一般的な試用期間において解約権が留保されている趣旨について、採否決定の当初においては、従業員としての適格性の有無に関連する事項について必要な調査を行って、適切な判定資料を十分に収集することができないため、後日の調査や観察に基づく最終決定を留保するためのものとされています。
したがって、留保解約権の行使(本採用拒否)は通常の解雇よりは広い範囲で認められるとしている点がポイントです。
しかし、それは「解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合」にのみ許されます(前記・三菱樹脂本採用拒否事件)。
具体的には、使用者が労働者に関し、
- ①採用決定後の調査の結果または試用期間中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合で、かつ、
- ②その者を引き続き雇用するのが適当でないと判断することが客観的に相当である場合
に、本採用拒否が可能となります(試用期間のルール)。
これにより、試用期間中の身元調査によって新たに判明した事実に基づく本採用拒否も許されることになります。
他方で、出勤日数のような客観的事項に問題がなければ、まず容易には不採用にはできず、「協調性がない」とか「能力に疑問」といった曖昧な理由による本採用拒否は、裁判に持ち込まれると使用者側が不当とされ、敗訴する可能性が高くなります。試用期間を設けていても、労働契約そのものはすでに成立しているとみなされるためです。
労働者の身分を不安定にしてしまう試用期間だからこそ、解雇しやすくするための言い訳に使っていないか、とりわけ注意が必要です。
能力不足による本採用拒否は?
それでは、ご質問にあるように
能力不足について、上記の①、②の要件を満たし、本採用拒否が有効になる場合とはどのような場合でしょうか。
試用期間中というのは本来教育訓練を行うことが要求される時期であることからすれば、その過程において発覚した能力不足が「その者を引き続き当該企業に雇傭しておくのが適当でない」というレベルであるためには、今後教育訓練を続けても改善する見込みがないことまで立証する必要があります。
前述した本採用拒否の法的性質からすれば、正社員の解雇よりも「範囲が広い」と解されていますが、能力不足に基づくものについては本当に広いといえるのか、実務的感覚からすれば疑わしい面もあります。
澤田直彦
以上から、能力不足による本採用拒否については、実際に裁判で争った場合の有効性が担保できるケースは多くないので、まずは「退職勧奨を」中心に、退職の条件交渉を進めることが多く見られます。
ただし、その際の留意点としては、退職勧奨中に試用期間を経過して、本採用拒否とならないように、試用期間が経過しそうな際には、就業規則に基づき、試用期間延長の手続きを取って下さい。
(就業規則に延長手続きの規定がない場合は、合意により試用期間を延長したとしても、就業規則を下回る合意となって、労契法12条により当該合意が無効となる可能性があります)。
なお、試用期間の延長規定について、「その適用は、これを首肯できるだけの合理的な事由のある場合でなければならない」(大阪読売新聞社事件大阪高判昭45.7.10)とされていますが、能力不足の疑いがあり、本採用の適否を明らかにするためという理由による延長は合理的とするのが一般的でしょう。
退職勧奨については、こちらの記事をご参照ください。
経歴詐称は?
経歴詐称を理由とする、本採用拒否については、そのすべてを合理的な理由として本採用拒否とできる訳でもありません。
●職務との相関関係から労働者の職業能力または業務適性に疑義があった場合
●社内秩序維持に支障を来すと認められる場合
●その他当該労働者との信頼関係に重大な支障を生じさせる場合
については、本採用拒否が有効となり得るでしょう。
特に、有効性を判断する際、「当該事実を採用選考時に知っていれば採用しなかった」といえるかが重要でしょう。
また、直近の経歴詐称を防止するためには、前職の退職証明(労基法22条1項)を取得させることが有効です。
退職証明には、「退職の事由(退職の事由が解雇の場合には、その理由を含む)(同条項)が記載されるため、客観的資料により確認できるからです。
この点、退職証明については、「労働者の請求しない事項を記入してはならない」(同条3項)とされていますが、採用選考時に「退職事由が記載されている退職証明書を持参して下さい」と告げておけばよいでしょう。
もちろん、この退職証明書の取得は労働者のみが行うことができるものであり、会社として労働者の意に反して取得することはできません。
仮にその提出に同意しない選考対象者がいる場合は、その理由を確認することにより、採用決定にあたっての判断材料とすればよいでしょう。
本採用拒否が許された裁判例
次に本採用拒否が許された裁判例を見ていきましょう。
試用期間中の成績不良は、社員としての欠格事由となりますので、
①試用期間中の出勤率不良、例えば、会社の試用期間中の社員の継続雇用に関する認定基準内規上、試用期間中の出勤率が90%に満たない場合、あるいは3回以上無断欠席した場合などには、社員として継続雇用しないものとされている事案について、それに該当した社員を認定基準内規に照らし社員として不適格と判断した本採用拒否による解雇は正当とされています(日本コンクリート工業事件・津地決昭46・5・11労判136号6頁)。
また、②コンクリートミキサー車運転手の著しい安全作業の怠りを理由とする業務不適格の判断は不相当とはいえないとされ(静岡宇部コンクリート事件・東京高判昭48・3・23判時703号95頁)、
さらに、③バス運転手の試用期間中の粗暴な放言、軽率な発言により同僚多数の反発を買う非協調性などを理由とする解雇は有効とされています(新田交通解雇事件・東京地判昭40・10・29判時433号51頁)。
加えて、④履歴書や職務経歴書の虚偽記載、同種業務である前職での就業及び解雇の事実の秘匿は、従業員として適格性を損なう事情となり、本採用拒否は有効とされています(アクサ生命保険ほか事件・東京地判平21・8・31労判995号80頁)。
期間の定めのある労働契約と試用期間のルールとの関係性
期間の定めのある労働契約とは、契約期間の満了日が設定された雇用契約をいいます(有期労働契約とも呼びます)。
本来、期間の定めのある労働契約であれば、使用者は適格性がないと判断した場合には、期間満了によって当然に労働契約を終了させることができるのが原則です。
しかし、採用前、使用者側から、当初の1年間は契約社員として雇用し、この間の勤務状態を見て無期雇用にするかどうかを判定するとの説明があったものの、1年後、使用者側から雇用契約を終了する旨の通知がなされたという事案がありました。
期間の定めのある労働契約の形式をとっている場合でも、職務内容が正社員と変わりがなく、その契約期間の設定の趣旨が労働者の適格性を判断する(適格性を判断した上で特に問題がなければ正社員として雇用する)というものであれば、期間の定めは、期間満了により当然に終了するという明確な合意があるなどの特別な事情が認められる場合を除き、契約の存続期間ではなく、期間の定めのない労働契約における試用期間と解されます(神戸弘陵学園事件・最三小判平2・6・5民集44巻4号668頁)。
つまり、「試用期間中は有期雇用」と言ったとしても、実態が試用期間であれば、特に労働者に問題がない時は原則的に本採用すべきものとなります。
事前に説明をせず、いざ入社してから、「試用期間=有期雇用で、契約期間満了で解雇」という理屈は通用しません。
その場合、期間満了を理由とする契約の打切りは、期間の定めのない労働契約における留保解約権の行使(本採用拒否)と理解されることになり、客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当として是認されうる場合でなければ許されないことになりますので、注意してください。
もっとも、現行法が有期契約の利用目的を制限していない以上、上記の判断枠組みは、そもそも有期契約か無期契約かがはっきりしないような特殊ケースに限り適用されるものと考えられます。
当事者の認識などからも、無期契約ではなく有期契約であることが明らかな場合には、適格性判断のために契約期間が設定されていたとしても、試用期間のルールは適用されないと解すべきです(福原学園事件・最一小判平28・12・1集民254号21頁)。
試用期間中の指導・教育
試用期間は、労働者の能力・資質等の適格性を判定するための期間ですが、指導・教育期間でもありますので、指導・教育をしても十分な職務能力を発揮できないという場合でないと、留保解約権の行使(本採用拒否)は難しいと言えます。
裁判例も、試用期間中に「右教育によってたやすく矯正し得る言動、性癖等の欠陥を何ら矯正することなく放置して、それをとらえて解雇事由とすることは許されない。また職場の対人的環境への順応性及び職場における労働力の発揮力といっても、その学歴、就くべき職種を考慮に入れた上、その平均的労働者を標準とすべきものである」(日本軽金属事件・東京地判昭44・1・28労判73号10頁)と判示しています。
留保解約権行使の時期
試用期間は、従業員としての適性を判断するための期間として労使間で合意したものですから、原則的に途中で、適格性なしと判断して留保解約権を行使することは、使用者において、労働者の同意なく試用期間を短縮するに等しく許されません。
試用期間満了前に留保解約権を行使できるのは、その旨の規定があるか、試用期間の満了を待つまでもなく労働者の資質、性格、能力等を把握することができるような特別な事情があることが必要です(ニュース証券事件・東京高判平21・9・15労判991号153頁)。
したがって、試用期間を3ヶ月とした場合に、改善の見込みが全くないとは言えないにもかかわらず、20日間程度の試用期間を残して、事務能力の欠如を理由としてなした本採用拒否は、「客観的に合理的理由を有し社会通念上相当であるとまでは認められない」として無効とされることがあります(参考判例:医療法人財団健和会事件・東京地判平21・10・15労判999号54頁)。
これに対し、前歴及び前職での解雇の事実を秘匿したり履歴書や職務経歴に虚偽があったりする場合は、経歴詐称と評価でき、従業員としての適格性を損なう事情であり、解約権の行使が試用期間中になされたとしても、「正当な理由があり、解雇権を濫用したものとはいえない」とされます(前記・アクサ生命保険ほか事件)。
解雇予告はいつすべき?
ちなみに、労働基準法は、突然の解雇により労働者の生活の破綻を避けるために、使用者が労働者を解雇しようとする場合においては、原則として少なくとも30日前に予告をするか、あるいは30日分以上の平均賃金を支払わなければならないとしています(20条1項本文)。
もっとも、労基法21条4号に「試の使用期間中の者」とあり、労基法20条の解雇予告手続きの適用が除外され、解雇予告の必要があるのか問題となります。
しかし、試用期間中の労働者が、14日を超えて引き続き雇用された場合、解雇をなすには、解雇予告手続きをとる必要があります(労基法21条但書)。
これは、試用期間の長さを制限するものではありませんので、試用期間を3ヶ月とすることはできますが、このような試用期間の定めがあっても、14日を超えて引き続き雇用された場合には解雇予告手続きが適用されることになります。
つまり、14日を超えて雇用した場合には、試用期間の解雇でも本採用後の解雇と同様に、30日以上前の解雇予告が必要になります。
試用期間の長さについて
試用期間は、法律で規定されているものではありません。
就業規則を内容とする使用者と労働者との間の労働契約に基づいて、はじめて認められるものです。
したがって、試用期間について当事者間で合意すれば、自由に期間を定めることができることになります。
ただし、これは不適格性を判断するために必要な期間であり、雇用時の労使間の力関係も考えれば、公序良俗に反さず有効とされる期間はおのずから限定されます。
試用期間を1年とする企業もありますが、不安定な身分の状態を1年以上続けるのは問題があり、場合によっては公序良俗違反の可能性もあります(公序良俗とは、行為の社会的妥当性を意味し、これに反する法律行為は無効です〔民法90条〕)
試用期間は3ヶ月~6ヶ月である会社が多数となっており、1年とする会社は特別な理由がある場合に限られます。
また、期間を定めていない試用期間は法律的には無効です。
適性を判断するために必要な期間を試用期間として設けているので、期間を定めずに、使用者がよいと言うまで試用期間中とするのは有り得ません。その場合、試用期間ではなく最初から本採用されて、期間の定めのない労働契約が結ばれていたことになります。
試用期間の延長
それから、ご質問のケースのように、特別な理由なしに試用期間を延長することも問題があります。
試用期間が労働契約に基づく以上、この延長も使用者の一方的な意思ですることはできず、労働契約上に根拠がある場合に延長が有効となります。
これには2つあり、1つは就業規則に延長規定が明記してある場合です。この場合、個々の事案における試用期間延長の規定を適用するには、延長すること、および、延長する期間に合理性が求められます。
もう1つは就業規則ではなく個別の労働者との合意に基づく場合、
例えば、会社が不適格と認めたものの、本人の今後の反省によっては採用してもよいと会社が判断する場合です。
就業規則に基づく場合と比較すれば有効性は高くなりますが、労働者が真摯に同意しているかが問われます。
澤田直彦
実務的には、試用期間中に問題があったならば、早期に対処することが適当でしょう。
ご相談の中には、「やや協調性に欠ける」「問題点が散見される」という程度で、試用期間中の本採用拒否の理由としても十分とはいえない場合があります。
このような状況で試用期間を延長することは、使用者が判断しないで問題を先送りにしたにすぎず、かえって使用者の選択の輻を狭めることになります。
これまでと同様に本採用拒否の理由として不十分な問題点が散見され続け、使用者が不満を積もらせるだけのことが多いです。
単に試用期間を延長することは問題の解決につながりません。
延長するに際してその理由を具体的に労働者に説明することにより改善を強く求めて、本採用拒否にも備えるべきです。
延長後に労働契約を終了するか否かという結論を出した上で、紛争としないようにプロセスを進めることが大切です。
実際の現場では、人事担当者が当該労働者の事情にも配慮をみせた上で、 退職届を取り付ける努力をするべきでしょう。
期間中の法律関係
試用期間中の社員が残業した場合、会社は正社員と同様に残業代を支払う必要があります。
労働基準法37条に基づき、1日につき8時間、1週間では40時間の法定労働時間を超えて働いた分については、会社は少なくとも二割五分の割増賃金を支払わなければなりません。
中途採用者と試用期間
試用期間は、新卒者の場合に問題とされることが多く、中途採用者については、即戦力を期待されることから試用期間を設けることは、さほど多くはありません。
しかし、中途採用者の能力、適格性等、社員としての適格性に関する判断を必要とすることは中途採用の場合も新規採用の場合と何ら変わりません。
そのため、
- ①試用期間の適用をしない旨明確に特約して定めた場合、
- ②最初から正社員として採用した場合、
- ③最初から管理職として役付で採用した場合
を除いて、中途採用者であっても就業規則に定める試用期間の適用を受けた場合、試用期間付の労働契約を締結したことになります。
裁判例においても、中途採用者について、試用期間に関する就業規則の適用があることを当然の前提としています(前記・医療法人財団健和会事件、同ニュース証券事件)。
まとめ
- 試用期間とは、期間を定めて仕事に対する適性を判断するための期間です。
- 試用期間であっても、解雇には合理的な理由が必要となります。
- また、期限を決めないケース、当初約束した期間を延長するケースは無効です。いずれも、すでに本採用されているとみなされますので、就業規則の定め方に細心の注意を払いましょう。
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