澤田直彦
監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所
代表弁護士
IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「支払督促とは?債権回収の手段としての効果や注意点、手続きの流れを解説」
について、わかりやすくご説明いたします。
支払督促とは
支払督促とは、正式な裁判の手続を経ずに、判決と同様の金銭等の支払命令の処分を得るための手続です。
もし、支払督促が債務者へ送達されてから2週間以内に、債務者が督促異議の申し立てをしなければ、裁判所は、債権者の申し立てにより、支払督促に仮執行宣言を付さなければなりません。
そして、仮執行宣言付支払督促(民事執行法22条4号)は、債務名義としての意味をもちます。
債権者は、これに基づいて強制執行の申し立てをすることができます。
また、支払督促の対象は、金銭その他の代替物又は有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求に限られます(民事訴訟法382条、以下、民事訴訟法を「民訴法」といいます)。
支払督促は、簡易裁判所の書記官が発するものです(民訴法383条)。そして、原則として、債権者が申立書に記載した理由だけで証拠調べをせずに発せられます(民訴法386条)。
支払督促に対して、督促異議が出されれば通常訴訟に移行することになります(民訴法395条)。このおきの督促異議には理由を付す必要はなく、単に異議の意思表明だけでよいとされています。
また、支払督促に必要な印紙は、通常の訴訟の半額程度で足り(民訴費用3条別表1代10項)、通常訴訟より、費用が安いというメリットがあります。
例えば、100万円の債権の場合、通常訴訟では、10,000円の印紙が必要であるところ、支払督促の申立てでは、半額の5,000円の印紙で足ります。
さらに、支払督促手続きは、債権者の書面による申立てのみで、債権者の立ち会いなしに進行するため、訴訟のように、審理のために裁判所に出向くという手間が省けます。
また、このような特徴から、支払督促は通常の訴訟手続と異なり、訴訟手続上で、双方の話し合いによって裁判上の和解をするということができません。
もっとも、債権者が、仮執行宣言が付されるまでに裁判所に対して支払督促の異議申し立てをして通常訴訟への移行をした場合には、訴訟手続きとなるので、その訴訟手続きの中で裁判上の和解をすることはできます。
なお、裁判外での和解は、支払督促申し立て後であっても、または、債権者の督促異議により訴訟手続きに移行した場合でも可能です。
裁判外の話し合いの場において、支払方法や支払金額を変更することは妨げられません。そのため、支払督促の申し立て後においても、債務者から裁判外での和解を求められる可能性があることを心に留めておきましょう。
ただし、債務者の居住先が不明である場合には、支払督促を利用できません(民訴法382条ただし書)。
また、単なる異議の表明で通常訴訟に移行することになります。その場合、こちらとしては、支払督促よりも労力が大きい(審理のために裁判所に出向くこと等)通常訴訟に対応しなければならないので、相手方からの異議が見込まれる(例えば、債権の存在自体や債権額について争いの余地がある)場合には、適さない手段であるともいえます。
仮執行宣言とは
仮執行宣言とは、確定前の段階で強制執行ができることを意味します。支払督促に仮執行宣言が付されると、強制執行ができるようになります。
仮執行宣言は、支払督促が債務者に送達されてから、2週間以内に債務者が督促異議の申立てをしない場合に、支払督促の申立てを行った裁判所の書記官に対して債権者が申立てを行うことによって取得します(民訴法391条)。
すなわち、債権者が仮執行宣言の申立てができるのは、債務者に支払督促が送達されて、その異議の申立てがなく、2週間経過した時からになります。この2週間の期間は送達の翌日から計算します。
支払督促が債務者に送達されてから、2週間を経過した日の翌日から30日以内に仮執行宣言の申立てをしない場合には、支払督促自体が失効することになるため、期間には注意しましょう(民訴法392条)。
仮執行宣言前に債務者から督促異議(異議申立書の提出)があると、支払督促は失効します。そして、支払督促の申立てがあったときに訴えの提起があったものとみなされ、通常の訴訟手続に移行します(民訴法395条)。
これに対して、仮執行宣言後に債務者から督促異議がなされた場合、支払督促は失効せず、仮執行宣言が付された支払督促はそのまま継続します。
そのため、債権者はこの仮執行宣言付支払督促によって債務者の財産に対して強制執行することができます。
債務者が強制執行を止めるためには、別途、強制執行停止の裁判を提起し、この勝訴判決を執行機関に提出しなければなりません。
支払督促手続及び通常訴訟の裁判所の管轄
支払督促の申立先は、原則として、債務者の住所地を管轄する簡易裁判所の書記官(民訴法383条)です。
合意管轄があり、通常訴訟では他の管轄を選ぶことができる場合でも、支払督促は債務者の住所地を管轄する簡易裁判所へ申立てる必要があります。
支払督促が通常訴訟に移行した場合には、債務者の住所地を管轄する裁判所に事件が係属することになってしまうので、注意が必要です。
なお、債権の金額が140万円以上であっても、簡易裁判所の書記官に対して行います。
一方、支払督促に対して債務者から異議申し立てされたら、通常の訴訟に移行することになります。この通常訴訟は、債務者の住所地を管轄する裁判所で行われます(民訴法395条・383条1項)。
この場合、債権の額に応じて
140万円以下であれば簡易裁判所、
140万円を超える場合は、地方裁判所
へと移送されます。
支払督促の効果・メリット
まずは、前述のとおり、債務名義を取得し、債権が強制執行可能になることが挙げられます。
また、事実上の効果として、債務者に対し、裁判所から、支払督促に関する書類が裁判所の封筒で送られるために、間接的にプレッシャーを与え、支払いを促す効果があります。
実際に、債権者の支払の催促を無視し続けていた債務者が、支払督促の申立てを受けたことにより、すぐに支払いを約束する旨の連絡がきて、債権回収ができたというケースも少なくありません。
一方で、債権の消滅時効について注意しましょう。消滅時効が完成してしまうと、文字通り債権が「消滅」してしまうため、債権を行使することができなくなってしまいます。そのため、時効消滅してしまう前に時効を更新する必要があります。
時効の更新事由としては、
① 裁判上の請求等(民法147条1項1号、同条2項)を行い確定判決または確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したとき、
➁ 強制執行等(民法148条1項1号、同条2項)が終了したとき、
➂ 承認(民法152条1項)
があります。このような事由があった場合には、時効期間の進行がいったんストップ(「更新」といいます。)し、この事由が終了したときから新たに時効期間が進行します。
このうち、支払督促は、民法147条1項2号によって定められ、「裁判上の請求等」に該当します。そのため、時効期間の更新がなされます。
ただし、債権者が仮執行の宣言の申立てができるときから30日以内に申立てをしないときは、支払督促の効力はなくなり(民訴法392条)、時効更新も行われません(民法147条1項柱書)。そのため、時効更新のためには、支払督促申立てのみでは足りず、仮執行宣言申立てをする必要があります。
※支払督促と少額訴訟との違いは、【債権回収】少額訴訟とは何か?メリット・デメリットも解説をご覧ください。
支払督促の注意点・デメリット
支払督促の申立ての結果、債務者から異議申し立てがあった場合に、通常訴訟に移行した結果、第1回口頭弁論期日が改めて指定されるため、当初から通常訴訟を選択した場合よりかえって時間がかかってしまうことが考えられます。
また、支払督促は、合意によって管轄地を定めることができず、債務者の住所地を管轄する簡易裁判所が管轄となるため、通常訴訟に移行した場合、債権者が遠方の裁判所まで出向く必要が生じる可能性もあります。
そのため、繰り返しにはなりますが、債務者から異議が見込まれる場合には、支払督促手続を選択しないほうが良いといえます。特に、遠方に住所地のある債務者に対する支払督促には注意しましょう。
支払督促の手続きの流れ
支払督促の申立て~支払督促発付段階
仮執行宣言申立て~仮執行宣言発付段階
なお、支払督促の申立書書式や記入例として裁判所のウェブサイトにて掲載されています。(裁判所「支払督促で使う書式」)
まとめ
このように、支払督促は、通常訴訟よりも費用・労力の面で債権者の負担が少なく、債務者に支払いへのプレッシャーを与えるといった実質的な効果も有するため、債権回収の有効な手段といえます。
ただし、債務者の異議が見込まれる場合には、通常訴訟へ移行する可能性が高まるため、支払督促は得策ではありません。
債務者からの異議が見込まれるかどうか、といった点は慎重な判断が必要となる場合もあるため、弁護士に相談することもお勧めいたします。
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