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【相殺】徹底解説② ~相殺の意思決定・倒産手続~

前回記事「【相殺】徹底解説① ~相殺のしくみ~」では、相殺のメリットや方法について解説いたしました。

2回目の本記事では、「相殺の意思表示の方法」「倒産手続と相殺」について詳しくご説明します。


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 
代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。

本記事では、
「【相殺】徹底解説② ~相殺の意思決定・倒産手続~」
と題して、詳しく解説します。

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相殺の意思表示の方法

配達証明付き内容証明郵便

配達証明付き内容証明郵便には、相殺する債権債務の内容を特定し、これらを対当額にて相殺する旨を記載します。
相殺の内容及び、その意思表示の到達の事実を容易に立証できることがメリットです。

配送方法は、

  • ①郵便局窓口で手続きを取る方法
  • ②日本郵便のWebで電子内容証明郵便を配送する方法

の2つがあります。
なお、電子内容証明郵便の字数制限はありませんが、5枚以内という枚数制限があります。

相殺の意思表示到達の立証

債務者が内容証明郵便を受領しない場合であっても、以下の方法で相殺の意思表示到達を立証することができます。

①債権者が相殺の意思表示の内容写しを控えとして保管し、特定記録郵便または青色レターパックにより郵送し、日本郵便のWeb上の追跡サービス画面をプリントして保存する方法があります。
この場合、普通郵便、特定記録郵便またはレターパック、内容証明郵便を併用して、全部を写真撮影し、同時に郵便局窓口に持ち込んで報告書化しておくとよいでしょう。

電子メールを相手方に送付し、その画面を印刷する方法です。
Webベースのメールソフトの場合、メール本文と送信済みboxにあるメール状況を画面キャプチャする方法もあります。Outlookの場合、「配信確認の要求」をつけるとなお良いでしょう。
なお、FAXを用いる方法もあります。送信履歴が残り、送信文書画面が一緒に出る機種のFAXであれば、送信文書画面と送信履歴を保存し、書面化するという方法が採れます。

相手方の自宅郵便受けに投函し、それを写真撮影報告書にします。
その上で公証人の確定日付を取るという方法があります。

法人代表者、個人の受領書

事務所が閉鎖されるなどが理由で郵便物が届かない場合は、法人代表者や個人との面談を試みて、相殺通知書を手渡し、受領書を徴求する方法があります。

この方法による場合は、具体的には以下の方法で行います。

  • ①日付及び単に受領した旨を明記した受領書に、債務者から署名(記名)・捺印してもらう手段
  • ②受領書に相殺通知書写しを別紙として綴った上で、別紙相殺通知書を受領した旨を明記した受領書に債務者から署名(記名)・捺印してもらう手段
  • ③債務者が企業の場合で代表者本人ではなく、一定の役職の立場の者が受領した場合、受領者の立場及びその受領過程を記録化しておくことも考えられます。(これは、正確には、意思表示の書面がいわゆる支配権内に置かれ、了知可能な状態に置かれることをもって足りると判断した判例を前提にした対応策です)

倒産手続と相殺

破産の場合

破産手続においては、破産手続開始の時に、破産者に対して債務を負担する場合は、破産手続によらないで、相殺をすることができます(破産法67条1項)。
もっとも、破産法71条、72条が相殺の禁止について定めており、これらの条項に該当する場合は、相殺が禁止されます。

破産債権者の債務負担に関する相殺禁止

こちらについては、破産法71条に定められています。
破産法71条1項によると、「破産債権者は、次に掲げる場合には、相殺をすることができない。」と定め、次の1号から4号にあたる場合には原則として相殺を禁止しています。

1号 破産手続開始後に破産財団に対して債務を負担したとき。
2号 支払不能になった後に契約によって負担する債務を専ら破産債権をもってする相殺に供する目的で ①破産者の財産の処分を内容とする契約を破産者との間で締結し、 又は②破産者に対して債務を負担する者の債務を引き受けることを内容とする契約を締結すること により破産者に対して債務を負担した場合であって、当該契約の締結の当時、支払不能であったことを知っていたとき。
3号 支払の停止があった後に破産者に対して債務を負担した場合であって、その負担の当時、支払の停止があったことを知っていたとき。 ただし、当該支払の停止があった時において支払不能でなかったときは、この限りでない。
4号 破産手続開始の申立てがあった後に破産者に対して債務を負担した場合であって、その負担の当時、破産手続開始の申立てがあったことを知っていたとき。

ただし、破産法71条2項が上記の例外を定めています(破産法71条1項1号を除く)。
そのため、破産法71条2項各号に該当する場合は、例外的に相殺が可能です。

破産法71条2項

1号 法定の原因
2号 支払不能であったこと又は支払の停止若しくは破産手続開始の申立てがあったことを破産債権者が知った時より前に生じた原因
3号 破産手続開始の申立てがあった時より一年以上前に生じた原因

破産債権の取得に関する相殺禁止

こちらについては破産法72条が定めています。
破産法72条1項は「破産者に対して債務を負担する者は、次に掲げる場合には、相殺をすることができない。」と定め、次の1号から4号に該当する場合は原則として相殺を禁止しています。

1号 破産手続開始後に他人の破産債権を取得したとき。
2号 支払不能になった後に破産債権を取得した場合であって、その取得の当時、支払不能であったことを知っていたとき。
3号 支払の停止があった後に破産債権を取得した場合であって、その取得の当時、支払の停止があったことを知っていたとき。
ただし、当該支払の停止があった時において支払不能でなかったときは、この限りでない。
4号 破産手続開始の申立てがあった後に破産債権を取得した場合であって、その取得の当時、破産手続開始の申立てがあったことを知っていたとき。

ただし、破産法72条2項が相殺禁止の例外を定めています。
破産法72条2項は「前項第二号から第四号までの規定は、これらの規定に規定する破産債権の取得が次の各号に掲げる原因のいずれかに基づく場合には、適用しない。」と定めています。

そのため、以下に挙げる72条2項各号の例外がない点に注意してください。

1号 法定の原因
2号 支払不能であったこと又は支払の停止若しくは破産手続開始の申立てがあったことを破産者に対して債務を負担する者が知った時より前に生じた原因
3号 破産手続開始の申立てがあった時より一年以上前に生じた原因
4号 破産者に対して債務を負担する者と破産者との間の契約

破産管財人の催告による失権(破産法73条)

破産管財人は、一般調査期間経過後、または一般調査期日終了後、1か月以内の熟慮期間を定めて、破産債権者に対して相殺権を行使するか否かを確答するように催告することができます。

この催告に対して、破産債権者がその期間内に確答しない場合には、破産債権者は破産手続において相殺権を行使することができなくなります

民事再生・会社更生の場合

民事再生手続の場合

民事再生手続においては、再生債権者が、再生手続開始当時、再生債務者に対して債務を負担する場合において、再生債権者は債権届出期間内に限り、再生計画の定めるところによらないで相殺することができます(民事再生法92条)。

もっとも、民事再生法93条、同法93条の2に該当する場合は、例外的に相殺が禁止されますのでご留意ください。

民事再生法93条
上記には、債務負担に関する相殺禁止に関する定めが置かれています。

民事再生法93条1項によると、「再生債権者は、次に掲げる場合には、相殺をすることができない。」と定め、次の1号から4号にあたる場合には原則として相殺を禁止しています

1号 再生手続開始後に再生債務者に対して債務を負担したとき。
2号 支払不能(再生債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいう。以下同じ。)になった後に契約によって負担する債務を専ら再生債権をもってする相殺に供する目的で ①再生債務者の財産の処分を内容とする契約を再生債務者との間で締結し、 又は②再生債務者に対して債務を負担する者の債務を引き受けることを内容とする契約を締結すること により再生債務者に対して債務を負担した場合であって、当該契約の締結の当時、支払不能であったことを知っていたとき。
3号 支払の停止があった後に再生債務者に対して債務を負担した場合であって、その負担の当時、支払の停止があったことを知っていたとき。
ただし、当該支払の停止があった時において支払不能でなかったときは、この限りでない。
4号 再生手続開始、破産手続開始又は特別清算開始の申立て(以下この条及び次条において「再生手続開始の申立て等」という。)があった後に再生債務者に対して債務を負担した場合であって、その負担の当時、再生手続開始の申立て等があったことを知っていたとき。

ただし、民事再生法93条2項が上記の例外を定めています(民事再生法93条1項1号を除く)。
そのため、民事再生法93条2項各号に該当する場合は、例外的に相殺が可能です。

民事再生法93条2項 

1号 法定の原因
2号 支払不能であったこと又は支払の停止若しくは再生手続開始の申立て等があったことを再生債権者が知った時より前に生じた原因
3号 再生手続開始の申立て等があった時より一年以上前に生じた原因

民事再生法93条の2
上記には、再生債権の取得に関する相殺禁止に関する定めが置かれています。

民事再生法93条の2第1項によると、「再生債務者に対して債務を負担する者は、次に掲げる場合には、相殺をすることができない。」と定め、次の1号から4号にあたる場合には原則として相殺を禁止しています

1号 再生手続開始後に他人の再生債権を取得したとき。
2号 支払不能になった後に再生債権を取得した場合であって、その取得の当時、支払不能であったことを知っていたとき。
3号 支払の停止があった後に再生債権を取得した場合であって、その取得の当時、支払の停止があったことを知っていたとき。
ただし、当該支払の停止があった時において支払不能でなかったときは、この限りでない。
4号 再生手続開始の申立て等があった後に再生債権を取得した場合であって、その取得の当時、再生手続開始の申立て等があったことを知っていたとき。

ただし、民事再生法93条の2第2項が上記の例外を定めています(民事再生法93条の2第1項1号を除く)。
そのため、民事再生法93条の2第2項各号に該当する場合は、例外的に相殺が可能です。

民事再生法93条の2第2項

1号 法定の原因
2号 支払不能であったこと又は支払の停止若しくは再生手続開始の申立て等があったことを再生債務者に対して債務を負担する者が知った時より前に生じた原因
3号 再生手続開始の申立て等があった時より一年以上前に生じた原因
4号 再生債務者に対して債務を負担する者と再生債務者との間の契約

会社更生手続の場合

会社更生手続では、会社更生手続開始当時更生会社に対して債務を負担する場合において、更生債権者は、債権届出期間内に限り、更生計画の定めるところによらないで、相殺をすることができます(会社更生法48条)。

相殺の相手方は、管財人が選任されている場合は管財人となります。
ただし、保全管理人(財産の散逸を防ぐために管理する人とイメージしてください)が選任されている場合は、相殺通知の相手方は保全管理人となります。

もっとも、以下の場合には例外的に相殺が禁止されます。

債務負担に関する相殺禁止

こちらは、会社更生法49条が規律しています。

会社更生法49条1項によると、「更生債権者等は、次に掲げる場合には、相殺をすることができない。」と定め、次の1号から4号にあたる場合には原則として相殺を禁止しています

1号 更生手続開始後に更生会社に対して債務を負担したとき。
2号 支払不能(更生会社が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいう。以下同じ。)になった後に契約によって負担する債務を専ら更生債権等をもってする相殺に供する目的で ①更生会社の財産の処分を内容とする契約を更生会社との間で締結し、 又は②更生会社に対して債務を負担する者の債務を引き受けることを内容とする契約を締結すること により更生会社に対して債務を負担した場合であって、当該契約の締結の当時、支払不能であったことを知っていたとき。
3号 支払の停止があった後に更生会社に対して債務を負担した場合であって、その負担の当時、支払の停止があったことを知っていたとき。
ただし、当該支払の停止があった時において支払不能でなかったときは、この限りでない。
4号 更生手続開始、破産手続開始、再生手続開始又は特別清算開始の申立て(以下この条及び次条において「更生手続開始の申立て等」という。)があった後に更生会社に対して債務を負担した場合であって、その負担の当時、更生手続開始の申立て等があったことを知っていたとき。

ただし、会社更生法49条2項が上記の例外を定めています(会社更生法49条1項1号を除く)。
そのため、会社更生法49条2項各号に該当する場合は、例外的に相殺が可能です。

会社更生法49条2項 

1号 法定の原因
2号 支払不能であったこと又は支払の停止若しくは更生手続開始の申立て等があったことを更生債権者等が知った時より前に生じた原因
3号 更生手続開始の申立て等があった時より一年以上前に生じた原因

更生債権の取得に関する相殺禁止

こちらは、会社更生法49条の2が規律しています。

会社更生法49条の2第1項によると、「更生会社に対して債務を負担する者は、次に掲げる場合には、相殺をすることができない。」と定め、次の1号から4号に該当する場合には、原則として相殺を禁止しています

1号 更生手続開始後に他人の更生債権等を取得したとき。
2号 支払不能になった後に更生債権等を取得した場合であって、その取得の当時、支払不能であったことを知っていたとき。
3号 支払の停止があった後に更生債権等を取得した場合であって、その取得の当時、支払の停止があったことを知っていたとき。
ただし、当該支払の停止があった時において支払不能でなかったときは、この限りでない。
4号 更生手続開始の申立て等があった後に更生債権等を取得した場合であって、その取得の当時、更生手続開始の申立て等があったことを知っていたとき。

もっとも、会社更生法49条の2第2項が上記の例外を定めています(会社更生法49条の2第1項1号を除く)。
そのため、会社更生法49条の2第2項各号に該当する場合は、例外的に相殺が可能です。

1号 法定の原因
2号 支払不能であったこと又は支払の停止若しくは更生手続開始の申立て等があったことを更生会社に対して債務を負担する者が知った時より前に生じた原因
3号 更生手続開始の申立て等があった時より一年以上前に生じた原因
4号 更生会社に対して債務を負担する者と更生会社との間の契約

相殺の時期的制限

破産と民事再生手続・会社更生手続との違いについて説明します。
相殺の時期に制限がある点です。

破産の場合

破産法は、相殺の時期に関する制限を設けていません。

民事再生の場合

民事再生法92条によると、再生産権者は、債権届出期間内に限り、相殺をすることができるので、再生債権者は債権届出期間を確認し、この期間内に相殺する必要があります。

会社更生の場合

会社更生の場合も、民事再生の場合と同様です。
会社更生法48条に定めが置かれており、それによると、更生債権者は債権届出期間内に限り、相殺をすることができます。

よって、更生債権者は債権届出期間を確認し、この期間内に相殺をする必要があります。


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