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【債権回収】代理受領・振込指定とは?

Q
取引先から自社の債権を回収したいのですが、できれば、取引先が保有する売掛金を取得して債権を回収したいです。
というのも一度、取引先に売掛金が支払われてしまえば、取引先が現金を消費してしまうおそれがあるからです。何か良い方法はないでしょうか?

A
取引先が有する売掛金の譲渡(債権譲渡)を受けることが考えられますが、債権譲渡が困難な場合、「代理受領」または「振込指定」による債権回収方法を利用することが考えられます。
代理受領または振込指定により、取引先の保有する売掛金等が取引先に消費されるリスクを下げ、債権回収の可能性を高めることができます。

平成29年の債権法改正により、譲渡禁止特約が付された債権も有効に譲渡できるようになったため、代理受領や振込指定が用いられる機会は減少していますが、依然として有用な場合もあります。
本記事で詳しく解説します。


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 
代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。

本記事では、
「【債権回収】代理受領・振込指定とは?」
について、詳しくご説明します。

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代理受領

代理受領とは

代理受領とは、債務者が有する売掛金等の債権について、当該債権の債務者(第三債務者)から支払いを受ける権限を債権者が取得して代金を回収し、回収した代金を債権に充当することで債権回収を図る方法です。

代理受領は、債務者が有する債権の債務者(第三債務者)が、債権譲渡等をされることより面識のない第三者と取引関係になることを避けたいという考えであるような場合に有用です。

なお、営業活動として、特定金銭債権について、他人の債権回収業務を行った場合には、弁護士法や債権管理回収業に関する特別措置法(サービサー法)3条に違反することになりますが、自ら債権回収の手段として行う限りでは、営業活動にあたりませんので、これらの法に違反することはありません。

代理受領の方法

概要

債権者が債務者との間で、債務者が有する売掛金等の債権を債務者に代わって債権者が取り立てる(または受領する)ことを委任する旨の契約書または委任状を作成し、第三債務者がこれについて承諾する承諾書または奥書を差し出す形が用いられることが多いです。

以下では、三者間の法的関係および具体的方法について詳細にご説明します。

債権者と債務者の契約関係

債権者の権利義務は、債権者と債務者の代理受領委任契約(又は委任状)の内容により定まります。

その内容は統一されていませんが、以下の通り①から④までの条項を設けた契約書を締結することが考えられます。

なお、契約書の作成は、法律上、委任契約の成立要件ではありませんが、トラブル回避のために作成することを推奨します。

  1. 債務者は、第三債務者に対して有する代金債権の請求および受領に関する一切の権限について債権者に対して委任する。
  2. 債務者は、債権者の同意なしに上記①の委任の解除又は委任内容の変更ができない。
  3. 債務者は、第三者に対して自ら代金債権の請求および受領をせず、また、債権者以外の第三者に対して、これらの委任、債権譲渡、若しくは質入れをしない。
  4. 債権者は、取立てによって第三債務者から支払いを受領したときには、自社の取引先に対する債権の支払いに充当することができる。

そして、債権者は、第三債務者からの弁済を自己の債権に充当する、又は債務者に対する受領した代金の返還債務と債権を相殺することで、債権を回収します。

次は、代理受領の契約書に代えて、債務者による債権者に対する代理受領承諾書による場合の例です。
※あくまでひな形ですので、自社のビジネスに即してカスタマイズしてください。

令和〇年〇月〇日


〇〇株式会社(←債権者) 御中

住所 〇〇〇〇
委任状 〇〇株式会社(←債務者)
代表取締役 〇〇〇〇


当社債権の代理受領承諾書


当社は、下記貴社に対する債務の弁済のために、貴社が当社の代理受領者として下記債権を下記売掛先から直接取立て受領することを承諾し、同受領に必要な下記書類を本書とともに交付します。
なお、当社は、この承諾を、下記貴社に対する債務が残存する限り、貴社の意思に反して撤回せず、また、下記債権の直接受領又は他者へ代理受領の承諾等、貴社の代理受領を妨げる行為を一切いたしません。
また、代理受領した金員を下記貴社に対する債務に充当した後の残額について、速やかに当社に対して御送金下さい。なお、振込手数料は当社の負担とします。

1 貴社に対する債務
借 入 日 令和〇年〇月〇日
借入元本額 金〇〇〇万円
利 息 年〇パーセント
弁 済 期 元利一括 令和〇年〇月〇日

2 債権
売 掛 先 住所 〇〇〇〇
〇〇〇〇株式会社(←第三債務者)
売掛金額 〇〇〇万円
支 払 日 令和〇年〇月〇日

3 交付書類
委任状(代理受領権限の委任通知書)
当社名義の領収証

以上

上記当社債権の代理受領承諾書とともに交付する委任状例は次のとおりです。

令和〇年〇月〇日


株式会社〇〇(←第三債務者) 御中

住所 〇〇〇〇
株式会社〇〇(←債務者)
代表取締役 〇〇〇〇


委任状(代理受領権限の委任通知書)



当社は、下記1の会社(以下「下記会社」といいます)を当社の代理受領者として、貴社から支払を受ける当社の下記2の債権(以下「下記債権」といいます)について、受領する権限及びこれに必要な事務処理に関する権限を付与し、代理受領を委任します。
当社は、当社名義の領収書を、代理受領者である下記会社に対し預託しましたので、貴社におかれましては下記会社に対して下記債権をお支払いいただきますようお願いいたします。
なお、当社は貴社に対して下記債権の直接支払を請求いたしません。また、本委任に基づく代理受領を取りやめる場合、当社と代理受領者の連名で書面にて申し出るものとします。


1 代理受領者
住 所 〇〇〇〇
会社名 株式会社〇〇(←債権者)

2 債権(売掛金)
令和〇年〇月〇日締め分
支払日 令和〇年〇月〇日
金 額 〇〇〇万円

以上

第三債務者との関係

債権者と債務者との間で、代理受領に関する権限の委任が債権者に与えられていれば、問題がないようにも思われるかもしれません。

しかし、代理受領について第三債務者の承諾を得ておくことで、第三債務者が債務者に債務を支払ってしまう自体を防ぐことができます。

第三債務者から承諾を得ておけば、誤って、第三債務者が債務者に債務を弁済をしてしまった場合に債権者としては、当該第三債務者に対して責任を追及することができます。

判例(最判昭和44年3月4日民集23巻3号561頁)は、「(第三債務者による)承認は、単に代理受領を承認するというにとどまらず、代理受領によって得られる被上告人(債権者)の右利益を承認し、正当の理由なく右利益を侵害しないという趣旨をも当然包含するものと解すべきであり、したがって、同建設部(第三債務者)としては、右承認の趣旨に反し、被上告人の利益を害することのないようにすべき義務があると解するのが相当である」と判示した上で、誤って債務者に債務を支払ってしまった第三債務者の不法行為責任(民法709条)を認めているのです。

具体的には、第三債務者(売掛先等)から、この委任契約(又は委任状)に従って、債務者に対する債務を債権者に弁済することの承諾を得ます。この承諾は書面で得るとよいでしょう。

通常、次のような承諾依頼書で承諾を依頼します。

令和〇年〇月〇日


〇〇〇〇株式会社(←第三債務者) 御中

住所 〇〇〇〇
〇〇〇〇株式会社(←債務者)
代表取締役 〇〇〇〇

承諾依頼書


前略 当社は、貴社に対する下記売掛金について、当社に代わり下記代理受領者が代理受領させていただきたく、ご承認のほどよろしくお願いいたします。
なお、当社は、下記売掛金について直接の取り立て及び受領をせず、代理受領者への支払に関して一切異議を述べません。また、万一代理受領を取りやめる場合には下記代理受領者と連名にて、その旨書面にて通知させていただきます。

敬具


1 代理受領者
住 所 〇〇〇〇
〇〇株式会社(←債権者)

2 代理受領する売掛金
令和〇年〇月〇日締め分
支払日 令和〇年〇月〇日
金 額 〇〇〇万円

以上

--------------------------------------------------------------------------------------

〇〇株式会社(←債務者)) 宛

 上記代理受領者を承認いたします。

令和〇年〇月〇日 
〇〇株式会社(←第三債務者)

振込指定

振込指定とは、債務者が第三債務者に依頼して、売掛金等債務の弁済の振込先口座を従前とは別の銀行口座に指定し、債権者は、当該口座に振り込まれた金員を自社の債権の弁済に充当する方法をいいます。
振込指定による回収のためには、債務者の同意赤い実線で下線を引くが必要となります。

具体的な方法としては、債権者の銀行口座を振込口座に指定する旨の振込指定書等を作成し、債務者から第三債務者に通知してもらうことが多いです。

振込指定は、代理受領と同様に第三債務者との関係が複雑ではありませんが、第三債務者としては、取引先(債務者)以外の名義の銀行口座に振り込むことに不安を抱く場合が少なくありません。
また、社内規定等により売掛金債権者名義(債務者)の銀行口座に振り込むことが定められている場合も少なくありません。そのため、第三債務者が対応をしてくれないこともあるので、注意が必要で す。

まとめ

以上でご説明した通り、代理受領または振込指定を利用すれば、売掛金等が取引先に消費される心配が減少し、第三債務者との法律関係も形成せずに債権回収の可能性を高めることができます。

それぞれ、承諾書や合意書等を作成することで、債権者と債務者、第三債務者の関係が明確になり、また、その目的も明らかになるため、トラブルを防ぐことができます。

代理受領について、委任内容が不明確であれば無用なトラブルが発生するおそれがあり、また、振込指定も、これまたトラブルが発生することがあります。 安全に債権回収を図られたい場合には、弁護士にご相談されることをお勧めします。


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