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【債権回収】少額訴訟とは何か?メリット・デメリットも解説

Q 
取引先の社長の頼みで、その取引先に60万円を貸しました。
返済は月々の分割払いとなっていますが、ここ3ヵ月ほど返済が滞っています。何度も請求書を送ったり、電話で催促をしたりしましたが、返済がありません。

早期解決のための手段として、少額訴訟という制度があると聞いたのですが、どのような制度なのでしょうか。必要な手続き・進め方についても教えてください。

A 
訴訟の目的の価額が60万円以下の金銭の支払いの請求を目的とする訴えについては、少額訴訟による審理及び裁判を求めることができます。1回の審理で終結するため、通常訴訟と比べ、債権回収の迅速性が確保されています。

さらに、裁判所という権威ある第三者を利用することで、債務者に対して支払いへのプレッシャーをかけることができ、和解が成立することも少なくありません。

手順としては、まず、少額訴訟の申立てを行う必要があります。通常裁判と同様、債務者の住所・事務所の所在地等、または義務履行地を管轄する簡易裁判所に対して行います。

また、審理の結果、請求認容判決が出る場合には、必ず仮執行宣言が付されます。仮執行宣言付判決は、その確定を待たずとも債務名義となり、強制執行が可能になります。


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 
代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。

本記事では、
「【債権回収】少額訴訟とは何か?メリット・デメリットも解説」
について、詳しくご説明します。

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少額訴訟とは

少額訴訟の意義・特徴

訴訟の目的の価額が 60万円以下の金銭の支払いの請求を目的とする訴えについては、少額訴訟による審理及び裁判を求めることができます(民事訴訟法368条、以下「民訴法」といいます)。

原則として、1回の審理で紛争が解決されるので、通常訴訟に比べて紛争解決までの時間が短いことから、通常訴訟と比較して債権者の心理的負担も軽く、債権回収への迅速性があります。

そして、請求認容判決が出る場合には、必ず仮執行宣言が付されます(民訴法376条1項)。仮執行宣言付判決は、その確定を待たずとも債務名義となり、強制執行が可能になることからも、債権回収の迅速性が担保されています。

少額訴訟の特徴を箇条書きにまとめると、以下のようになります。

  • 反訴提起はできない(民訴法369条)
  • 証拠調べは、即時に取り調べることができる証拠に限定される(民訴法371条)
  • 電話会議システムを利用した証人尋問が認められる(民訴法372条3項)
  • 当事者は、原則、口頭弁論期日前あるいはその期日において全ての攻撃・防御方法を提出しなければならない(民訴法370条2項)
  • 裁判所は、訴訟代理人が選任されていても、必要に応じて当事者本人に出頭を命じることができる(民訴規則224条)
  • 判決の言い渡しは、原則、口頭弁論終結後ただちに行われる(民訴法374条1項)
  • 裁判所は、被告に対し、3年を超えない範囲で分割払いや支払猶予等を命じる判決を出すことができる(民訴法375条1項)
  • 請求認容判決には、必ず仮執行宣言が付される(民訴法376条1項)
  • 少額訴訟判決については、執行文の付与を受けなくても、強制執行ができる(民事執行法25条)
  • 少額訴訟判決に対する控訴は認められず、不服がある場合は同一裁判所に対して異議申立てをすることになる(民訴法377条、378条)
  • その異議審においても、反訴はできず、裁判所は分割払い・支払猶予等を命じる判決を出すことができる(民訴法379条、369条、375条)
  • 少額訴訟の利用は、当事者一人につき年間10回までという利用回数の制限がある(民訴法368条1項、民訴規則223条)

訴状

少額訴訟では、1回の口頭弁論期日で審理され、当該期日に判決を出すことを原則(例外※1)としています。

したがって、紛争解決に必要な主張立証の全てが1回の口頭弁論期日で要求されることになります。有効な主張立証のためには、被告の反論を想定して訴状を作成する必要があります。

請求を特定するため、必要な事実のほか、請求を理由づける事実も記載し、争点となることが予想される請求を理由づける事実については、重要な間接事実(主要な事実を推認する事実)の主張と証拠の記載もすべきでしょう。

少額訴訟の訴状では、事件解決に必要な全ての主張立証時効を記載することが重要です。

※1 例外的に、和解が成立する可能性があり、1回の審理で判決を出すことが適切ではないと裁判官が判断した場合には、2回目の期日を指定することもあります。

通常訴訟への移行

少額訴訟で訴えられた被告は、訴訟を通常の訴訟手続に移行させる旨の申述をすることができます。
ただし、被告が最初にすべき口頭弁論期日において弁論をし、あるいはその期日が終了した後は、通常訴訟移行の申述はできません(民訴法373条1項)。

被告から、この申述があれば、その申述があったときに訴訟は通常の訴訟手続に移行することになります(民訴法373条2項)。

当事者双方が少額訴訟による審理・裁判を求めている場合であっても、次の場合には裁判所は、職権で通常の訴訟手続への移行を決定しなければなりません(民訴法373条3項)。

  • 請求の全部又は一部が訴額60万円以下の金銭の支払請求の訴えではない場合
  • 少額訴訟の利用回数の制限(当事者一人につき年回10回)を超えている場合
  • 少額訴訟の利用回数の届出をせず、裁判官から相当の期間を定めてその届出を命じられたにもかかわらず、期間内に届けがなかった場合
  • 公示送達(※2)によらなければ、被告に対する期日の呼出しができない場合
  • 裁判所が、少額訴訟によって審理裁判するのを相当ではないと判断した場合(例えば、主要事実(※3)に争いがあって迅速な判断が困難であり、1回の審理での解決が見込めないときなど)
※2 「公示送達」とは、名宛人が出頭すれば送達すべき書類を交付する旨を、裁判所の掲示板に掲示することにより、送達の効果を発生させるものです(民訴法111条)。
名宛人に書類を交付する方法で行う「交付送達」(同法101条)や、書類を書留郵便等で発送して送達を行う方法(同法107条)によることができない場合の最終手段の送達方法です。
※3 「主要事実」とは、権利の発生・変更・消滅という法律効果を判断するのに直接必要な事実のことをいいます。
例えば、売買代金支払請求権という権利の発生に直接必要な事実は、売買契約の締結であり、この事実が「主要事実」となります。

少額訴訟の費用

請求額に応じて、以下のように定められ、当該手数料を収入印紙で納付します。※4
訴訟費用について、下記をご参照ください。

請求額 手数料
~10万円 1000円
~20万円 2000円
~30万円 3000円
~40万円 4000円
~50万円 5000円
~60万円 6000円
※4 裁判所ホームページに記載の「手数料」「手数料額早見表」「訴えの提起」について、こちらをご参照ください。

少額訴訟が適している場面

少額訴訟手続きは、審理は原則(例外※1)として1日のみ(民訴法370条1項)、証拠は即時に取り調べられるものに限定され(民訴法371条)、弁論終結後直ちに判決が言い渡されます。

そのため、 1回目の審理までに証拠を提出する必要があり、証拠はすぐに取調べることのできるものに限られています。証人に証言してもらいたいときは、1回目の審理に一緒に来てもらう他、電話会議システムを使って裁判所に出廷せずに証言してもらうことも可能です(民訴法372条3項)。

例えば、請求の内容が明快・単純で、請求自体に争いがないような場合(支払いはされていないが、契約書も交わしており、その契約内容については債務者が争っていない)には少額訴訟が適しているといえます。

一方で、何人もの証人から話を聞かなければ判断ができない場合や、鑑定や現場検証を行う必要がある場合などの複雑な事案では、1回の期日での解決が見込めないことが一般的であるため、少額訴訟手続きの利用は適さないといえます。

※1 例外的に、和解が成立する可能性があり、1回の審理で判決を出すことが適切ではないと裁判官が判断した場合には、2回目の期日を指定することもあります。

少額訴訟のメリット

判決までのスピードが早い

少額訴訟は、原則(例外※1)として1回の審理で判決が出るという点で、通常訴訟に比べて、迅速に手続が進むという大きなメリットがあります。

※1 例外的に、和解が成立する可能性があり、1回の審理で判決を出すことが適切ではないと裁判官が判断した場合には、2回目の期日を指定することもあります。

判決内容が請求認容・棄却の二択にとどまらない

少額訴訟の判決は、通常の民事裁判のように、原告の言い分を認めるかどうかを判断するだけでなく、裁判所が取引先の資力・その他の事情などを考慮して、金銭の分割払い・支払猶予などを命ずることができます。

そのため、債権回収の実現可能性も高く、柔軟な解決が可能であるというメリットがあります。

なお、仮に判決に至らず、和解した場合でも、作成された和解調書に基づき、強制執行を申し立てることができます。

相手方の控訴が認められていない

少額訴訟判決に対する不服申立ては、異議の申立てに限られています。
仮に、被告から異議申し立てがあった場合にも、異議後の訴訟の判決に対しては控訴ができません。

一方で、通常の訴訟であれば、上級の裁判所に控訴という不服申し立てをすることができます。控訴されると、さらに上級裁判所での審理をしなければならないので、解決までさらに時間がかかってしまいます。

そのため、少額訴訟判決及び異議後の訴訟の判決に対する控訴が認められていないことは、紛争解決の迅速性があることを意味し、通常訴訟と比べてメリットといえます。

少額訴訟のデメリット

通常訴訟に移行する可能性がある

上記1.(3)で述べたように、被告からの申述があれば、通常訴訟に移行する可能性があります。
その申述の際に、被告に正当な理由が求められるわけではありません。

そもそも少額訴訟を選択する理由として、判決までのスピードが早い(上記4.(1))ことが挙げられるため、通常訴訟に移行した場合にはそのメリットが享受できないというデメリットはあります。

敗訴しても控訴はできない

この場合の敗訴とは、全面的に主張が認められないことだけを意味するのではなく、判決内容の中身に納得がいかないものが含まれる場合も含みます。

上記4.(2)の、判決内容が請求認容・棄却の二択にとどまらないという少額訴訟のメリットは、その内容によってはデメリットにもなりえます。
例えば、「訴え提起後の遅延損害金の支払免除」という判決内容の場合には、債権者がもともと得られたはずの遅延損害金が得られないことになりますから、その意味ではデメリットといえるでしょう。

そのように、判決内容に納得いかないものが含まれていたとしても、控訴ができません。 

判決が出ても相手が支払わない場合もある

これは、通常訴訟でもいえることですが、判決が出ても、債務者がその内容に応じないために、支払われないことも考えられます。 

その場合には、債権回収のために、債務者の財産を差押えることが必要となります。そのためには、 前提として、債務者の財産を調査する必要があります。

少額訴訟の手続きと流れ

少額訴訟の申立ては、通常裁判と同様、債務者の住所・事務所の所在地等、または義務履行地を管轄する簡易裁判所に対して行います(民訴法4、5条)。

原告が訴状および証拠書類を裁判所へ提出すると、裁判所は訴状等を審査し、審査期日を指定し、被告に対し、訴状や期日呼出状を送達します。

それらを受領した被告は、答弁書及び証拠書類を準備し、裁判所へ提出します。原告及び被告は、審理期日までに追加して提出すべき証拠書類及び証人の準備をします。

審理期日は原則1回であり、その1回の期日で裁判所は双方の言い分を聞き、証拠書類や証人を調べます。まとめると、手続きは以下のように進みます。

期日当日 ・争点整理 ・証拠取調べ

債権者 裁判所 債務者
訴状・証拠書類を裁判所に提出
訴状・証拠書類・期日呼出状を受領
→答弁書・証拠書類を裁判所に提出
答弁書を受理
答弁書・証拠書類を受領
→追加の証拠書類・証人等の立証準備
→追加の証拠書類・証人等の立証準備
期日当日
・争点整理
・証拠取調べ

まとめ

訴額が60万円以下であるから、ただちに少額訴訟を利用するのではなく、1.(1)の特徴を含め、自分の請求が少額訴訟手続き利用に適しているのかを慎重に判断しましょう。

例えば

  • 主要事実に関する証拠は何か
  • 当該証拠は即時取調べが可能か
  • 証拠の原本は期日当日に持参可能か
  • 一期日以内で全ての主張立証が可能であるか

等を検討することが必要です。


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