1. ホーム
  2. 債権回収

【相殺】徹底解説③ 債権回収の方法 ~三角相殺についても解説~

相殺の活用での債権回収について、3本目の記事です。

今回は、
【相殺】徹底解説① ~相殺のしくみ~
【相殺】徹底解説② ~相殺の意思決定・倒産手続~
に続き、

相殺における民法上の仕組みづくり、
具体的な債権回収の方法とそれぞれのメリット・デメリット

について解説していきます。


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 
代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。

本記事では、
「【相殺】徹底解説③ 債権回収の方法 ~三角相殺についても解説~」
について、詳しく解説します。

弁護士のプロフィール紹介はこちら直法律事務所の概要はこちら「債権回収」について、お問い合わせはこちら

民法上の相殺をするための仕組みづくり

自社Xと取引先Y間との2社で債権回収する方法

取引先から商品などを仕入れて買掛金を作る
→取引先に対して買掛金を作り、売掛金と相殺するという方法です。

取引先が売掛金を支払ってくれないような状況に陥っている場合、経営状況が悪化していることが通常です。
そのため、そのような状況の取引先とすれば、生き残るために売上を伸ばしたいと考えます。つまり、取引先が販売している商品を積極的に売りたいという動機が生まれます。

これを利用して、取引先に対して買掛金を作り、売掛金と相殺することで、債権回収を行います。

もっとも、その商品を自社で利用できるか、あるいは転売できる場合でなければ、債権回収としては意味がないばかりか有害であることに注意してください。
不要な在庫を抱え、保管料や廃棄料がかかる場合があるからです。

第三者Zを関与させて債権回収を行うパターン(取引先が協力するケース)

取引先Yが協力する以下の方法は、債権保全手段として優れています。

商流を変更して相殺

自社Xが取引先Yに対し売掛金があり、取引先YもZに対して売掛金がある場合に、自社Xと取引先Yとの間にZが入ることで、相殺ができるように仕組みを作ります。
XがYとZとの間に入るケースもあります。

【メリット】
①商社機能を発揮できる場合など商流に介入する合理的理由がある場合、Yの協力を得ることができるため有用
②これから生じる債権債務が相殺原資となるため、既存の債務を担保するとは評価できず、偏頗行為否認リスクが極めて低い
③有事の際でもスムーズに回収可能
【デメリット】
①支払不能・支払停止後の債権については、相殺禁止リスクがある

債権譲渡担保

自社の取引先に対する売掛金を被担保債権として、取引先の第三者Zに対する将来債権を譲渡担保にとって保全する方法です。
Zが協力する方法なので、対抗要件として確定日付のある承諾が使えます。

【メリット】
①自社・取引先・第三者以外に担保設定の事実が明らかにならないため、信用不安を招かない。
【デメリット】
①時期によって偏頗行為否認リスクがある。
ただし、既存債務を被担保債権にしなければ、リスクの低減が可能です。偏頗行為否認の対象行為が「既存の債務についてされた担保の供与又は債務の消滅に関する行為に限る」(破産法162条1項柱書参照)とされているからです。

委託のある連帯保証

第三者Zが取引先からの依頼を受けて、自社の取引先に対する売掛金を保証の対象とする連帯保証契約を締結する方法です。

【メリット】
①自社とすれば、連帯保証人の信用力も担保として取ることが可能になります。
②第三者Zは、委託を受けた連帯保証人となり、取引先Yに対して事前求償権または保証債務履行後の事後求償権を取得します。
この求償権とYのZに対する債権とを相殺することで、Zは債権回収をすることができます。
③保証契約を締結するだけなので手続も簡易であること
【デメリット】
①第三者Zが連帯保証責任を負うことのリスクを嫌い、連帯保証人になってくれないこと
②保証契約締結時期によって、相殺禁止リスクがある

もっとも、②については、保証契約がYの支払不能時より前に締結されているといえれば、相殺禁止の例外にあたり、相殺が可能だと考えられます。

三角相殺

取引先Yが第三者Zに対して売掛金などの債権を有している場合に、XYZの三者間で自社の取引先に対する売掛金と相殺する合意を締結するという方法です。

【メリット】
①非常に簡潔な債権保全策
【デメリット】
①三角相殺の効力を法的倒産手続きが開始されたときに管財人などに主張できない可能性がある
②三者間で協力して三角相殺した場合について、このような相殺が認められるかについての判例が存在しない

第三者を関与させて債権回収を行うパターン(取引先が協力しないケース)

取引先Yが協力しないケースでは、以下の手法が候補になります。
しかし、必ずしも的確な債権保全はかなわないことも多いです。

債権譲渡・債務引受

債権譲渡は、自社Xが取引先Yに対する売掛金(金銭債権)を第三者Zに譲渡するという方法です。
第三者Zは、譲渡された債権とYがZに対して有している債権があれば、これで相殺します。

債務引受は、取引先YがZに対して有している債権を自社Xが債務引受して、取引先に対して有している売掛金(金銭債権)と相殺するという方法です。

【メリット】 ①取引先Yの協力がなくても債権回収が可能
【デメリット】 ①ZがYに対して債権を有していない場合、Zは自社Xから債権を高額では買い取ろうとしない(回収不能リスクを負うため)
②相殺が禁止されている債権の場合、相殺ができない可能性あり。

三角相殺(詳しくは後述)

取引先Yの協力がない場合ですので、自社Xと第三者Zとの合意で三角相殺をするケースです。

この方法は次のようなデメリットがあるため、あまり推奨できません。

①そもそも、二者(X・Z)間でYを巻き込むことになる三角相殺ができるか不明
②三者間で行う三角相殺と同様、管財人などに主張できるか不明

【要注意】債権保全の手段とならない手法

委託のない連帯保証は、債権保全手段としては有効とはいえません

取引先Yの依頼なく、勝手に自社Xと第三者Zとで連帯保証契約を締結するという方法です。
委託のない連帯保証であっても、第三者Zは連帯保証人となるため、Yに対して、保証債務履行後、事後求償権(委託のない連帯保証では事前求償権は発生しません)が発生するため、委託のある連帯保証と同様に債権保全が可能とも思われます。

しかし、判例( 最判平成24年5月28日民集66巻7号3213頁)は、委託のない連帯保証の場合の求償権を自働債権とする相殺に対して否定的です。
すなわち、「無委託保証人が主たる債務者の破産手続開始前に締結した保証契約に基づき同手続開始後に弁済した場合において、保証人が取得する求償権を自働債権とし、主たる債務者である破産者が保証人に対して有する債権を受働債権とする相殺は、破産法72条1項1号の類推適用により許されない」として、相殺による債権回収を否定しました。

したがって、委託のない連帯保証を債権回収手段として採用することはできないと考えられます。

三角相殺について

結論

  • 三角相殺は、法的倒産手続下では、利用するのはリスクが伴うため、採用すべきではありません。
  • 三者間で平時に三角相殺契約を締結し(契約書に確定日付を取得しておく)、危機時期だけでなく平時から相殺をしている場合に、どのように扱われるか不透明です。

三角相殺契約のメリット・定義

上記の債権保全手段を検討することでわかったことは、債権譲渡・債務引受や連帯保証という手段のデメリットに相殺禁止リスクがあるという点です。

相殺禁止リスクを回避するため、債権・債務を移動させずに相殺したことと同じ効果を得られる手段はないのでしょうか。そのための方策が三角相殺契約です。

三角相殺とは、自社Xが取引先Yに対して債権を有しており、Y社はZ社に対し債権を有しているような場合に、これらを相殺することを内容とする契約です。

三角相殺の可否

三角相殺契約当事者間では有効です。

ただし、契約当事者以外の者をも拘束することができるかは別です。
たとえば、Yに他の債権者Aが存在する場合を考えてみてください。

XYZ間の三角相殺をAに主張できない場合、AはYのZに対する債権を回収し、これを責任財産(差押えの対象となる債務者の財産というイメージです)とすることができます。

反対に、上記の三角相殺をAに主張できる場合は、XはAに先駆けて、Zの債務を利用して債権を回収することができます。
その結果、Yの責任財産は、三角相殺がAに主張できない場合に比べ小さくなります。

果たして三角相殺を契約当事者以外の者に主張することができるのでしょうか。

この点に関連した判例が2つあります。

最判平成7年7月18日判時1570号60頁
こちらをご参照ください

甲は乙に対して、A債権を有しており、他方、乙は甲の親会社丙に対して、B債権を有していました。
その後、甲乙間で相殺予約をしました。
その内容は、甲乙間で、乙の信用が悪化したときは、A債権につき期限の利益を喪失させ、B債権につき、期限の利益を放棄して相殺適状を生じさせ、甲の乙に対する相殺の意思表示により相殺適状時まで遡ってA債権・B債権を相殺する効力を発生させるというものです。
その後、乙が期限の利益を失った後、本件相殺予約に従い相殺適状が生じた後に、乙の債権者丁がB債権を差し押さえ、その後に甲が相殺の意思表示をしました。
甲は、その後、乙に対して、A債権とB債権とを対当額で相殺する意思表示をしました。

以上の事案に対して、最高裁は結論として、相殺予約に基づいて甲のした相殺は、実質的には、A債権の債権者である甲からその親会社である丙への債権譲渡といえることを考慮すると、丙は、甲が丁のB債権の差押え後にした相殺の意思表示をもって丁に対抗することができないと判断しました。

この事例では、
①三者間の合意により三角相殺がされていないこと
②甲の意思表示で三角相殺の効力が発生する仕組みになっていたこと
③三角相殺が危機時期になってからなされたこと

など、一般的な三角相殺契約と異なる点があります。
したがって、この最高裁判例が一般的な三角相殺にまで通用するものなのか、不明な点が残されています。

以上の議論を踏まえると、平時に相殺処理を行わずに、危機時期のみ相殺を行うような三角相殺は第三者との関係で無効とされるリスクがあり、避けた方が無難です。
また、法的倒産手続きに入った場合に行う三角相殺も同様に、避けるのが無難です。
最判平成28年7月8日民集70巻6号1611頁
こちらをご参照ください

民事再生手続下で三角相殺を否定した判例です。
事案の概要は次のとおりです。

XY間、XZ間にそれぞれデリバティブ取引契約があり、その契約内容は次のようになっていました。
この取引の基本契約では、期限の利益喪失事由が発生すれば、一方の当事者乙は、乙及びその関係会社が甲に対して有する債権と、甲が乙及びその関係会社に対して有する債権とを相殺することができることが定められていました。
また、相殺条項として、甲が再生債務者となった場合でも、乙が、自らの関係会社が甲に対して有する債権を自働債権として相殺することができるとする三角相殺条項が定められていました。
上記契約の締結後、Xについて民事再生手続が開始され、XのYに対する清算金債権と、ZのXに対する清算金債権とを三角相殺しました。なお、YとZとは、同一の持株会社の傘下にある100%子会社同士です。 この事案で、最高裁では、上記の三角相殺が、民事再生法92条1項により行うことがができる「相殺」にあたるかが問題となりました。
最高裁は、要するに相対立するに当事者間の相殺でなければ、民事再生法92条1項により許容される「相殺」にあたらない、という判断をしました。

最高裁の判断を詳しく見ていきましょう。
最高裁は、民事再生法92条1項は「『再生債務者に対して債務を負担する』ことを要件とし、民法505 条1項本文に規定する2人が互いに債務を負担するとの相殺の要件を、再生債権者がする相殺においても採用している…。」としました。
その理由は、「再生債務者に対して債務を負担する者が他人の有する再生債権をもって相殺することができるものとすることは、互いに債務を負担する関係にない者の間における相殺を許すものにほかならず、民事再生法92 条1項の上記文言に反し、再生債権者間の公平、平等な扱いという上記の基本原則を没却するものというべきであり、相当ではない」からと説明しました。

この判例から、三角相殺の合意は、民事再生手続のもとでは無効であると考えた方がよいでしょう。また、会社更生・破産でも同様の取り扱いがされるものと考える方が無難です。

この判例を前提としてもいまだ不明な点は、三当事者間で平時に三角相殺契約を締結し(契約書に確定日付を取得しておく)、危機時期にだけでなく、平常時から相殺処理を行うようにした場合に、この三角相殺が有効か否かという点です。

【関連記事】
【相殺】徹底解説① ~相殺のしくみ~
【相殺】徹底解説② ~相殺の意思決定・倒産手続~

直法律事務所では、IPO(上場準備)、上場後のサポートを行っております。
その他、プラットフォーム、クラウド、SaaSビジネスについて、ビジネスモデルが適法なのか(法規制に抵触しないか)迅速に審査の上、アドバイスいたします。お気軽にご相談ください。
ご面談でのアドバイスは当事務所のクライアントからのご紹介の場合には無料となっておりますが、別途レポート(有料)をご希望の場合は面談時にお見積り致します。


アカウントをお持ちの方は、当事務所のFacebookページもぜひご覧ください。記事掲載等のお知らせをアップしております。

債権回収に関するお悩みは、
弁護士に相談して解決

売掛金、貸金、業務委託料…こういった債権があるのに、債務者が支払ってくれなかったという場合には、債権回収を迅速に、また、戦略的に行う必要があります。債権回収に関するご相談は、なるべく早めに弁護士に相談、解決しましょう。

クライアント企業一例