澤田直彦
監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 代表弁護士
IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「著作権の利用許諾契約締結のポイントを著作者不明の場合も含めて解説」
について、詳しくご解説します。
著作権の利用許諾とは
利用許諾の概要
(1)概要
著作権者は、著作権法63条1項に基づいて、他人に対してその著作物の利用を許諾することができます。この利用許諾(ライセンス)を受けた者は、その許諾に基づいて、「利用方法及び条件」の範囲内で当該著作物の利用ができます(同条2項)。
明文規定はありませんが、利用許諾された利用方法及び条件の範囲内であれば、著作権者から利用を許諾されたライセンシーが、さらに第三者に対して著作権を再許諾(サプライセンス)することもできます。
(2)内容
利用許諾契約の中で定めるべきものは、主に以下の5点です。
①対象・独占性
著作権は、著作者の創作と同時に生ずるものであり、特に登録や申請は必要ないため、利用許諾契約の中で、対象となる著作物を明確に特定する必要があります。また、著作権には様々な支分権があるため、利用許諾の対象となる著作権の具体的内容を明確に特定することも必要です。
また、著作権者は、複数の者に同時に同じ内容の利用を許諾することができます。そのため、ライセンシーに対する利用許諾が独占的か、非独占的かを必ず明確に合意することが肝要です。前者であれば、ライセンサーはその許諾期間中にライセンシー以外の者に許諾をすることができなくなります。
②対価の有無・支払条件
利用許諾の対価(ライセンス料)の支払義務が生ずるか否か、支払われる場合にはその額及び支払い条件(一定額で確定とするか、一括・分割払いかなど)を明確に合意し、定めることが重要です。
③利用方法や利用条件(態様、地域、期間、その他条件)
ライセンシーは、許諾された著作物を許諾された範囲内(利用の態様・形態、利用する地域、利用期間等)のみで利用することができます。その範囲を超えての利用は、著作権侵害となります。著作権の利用方法・態様は、印刷出版、演奏、商品化など様々なものがあるため、実際の利用と齟齬が生じないようにしなければなりません。
また、条件として、その利用の際に著作権者の情報(氏名など)を表示するか否か、表示する場合どのような記載とするか、ライセンシーが第三者による著作権侵害に気が付いた場合等にライセンサーへの通知義務を負わせるかなどの合意をすることがあります。
④ライセンシーの利用への協力義務の有無
ライセンシーが著作物を利用するにあたって必要となるツール(イラストの原画、写真のネガなど)を提供するなどの、ライセンサーの協力義務について合意をすることがあります。
⑤第三者に対する再利用許諾の可否
ライセンシーが第三者に再利用許諾(サプライセンス)を予定しているような場合は、あらかじめ著作権者の承諾を得る必要があります。
利用許諾のポイント
(1)ライセンサーの権限
著作権の利用許諾契約においての重要なポイントは、ライセンサーがその契約を締結する権限を有するかという点です。
前述のとおり、著作権は何ら登録等の手続を要せず生じるため、誰が著作権者であるか、第三者への利用許諾の権限を持つ者か、利用を許諾するにあたって制限があるか、などの著作権をめぐる権利関係を正確に把握することは困難です。
そのため、ライセンシーとしては、利用許諾契約締結にあたって、
● 著作権者であるとしても、第三者に利用許諾できる状態か
● 著作権者でなくても、第三者へ利用許諾する権限があり、ライセンシーに再利用許諾ができるか
ということについて事実確認をし、契約書面に記載することが大事です。
(2)利用許諾の範囲
著作権は多くの支分権に分かれ、かつ、その利用方法・態様が様々なため、利用許諾契約における利用許諾の範囲を個別的に合意する必要があります。
また、ライセンシーがどの範囲の利用を対象として対価を支払うのか、明確に合意しておくことも大切です。
(3)契約違反の効果
利用許諾契約の内容に反する行為が、著作権侵害となるか、債務不履行となるかは、違反内容が許諾された権利の本質を損なうものか否かということから判断します。
具体的には、許諾された利用方法以外の態様・地域・期間での著作物利用は、著作権侵害となります。また、対価の不払いや著作権表示義務違反等の利用条件違反は単なる債務不履行となります。
(4)許諾の撤回
利用許諾契約が締結された後、何等かの事情によってそれが解消されてライセンサーによる許諾が撤回された場合には、直ちに利用停止しなければ著作権違反行為となってしまうのでしょうか。
これは、利用許諾の内容や状況によって異なります。
とする裁判例が参考になります。
(5)著作者との関係
著作物を創作した著作者が、必ずしも著作権者であるとは限りません。利用許諾者が著作者ではない場合、著作権者から適切な利用許諾を受けたとしても利用態様によっては著作者の許諾を受けるべき注意義務があり、無承諾での利用は著作者人格権侵害になり得る点に注意が必要です。
著作者人格権については別記事(著作者人格権とは?著作者死後の人格的利益の保護などについても解説)で詳しく説明していますので、ご参照ください。
(6)利用許諾契約の登録制度の不存在
現在、著作権の利用許諾契約の存在を公示する登録制度はありません。
(7)強行法規違反
利用許諾契約の中で合意されていても、公序良俗違反(民法90条)や消費者契約法10条等の強行法規に反する場合、当事者への拘束力はありません。強行法規に反しないよう、注意が必要です。
裁定制度
裁定制度について
(1)定義
著作権や著作隣接権の権利者が不明である著作物を他の者が利用できるようにするために設けられたのが、著作物に係る裁定制度です。
この制度を利用すると、著作権者や著作隣接権者の許諾を得たのと同様の効果が生じます。そのためには、文化庁長官の裁定と、著作物等の通常の使用量額に相当する補償金を支払う(供託)必要があります。
(2)対象となる権利
この制度は、著作権と著作隣接権がその対象となります(著作67条、同法103条)。
平成21年の改正により、著作隣接権についても制度が適用されるようになりました。これにより、実演(俳優の演技、演奏家の演奏、歌手の歌唱等)、レコード(CD等)、放送や有線放送などについて二次利用する(書籍を出版したり、DVDを製造して販売したり、ネット配信したりすること)に際し、裁定制度を利用できるようになりました。
制度の内容
(1)裁定を受けるための要件
裁定は、権利者が不明な場合に利用できる制度であり、権利者が不明であるという事実を担保するに足りる程度の「相当な努力」を行うことが前提となります。
具体的には次の要件が定められています。
(a)
①権利者若しくは権利者の許諾を得た者により公表された著作物、実演、レコード、放送、有線放送(以下、総称して「著作物等」といいます。)」又は②「相当期間にわたり公衆に提供され、若しくは提示されている事実が明らかである著作物等」であること(著作67条1項、同第103条)。
…ここで、相当期間にわたり公衆に提供等されている事実が明らかである著作物等とは、
権利者等により公表されているかどうかは不明であるものの、相当期間にわたり世間に流布されている著作物等のことをいい、具体的には童謡等が考えられます。 裁定の申請に際しては、疎明資料を添付して疎明する必要があります(著作令8条2項2号)。
(b)
「著作権者の不明その他の理由により相当な努力を払ってもその著作権者と連絡することができない場合」であること(著作67条1項、同第103条)
…ここで、権利者と連絡することができない場合とは、①権利者と連絡を取るために必要な情報(著作権者等の氏名、名称、住所、居所等。以下「権利者情報」といいます。)を取得するため次の㋐㋑㋒にあげる全ての措置をとり、かつ、②取得した権利者情報や保有していた全ての権利者情報に基づき、権利者と連絡するための措置をとったにもかかわらず、権利者と連絡することができなかった場合をいいます(著作令7条の5第1項)。
㋑ 著作権等管理事業者(著作権等管理事業法2条3項に規定されている者)その他の広く権利者情報を保有していると認められる者として文化庁長官が定める者に対して照会すること(著作令7条の5第1項2号)
㋒ 時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙への掲載その他これに準ずるものとして文化庁長官が定める方法により、公衆に対して広く権利者情報の提供を求めること(著作令7条の5第1項3号)
裁定の申請では、㋐㋑㋒のような措置をとった後に、申請者が著作権者と連絡することができない旨を疎明する資料を提出します。
なお、文化庁長官は、著作者がその著作物の出版その他の利用を「廃絶しようとしていることが明らか」である場合には、裁定をすることができません(著作70条4項1号)。
(2)著作物の利用
前述のとおり、裁定を受けた後には補償金を供託します。これがなされずに著作物を利用すると、著作権侵害となります。補償金の供託は、申請者の住所・居所の最寄の供託所(法務局)に行います(著作74条3項)。
そして、裁定を受けた場合の著作物の利用については、裁定申請時に特定した方法でのみ利用することが認められます。そのため、申請とは異なる方法での利用をしたい時には、改めてもう一度裁定申請をしなければなりません。
裁定申請中利用制度の新設
(1)制度の概要
平成21年の著作権法改正で、いわゆる裁定申請中利用制度ができました。
裁定の手続は一定期間を要するため、利用希望者はその期間、著作物の利用ができなくなり、ビジネスの場面で裁定制度の利用が進まない要因と指摘されていました。そこで、裁定を受ける前であっても、使用料相当額の担保金を事前に供託すれば、著作物の利用を早期に開始できる本制度が始まりました。
(2)制度の要件
② 当該申請に係る著作物の利用方法を勘案して文化庁長官が定める額の担保金を供託すること(具体的な金額は個別に判断されます。)
③ 当該著作物の著作者が当該著作物の出版その他の利用を「廃絶しようとしていることが明らか」でないこと
(3)利用
裁定申請中利用制度の下では、その利用方法は当該申請に係る利用方法と同一のものに限られます。
裁定申請中利用制度は、裁定制度を受けることを前提とした制度です。そのため、裁定申請者は、裁定もしくは裁定をしない処分を受けるまでの間、又は「著作権者と連絡することができるに至った」時までの間のいずれかの期間に限って著作物の利用が認められます。
裁定制度をめぐる状況
この制度は、広く活用されているとはいいがたいのが現状です。しかし、平成21年の改正のように、より利用しやすい制度とするため措置等が引き続き検討されています。
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