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通常訴訟による債権回収のメリット・デメリットと手続きについて

Q
 取引先から代金の支払を受けておらず、現在まで支払の催促を何度もしてきました。
それでも支払われないため、法的手続による債権回収に踏み切ろうかと考えております。
 そこで、債権回収を目的として、通常訴訟を選択するメリット・デメリットや具体的な手続きについて教えてください。

A
 通常訴訟には、強制執行を行うために必要となる債務名義(※)のうち、「確定判決」を得られるというメリットがある一方、確定判決を得られるまで時間がかかる等というデメリットもあります。
 他方で、訴訟手続外での債権回収交渉が功を奏しない場合には、訴訟手続を利用するのが通常です。
 債権額が60万円以下の場合には、1回の期日で審理を終えて判決が下される少額訴訟を提起し、債権額が60万円を超えて140万円以下の場合には簡易裁判所に通常訴訟を提起し、また、債権額が140万円を超える場合には地方裁判所で通常訴訟の提起をすることが一般的です。
 訴訟手続きは、大まかに、
訴え提起→被告の答弁書の提出→法廷での審理→審理の終了→判決
という流れで行われます。

※債務名義とは、債権者に執行機関(執行裁判所又は執行官)の強制執行によって実現されるべき債権の存在および範囲を公的に証明した文書のことをいいます。
債務名義には「確定判決」「仮執行宣言付判決」「和解調書」「調停調書」「執行認諾文言付公正証書」「仮執行宣言付支払督促」があります。


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「通常訴訟による債権回収のメリット・デメリットと手続きについて」
について、詳しくご解説します。

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通常訴訟を選択するメリット・デメリット

メリット

通常訴訟で勝訴すれば、強制執行手続のための債務名義の一つである確定判決を得ることができます。

「債務名義」とは、債権者に執行機関(執行裁判所又は執行官)の強制執行によって実現されるべき債権の存在および範囲を公的に証明した文書のことをいいます。「債務名義」がなければ、債務者に対して債権を有しているとしても、強制執行、つまり強制的に債権回収を実行することはできません。

債務名義を取得するには、訴訟手続よりも簡便な手続きも存在しますが(※1)、債務者が債務の存在自体や額などについて争っている場合には、最終的に、訴訟手続に移行することが多いです。
そのため、債務者の態度を見たときに、債務の存在・額等を争っている場合には、最初から訴訟手続を選択したほうがよいでしょう。

また、通常訴訟には、「債務名義」である確定判決を得るという方法以外に、「裁判上の和解」を期待することもできます

「裁判上の和解」とは、裁判所が関与する和解のことをいい、訴え提起前の和解(起訴前の和解)と訴訟上の和解(訴訟係属中の和解)があります。

いずれも裁判の席上で、当事者どうしで、納得できる解決方法を協議し、判決以外の方法によって、訴訟を終了させることをいいます。
裁判上の和解のメリットは、判決を得るよりも早期に紛争を解決できる、強制執行手続に進む必要がなくなる、債務者の任意の支払を期待できる等です。

この和解の結果、取りまとめられた裁判上の和解調書は、確定判決と同一の効力を有し(民事訴訟法267条)、もし債務者が、和解調書に記載された義務の履行を怠った場合、債権者は和解調書を「債務名義」として、強制執行することができます。

さらに、このような形式的な意味に加え、訴訟手続には、債務者に対して、裁判所という公的機関を通じて、債権回収を粛々と行うという毅然とした意思を示すことができる等の効果もあります。

デメリット

まず、通常訴訟のデメリットは、何といっても、時間がかかるということでしょう。
裁判所(裁判官)という第三者が、債権者と債務者の言い分を聞き、証拠を確認の上、判断をするためには時間を要するものです。

ちなみに、平均審理期間は、民事第一審訴訟事件(全体)と過払金等事件以外の民事第一審訴訟事件のいずれについても、平成22年頃から平成27年まで長期化が続き、平成28年及び平成29年はほぼ横ばいに推移しましたが、平成30年は再び長期化傾向が見られました。審理期間が2年を超える事件の割合も、増加しています。(※2)

時間がかかるということは、それ自体債権者の体力・精神力を削ることになります。また、弁護士に依頼した場合の弁護士費用や印紙代といった費用の問題もあります。

さらに、任意での債務の支払を拒むような債務者なのですから、訴訟提起の段階では強制執行しうる財産があったとしても、その財産が時間とともに減少してしまうということも考えられます。

通常訴訟を選択するかどうかの判断については、債権回収という最終目的を達することができるかという観点から慎重に行うべきでしょう。

弁護士へ依頼するかどうかは別としても、弁護士への相談において、裁判の期間がどれくらいかかるか、依頼した場合には費用はどれくらいか等の見積もりを事前に確認しておくことをお勧めいたします。

そして、債務者の資産調査等の結果、資産がなく、支払能力もないことが分かった場合には、通常訴訟により確定判決を得ても、債権を回収ができないため、一般的には、上記の訴訟手続におけるデメリットを考慮した場合には訴訟手続は選択すべきではないことになり得ます。

通常訴訟の手続

訴え提起の前提としての証拠集め

当該請求が正当であることを主張立証する責任は、原告である債権者側にあります。そのため、通常訴訟の提起の前提として、事前に証拠を集めておく必要があります。
例えば、売買契約書などの、取引先との間で作成した債権の発生を確認できる書面や取引先が作成した書面が証拠に当たります。書面以外にも、契約や支払いに関するメールのやりとりなども集めておきましょう。

訴えの提起

ア.事物管轄について

まず、債権額によって訴える裁判所が異なります。債権額が60万円以下である場合には、簡易裁判所で少額訴訟を提起し、60万円を超えて140万円以下の場合には簡易裁判所で通常訴訟を提起し、140万円を超える場合には地方裁判所で通常訴訟を提起することが多いです。
なお、詳しくは少額訴訟の記事(*近日中に掲載予定です
で述べますが、少額訴訟手続の利用回数は、1人が同じ裁判所に年間10回までと制限されていますので、この制限を超えている方は、債権額が60万円以下であったとしても最初から通常訴訟手続を利用することになります。

ここでは、通常訴訟の提起の場合を考えます。
通常訴訟には、上記によると
(ア)債権額が140万円以下の場合における簡易裁判所での通常訴訟、
(イ)債権額が140万円を超える場合における地方裁判所での通常訴訟に分かれます。

(ア)の場合には、代理人を選任する場合、弁護士である必要はなく、裁判所の許可を得て、自社の社員を代理人として訴訟活動を行うことや認定司法書士によって訴訟活動を行うことができます。

一方で、(イ)の場合に代理人を選任する場合、その代理人は弁護士に限られます。(※3)

イ.土地管轄について

土地管轄とは、どの地域の裁判所に訴えを提起すれば良いのかという問題です。
通常は、債務者の住所を管轄する裁判所、もしくは債権者の住所を管轄する裁判所で訴訟が行われますが、申立てをする原告(債権者)の住所を管轄とする裁判所を指定することが可能です。
しかし、契約書に管轄の指定があった場合には、当該指定された裁判所に対して訴えを提起する必要があります。 

ウ.訴状について

訴えの提起は、訴状を裁判所に提出する形で行います(民事訴訟法133条1項)。
なお、簡易裁判所では、口頭の訴え提起も認められています(民事訴訟法271条・273条)が、後日のトラブルを防止する等のため、実際は訴状を提出する取扱いとなっています。ただ、本人訴訟を考慮し、訴訟類型に応じた各種定型書式に記入してもらう方法が主流です。
訴状は、表題・日付・宛先・作成者・当事者の表示・事件名・請求の趣旨・請求の原因・証拠方法・付属書類の順番に記載するのが一般的です。
以下のような形になります。

(例)訴状 (※4)

訴状

印紙 ・・・①

令和〇年〇月〇日

○○地方裁判所民事部 御中

〒○○○―○○○○ 東京都○○区○○1-2-3
原  告 株式会社サイケンシャ
上記代表者代表取締役 サイケン タロウ


〒○○○―○○○○ 東京都○○区○○4-5-6
○○法律事務所(送達場所)
 電話:03-○○○○-○○○○
 FAX:03-○○○○-○○○○
原告代理人弁護士 ベンゴ シロウ


〒○○○―○○○○ 東京都○○区○○7-8-9
被  告 サイム ショウジ


代金支払請求事件
訴訟物の価額  ○○○万○○○円
貼りつけ印紙代  ○○万○○○円
第1 請求の趣旨
1 被告は、原告に対して、金○○○万○○○円を支払え
2 訴訟費用は被告の負担とする
との判決並びに仮執行宣言を求める。

第2 請求の原因・・・➁
1 原告は、被告との間で、令和〇年〇月〇日、○○を○○万円として売買契約を締結した。
2 しかし、被告は、支払い期日を過ぎても、代金を支払わない。
3 よって、原告は、被告に対し、本件売買契約に基づき売買代金○○○万円○○○円の支払を求める。

証 拠 方 法

添 付 書 類 ・・・➂
訴状副本 1通
甲号証 各2通
・・・


訴状には、訴訟物の価額、貼用印紙額を記載し、印紙を貼り付けます。訴訟物の価額に対する印紙の額は、「民事訴訟費用等に関する法律」の定めにより算出されます。


請求を理由づける事実を具体的に記載し、かつ立証を要する事由ごとに、当該事実に関連する事実で重要なもの及び証拠を記載しなければなりません(民事訴訟規則53条1項)。そして、どの部分が主要事実の記載なのか、関連する事実の記載なのかをできる限り区別する必要があります(民事訴訟規則53条2項)。

「主要事実」とは、法律効果発生のために直接必要な事実のことをいいます。
例えば、売買代金支払請求権発生のために、「原告と被告の間で売買契約を締結した」という事実が「主要事実」となります。


不動産に関する登記事項証明書などの基本文書及び重要文書、提出予定の書証の写しを添付します。

債務者(=被告)による答弁書の提出

答弁書とは、訴状に対し、被告がどのような判決を求めるかを申し立て、原告の主張事実に対して答える形の準備書面で、第1回弁論期日において陳述されるものをいいます。
例えば、原告の請求に対して、被告がその請求の内容を争っており、理由がないと考えるときは、「原告の請求を棄却する」との判決を求めるとの記載がなされます。被告の主張欄に記載されるのは、原告の主張事実と両立しない事実(代金額について争う場合など)や、原告の主張する権利が発生しない旨の指摘などがあります。

答弁書が提出されると、最初の口頭弁論期日に被告が出頭しない場合でも、記載事項を陳述したものとみなされて、弁論が進行します(民事訴訟法158条)。

法廷での審理

口頭弁論における主張は、事前に提出した準備書面を陳述する方法で行われるのが一般的です。
準備書面は、主要事実の主張とこれに関連する事実を区別して記載(民事訴訟規則79条2項)し、立証を要する事由ごとに証拠を記載(民事訴訟規則79条4項)します。相手方の主張事実の内容を否定する場合(否認といいます)は、その理由を記載しなければなりません(民事訴訟規則79条3項)。

これらの準備書面や、書証の提出によって、お互いの争点が明らかになった段階で、原告・被告双方の関係者を呼んで、その関係者に対し、裁判所で尋問(質問)をする機会が設けられることが通常です。この尋問手続は、裁判において山場になることも多く、事前の準備が非常に重要です。

審理の終了、判決

審理の結果、裁判をするのに熟したとき(民事訴訟法243条1項)、弁論が終結します。
そして、弁論が終結されるとその場で、裁判長が判決言渡し期日を指定します。
裁判所が指定した期日において、判決は公開の法廷で行われ、言渡しにより判決の効力が生じます(民事訴訟法250条)。

判決言渡し後、判決原本が裁判所書記官に交付され、その交付から2週間以内に、判決書正本が当事者に送達されます。
その送達を受けた日(現実に受け取った日とは限りません。)の翌日から起算して、2週間の控訴期間が経過後、原告・被告双方から控訴がされなければ判決が確定されます(民事訴訟法116条1項)。

まとめ

通常訴訟は、裁判所という機関を利用することから、審理期間が長い、費用がかかる等のデメリットがあります。また、費用と時間をかけて通常訴訟を提起して確定判決を得たとしても、債務者にお金がなかったり、また、債務者の財務状況が悪化したりすれば、判決は絵に描いた餅になってしまいます。

そのため、支払督促・少額訴訟・民事調停・民事保全手続などの手段も検討した上で、債務者の支払い態度や資産状況を見極め、通常訴訟のメリットとデメリットも踏まえて、通常訴訟を検討するようにしましょう。

その判断には、この記事で述べたようなメリットとデメリットを考慮したデリケートな判断が要求されるため、判断に迷われた際には、弁護士への相談をお勧めいたします。

※1 支払督促、民事調停などの方法が挙げられます。

※2 裁判所「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第8回)」「2.裁判の迅速化に係る検証に関する報告書の概要」6頁
https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/siryo/hokoku_08/index.html

※3 提起する裁判所が、簡易裁判所であっても、地方裁判所であっても、裁判の流れに直接変わりはありません。

※4 裁判所のホームページから各書式のダウンロードが可能です。
裁判所「民事訴訟・少額訴訟で使う書式」 https://www.courts.go.jp/saiban/syosiki/syosiki_minzisosyou/index.html


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