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法的手続によって債権を回収するためにはどうすればいいのか?

Q
 取引相手に対して債権を有しているのですが,なかなか履行してくれません。このままでは任意による履行を期待できないので,法的手段を利用して強制的に債権を回収したいと考えていますが,どうすればよいのか分かりません。

A
 取引相手の財産から強制的に債権を回収するためにはまず債務名義が必要となります。その債務名義を取得するために,訴訟の提起や,裁判上の和解,支払督促等様々な法的手段が存在します。債務名義が取得できれば,それに基づき裁判所へ強制執行の申し立てをすると,裁判所は取引相手の財産を差し押さえて換価した上で取引相手の債権者に対して配当金を分配します。このプロセスを経ることで,取引相手から強制的に債権を回収することができます。
また,売掛債権につき担保が設定されていない,又は取引相手との間で公正証書が作成されておらず,直ちに強制執行もできないような場合は,訴訟提起の前に取引相手の財産逸失を防ぐため,民事保全手続を活用することが考えられます。


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「法的手続によって債権を回収するためにはどうすればいいのか?」
について、詳しくご解説します。

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債権回収における法的手続

債務の支払いを遅滞している人から強制執行によって債権を回収するためには,まずは債務名義を取得しなければいけません。
そのためには一般的に訴訟提起をすることが考えられますが,
訴訟といっても通常訴訟,少額訴訟,手形・小切手訴訟が挙げられます。
また,訴訟手続中に和解(裁判上の和解)をした場合であっても債務名義を取得できます。
そもそも訴訟を提起せずに債務名義を取得することができる支払督促という手段も存在します。

また,取引相手の資力に不安がある場合には,訴訟に先立って相手方の財産を仮差押えすることもできます。その後,訴訟を通じて債務名義が取得できれば,相手方の財産に対して強制執行をすることが可能となり,強制的な債権の回収が実現できます。

以下,これらの手続について解説していきます。

訴訟一般

相手方の有する財産から強制的に債権を回収するためには強制執行によらなければなりませんが,そのためにはまず債務名義が必要となります。

そもそも債務名義とは,債権者に対して強制執行により実現されるべき債権の存在及び範囲を明らかにした上でその債権について強制執行をすることを法的に認める文書です。 そして,「確定判決」や「仮執行の宣言を付した判決」は債務名義となるため(民事執行法22条1項1号2号参照),通常訴訟を提起して判決を得ることで債務名義の取得を目指すことができます。

なお,債務者が債務を履行しないときは直ちに強制執行に服することを認める旨の文言が記載されている公正証書,いわゆる強制執行認諾文言付公正証書を有している場合は,わざわざ訴訟を起こす必要はなく,それ自体が債務名義となります(民事執行法22条1項5号)。

❶通常訴訟とは

「裁判官が,法廷で,双方の言い分を聴いたり,証拠を調べたりして,最終的に判決によって紛争の解決を図る手続」のことをいいます(裁判所ホームページ)。
民事訴訟法の手続に従って当事者である原告と被告が互いに主張立証を行った上で,原告の請求が認容されれば,裁判官による(場合によっては仮執行宣言付の)判決が下されます。判決は,通常は,当事者が上訴(控訴,上告,上告受理の申立て)等をすることなく,上訴期間等が経過したときは,その期間満了時に確定します。

相手方との間で契約によって訴訟における専属合意管轄が定まっていなければ,相手方に対して有している債権額が140万円以下の場合は簡易裁判所,それを超えてしまう場合は地方裁判所に対して訴状を提出して訴訟提起することになります。

通常訴訟の大まかな流れとしては,以下の通りです。

訴状を提出して訴えを提起

相手方が答弁書提出

口頭弁論

争点整理のための弁論準備手続

証人尋問

結審

判決言渡し


判決言渡し前に和解する場合もあります。
その際に作成される和解調書も「確定判決と同一の効力を有するもの」として,債務名義となります(民事執行法22条1項7号参照)。

❷通常訴訟のメリット・デメリット

通常訴訟は相手方に対して有している 債権額やその種類を問わず,また期日の回数や証拠方法にも制限がないというメリット があります。また,訴訟の当事者である原告被告側双方に対して主張・反論・立証・反証の機会が確保されていることから, 手厚い手続保障が与えられている といえます。

しかし,裁判所の判決に対する不服として位置付けられる控訴や上告まで含めてしまうと,最終的に判決が確定するまでには多大な時間を要してしまい,迅速な債権回収が難しいというデメリット が存在します。

❸どのような場合に通常訴訟の提起をすべきか

まず,取引相手が資力を有していることが明らかな場合において,それにも関わらず支払う態度が見られなければ通常訴訟の提起を考えるべきです。

しかし,取引相手がほぼ資力を有していないと判断できる場合には,通常訴訟を提起し債務名義(確定判決)を取得したとしても,強制執行によって債権を回収することが難しく,かえって通常訴訟に要する費用がかさんでしまうことになります。そのため,このような場合には通常訴訟の提起はデメリットが大きく,あまりお勧めできません。

通常訴訟について詳しくは
通常訴訟による債権回収のメリット・デメリットと手続きについて
の記事をご覧ください。

支払督促とは

「金銭,有価証券,その他の代替物の給付に係る請求について,債権者の申し立てにより,その主張から請求に理由があると認められる場合に,支払督促を発する手続」を指すとしています(裁判所ホームページ)。

裁判所によって支払督促正本が取引相手に送達された後,相手方から2週間以内に異議申し立てがなければ裁判所に対して仮執行宣言の申し立てをすることができます。
その後,相手方に対して仮執行宣言が発布されることになります。
そして,仮執行宣言付支払督促は債務名義となることから(民事執行法22条1項4号参照),これに基づき強制執行が行われ,相手方から強制的に債権を回収することができます。

 この支払督促の大まかな流れは以下の通りです。

【申立人】
必要事項を記入の上,支払督促申立書を簡易裁判所へ提出

【裁判所】 申立書受理・審査の上,相手方へ支払督促の発布・送達

【相手方】
支払督促受理。異議があれば送達日から2週間以内に異議申し立て※

(異議申し立てがないまま2週間経過)

【申立人】
仮執行宣言申立書を簡易裁判所へ提出

【裁判所】
申立書受理・審査の上,相手方へ仮執行宣言の発布・送達

【相手方】
仮執行宣言付支払督促受理。異議があれば送達日から2週間以内に異議申し立て※

(異議申し立てがないまま2週間経過)

【申立人】
支払督促を債務名義とした強制執行の申し立て・強制執行による債権回収

※相手方から2週間以内に異議申し立てがあった場合には,申立人の請求額が140万円を超えない場合は簡易裁判所,請求額が140万円を超える場合には地方裁判所にて,通常訴訟手続に移行することになります。

❶支払督促のメリット・デメリット

手数料は通常訴訟を提起する場合と比べると半額であり,通常訴訟の提起よりもコスト面が抑えられます。 また,通常訴訟を提起する場合,当事者に対して十分に主張立証の機会を与えなければならないことから手間やコスト,大変な時間を要してしまいます。
しかし,支払督促であれば,異議申し立てにより通常訴訟へ移行しない限りは,通常訴訟よりも迅速かつコストを抑えて債務名義を取得することができます。
そして,支払督促は書類審査のみであることから,訴訟の場合と異なり,審理へ参加するためにわざわざ裁判所に行く必要もありません。

ですが,取引相手がその債権額の多寡やその存在そのものを争っている場合,通常は異議申し立てを行い通常訴訟へ移行することが多いため,当初から通常訴訟を提起していた方が手間やコストを低く抑えることができたというような場合が生じてしまいます。

また,実務上はよくよく検討しなければならないこととして,
支払督促は取引相手の住所地を管轄する裁判所に対して申し立てを行わなければならないことが挙げられます。
通常訴訟であれば,例えば,金銭債務の履行地が原告の住所地等である場合に,原告の住所地を管轄する裁判所に訴訟提起ができますが,支払督促ではこれができないのです。

仮に,相手の住所地を管轄する裁判所に支払督促を申し立てた後に,異議が申し立てられ通常訴訟へ移行した場合にはその管轄裁判所で裁判が行われることになります。このため,いくら遠方であったとしてもその管轄裁判所へ行かなければならず,大変なコストがかかってしまう恐れがあるのです。

なお,支払督促は書面での審理であるため,和解による解決は難しいこともデメリット として挙げられます。

❷どのような場合に支払督促をすべきか

前述のとおり,取引相手が債権額やその存在自体につき争っている場合は通常訴訟へ移行してしまうため支払督促のメリットが失われてしまい,かえって負担が大きくなる可能性もあります。
そのため,取引相手が債権額やその存在について争っている様子を見せていない場合には,迅速かつコストを抑えて債務名義を取得することができる支払督促を選択すべきと考えられます。

少額訴訟とは

裁判所ホームページによれば,少額訴訟とは「一回の期日で審理を終えて判決をすることを原則とする,特別な訴訟手続」であり,「民事訴訟のうち,60万円以下の金銭の支払いを求める訴えについて,原則として一回の審理で紛争解決を図る手続」を指します。

訴訟にて請求できる債権額に制限はあるものの,
原則として1回の期日で審理を終了させた上で請求が認容されれば職権で仮執行宣言が付されるため,通常訴訟よりも簡易迅速に債務名義たる仮執行宣言付判決を取得することができる手続といえます。

少額訴訟においては,その簡易迅速性を確保するために,証拠書類や証人については設定された審理の日においてすぐに調べることができるものに限定されます。
また,通常訴訟と異なり,審理方法としても,原則として裁判官と共に丸いテーブルに着席する形式が取られています。
そして,反訴が提起できず控訴も原則不可であり,少額訴訟判決に対する不服申し立ては同一裁判所への異議申し立てのみ可能とされていることから,迅速な債権回収が可能です。

少額訴訟の大まかな流れは以下の通りです。

【中村】 法的手続によって債権を回収するためにはどうすればいいのか 縦

❶少額訴訟のメリット・デメリット

原告側の請求が認められる場合であっても,分割払いや支払猶予,遅延損害金免除の判決が出されることもあり,訴訟手続中には和解による解決も可能であることから, 柔軟性が認められることが少額訴訟のメリットといえます。
また,通常訴訟と異なり,1回の期日で審理が終了して判決をすることが原則となっている上,反訴(※1)が提起できず控訴もできないことから,迅速に債務名義を取得でき, 訴訟にかかる労力が通常訴訟よりも低いといえます。少額訴訟手続によって取得した判決書や場合によっては和解調書に基づいて,強制執行を申し立てることが可能となっており,この点は通常訴訟と同様です。なお,少額訴訟債権執行(※2)も可能です。

しかし,少額訴訟判決に対する不服申し立ては,控訴は認められておらず異議申し立てに限られていることから,異議申し立てがなされれば通常訴訟に移行することになります。
そのため,相手方が債権の存在やその金額等を争っている場合,通常訴訟に移行することが考えられます。
結果,最初から通常訴訟を提起していた方が結果的には迅速かつコストを抑えて債務名義を取得できていたという可能性が生じてしまいます。
また,少額訴訟における証拠は即時に取り調べることができるものに限られているため,そのような証拠では立証ができない場合には少額訴訟の利用は難しいと考えられます。

なお,少額訴訟は同一の簡易裁判所において,年10回の利用制限が定められているので,利用に当たっては注意を要します。

※1 裁判中に原告側ではなく被告側が,原告を相手として訴えを提起すること。
※2「簡易裁判所の少額訴訟手続で債務名義(判決,和解調書等)を得たときに限り,その簡易裁判所において行う金銭債権(給料,預金等)に対する強制執行のこと」を指します(裁判所ホームページ)。

❷どのような場合に少額訴訟の提起をすべきか

支払督促同様,債務者が債権の存在や金額等について争っている様子を見せていない場合には,迅速かつコストを抑えて債務名義を取得することができる少額訴訟の提起を選択すべきと考えられます。

❸支払督促と少額訴訟のどちらを選択すべきか

支払督促と少額訴訟はともに債務名義の迅速な取得が可能であり,かつ取得にかかるコストを通常訴訟の提起による場合よりも低く抑えることができるというメリットがあります。そのため,どちらを選択すべきか迷ってしまうかもしれません。

この点,少額訴訟については相手方への請求額が60万円以下である場合に限られます。そのため,請求額が60万円を超えてしまう場合には支払督促を選択すべきだと考えられます。
また,支払督促の場合は裁判所への申し立て費用が少額訴訟の2分の1となることから,できる限り費用を抑えたい場合にも,支払督促が優れているといえます。

さらに,少額訴訟の場合は原告側の請求が認容されたとしても,前述のとおり支払時期の猶予や分割払いの定めを行うことが可能となっているため,即座に強制執行手続に移行することができません。そのため,迅速な債権回収のために強制執行手続に早く移行したいと考えている場合にも,支払督促を選択すべきと考えられます。

その上,少額訴訟においては,訴訟提起後の債権についての遅延損害金の支払免除を裁判所が定めることが可能となっています。そのため,遅延損害金を漏れなく相手方から支払って欲しい場合,少額訴訟によるとその希望が実現できない可能性があります。

このことから,両者の選択のポイントとしては以下の通りになります。

☐ 請求額が60万円を超えている
☐ 費用をなるべく抑えたい
☐ 早く強制執行手続に移って債権回収をしたい
☐ 遅延損害金をできる限り多く支払って欲しい

以上のポイントを1つでも満たしているのであれば,個別事情にもよりますが,支払督促を選択した方がメリットが大きいと考えられます。

手形・小切手訴訟とは

裁判所ホームページによると,「手形・小切手訴訟は,通常の訴訟よりも簡易迅速に債務名義(手形・小切手判決)を取得することを目的とする特別の訴訟手続」であるとされています。

手形・小切手訴訟においては,手形・小切手による金銭支払請求と法定利率による損害賠償請求が可能となっています。
通常訴訟ではなく手形・小切手訴訟による審理・裁判を選択する場合には,裁判所へ提出する訴状に対して,手形・小切手訴訟によって審理裁判を求める旨の申述の記載を要するため注意が必要です。

❶手形・小切手訴訟のメリット・デメリット

証拠が書証(※1)と当事者尋問(※2)に限定されていることから, 通常訴訟よりも迅速な判決言い渡しが可能となっています。
また,請求が認容されれば職権で必ず仮執行宣言が付される上,最初の口頭弁論期日で審理が完了します。その上,少額訴訟同様,反訴が提起できず控訴も原則不可であり,手形・小切手判決に対する不服申し立ては同一裁判所での異議申し立てのみ許容されることから,迅速な債権回収が可能です。
加えて,原告から通常訴訟に移行させることは可能ですが,少額訴訟と異なり被告側からの異議申し立てによる通常訴訟の移行は不可能となっています。
しかし,その名の通り,手形金・小切手金の請求をする場合にのみ提起が可能であるため,それ以外の請求の場合には提起ができません。

※1 特定の文書に記載されている意味内容によって事実を立証する証拠。例えば売買契約における契約書など。
※2 訴訟の当事者本人を尋問して,その供述を証拠とするもの。

❷どのような場合に手形・小切手訴訟の提起をすべきか

手形金・小切手金の請求をする場合には,この手形・小切手訴訟を提起するか通常訴訟を提起するかを選択することが可能ではあります。しかし,通常訴訟よりも簡易迅速に債務名義たる仮執行宣言付判決を取得することが可能であり,迅速な債権回収を実現することができることから,手形・小切手訴訟の提起をすべきと考えられます。

手形・小切手訴訟について詳しくは
手形・小切手訴訟とは?早く簡単に手形・小切手を回収する方法をご紹介
の記事をご覧ください。

民事保全手続とは

裁判所ホームページによると,「債務者の財産を一時的に処分できないようにしておく手続」を指します。

せっかく費用や労力をかけて勝訴判決を勝ち取ったとしても,強制執行を行うまでの間に相手方にその財産を処分されてしまうと,結局は債権の回収が不可能となってしまいます。また,判決が出るまでにはかなりの時間を要するところ,その間に財産を処分されてしまう恐れもあり,同様の問題が生じてしまいます。
そのため,事前に相手方の財産につき処分ができないようにすることで,債権回収の実効性を高めることができる手段がこの民事保全手続です。

その要件としては,被保全債権の存在・保全の必要性が挙げられます。
前者は,この民事保全手続によって保全しなければならない債権がそもそも存在していなければならないという当然の要件を求めています。
後者は,このままだと訴訟後の強制執行の段階において執行ができないことによって権利の実現が妨げられる恐れがあるような場合に認められます。
民事保全手続は,仮差押え・係争物に関する仮処分・仮の地位を定める仮処分に分けることができます。

❶仮差押えとは

仮差押えとは,金銭債権の支払いを保全するため,その債権額に相当する相手方の財産を仮に差し押さえるものを指します。
相手方に対して売掛債権を有している場合には,この金銭債権に当たるため,仮差押えが可能です。
例えば,相手方が有している預金口座や建物,土地といった財産を仮に差し押さえて,処分を封じることがこれに当たります。

❷係争物に関する仮処分とは

係争物に関する仮処分とは,特定の物の給付を請求する権利,いわゆる給付請求権の保全のため,その特定の物についての処分の禁止等をするものを指します。
この係争物に関する仮処分は占有移転禁止の仮処分と,処分禁止の仮処分に更に分けることができます。

占有移転禁止の仮処分は,相手方が占有している物の占有について第三者に移転させることを禁止する仮処分です。
これは,リースや所有権留保を実行しようとする際にメリットがあるといえます。

処分禁止の仮処分は,物の処分を禁止する仮処分です。
これは,自己所有不動産の登記が他人名義となっていることから,登記を抹消することを訴訟において求める場合に,その際中にもかかわらず相手方が見知らぬ第三者に登記を移転させるような事態を防ぐ際に用いられます。

❸仮の地位を定める仮処分とは

仮の地位を定める仮処分とは,当事者間で争いが生じている権利について,紛争解決に資する措置を講じて,その法的地位を仮に保全するものを指します。
特に,訴訟が始まる前にもかかわらず,債権者側が訴訟で勝訴した場合と同じ法的地位を仮に認める仮処分を断行の仮処分といいます。
訴訟において特定の物の給付を相手方に求めようとしている原告について,これによりその物の給付を仮に実行することになります。

❹民事保全手続の注意点

第1に,民事保全手続を利用するためには原則として担保を裁判所に納めなければなりません。
具体的な担保の内容としては,保全の必要性に応じて,債権額の10~30%の金銭又有価証券が相場となっています。
また,担保の方法としては支払保証委託(※)でも可能です。

なお,民事訴訟法79条1項~3項までのいずれかの事由に当たる場合は,担保の取消により担保が返却されます。
具体的には,債権者勝訴の判決が確定した場合や,担保権利者たる債務者が担保の取り消しに同意した場合,そして権利行使の催告によって同意が犠牲される場合が挙げられます。


第2に,民事保全はその申し立てをする時期に注意しなければなりません。
申し立てが早すぎたり遅すぎてしまえば,現時点では未だ保全の必要性は認められないとして民事保全手続を利用することができません。
特に,相手方が有している預金口座に対して仮差押えを試みる場合,ちょうど残高がある時点を見計らって申し立てをしなければなりません。
残高がほぼなく被保全債権に満たない場合には,空振りといって,仮差押えの意味があまりない結果になる事もあります。
いわば,タイミングを合わせて仮差押えという矢を放たなければならない,ということになります。

申し立て時期に注意しなければせっかくの手続を利用できない点に注意が必要です。


第3に,相手方について倒産手続が開始されてしまうと,せっかくの民事保全手続が失効・中止となってしまいます。
そのことから,確実に相手方が倒産してしまうであろう場合であってもなお申し立てをしてしまうと,かえってコストがかかってしまいます。


第4に,特に相手方の預金口座を仮に差し押さえた場合,相手方がその銀行から借財をしていたケースだと,銀行の貸付金とその預金との相殺がされてしまいます。
そのため,相手方が預金口座を有する銀行から借財をしているか否かをチェックすることが必要です。


最後に,当然ではありますが,すでに相手方が財産を有していない場合には仮に差し押さえる物がないことから民事保全手続を利用することができません。
仮差押えという矢を放った時点で相手方に財産が有ればその財産を差し押さえることができますが,その時点ですでに財産がなければ矢は刺さらず,差し押さえることはできません。

※一定の保証料を準備することで損害保険ジャパン株式会社が保証書を発行し,それが供託金の代わりに担保となる制度。

強制執行とは

判決や和解調書,仮執行宣言付支払督促,強制執行認諾文言付公正証書などの債務名義を有していれば,その債務名義に基づいて裁判所に対して強制執行の申し立てをすることができます。
その強制執行により,裁判所は相手方の財産を差し押さえて換価し,相手方の債権者に対する分配等を行い,債権者が有する債権を強制的に回収させることになります。

強制執行には不動産執行,債権執行,動産執行等があります。
但し,ご相談としてよく聞かれることですが,これら債務者の財産を特定し,何に対して強制執行するかは債権者の責任で判断しなければならないということです。
そのため,債権者は,日ごろから債務者の財産として何があるのか,注意をしておく必要があります(後述する財産開示制度等を利用することも考えられます)。

❶不動産執行手続

その名の通り,相手方の不動産について強制執行を行うことを指します。
今回はその中でも競売について,大まかな流れに沿って説明します。

目的不動産について競売の申し立て
申し立ては,目的不動産の所在地を管轄している地方裁判所(支部を含みます。)に対して書面にて行います。

競売開始決定・不動産差押え
申し立てが適法と認められれば,裁判所によって,不動産執行開始・目的不動産差押えの旨を宣言する開始決定がなされます。この際,相手方や目的不動産の所有者に対して開始決定正本が送達されます。

売却準備
裁判所は,買受希望者に目的不動産を閲覧してもらえるように,現況調査報告書・評価書・物件明細書の3点セットを作成します。

売却実施
裁判所書記官によって,売却日時・場所・売却方法が定められます。
第1回目の売却方法としては,定められた期間内に入札をする方法である期間入札が広く採用されています。
そして,最高価で落札して売却許可がされた買受人はその落札金額から保証金額(売却基準価格の2割ほど)を引いた代金を納付し,目的不動産の引き渡し・登記移転がなされることになります。

配当
裁判所によって,目的不動産を差し押さえた債権者やその他の配当要求した債権者に対して,法律上の優先順位に従って目的不動産の売却代金が配られます。

❷債権執行手続

相手方が有している債権,例えば銀行の預金債権や会社に対する給料債権などを差し押さえて,直接取り立てることなどで強制的に債権回収を実現する手続です。

こちらも大まかな流れに沿って説明します。

差押えの申し立て
相手方の住所地を管轄している地方裁判所(支部を含みます。)に対して申し立てをします。
万一相手方の住所地が不明の場合は,差し押さえたい債権の所在地,例えば預金債権を差し押さえたい場合には,その銀行の所在地を管轄している裁判所に対して申し立てをすれば足ります。

なお,差し押さえたいと考える債権が実際に存在しているかどうか,その額等を把握したい場合は,その債権の債務者である第三債務者に対してその回答を求める陳述催告の申し立てをすることも同時に可能です。

差押命令
その申し立てに理由があると裁判所が判断すれば,差押命令を発布し,相手方と第三債務者に対して送達されます。

差押え
ここで,差押命令が債務者に送達された日から1週間を経過すると,その差し押さえた債権を直接自ら取り立てることができます。
少額訴訟手続で債務名義を得た場合は,その手続を行った簡易裁判所に対して,金銭債権に対する強制執行が可能となります。
なお,第三債務者が供託をした場合は,裁判所が配当を行うため取り立てはできません。

❸動産執行手続

執行官に対して動産執行の申し立てをすることで,執行官がその動産を占有し,売却・換価・配当が行われます。
しかし,民事執行法131条には差押をすることができない動産が数多く規定されていることから,債権を十分に回収することはできないのが現状です。

❹財産開示制度

裁判所ホームページによると,「財産開示手続は,権利実現の実効性を確保する見地から,債権者が債務者の財産に関する情報を取得するための手続であり,債務者(開示義務者)が財産開示期日に裁判所に出頭し,債務者の財産状況を陳述する手続」とされています。
この財産開示手続は令和2年(2020年)4月1日に民事執行法の改正に伴い,債務者に対する罰則が強化されました。

具体的には,債務者が財産開示期日に出頭しない場合や虚偽の陳述をした場合に,6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科されるようになりました(改正民事執行法213条1項)。
冒頭で債権者は債務名義を得ても,債務者の財産を自ら特定する必要があるとご説明しましたが,この財産開示手続制度の利用により,債務者の財産をより把握しやすくなったといえるでしょう

❺強制執行の注意点

これまで記載した通り,強制執行には相手方の財産から強制的に回収できるという大きなメリットがあります。
しかし,相手方に対してほかにも債権者が複数存在する場合,債権者間は平等に取り扱われ,その債権額に応じて配当されることになります。
そのため,強制執行に至るまでのプロセスをなんとかして経た割には配当が少なく,十分に債権回収できないという場合が生じてしまいます。

また,不動産競売や動産執行において,執行費用や一般の債権者よりも順位が優先する担保権者に売却代金が配当された後,もう配当金が残っていなければ強制執行手続は取り消されてしまいます。
その上,民事保全手続の場合同様,相手方について倒産手続が開始されてしまえば,強制執行も失効・中止されてしまいます。

まとめ

強制執行をするためには債務名義を取得しなければなりませんが,少額訴訟を提起するのか,それとも通常訴訟を提起しなければならないのか,それに伴い民事保全手続を利用するのか,そもそも支払督促で足りるか等,個別事情によってどのような法的手段を選択すべきか全く異なってしまいます。

それぞれ法的手段はメリット・デメリット,生じるコストの大小,実行の際の注意点等,様々な差異が存在しているため,自分にとって一番実効的かつ実現可能な債権回収方法を選択しなければいけません。


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