澤田直彦
監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所
代表弁護士
IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「サブリース契約の賃料増額請求~法的根拠と交渉術をわかりやすく解説~」
について、詳しくご説明します。
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サブリース契約を結んでいるオーナーの中には、物価や固定資産税の上昇を受けて、賃料の見直しをしたいと考えている方も多いのではないでしょうか。
しかし、サブリース会社との契約では、一般の賃貸契約とは異なるルールや制約があり、簡単に賃料増額を要求できるわけではありません。
この記事では、サブリース契約における賃料増額の法的根拠や、交渉を有利に進めるための実践的なポイントについて、わかりやすく解説していきます。
サブリース契約の基本構造と特徴

サブリース契約は、不動産オーナーが管理や空室リスクを軽減する手段として広く利用されています。
しかし、その仕組みや特徴を正しく理解していないと、思わぬトラブルに発展することもあります。
ここでは、サブリース契約の基本構造と特徴について整理します。
サブリース契約とは何か
サブリース契約とは、不動産のオーナーが、不動産会社(サブリース業者)に所有している物件を貸し出し、サブリース業者がさらにその物件を入居者に転貸する形の契約です。
サブリース契約には、次のような特徴があります。
直接の賃貸借契約は「オーナーと業者」間
オーナーが賃貸借契約を締結する相手はサブリース業者であり、入居者と直接賃貸借契約を結ぶわけではありません。
入居者と賃貸借契約を締結するのはサブリース業者です。
入居者は「転借人」であり、直接の契約相手ではない
サブリース業者は、オーナーから賃借した物件を入居者に転貸します。
転借人である入居者は、オーナーの直接の契約相手ではありません。
賃料のやりとりは業者との一対一が原則
オーナーはサブリース業者から毎月一定の賃料を受け取ります。
個々の入居者から賃料を受け取るわけではありません。
サブリース契約にはいろいろなパターンがありますが、サブリース業者が用地の確保や建物の建築からか関わっており、賃貸管理なども一括して請け負うケースが多くなっています。
サブリース業者はオーナーに支払う賃料よりも高い賃料で物件を転貸し、差額で収益を上げる仕組みになっています。
サブリース契約のメリットとデメリット
サブリース契約が有力なビジネスモデルとして成立している理由は、不動産オーナーとサブリース業者双方にメリットがあるからです。
一方で、サブリース契約には、デメリットと言える点もあります。
オーナーとサブリース業者それぞれの立場から見たサブリース契約のメリットとデメリットを説明します。
サブリース契約における賃料増減額請求権の法的根拠

借地借家法では賃貸借契約の当事者の一方から他方に対し、賃料増額や減額を請求できる権利を認めています。
サブリース契約でも賃料の増額や減額を請求できるのでしょうか?
ここではサブリース契約に関する最高裁判例をもとに解説します。
借地借家法と賃料増減額請求権
契約の当事者は、契約で定めた条件を守る必要があります。
しかし、建物の賃貸借契約は、長期間続くことが多い契約です。
家賃相場の変動などにより、当初取り決めした賃料額が不相当になることも考えられます。
そのため、借地借家法第32条第1項では、建物の賃貸借契約の一方から他方に対する一方的な意思表示により、賃料の増額や減額を請求できることを定めています。
建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
引用:e-GOV法令検索|借地借家法(平成三年法律第九十号)第三十二条
建物の賃料増減額請求について定めた借地借家法第32条第1項は、強行規定とされています。
強行規定とは、当事者同士でどんな合意をしても、法律で決められたルールが優先される規定です。
仮に当事者間で賃料増減額請求権を放棄する合意をしても無効とされます。
長期間続くことが多い賃貸借契約では、自由な契約だけに任せると、当事者の一方が不利な条件を押し付けられるリスクがあります。
適正な賃料水準を維持することは、経済全体の公正な取引秩序を守ることにもつながります。
社会的な公正と当事者の権利を守るために、賃料増減額請求権については、強行規定として扱われています。
ただし、貸主が行う賃料増額請求については、特約による排除が認められています。
一定期間賃料を増額しない特約がある場合には、その期間内に賃料が不相当になったとしても、賃料増額請求ができません。
サブリース契約の賃貸借該当性
そもそも、サブリース契約は借地借家法が適用される建物賃貸借に該当するのでしょうか?
サブリース契約の場合、借主であるサブリース業者は不動産事業に精通した会社で、収益予測や建物建築、資金調達、賃貸管理など全体的なプランニングを行っているのが一般的です。
一方、貸主である不動産オーナーは、不動産事業に慣れていない個人であることも多くなっています。
借主を保護する必要性が高い通常の賃貸借契約とは事情が異なります。
最高裁が平成15年に言い渡したサブリース契約に関する判決によると、サブリース契約も建物賃貸借契約に該当するため、借地借家法第32条の規定が適用され、賃料増減額請求も認められます。
ただし、賃料増減額請求の当否や相当賃料額を判断するにあたっては、賃貸借契約の当事者が賃料額決定の要素とした事情その他諸般の事情を総合的に考慮する必要があります。
サブリース契約における賃料額や賃料保証特約などは、オーナーが多額の資本を投下する前提となる重要な判断要素であり、十分に考慮する必要があります。
そのため、サブリース契約では、通常の賃貸借契約のように、賃料の鑑定額をもって直ちに相当賃料額であると言うことはできません。
オーナーが当初予測した収益や建築資金の返済計画も考慮しつつ、相当賃料額が認定されることになります。
賃料増額請求の具体的要件と手続き

サブリース契約も借地借家法が適用される建物賃貸借契約に該当するため、貸主の賃料増額請求も可能です。
賃料増額請求が認められる条件や手続きの流れをみてみましょう。
賃料増額が認められる3つの条件
借地借家法第32条第1項が規定する賃料増額が認められるためには、以下の3つの条件のいずれかが現行賃料額が合意された時点(直近合意時点)以降に発生している必要があります。
物件にかかる税金や保険料などが増加した場合です。
固定資産税・都市計画税などが上がると、賃料増額も認められる可能性があります。
②経済事情の変動
経済事情や社会情勢の変化があった場合です。
インフレによる物価上昇、金利上昇による借入金の利息の増加などが考えられます。
③近隣同種建物の賃料との比較
賃料が周辺相場よりも低くなっている場合です。
大型商業施設の開店や再開発により、賃料金相場が上がるようなケースが考えられます。
賃料増額請求の実務的な手順
賃料増額請求を行う手順は、当事者間の協議、調停申立て、訴訟提起の3段階に分けられます。
それぞれの段階での対応方法と留意点をまとめます。
1. 当事者間の協議
根拠を明確にした上で、賃料増額の意思表示をします。
賃料増減額請求権は、一方的意思表示が相手方に到達時点で賃料増減の効力が生じる効果がありますが、事実上、請求を受けた相手方が増減請求に応じないこともあります。
そのため、できるかぎり相手方が納得できるよう、請求の意思表示とともに増額の理由を示すようにしましょう。
増額理由には、周辺の賃料相場の上昇や経済事情の変動、オーナーの負担増加などが考えられます。
市場調査結果や経済指標をもとに具体的な資料を示し、説得力を持たせましょう。
2. 調停申立て
協議がまとまらない場合、裁判所に調停を申し立てます。
調停申立書に増額請求の理由、金額、交渉の経緯などを記載し、証拠資料を提出します。
調停では調停委員が当事者双方の意見を聴取し、解決策を提案します。
3. 訴訟提起
調停で解決できなかった場合は、最終手段として訴訟を提起します。
訴状を裁判所に提出し、賃料増額の理由と証拠を提出します。
賃料増額が判決で認められた場合は、賃料増額の意思表示が相手方に到達した時点にさかのぼって改定後の賃料が適用されます。
賃料自動増額特約と定期建物賃貸借契約の関係

サブリース契約は、賃料自動増額特約が付いている場合や、定期建物賃貸借契約になっている場合があります。
ここでは、サブリース契約における賃料自動増額特約の有効性と、定期建物賃貸借契約における賃料増額の特徴について説明します。
賃料自動増額特約の有効性と限界
賃料自動増額特約とは、時間の経過や一定の基準に従って、当然に賃料を改定する特約です。
サブリース契約でも、「賃料を3年ごとに3%ずつ増額する」といった内容の特約が設けられることがあります。
こうした賃料自動増額特約も有効ですが、借地借家法により制限を受けることがあります。
借地借家法第32条第1項では、一定期間建物の賃料を増額しない旨の特約を除き、特約によっても賃料増減額請求権の行使は妨げられないとされています。
賃料自動増額特約があっても、市場相場が大きく変動した場合や、経済事情の変動に応じて、賃料増減額請求が認められる場合があります。
定期建物賃貸借契約における賃料増額
建物賃貸借契約には、普通建物賃貸借契約のほか、定期建物賃貸借契約があります。
普通建物賃貸借の場合には、借主が希望すれば原則として契約が更新されます。
一方、定期建物賃貸借とは契約更新がなく、期間満了で終了する賃貸借契約です。
定期建物賃貸借は、書面での契約や契約終了に関する事前の説明を条件に締結が可能です。
定期建物賃貸借契約でも、賃料増額請求は原則として可能です。
ただし、定期建物賃貸借契約においては、賃料増減額請求権を排除する特約が有効とされています(借地借家法第38条第9項)。
この点、通常の建物賃貸借契約でも、一定の期間建物の賃料を増額しない旨の特約のみ有効とされているのと異なる取扱いとなっています。
したがって、契約書に「契約期間中は賃料を減額しない」や「期間中は賃料を増額しない」といった特約がある場合、その特約が有効であり、原則として期間中の賃料減額や増額はできません。
ただし、賃料増額請求権を排除する特約があっても、契約締結時に予見できなかった著しい経済事情の変動などがあった場合には、賃料の増減額請求も可能とされます。
事情変更の原則や信義則など民法の一般条項の適用までは排除できないと考えられているからです。
オーナー側が今後取るべき実務的アクション

サブリース契約において、賃料増額を希望するオーナー側は、次のような手順で進めましょう。
① 現行契約の再確認
まず、現在のサブリース契約について、契約期間、更新条件、賃料条項などを確認します。
特に、賃料増額の条件や時期、方法について具体的な定めがないか、自動増額条項が設けられていないかに注意しましょう。
契約期間満了が近い場合、更新時の交渉に含めることも検討できます。
② 近隣相場の調査
近隣の類似物件の賃料相場を調査し、賃料増額を正当化できる客観的な根拠を収集します。
物価上昇、地価上昇など、賃料に影響を与える経済指標の変化を把握したり、固定資産税等が増額している証拠などを用意したりします。
③ 内容証明などによる意思表示
サブリース業者に対して、賃料増額の意思表示をします。
口頭だけでなく、書面により通知をしましょう。
裁判になっても証拠として使えるよう、内容証明郵便を利用するのがおすすめです。
④ 弁護士による訴訟・交渉支援の活用
賃料増額を検討している時点で弁護士等の専門家のアドバイスを受けることは、その後の交渉や裁判等を進めるうえで重要です。
特に、サブリース業者に増額の通知を送っても応じてもらえない場合、早めに弁護士に依頼することを検討しましょう。
弁護士を通じて交渉すれば、増額の同意が得られる可能性もあります。
弁護士に依頼した場合、その後の調停や訴訟も任せられます。
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ここでは、サブリース契約に関して、よくあるオーナーの疑問にお答えします。
Q1.サブリース契約は基本的に賃料固定?
サブリース契約における賃料が常に固定であるとは限りません。
サブリース契約の賃料は、主に「賃料固定型」と「実績賃料連動型」の2つに分かれます。
賃料固定型はサブリース業者がオーナーに対し、空室の有無にかかわらず一定の賃料を支払う契約です。
オーナーは満室賃料の80~90%程度を受け取れます。
なお、賃料固定型でも固定期間が限定されていて、定期的な見直しによって変動することがあります。
実績賃料連動型は、実際の入居者から得られた賃料に応じて、オーナーが受け取る金額が変動する契約です。
空室が多い場合は収入が減少し、満室になれば収入が増える可能性があります。
Q2.一方的に賃料を上げられる?
一定の期間は賃料増額しない旨の特約がなければ、法的には借地借家法32条1項にもとづき、オーナーからサブリース業者に対して一方的に賃料増額請求をして賃料増額することが可能です。
しかし、事実上、サブリース業者が同意しなければ、増額した賃料が支払われません。
そのため、サブリース業者と交渉し、交渉がまとまらなければ調停や裁判をします。
調停や裁判で増額が確定すれば、増額通知をしたときにさかのぼって賃料を上げられます。
なお、サブリース契約書には、賃料改定に関する条項が定められていることが一般的です。
その条項に、賃料の見直し時期や増額の条件などが記載されている場合、その内容に従って交渉を進める必要があります。
Q3. サブリース業者が入居者と結んだ賃料が上がっているのに…
サブリース業者が入居者から受け取る賃料が上がったとしても、オーナーがサブリース業者に対して契約賃料の増額を求めることが当然にできるわけではありません。
ただし、入居者の賃料が上昇していることは、周辺の賃料相場が上昇していることを示す間接的な証拠となり得ます。
オーナーは、この情報を一つの資料とすることができ、近隣の賃料相場などの情報も収集した上で、近隣の賃料相場と比較して現在のサブリース賃料が不相当に低い等の主張をし、増額交渉を行う余地はあります。
また、サブリース契約書に、周辺相場が変動した場合、賃料を見直すといった内容の条項があれば、その条項に基づいて増額交渉を進めることもできます。
サブリース契約の賃料増額交渉がうまくいかない場合の対処法

サブリース会社との賃料増額交渉がうまくいかない場合、契約を終わらせたいと考えることもあるでしょう。
サブリース契約の解約や更新拒絶の方法、及び2020年の法改正による影響について説明します
サブリース契約の解約・更新拒絶
サブリース契約を終わらせたい場合には、サブリース業者に解約を申入れます。
なお、借地借家法28条により、貸主側からの契約解除には正当な事由が必要です。
正当な事由に該当するかどうかは、以下のような事情から総合的に判断します。
- 貸主・借主双方の使用目的・必要性
- 建物の賃貸借に関するこれまでの経緯
- 建物の利用状況および建物の現況
- 立ち退き料の提示
賃貸借契約が満了するときに、更新拒絶により契約を終わらせることもできます。
ただし、普通建物賃貸借は正当事由がない限り、オーナー側からの更新拒絶はできません。
定期建物賃貸借の場合には、契約期間が満了すると、再契約をするかどうかはオーナー側が決められます。
サブリース契約が定期建物賃貸借の場合には、更新拒絶により簡単に契約を終わらせることができます。
2020年賃貸住宅管理業法改正の影響
2020年6月、「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」(賃貸住宅管理業法)が成立しました。
これにより、サブリース契約を締結するにあたって、サブリース業者に次のような義務が課されることとなりました。
- 誇大広告の禁止(法第28条)
- 不当な勧誘の禁止(法第29条)
- 契約締結前における契約内容の説明及び書面交付(法第30条)
- 契約締結時における書面交付(法第31条)
- 書類の閲覧(法第32条)
サブリース業者は、サブリース契約の締結前に、賃料設定の根拠や賃料が減額される可能性について、オーナーに説明する必要があります。
これにより、オーナーは契約前に正確な情報を得られ、業者による一方的な条件変更やトラブルを防ぐ仕組みが整えられました。
法律施行後は、透明性と信頼性の高い取引が求められています。
不動産法務に関するご相談は、東京都千代田区直法律事務所の弁護士まで
サブリース契約により不動産投資を行っているオーナーも、サブリース業者に対する賃料増額請求は可能です。
賃料増額の同意が得られなければ、調停や裁判を利用して賃料増額を認めてもらえる可能性もあります。
賃料増額に際してはサブリース契約特有の事情も考慮されます。
賃料増額の実現可能性を高めるためには、増額を必要とする根拠となる資料を用意するなどして臨むべきですが、どのような資料を用意すればよいのか、どのような説明をすれば納得してもらえるのかなど、物件の状態や契約内容に応じて対応する必要があります。
交渉の段階から弁護士などの専門家に相談し、適切な方法で賃料増額請求を行いましょう。
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