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弁護士コラム

賃料増額請求の調停完全ガイド|手続きの流れと成立・不成立後の対応を解説

賃貸借トラブル
投稿日:2025年08月06日 | 
最終更新日:2026年09月15日

Q
所有物件の賃料を10年以上見直しておらず、周辺相場より大幅に低くなっています。物価上昇や税負担の増加もあり、賃料増額請求をして入居者と交渉しましたが、合意に至りませんでした。

賃料増額調停を申し立てる場合、どのように進めればよいのでしょうか。また、費用はどのくらいかかるのでしょうか。
Answer
賃料増額請求について合意できなかった場合、原則として訴訟の前に調停を申し立てる必要があります。

調停では、調停委員会を介して双方の主張や資料を確認し、適正な賃料額について合意を目指します。申立てにあたっては、申立書や賃料増額の根拠となる資料などを準備します。申立ての流れや必要書類、費用、成立・不成立後の対応について、解説していきます。

監修:弁護士法人直法律事務所 代表弁護士 澤田 直彦
 
2009年 弁護士登録
2018年 弁護士法人直法律事務所 開業
 
不動産・相続・企業法務を中心に取り扱い、不動産に関する相談を年間100件以上対応。
賃貸借・不動産売買・立ち退き交渉・建築紛争・共有不動産など、幅広い不動産問題の解決に取り組んでいます。

賃料増額請求の調停手続きには応じる義務がある

賃料増額請求の調停について裁判所から呼び出しを受けた場合、原則として調停期日に出頭する必要があります。なぜなら、調停は、賃貸人(オーナー)と賃借人(入居者)が話し合いによって円満な解決を図る手続きだからです。

裁判所から出頭命令受けたにもかかわらず、「正当な事由」なく出頭しなかった場合には、5万円以下の過料に処される可能性があります。

ここでいう「正当な事由」とは、一般的・客観的にみて出頭できないことが真にやむを得ないと認められる相当な理由をいい、具体的には以下のような場合が該当します。

  • 調停の目的となっている法律関係の当事者ではない者が申立人となっている
  • 調停事件の関係人が重病などにより安静を要する
  • 都合が悪く、あらかじめ調停委員の了解を得ている

ただし、実際に5万円以下の過料に処されるケースは極めて稀で、不出頭の場合には調停不成立として手続きが打ち切られるケースがほとんどです。

調停が成立しなければ、通常、申立人は訴訟を提起します。その際、裁判所が調停に出頭しなかった当事者に悪い印象を持つ可能性もあります。

そのため、賃料増額請求の調停について呼び出しを受けた場合は、できるだけ出頭しましょう。

賃料増額請求の調停手続きの流れ

賃料増額請求における調停手続きの一連の流れは、以下のとおりです。

  1. 1調停の申立て
  2. 2申立ての受理と調停委員会の組成
  3. 3調停期日の決定
  4. 4相手方に調停申立書の副本の送付・呼出し
  5. 5第1回調停期日前の準備
  6. 6第1回調停期日
  7. 7第n回調停期日前の準備
  8. 8第n回調停期日
  9. 9⑦⑧を数回経たうえで、以下のいずれかに至る
    • 1.双方が合意した場合:調停成立(調停調書作成)
    • 2.調停条項の裁定
    • 3.調停に代わる決定(2週間以内に異議の申立てがなければ、調停成立と同様の効果)
    • 4.合意できる見込みがない場合:調停不成立となり、別途訴訟提起などを検討

調停を申し立てる前に、まずは賃借人に賃料増額請求の意思表示を行い、協議を試みましょう。賃料増額請求の意思表示は口頭でも可能とされていますが、一般的には配達証明付き内容証明郵便で通知します。

そして、協議で賃借人の同意が得られなければ、調停を申し立てます。協議で同意を得られた場合は、調停に進む必要はありません。

調停の申立て手続き

賃料増額請求調停は、原則として対象となる賃貸物件の所在地を管轄する簡易裁判所に申し立てます。

ただし、合意がある場合は、紛争の目的である宅地または建物の所在地を管轄する地方裁判所を管轄とすることができます(民事調停法24条)。

申立ての際に提出する主な書類は、以下のとおりです。

  • 調停申立書
  • 賃貸借契約書
  • 賃料増額請求の意思表示をした内容証明郵便の写し
  • 商業登記簿謄(抄)本、または代表者の資格証明書(申立人が法人の場合)
  • 固定資産評価証明書(申立手数料の算出に必要となる場合)

賃料増額請求の調停にかかる費用

賃料増額調停を申し立てる際は、「申立手数料」とあわせて関係者に書類を送付するための「郵便切手」を納付します。

申立手数料は調停事項の価額に応じて算定され、該当する金額の「収入印紙」を購入して貼付します。

賃料増額の場合の調停事項の価額は、以下の算式によって算定された額のうち少額の方となります。

  • 土地・建物の価額 × 1/2
     ※土地・建物の価額は固定資産評価証明書の評価額。ただし、土地価額について平成6年4月1日から当分の間、同評価額に1/2を乗じた金額)
  • (改定賃料 - 現行賃料)× 賃貸借の残存月数または裁判所の平均審理期間(12か月)

未払賃料を請求する場合は、請求金額そのものが調停事項の価額となります。

納める郵便切手は関係人(申立人および相手方)の数によって決まり、4人なら5,200円分程度です。郵便切手の組み合わせについては、申立て先の管轄裁判所に確認してください。

また、調停を弁護士に依頼する場合には、弁護士費用もかかります。依頼内容や弁護士によって異なりますが、着手金・報酬金ともに少なくとも20万円~50万円程度かかると考えておきましょう。

調停委員会の構成

調停は「調停主任裁判官」と「民間人から選任される2名の民事調停委員」で構成される調停委員会が仲介し、当事者間のトラブルを話し合いで解決する手続きです。

賃料増額請求の場合は、専門家として弁護士1名と不動産鑑定士1名が民事調停委員に選任されることが一般的です。

調停期日では民事調停委員のみが当事者とやり取りをすることが多く、調停主任裁判官は、調停委員から裁判官としての判断や評議を求められた場合・当事者を直接説得する必要がある場合・重要な方針を決定する場合などに列席することが多いです。

本来は調停主任裁判官もすべての調停期日に列席するべきですが、多くの事件を担当しているため、必要な時にのみ列席しているのが実情です。

調停期日までに準備する書類・資料

調停委員会が紛争の内容を正確に把握できるよう、調停期日までに、主張の整理や必要な証拠の準備をしておくことが重要です。

調停に関与する者は、調停を適正かつ迅速に進めるため、期日前に十分な準備を行うこととされています(民事調停規則9条)。

調停に関与する者には、調停主任裁判官・調停委員・裁判所書記官のほか、申立人・相手方・代理人・参加人等が含まれます。当事者は、調停委員会が紛争の実情を把握し、適正かつ迅速に解決できるよう、主張を整理して証拠を提出するなどの準備をしなければなりません。

準備すべき主な書類・資料は以下のとおりです。

  • ☐ 賃料増額請求通知書
  • ☐ 賃貸借契約書
  • ☐ 不動産登記簿謄本
  • ☐ 固定資産評価証明書
  • ☐ 通知書の内容に対する回答書
  • ☐ 申立人が主張する内容を示した書面(主張書面)
  • ☐ 主張内容を裏付ける証拠資料(甲号証・乙号証などと付番し、証拠説明書も併せて準備する)
  • ☐ (あれば)不動産鑑定士による賃料の鑑定結果

特に、賃料増額の理由が相場との乖離であれば、その内容を合理的に説明できる資料が重要となります。鑑定結果のほか、近隣の同様物件のデータや修繕歴などが分かる資料も準備しましょう。

調停期日当日の流れ

調停期日は、原則として非公開の調停室で行われます。ただし、調停委員会が相当と認めた者は傍聴することができます。

なお、当事者が会社などの場合、担当社員は当事者本人ではないため、傍聴を希望する場合は事前に裁判所へ連絡をして許可を得ておく必要があります。

調停では、申立人と相手方が交互に調停室へ入り、調停委員会が事前に提出された書類や証拠資料を踏まえて双方の意見を聞き、合意的な解決策を探っていきます。

一般的には、調停期日前の準備を挟みながら1か月~1か月半ごとに期日が設けられ、3回程度の期日を経て調停成立の目途がつきます。

賃料増額請求の調停における賃料の鑑定・評価

賃料増額請求の調停では、不動産鑑定士である調停委員から専門的な意見が示されることがあります。

また、賃料増額請求で重要となる継続賃料については、複数の算定方法を用いて相当な賃料額を検討します。

不動産鑑定士である調停委員による意見

賃料増額請求の調停では、不動産鑑定士が調停委員として選任され、簡易的な鑑定を行ったうえで専門的な意見を示すことがあります。

賃料増額請求調停では、当事者の主張や、それぞれが取得した不動産鑑定評価書の内容に大きな乖離があり、話し合いが平行線になることがあります。特に、後述する継続賃料の算定をめぐって対立するケースが少なくありません。

そこで、合意による解決に役立てるべく、不動産鑑定士である調停委員が簡易的な鑑定を行い、意見を述べることがあります。場合によっては、簡易鑑定に基づく評価書が提供されることもあります。

鑑定評価には「正式鑑定」と「簡易鑑定」があり、調停委員会が不動産鑑定士を鑑定人として選任し、正式鑑定を行うことも可能です。ただし、正式鑑定には相応の費用と時間がかかります。

一方、「調停委員による評価書」であれば、追加費用がかからず、迅速に第三者である専門家の評価を得られるメリットがあります。

また、調停が不成立となった場合でも、調停段階で得た専門的な評価がその後の訴訟手続きに影響することもあります。

継続賃料の算定方法

賃料増額請求では、増額を求めた賃料が相当かどうかが主な争点となり、その判断では「継続賃料」が重要になります。

継続賃料とは、継続中の賃貸借関係において相当とされる賃料です。過去に賃料が合意された事情を踏まえて現時点の賃料を算定するもので、単に現在の適正な賃料を求める新規賃料とは異なります。不動産鑑定士による鑑定評価は、主にこの継続賃料を算定するために用いられます。

継続賃料の算定方法には、賃料増額の根拠となる要素としての消費税の導入や不動産価格変動などを踏まえた、以下の4つがあります。

  • 差額配分法:適正な新規賃料と増額前の賃料の差額を賃貸人と賃借人で配分する方法
  • 利回り法:増額前の賃料を不動産価格の変動に合わせて変動させる方法
  • スライド法:増額前の賃料を物価の上昇に合わせて変更する方法
  • 賃貸事例比較法:近隣の同様物件の賃料を参考にする方法

国土交通省も「不動産鑑定評価基準」において、この4つの方法を用いて計算するとともに、「賃貸借契約の締結や賃料改定の経緯などの事情を総合的に考慮して算定すること」としています。

継続賃料の算定方法については、別記事「賃料を上げたい大家必見!家賃値上げの正当理由と交渉術」にて詳しく解説しておりますので、ぜひご参照ください。

賃料増額請求の調停結果とその後の対応

賃料増額請求の調停後の対応は、調停が成立した場合と不成立の場合で異なります。

調停が成立した場合は調停調書が作成され、その内容に基づいて新たな賃料や未払分の請求などを行います。一方、不成立の場合は、不成立証明書を受領し、訴訟提起を検討します。

調停結果ごとの主な対応は以下のとおりです。

調停結果対応方法
調停成立① 調停調書の受領(裁判上の和解と同一の効力を持つ)
② 調停条項に基づく新賃料での請求
③ 必要に応じて賃貸借契約書の更新
④ 未払いの増額分賃料等の請求が調停で認められたにもかかわらず相手方が履行しない場合、調停調書を債務名義として強制執行
調停不成立① 不成立証明書の受領
② 訴訟提起の検討(調停前置主義の要件は満たしている)
③ 訴状提出(管轄地方裁判所)
④ 訴訟手続き開始

調停成立の場合の対応

賃料増額請求の調停が成立すると、合意内容を記載した調停調書が作成されます。調停調書は裁判上の和解と同じ効力を持ちます。

例えば、調停条項で「賃料を調停成立の翌月分から月額金10万円に増額する」と定められた場合、調停成立の翌月分から10万円の賃料を請求できます。

また、調停前の特定の日から月額金10万円に増額されたことを確認する旨の定めがある場合は、未払分を請求することもできます。

調停申立て時に増額賃料の未払分を請求し、それが調停条項で認められているにもかかわらず相手方が支払わない場合は、調停調書を債務名義として強制執行できます。

ただし、調停で求めた内容が相当賃料の額の確認だけであれば、増額分の未払賃料の支払いが調停条項に記載されず、強制執行もできない点に注意が必要です。

調停条項の裁定とは

当事者同士で合意が成立する見込みがない場合や、成立した合意が適正でないと認められる場合でも、当事者間に調停条項に服する旨の書面による合意があれば、調停委員会は申立てにより解決に適当な調停条項を定めることができます。

これが「調停条項の裁定」で、裁判上の和解と同じ効力があります。

ただし、賃料増額請求では、調停申立ての段階から訴訟を視野に入れているケースも多いため、調停条項の裁定が利用されるケースは多くありません。

調停に代わる決定(17条決定)

調停が成立する見込みがない場合でも、裁判所が相当と認めれば「調停に代わる決定」を行うことがあります。これは「17条決定」とも呼ばれます。

裁判所は調停委員の意見を聴き、当事者双方の利益を公平に考慮したうえで、双方の申立ての趣旨に反しない範囲で、解決に必要な決定を行います。

ただし、当事者が2週間以内に適法に異議を申し立てると、調停に代わる決定は効力を失います。そのため、大筋では合意しているものの細部で折り合えない場合や、当事者が裁判所の決定であれば受け入れる意向を示している場合などに利用されることがあります。

調停不成立の場合の対応

調停不成立となった場合は、賃料増額請求訴訟の提起を検討します。調停不成立の日から2週間以内に訴訟を提起すると、調停申立ての時に訴えを提起したものとみなされます。

また、訴え提起の手数料は民事調停の申立手数料の2倍ですが、調停不成立から2週間以内に訴訟を提起した場合は、調停申立て時に納付した手数料を利用することができ、不足分のみを追加で納付します。

なお、訴訟では、「不動産鑑定士による鑑定評価書」を証拠として提出した方がよいケースもあり、その場合は鑑定費用が発生します。

さらに、裁判手続きにおいて裁判所が鑑定士を選任する場合もあります。その鑑定費用は鑑定を申し出た当事者が負担するため、原告が負担するケースが多いです。

このように、訴訟に発展すると費用が大きくなるため、賃料増額による収益と訴訟費用のバランスを踏まえて訴訟提起を検討する必要があります。

東京都千代田区の不動産に強い弁護士なら直法律事務所

賃料増額請求について賃借人との協議で合意できない場合、原則として訴訟の前に調停を申し立てます。

調停では、賃料増額の根拠となる資料を準備し、調停委員会を介して適正な賃料額について合意を目指します。不動産鑑定士による評価が参考になることもあり、不成立の場合には訴訟を検討することになります。

どの段階で調停や訴訟に進むべきか、また費用に見合う増額が見込めるかは判断が難しいこともあるため、早めに弁護士へ相談し、今後の見通しを確認しておくと安心です。

直法律事務所では、賃料増額請求に関する交渉や調停・訴訟対応まで、賃貸不動産に関する案件について豊富な経験を有する弁護士が丁寧にサポートいたします。賃料増額請求についてお悩みの方は、まずは一度ご相談ください。

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