東京都千代田区の不動産トラブルに強い弁護士なら直法律事務所 不動産レスキュー

columns
弁護士コラム

賃料増額請求の鍵を握る不動産鑑定評価の基礎知識

賃貸借トラブル
投稿日:2025年09月05日 | 
最終更新日:2026年10月02日

Q
築15年の賃貸マンションの家賃を5年ぶりに見直したいと考えています。周辺相場は上がっていますが、どの程度の増額が適正なのでしょうか。

また、交渉がまとまらず裁判になった場合、不動産鑑定ではどのように適正賃料を算定するのでしょうか。裁判所が選任する不動産鑑定士と、自分で依頼する不動産鑑定士による鑑定の違いもあわせて教えてください。
Answer
適正な増額幅は一律に決まるものではなく、税負担や周辺賃料などの事情を踏まえて判断されます。

裁判では、不動産鑑定士による鑑定評価が重要な判断材料となります。当事者が依頼した鑑定評価書を提出することもできますが、依頼者側の主張を踏まえた内容となることがあります。そのため、裁判所が選任した中立的な不動産鑑定士による鑑定は、重視される傾向があります。

監修:弁護士法人直法律事務所 代表弁護士 澤田 直彦
 
2009年 弁護士登録
2018年 弁護士法人直法律事務所 開業
 
不動産・相続・企業法務を中心に取り扱い、不動産に関する相談を年間100件以上対応。
賃貸借・不動産売買・立ち退き交渉・建築紛争・共有不動産など、幅広い不動産問題の解決に取り組んでいます。

裁判所鑑定と当事者鑑定の違い

賃料増額請求における不動産鑑定には、裁判所が選任する不動産鑑定士による「裁判所鑑定」と当事者が依頼する「当事者鑑定」の2種類があります。

契約で定められた賃料は原則として変更できませんが、土地・建物への税負担の増減や価格の上昇その他経済事情の変動、近隣の同種建物との比較などにより賃料が不相当となった場合には、賃料増額請求を行うことができます(借地借家法第32条第1項)。

ただし、当事者が自由に賃料額を決められるわけではありません。賃料増額請求では、客観的に「相当」な賃料額がいくらであるかが主な争点となります。

賃借人との間で相当な賃料額について合意が得られない場合、最終的には調停や訴訟を検討することになりますが、その際に重要な判断材料となるのが不動産鑑定です。

「裁判所鑑定」と「当事者鑑定」の違いは、以下の表のとおりです。

裁判所鑑定当事者鑑定
定義裁判所が選任した不動産鑑定士による鑑定当事者(原告・被告)が任意に依頼した不動産鑑定士による鑑定
立場中立公正な立場で実施依頼者の立場に立って実施される傾向がある
証拠としての扱い判決証拠として高い信用性が認められる裁判所鑑定より証拠価値が低いと判断される傾向がある
影響力判決に大きな影響を与える当事者鑑定の方が説得力があると示せる「特別の事情」がない限り、裁判所鑑定が優先される
メリット中立的な立場から専門的知識・経験に基づき作成されるため信用性が高い・適正賃料の上限や下限を画する可能性がある
・調停段階での交渉材料になる
・賃料差額が大きい案件で経済的合理性の担保になる
手続き原則、両当事者の主張を聞いたうえで実施されることが多い相手方の鑑定書を見ることなく一方的に作成される場合が多い
費用負担裁判所の判断による依頼者が全額負担

なお、不動産仲介業者が物件の価値や賃料について意見を述べることもありますが、不動産鑑定士とは役割が異なります。

仲介業者は、あくまで仲介業務を行う立場であり、不動産鑑定士のように専門的な資格や知識に基づく鑑定評価を行うわけではありません。そのため、賃料増減額請求においては、不動産鑑定士による客観的な評価が重要となります。

裁判所鑑定が重視される理由

裁判所鑑定が重視されるのは、裁判所が選任した中立・公正な不動産鑑定士が、専門的な知識と経験に基づいて評価を行うためです。

選任された不動産鑑定士は、客観的な立場から鑑定を行い、鑑定書を作成します。そのため、裁判所は裁判所鑑定の中立性を重視し、証拠として高い価値を認める傾向があります。

もっとも、裁判所が裁判所鑑定を無条件に信用するわけではありません。一般に、以下の点を検討したうえで採用します。

裁判所鑑定に対する当事者の主張を検討する

当事者が、裁判所鑑定の方法や結果に疑義があるなどと主張している場合、裁判所は、裁判所鑑定の高度な信用性を減殺するような「特別の事情」があるかを慎重に検討します。

神戸地判平成30年2月21日では、裁判所鑑定について、判断の前提となる事実に重大な誤認がある場合や、判断の手法や過程が合理性を欠く場合など、特段の事情がない限り信用できるものとしています。

その合理性については、主に以下の点が検討されます。

  • 鑑定評価の基礎とされた資料の内容に重大な誤りがあるか
  • 鑑定評価の手法や過程が、不動産鑑定評価基準や不動産鑑定評価基準運用上の留意事項に適合しているか

当事者鑑定と比較する

当事者が私的に依頼した鑑定結果が提出されている場合、裁判所は、当事者鑑定を裁判所鑑定より優先すべき「特別の事情」があるかを検討します。

裁判所鑑定が信頼される理由の一つはその公正性と中立性であり、当事者鑑定を優先すべき合理的な理由がない限り、裁判所鑑定が優先される傾向があります。

このように、裁判所鑑定は賃料増額請求訴訟において重要な役割を果たします。

自分で依頼する当事者鑑定の必要性

裁判では裁判所鑑定が重視されますが、自ら依頼する不動産鑑定士による当事者鑑定を行うことも、よりよい結果に繋がる場合があります。

主なメリットとして、以下の3つがあげられます。

客観的で説得力のある証拠になる

当事者鑑定では、不動産鑑定士が物件の価値や賃料の相当性を客観的に評価し、その根拠を示します。そのため、増額賃料の相当性を支える重要な証拠となります。

交渉段階でも、客観的な根拠に基づく評価を示すことで、賃借人への説得力が高まり、円滑な交渉につながります。

調停や裁判でも、当事者鑑定は不動産鑑定評価基準に従って行われるため、一定の信用性があります。一方で、不動産鑑定士には裁量の幅があるため、増額を主張する側の当事者鑑定が適正賃料の上限、相手方の当事者鑑定が下限を画することもあります。

双方から当事者鑑定が提出されている調停などでは、両者の鑑定結果の間をとるような調停案が示される場合もあります。

裁判所鑑定に影響を与えることができる

当事者鑑定は、後に行われる裁判所鑑定に影響を与える可能性があります。

裁判所鑑定は、当事者鑑定が提出され、それに対する反論や再反論が行われた後に実施されることが多いです。

そのため、裁判所鑑定人は、当事者鑑定や双方の主張を精査したうえで鑑定を行います。当事者鑑定に説得力があれば、裁判所鑑定にも影響を与え、当事者に有利な裁判所鑑定を得ることができる可能性が高まります。

裁判所鑑定に対して説得力のある反論ができる

当事者鑑定は、裁判所鑑定の問題点を検討し、専門的な反論を行うためにも役立ちます。

裁判所鑑定は公平・中立な立場の不動産鑑定士が行うため信用性が高いものの、誤りが生じる可能性もあります。裁判所鑑定が当事者にとって不利な内容であれば、その高度な信用性を減殺するような「特別の事情」を指摘する必要があります。

しかし、専門家による鑑定の誤りを当事者だけで見つけて指摘することは容易ではありません。そのため、同じ専門家である不動産鑑定士の協力を得ることで、以下の点を検討することができます。

  • 鑑定評価の基礎となった資料に重大な誤りがないか
  • 鑑定手法や過程が不動産鑑定評価基準等に適合しているか

このように、当事者鑑定は、主張する相当な賃料額に客観的かつ説得力のある根拠を与え、交渉・調停・裁判を進めるうえで重要な役割を果たします。

不動産鑑定士による継続賃料の算出方法

不動産鑑定士が継続賃料を算出する際には、「差額配分法」「利回り法」「スライド法」「賃貸事例比較法」などの複数の評価手法を関連付け、総合的に判断します。

不動産鑑定評価基準では、これらの手法から1つだけを選ぶのではなく、それぞれを関連付けて評価することとされています。裁判所でも、各評価手法を比較検討したうえで重み付けを行い、総合的に判断する、いわゆる「総合方式」が採用されています

「総合方式」では、まず各評価手法に基づいて賃料を試算します。そのうえで、対象物件の特性や個別事情を考慮し、各手法の正確性や優先度を吟味して、最終的な「鑑定評価額」を決定します。

例えば、月額賃料について、「差額配分法12万円」「利回り法10万円」「スライド法7万円」「賃貸事例比較法15万円」という試算結果を、それぞれ「5:1:3:1」の比率で関連付ける場合、以下のように算出されます。

(12万円 × 5 + 10万円 × 1 + 7万円 × 3 + 15万円 × 1)/ 10 = 10万6,000円

複数の評価手法を組み合わせることで、より客観的でバランスの取れた賃料評価が可能となります。

なお、比較可能な物件が見当たらない特殊な物件などでは、賃貸事例比較法による試算を行わないケースもありますが、不動産鑑定評価基準では複数の手法の考え方を最大限参照するよう努めるべきとされているため、安易に賃貸事例比較法を排除しないよう注意が必要です。

4つの鑑定手法

継続賃料の評価では、主に「差額配分法」「利回り法」「スライド法」「賃貸事例比較法」の4つの手法が用いられます。

差額配分法

差額配分法は、対象不動産の経済価値に応じた適正な賃料と、従前の賃料との差額をもとに算出する方法です。

まず、適正な賃料を積算法や賃貸事例比較法などで算出します。そのうえで、契約内容や契約締結の経緯などを総合的に勘案し、差額のうち貸主に帰属すべき部分を従前の賃料に加減して、相当賃料を試算します。

従前の賃料が適正賃料からどの程度乖離しているかを評価する手法です。

利回り法

利回り法は、基礎価格に継続賃料利回りを乗じ、必要諸経費などを加算して賃料を算出する方法です。

基礎価格や必要諸経費などは積算法に準じて算出します。継続賃料利回りについては、直近合意時点の利回りを踏まえ、期待利回りや契約締結時の利回り、類似事例の利回りなどを総合的に比較して判断します。

スライド法

スライド法は、直近合意時点の賃料を基準に、その後の経済情勢の変化を反映して賃料を算定する方法です。

直近合意時点の純賃料に変動率を乗じ、価格時点における必要諸経費などを加算して試算賃料を求めます。変動率は、土地・建物価格の変動、物価変動、所得水準の変動などの各種指数を総合的に勘案して判断します。

賃貸事例比較法

賃貸事例比較法は、近隣の類似物件の賃料事例と比較し、個別要因を補正して相当賃料を算定する方法です。

新規賃料における賃貸事例比較法に準じて試算賃料を求めますが、継続賃料を評価する際は、継続賃料固有の価格形成要因を適切に比較する必要があります。

市場動向や同地域の賃貸条件を反映できるため、実際の契約賃料に近い評価が得られる手法です。

実際の鑑定評価の進め方

不動産鑑定士による継続賃料の鑑定評価は、基本事項の確定から鑑定評価報告書の作成まで、一定の手順に沿って進められます。

不動産鑑定評価基準では、主に以下の流れで鑑定評価を行います。

  • 鑑定評価の基本的事項の確定
    依頼目的や条件、依頼が必要となった背景を踏まえ、鑑定評価の基本的事項を確定します。
  • 依頼者・提出先・利害関係などの確認
    鑑定評価書の提出左記・開示先や、鑑定評価額を公表するかを確認します。また、依頼者や提出先と不動産鑑定士との間に利害関係がないかも確認します。
  • 処理計画の策定
    対象不動産の確認・資料の収集や整理・価格形成要因の分析・鑑定評価の手法の適用・試算賃料の調整・鑑定評価額の決定など、必要な作業について計画を策定します。
  • 対象不動産の確認
    所在・数量・用途などを実地に確認するとともに、権利関係を確認します。
  • 資料の収集・整理
    処理計画に基づき、実地調査や聴聞、公的資料の確認などを通じて必要な資料を収集・整理します。
  • 資料の検討と価格形成要因の分析
    収集した資料が鑑定評価に必要十分な内容か、信頼できるものかを検討します。そのうえで、一般的要因・地域要因・個別要因を分析し、対象不動産の「最有効使用」を判定します。
  • 鑑定評価手法の適用
    差額配分法・利回り法・スライド法・賃貸事例比較法などから、案件に応じて適切な手法を適用します。
    原則として、複数の評価手法を用いますが、複数の評価手法の適用が難しい場合でも、その考え方をできる限り参酌するべきとされています。
  • 試算価格または試算賃料の調整
    各評価手法で得られた試算賃料を再吟味し、最終的な鑑定評価額の決定につなげます。
  • 鑑定評価額の決定
    これまでの手順を十分に尽くした後、不動産鑑定士が専門家として適正と判断する鑑定評価額を決定します。
  • 鑑定評価報告書の作成
    鑑定評価額を決定した後、鑑定評価報告書を作成します。

これらの手順を経ることで、客観的かつ公平な賃料評価を行い、関係者に理解や納得につながる根拠ある賃料設定を支援します。

鑑定を依頼する際の実務フローと費用相場

不動産鑑定を依頼する際は、依頼先を選んだうえで、見積もり・正式依頼・必要書類の準備や現地確認・鑑定評価書の受け取りという流れで進みます。

費用や納期は物件の規模・特性などによって異なるため、依頼前に見積もりを取り、確認しておくことが重要です。

依頼する不動産鑑定士の選び方

不動産鑑定士を選ぶ際は、対象物件や依頼目的について専門性・経験を持つ鑑定士を選ぶことが重要です。

過去の実績や専門分野、評価事例などを確認し、依頼内容に適した不動産鑑定士を選びましょう。

鑑定評価書の依頼から受け取りまでの流れ

鑑定評価書の依頼から受け取りまでは、主に以下の流れで進みます。

① 見積もり依頼・納期の確認

電話やメールなどで相談日時を決め、対象不動産・依頼目的・納期などを伝えたうえで、見積りを依頼します。

一般的な不動産鑑定の費用は、物件の規模・特性・立地によって異なり、特殊な物件や評価が難しいケースでは高額になることもありますが、概ねの目安は以下のとおりです。

  • 戸建住宅:20万円~50万円
  • マンション:15万円~50万円
  • 高額な案件では、150万円程度になる場合もある

依頼前に見積書を取得し、サービス範囲や追加費用の有無を確認しておくことが大切です。

また、鑑定評価書の完成までは、依頼から10日~1か月程度かかるのが一般的とされています。複雑な物件ではさらに時間がかかる場合もあるため、見積もり時に納品予定を確認しておきましょう。

② 正式依頼

見積金額とサービス内容に納得できれば、正式に依頼して契約を締結します。これにより、不動産鑑定士は鑑定作業を開始します。

③ 必要書類の準備・現地確認への同行

鑑定作業では、書面調査や実地調査が行われます。その際、依頼者に必要書類の準備や実地調査の同行を求めることがあります。

④ 不動産鑑定評価書の受取

調査や現地確認の結果をもとに、所定の評価手法を用いて詳細な分析が行われ、最終的な鑑定評価額が鑑定評価書にまとめられます。鑑定評価書には、鑑定評価額・評価根拠・評価方法などが記載されます。

よくある質問(Q&A)

賃料増額請求における不動産鑑定について、よくある質問をまとめます。

鑑定は必ず必要ですか?

不動産鑑定は法的に必須ではありませんが、賃料増額の客観的な根拠を示すうえで非常に有効です。鑑定評価書は、調停や裁判でも重要な資料となります。

また、入居者との交渉でも、増額の根拠を客観的に説明しやすくなり、合意につながる可能性があります。

相手が「その鑑定は信用できない」と言ってきたら?

鑑定の評価方法や使用したデータ、分析過程を説明して鑑定評価書の信頼性を示すことが重要です。

必要に応じて補足資料を示し、相手が信用できないと主張する場合には、その具体的な根拠を確認しましょう。

鑑定評価書に有効期間はありますか?

賃料増減額請求に用いる鑑定評価書には、法的な有効期間の定めはありません。

鑑定では、賃料増減額請求の意思表示が相手方に到達した時点を基準に継続賃料を算定します。そのため、その後に経済状況が変動しても、請求時点の継続賃料の算定結果には影響しません。

なお、現時点の不動産価格を評価した鑑定評価書では、市場や経済状況の変化に応じて再評価が推奨される場合があります。

東京都千代田区の不動産に強い弁護士なら直法律事務所

賃料増額請求では、不動産鑑定評価書が、適正な賃料を示す客観的な資料として重要な役割を果たします。 差額配分法や利回り法など複数の手法を用いて継続賃料を算定し、交渉や調停・訴訟の資料として活用できます。

鑑定には費用がかかるため、必要性を踏まえて利用を検討することが大切です。当事者鑑定を交渉材料として活用したい場合や、裁判所鑑定に反論したい場合には、弁護士などの専門家に相談しながら進めるとよいでしょう。

直法律事務所では、賃料増額請求に関する交渉や調停・訴訟対応まで、賃貸不動産に関する案件について豊富な経験を有する弁護士が丁寧にサポートいたします。賃料増額請求についてお悩みの方は、まずは一度ご相談ください。

Contact 初回相談は 0 円
不動産に関わるお悩みは不動産レスキューにお任せください

ご相談はお気軽に

トップへ戻る