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弁護士コラム

賃料増額請求における「直近合意時点」の重要性と判断基準

賃貸借トラブル
投稿日:2025年05月15日 | 
最終更新日:2026年06月16日

Q
5年前からテナントビルを所有しています。4年前に近くにショッピングモールができて周辺の賃料相場が上がりました。賃借人とは3年毎に5%増額させる自動改定特約を結んでいるのですが、それでも周辺相場よりも賃料が低い状態です。

そこで賃料の増額を求めたところ、「半年前に自動改定特約通りに5%増額したばかりで、それ以降は経済事情の変動はないので応じられない」と断られてしまいました。

できるだけ穏便に賃料の増額を求めていくには、どのような手続きや条件が必要でしょうか。また、契約更新の際の注意点などもあれば一緒に教えてほしいです。
Answer
賃料の増減額請求が認められるかは、契約当事者間で現行賃料を合意し、それを適用した時点(直近合意時点)以降の経済的な事情変更の有無により判断されます。

周辺相場よりも賃料が低いという状態が、直近合意時点よりも前からあるのであれば、その事情も踏まえて合意している以上、それを理由に賃料の増額を求めることはできません。

このように考えると、本件で事情変更が生じたのは4年前であり、賃料が改定されたのは半年前であるため、事情変更を踏まえて賃料増額をしているとして賃料増額請求が認められないのではないかとも思われます。

しかし、直近合意時点は、賃料額について当事者間で実質的な協議を行い、それを踏まえて合意した時点であると解されています。

そのため、自動改定特約がある場合や単に形式的に賃料額を確認する契約書が作成されたにすぎないような場合、賃料額について当事者間で実質的な協議がなく、「契約当事者間で現行賃料を合意した」とは言えないため直近合意時点とはならないのです。

この記事では、直近合意時点の定義を正確に理解したうえで、「自動改定特約との関係」「契約更新における注意点」「増額請求が認められるポイント」などを解説していきます。

監修:弁護士法人直法律事務所 代表弁護士 澤田 直彦

直近合意時点がどこの時点にあるのか、実は当事者間で認識が違っているケースがよくあります。契約更新の方法やタイミング、当事者間でのやり取り等の状況次第で直近合意時点として認められる時点が異なってきます。

自己に有利な形で更新契約書を作成することも検討する必要がありますが、書き方や文言によっては、相手方当事者との関係悪化が生じるおそれがあります。

このように、直近合意時点の解釈には複雑な面がありますが、しっかり理解し、安定した取引関係を維持していきましょう。

解説動画 : 不動産オーナーが家賃の更新で知らないと損する「直近合意時点」を弁護士が解説!

賃料増額請求における直近合意時点とは

賃料増減額請求権の有無は、直近合意時点以降に事情変更があるか否かによって判断されます。

直近合意時点、つまり最後に賃料について合意をした時点より前に事情変更があったとしても、それを踏まえて合意したとみなされるため、賃料の増減額を主張することはできません。

反対に、直近合意時点以降に事情変更がある場合は、賃料の増減額請求をすることができます。

直近合意時点の定義(不動産鑑定評価基準)

国土交通省は、「不動産鑑定評価基準」という不動産鑑定士が不動産の鑑定や評価を行うための基準や指針を定めています。実務や裁判では、この不動産鑑定評価基準を参考にした評価や決定をすることが多いです。

不動産鑑定評価基準によれば、直近合意時点は、「契約当事者間で現行賃料を合意しそれを適用した時点」であると定義しています。

また、判例によれば、直近合意時点とは、賃貸借契約の当事者が現実に合意した賃料のうち直近のものを定めた時をいうとされています。(最高裁平成18年(受)第192号同20年2月29日第二小法廷判決・裁判集民事227号383頁参照)。

直近合意時点の確定方法

前述のとおり、直近合意時点は不動産鑑定評価基準によれば、「契約当事者間で現行賃料を合意しそれを適用した時点」と定義されています。

この不動産鑑定評価基準の平成26年改訂部分に対応する「不動産鑑定評価基準に関する実務指針-平成26年不動産鑑定評価基準改正部分について-」(公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会)において、直近合意時点の基本的な考え方が解説されています。

これによれば、以下のようなパターン・状況における直近合意時点が示されています。

パターン直近合意時点として妥当でない例適切な直近合意時点
① 賃料自動改定特約がある場合当該自動的に賃料が改定された時点賃料自動改定特約の設定を行った契約が適用された時点
② 賃料改定等の現実の合意がないまま契約を更新している場合当該契約を更新した時点現実の合意により最初に契約締結時の賃料が適用された時点
③ 経済事情の変動等を考慮して賃貸借当事者が賃料改定しないことを現実に合意し、賃料が横ばいの場合当該横ばいの賃料を最初に合意した時点に遡った時点賃料を改定しないことを合意した約定が適用された時点

このように、直近合意時点は、賃料額について当事者間で経済事情の変動等を踏まえて実質的な協議が行われ、その結果として合意に達した時点と解されます。

経済事情の変動等を踏まえた実質的な協議の必要性

具体的な事案において、直近合意時点を決定する要素となる「実質的な協議」があったか否かの判断が難しい事案もあります。

例えば、以下のような事案があります。

  • ① 会社分割に伴う賃借人の地位を承継する際に、経済事情の変動まで確認しないまま変更のないことを確認する覚書を作成してしまった事案
  • ② 賃貸物件を競売で取得した賃貸人が賃料増額請求を拒否された状態で、金融機関へ契約書を提出する必要があったため従前の賃料のまま契約書を作成してしまった事案

両事案につき、裁判所は、契約書の作成時点において、当事者間で当時の経済事情の変動等を認識しながら、十分な協議の末に合意をしたとはいえず、契約書作成時が直近合意時点とはいえないと判断しました。

事案①において、裁判所は、「当事者が、賃貸期間が開始した後のある時点において、その当時の経済事情等をも踏まえ、従前の賃料を減額若しくは増額し又は据え置く旨を合意した場合には、当該時点は、直近合意時点に当たるということができる。もっとも、当事者が、その時点で、その当時の経済事情等を踏まえることなく、単に従前の賃料額を確認し、又は対象面積の変更のみを理由に賃料額を変更したにとどまるような場合には、当該時点は、直近合意時点に当たるとはいえない。」としています。

このように、直近合意時点と認められるためには、当事者間で経済事情の変動等を認識したうえで、具体的かつ実質的な協議がなされていることが必要と考えられます。

形式的な契約書作成と実質的な協議による合意の違い

直近合意時点があったと認められるためには、単に形式的に契約書を作成しただけでは不十分です。契約書の作成に加え、賃料について実質的な協議が行われ、その結果として合意に至ったことが必要とされています。

実際に、賃貸借契約の更新時に協議は行われたものの、賃料改定に関する協議がまとまらず、賃料を据え置いたまま契約書が作成された事案では、賃料額について実質的な協議による合意があったとは認められないと判断された事例もあります。

このように、形式的な契約書の有無だけでは、当事者間で実質的な協議が行われたかどうかは判断できません。裁判所は、賃料について実質的な協議が行われ、その結果として合意された賃料であるかを重視しているのです。

賃料の自動改定特約と直近合意時点の関係

賃料の自動改定特約があり、これに基づいて賃料額が改定されている場合、通常、直近合意時点は賃料の自動改定特約を設けた当初の契約時点と判断します。

また、実質的な協議を経たうえで従前と同じ自動改定特約の適用を合意した場合についても解説していきます。

自動改定特約がある場合の直近合意時点

最判平成20年2月29日によると「自動増額特約によって増額された純賃料は、本件賃貸契約締結時における将来の経済事情等の予測に基づくものであり、自動増額時の経済事情等の下での相当な純賃料として当事者が現実に合意したものではないから、本件各減額請求の当否及び相当純賃料の額を判断する際の基準となる直近合意賃料と認めることはできない」としています。

つまり、自動改定特約に基づいて一定期間ごとに賃料額が改定されている場合、それは改定時点の経済事情に基づいて当事者間で協議・合意された賃料ではなく、自動改定特約を設けた際に将来予測をして定めた賃料であるため、直近合意時点はあくまで自動改定特約を設けた時点(通常は当初の契約時点)となるのです。

実質的な協議を経たうえでの自動改定特約の適用

基本的には、自動改定特約がある場合の直近合意時点は、当初の契約時点であると解説してきました。

しかし、例外的に、自動改定特約があったとしても、当事者間で経済事情の変動等を踏まえて実質的に協議を行った結果、従前と同じ自動改定条項に従うことを改めて合意した場合には、その合意に基づいて約定賃料が適用された時点を直近合意時点とすべきと考えられます。

契約更新における直近合意時点の考え方

不動産賃貸借契約では、契約更新というものがあります。

特に内容を変更せず更新するイメージが強いと思いますが、更新のタイミングで賃貸人が賃料の増額を求めても、賃借人がこれに応じず、紛争となるリスクがあります。

更新の種類・タイミング・内容によって、直近合意時点の判断は異なります。

契約更新の種類(合意更新・法定更新・自動更新)

普通建物賃貸借契約の更新には、「合意更新」「法定更新」「自動更新」の3種類があります。

合意更新

合意更新とは、契約期間の満了時に、当事者間の合意によって契約を継続することをいいます。

更新時には、契約条件を自由に変更することはできますが、借地借家法の強行規定に反する賃借人に不利な特約は無効となります。

法定更新

法定更新とは、借地借家法の規定により自動的に契約が更新されることをいいます。

当事者が期間満了の1年前から6か月前までの間に、相手方に対して更新をしない旨の通知、又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知を行わず、かつ貸主に更新拒絶の正当事由がない場合には、「従前の契約と同一の条件で契約を更新したもの」とみなされます。

なお、合意更新と同様に、借地借家法の強行規定に反する賃借人に不利な特約は無効となります。

自動更新

自動更新とは、契約書に定められた自動更新条項に基づいて、契約が更新されることをいいます。

当初の契約締結時における当事者間の合意に基づき、あらかじめ合意された要件を満たした場合に契約が自動的に更新される仕組みです。

あくまで当事者間の合意に基づく更新であるため、法的には合意更新の一種と解されています。

更新時における直近合意時点の判断

賃貸借契約の更新には、合意更新・法定更新・自動更新の3つの方法があります。

このうち、法定更新や自動更新では、通常、更新時に賃料について実質的な協議は行われません。そのため、更新時点は直近合意時点とならず、現行賃料について実質的な協議のうえ合意した時点が直近合意時点となります。

一方、合意更新の場合には、更新時に経済事情の変動を踏まえて、賃料額を協議のうえ合意していれば、更新契約時点が直近合意時点となる場合があります。

経済事情の変動等を考慮した協議の重要性

いずれの更新時においても、経済事情の変動などを踏まえた賃料額についての協議があったか否かが重要です。

仮に、当事者の一方が更新後に賃料の増減額を請求したいと考えていても、更新時に実質的な協議を行ったうえで賃料額の合意がされている場合には、更新後に新たな経済事情の変動がない限り、賃料増減額請求をすることができません。

もっとも、合意更新であっても、賃料について実質的な協議が行われていなければ、契約更新時点が直近合意時点とは認められないため注意が必要です。

更新契約書における合意内容の明記

実質的な協議の有無は、通常の更新契約書の記載だけではわからないことが多く、後に直近合意時点がいつであるかについて争いとなる可能性があります。

そこで、更新時に賃料額について協議のうえ合意した場合には、更新契約書に経済事情の変動等を踏まえて賃料について協議・合意したことを明記しておくことをおすすめします。実質的な協議がいつ行われたのかを契約書に記載しておくことで、直近合意時点をめぐる将来的な紛争のリスクを抑えることができるためです。

具体的には、以下のような内容を記載しておくと良いでしょう。

  • ・経済事情の変動等を踏まえて協議したうえで賃料額を確認したこと
  • ・直近合意時点が今回の更新時点であること

賃料増減額請求権行使後の判断基準

賃料増減額請求権は、口頭もしくは内容証明郵便などの書面による通知が相手方に到達した時点で効力が生じます。

もっとも、相手方が請求を認めず、話し合いによる解決ができなければ、調停や訴訟によって解決を図ることとなり、結論が出るまで長い期間を要することも少なくありません。

なお、その間に賃料の増減額が認められるような新たな事情変更が生じることもありますが、適正賃料の算定にあたり考慮されるのは、原則として直近合意時点から賃料増減額請求時点までの事情です。

増減額請求権行使後の事情変更

賃料増減額請求権の行使は、将来に向かって、請求の範囲内かつ客観的に相当な額について効果を生じます(最判昭和32年9月3日)。

また、賃料増減額請求による賃料額の確認訴訟の係属中に、新たに賃料の増減を相当とする事由が生じたとしても、新たな賃料増減額請求がなされない限り、この事由に基づく賃料の増減は生じません(最判昭和44年4月15日)。

では、賃料増減額請求を行った後、訴訟係属中に2回目の賃料増減額請求を行い、訴えを追加的に変更した場合、裁判所はその請求について判断できるのでしょうか。

このような事案について、裁判所は以下のような判断をしています(東京地判平成30年12月20日)。

原審では2回目の請求は、基準とすべき賃料額が確定していなかったため、訴えの利益がないとして却下されました。しかし、控訴審では、1回目の請求について裁判で確定していなくても、1回目の請求に関する結果を前提にするものの、1回目の決定を待たずに2回目の請求について判断することが可能であるとしました。

裁判所の判断における基準時点

裁判所は、賃料増減額請求の当否を判断する際、賃料額についての直近合意時点から当該請求時までの事情を基準とします。

そのため、請求時から数年が経過して、その間に経済事情の変動等が生じたとしても、それらの事情を裁判所の判断の基礎とするためには、新たな賃料増減額請求を行う必要があります。

言い換えれば、新たに請求をしない限り、1回目の請求後に生じた事情は考慮されません。

このように、訴訟係属中に新たな請求を追加する(訴えの追加的変更)ためには一定の要件があり、訴訟の進行状況やタイミングも考慮する必要があります。そのため、対応にあたっては弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

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賃料の増減額請求については、直近合意時点がいつなのかは重要な要素です。当事者間で認識が異なることも多いため、会議録など書面やメールでのやりとりなど、記録が重要となることもあります。

賃料増額請求の場合、借主がそのまま了承してくれないことも多いため、賃料増額を諦めるケースも少なくありません。しかし、賃料増減額請求は法的に認められた権利です。経済的な事情変動などがあったのに、オーナーが相場よりも低いな賃料しか得られずに苦しんでいるとしたら不公平です。

不動産分野を取り扱う弁護士に早い段階で相談すれば、客観的な事情を相手方に説明するなどの方法で、感情的にならず、賃借人との関係をできるかぎり損なうことなく、賃料を増額できる可能性が高まります。

直法律事務所では、賃料増額請求に関する交渉や調停・訴訟対応まで、賃貸不動産に関する案件について豊富な経験を有する弁護士が丁寧にサポートいたします。賃料増額請求についてお悩みの方は、まずは一度ご相談ください。

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