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「フリーランス新法」と労働者性の落とし穴~業務委託契約が「雇用」とみなされるリスクとは?~

Q
フリーランスの方と業務委託契約を結んで、平日に9時〜18時で仕事をしてもらっています。業務の進め方や納期も細かく指示しており、報酬は実働時間に応じて支払っています。
このようなケースでも、労働者とは違う「業務委託」なので、労働基準法の適用はありませんよね?

A
実は、そのような「業務委託」でも、実態によっては「労働者」と判断され、労基法などの労働法制が適用される可能性があります。

契約書上は「業務委託」となっていても、働き方の実態が「企業の指揮命令に従って働いている」「他社の仕事ができない」「報酬が時間単価になっている」などの要素を含む場合、偽装請負雇用隠しとみなされるリスクがあるのです。

その場合、以下のような事態が生じかねません。
・ 未払残業代や割増賃金の請求
・ 労災保険や雇用保険の遡及加入請求
・ ハラスメントや安全配慮義務違反による損害賠償請求
・ 労働基準監督署や厚労省からの是正指導・調査

このような労務リスクは、労働基準法、そして、2024年11月1日施行の「フリーランス新法」との二重の法規制のもと、これまで以上に企業側の対応が問われる局面となっています。


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 
代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「「フリーランス新法」と労働者性の落とし穴~業務委託契約が「雇用」とみなされるリスクとは?~」
について、詳しくご説明します。

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フリーランス新法(フリーランス保護新法)の概要

フリーランス新法の概要と施行時期

2023年に成立した「フリーランス新法」(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は、2024年11月1日に施行されました。この法律は、企業等から業務委託を受けて働くフリーランス(特定受託事業者)に対して、取引の透明性確保や報酬の支払期日の明確化といった保護措置を導入するものです。

これまで労働者としての保護を受けづらかったフリーランスに対して、最低限の契約ルールを義務付けることで、不公正な取引慣行の是正が期待されています。

なぜ今「労働者性」の理解が重要なのか

個人事業主として業務委託契約を結んでいても、実態として労働者であればフリーランス新法の適用対象外となります。つまり、業務委託という形式をとっていても、労働者性が認められれば、労働基準法などの他の労働法令の適用対象となる可能性があるのです。

この判断は、単なる契約書の表現ではなく、実際の働き方の実態をもとに行われるため、企業側には「形式と実態の乖離」がもたらす法的リスクがあります。とりわけ、スタートアップやベンチャー企業においては、柔軟な人材活用を図る一方で、こうした「見えにくいリスク」への対処が急務となっています。

フリーランスと労働者の違いとは?

2つの典型的な類型(経営者か労働者か/個人事業主か労働者か)

労働者性の有無については、大きく分けて2つの類型で問題になります。

1つ目は「経営者か労働者か」という類型です。
たとえば、取締役が従業員としての退職金を請求したり、労災申請を行ったりする場合に、その人物が経営者としてではなく、労働者としての性格を持っていたかが問われます。

2つ目が「個人事業主か労働者か」という類型です。
これは、保険会社の外務員、新聞の集金人、音楽団員、バイク便の配達員、一人親方の大工など、形式上は業務委託契約によって働く個人が、実態として労働者なのかが問題になります。

今回の議論の中心となる後者のケースについて

フリーランス新法との関連で特に重要となるのは後者の類型、すなわち「個人事業主として働いているが、実態としては労働者であるかもしれない」というケースです。このような場合、フリーランス新法の保護を受けられない可能性があり、逆に労働法令上の保護が必要になることもあります。

つまり、「労働者かどうか」の判断は、どの法律が適用されるかを左右する極めて重要な分水嶺であり、契約書に「業務委託」と明記されていても、それだけでは不十分であるという点が、実務上の最大の論点となるのです。

労働者性の判断基準

労働基準法第9条の定義

労働基準法第9条は、「この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」と定義しています。この条文は、雇用契約にあるか否かにかかわらず、実態として使用され、賃金を受けている者を労働者と捉えるための根拠となっています。

しかし、実際の適用にあたっては、この定義だけでは不十分であり、どのような働き方が「労働者」に該当するのかを判断するためのガイドラインが必要とされます。その中核となるのが、「使用従属性」の考え方です。

「使用従属性」の2つの柱

指揮監督下での労働

これは、企業側(発注者)が業務内容や遂行方法について、どの程度具体的な指示や管理を行っているかを問う視点です。

以下のような要素が判断材料となります。

✓ 仕事の依頼に対する諾否の自由があるか
✓ 勤務場所や時間について拘束されているか
✓ 業務の遂行にあたって具体的な指揮監督があるか
✓ 他者による代替が可能か

このように、管理・監督が強ければ強いほど、労働者性が認められやすくなります。

報酬の労務対償性

報酬が「労務の提供」に対する対価として支払われているかどうかを見極めます。

以下のような要素が判断材料となります。

✓ 報酬が時間給や日給ベースで設定されている
✓ 欠勤時には報酬が控除され、残業には手当が支給される
✓ 成果や出来高よりも、働いた時間に応じて報酬が決まる

このような実態がある場合には、報酬の労務対償性が肯定され、労働者性が強くなります。

判断を補強する要素(専属性、事業者性など)

主たる2要素に加え、以下のような補強的要素も労働者性の判断に影響を与えます。

専属性の程度:特定の発注者に専属して働いているか
事業者性:自ら営業活動をしているか、設備・道具を所有しているか
報酬の性質:給与所得か事業所得か、税務・社会保険の扱い
その他:労災保険や雇用保険への加入状況など


これらの要素を総合的に勘案し、「指揮監督下での労働」および「報酬の労務対償性」とあわせて実態判断がなされます。

偽装請負との違いに注意

偽装請負と労働者性判断の交錯

労働者性の判断としばしば混同されがちなのが「偽装請負」の問題です。偽装請負とは、請負契約という形式をとりながら、実態としては労働者派遣に該当するような働き方をさせているケースを指します。

請負であれば、本来、業務の進め方や人員管理などを請負人が自律的に行うべきですが、発注者が現場で直接的に指示・監督していれば、それは実質的に派遣にあたる可能性があります。労働者性と似た判断要素があり、企業が形式的に請負契約を装っていても、実態で判断されるという点では共通しています。

告示(昭和61年労働省告示第37号)のポイント

昭和61年に出された労働省告示第37号「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」では、以下の2つの要件を満たす場合を除き、実質的に労働者派遣とみなすとされています。

① 自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用していること
② 請け負った業務を独立して処理していること

この中で、発注者が労働者の勤務時間を指示したり、作業内容に直接介入している場合は、「自己の業務として独立して処理していない」と評価されることがあり、偽装請負と判断されるリスクが高まります。

企業にとっては、業務委託契約や請負契約においても、実態としての労務提供のあり方を慎重に設計する必要があります。

最高裁判決から読み解く労働者性の判断

【事例①】トラック運転手事件(横浜南労基署長事件)

本件は、自己所有のトラックで旭紙業の荷物を運んでいた運転手が、労働基準法上の労働者に該当するかが争点となりましたが、最高裁は以下の点を重視して、労働者性を否定しました。

▶ 自己所有の車両を使い、自己の責任で運送業務に従事していた
▶ 旭紙業からは運送物品・納入時刻の指示はあったが、運転経路・出発時間等の細かい指示はなく、特段の指揮監督は認められなかった
▶ 始業・終業時刻は定まっておらず、運送業務終了後は直帰可能で拘束性は緩やかだった


さらに、報酬が出来高制(積載量と運送距離で決定)であり、税務上は事業所得として確定申告されていた点も考慮され、「指揮監督下で労務を提供していたとはいえない」として労働者性は否定されました。

【事例②】一人親方大工事件(藤沢南労基署長事件)

この事件では、一人親方の大工が建材会社との関係で労働者性を主張しましたが、最高裁は以下の事実を列挙し、労働者性を否定しました。

▶ 工法や作業手順は自己の判断で選べた
▶ 作業時間の拘束はあったが、事前連絡で自由に休み・早退も可能だった
▶ 出来高払いが基本で、報酬額は協議の上決定されていた
▶ 特定企業に継続的に従事していたが、他の仕事が禁じられていたわけではない
▶ 使用する道具は自身で保有し、就業規則や社会保険の適用もなかった
▶ 職長的な立場で現場管理を補助していたが、指揮監督関係とは言えなかった


これらの事情から、「指揮監督下での労務提供」とは評価できず、報酬も出来高払いであり、「労働者とは認められない」と判断されました。

判例から得られる4つの実務的ポイント

これら2つの最高裁判決から導き出せる実務的示唆は以下の4点です。

  1. 一般的な判断基準は明示されておらず、事案ごとの事実認定が重視される
  2. 判断は「指揮監督の有無」に集中しているということ
  3. 契約当事者の主観的な理解ではなく、客観的な実態が重視される
  4. 裁判官の評価によって判断がぶれることがあり、予測可能性に乏しい

企業がフリーランスとの契約を行う際には、これらの観点から実態に即した運用を心がける必要があります。

近年の議論と行政の動向

労働基準法制研究会での検討状況

2023年以降、厚生労働省の労働基準法制研究会では、「労働者」の判断基準の見直しが議論されています。昭和60年の基準を踏まえつつ、近年の働き方の多様化に対応するため、判断基準の具体化や、プラットフォーム型就業に特化した新たな判断軸の必要性が指摘されています。

特に、「経済的従属性」や「デジタル技術による指示(AIやアプリ経由)」といった新たな要素の評価についての検討が進められています。

厚労省の新指針と規制改革実施計画の方向性

2024年6月に閣議決定された規制改革実施計画では、フリーランスやギグワーカーに関する労働者性の判断基準や保護のあり方について、重要な方向性が示されました。

この計画では、従来の「昭和60年労働基準法研究会報告」に基づく判断枠組みを基本としつつも、近年のデジタル技術の発展を踏まえた対応の必要性が強調されています。特に、AIやアルゴリズムを活用した業務指示が就業者に与える影響について、これを発注者による「指揮監督」とみなす余地があるとされた点は大きな転換点です。

たとえば、配達経路や作業の進め方についてAIを通じて詳細な指示を出し、それに従わないとペナルティを課すような場合には、たとえ人間が直接指示していなくても、労働者性を肯定する方向に働くことが明記されています。
一方で、就業者に対してヘルメットなどの安全器具の着用を求めたり、事故時に安全確保のために退避を指示するような措置は、あくまで安全管理・健康確保を目的としたものであり、原則として「指揮命令」には該当しないと整理されつつあります。
このように、「指示」が労働者性を補強するものかどうかについては、その内容や目的によって区別されるべきであるとの考え方が打ち出されています。

また、労働者性に関する実務上の運用改善にも言及がありました。これまで、労働基準監督署に対して労働者性の判断を求める申告がなされても、半数近くが判断に至らないまま終了しているとの調査結果を踏まえ、厚労省は、就業者からの申告に対して、特段の事情がない限り原則として労働者性の判断を行うことを明確化し、そのための相談窓口の整備も推進する方針を示しています。

さらに、「個人事業者等の健康管理に関するガイドライン」において、週40時間程度の就業や1年以上の継続契約といった「専属性」の高い個人事業者に対しては、一般健康診断と同等の検査費用を発注者が負担することが望ましいとされています。しかし、このような対応が発注者側の発注控えにつながるおそれがあるという声もあり、厚労省は実態調査を実施のうえ、今後の取り扱いについて検討を進める予定です。

このように、AIによる間接的な指示が労働者性に影響する可能性や、安全配慮との線引きの明確化、労働者性判断の実務的対応力の向上といった観点から、厚労省は今後の法運用に大きな変化を加えようとしています。

実務への影響と対応策

労働者性を否定するための契約・運用上の工夫

フリーランス新法の施行や労働者性判断の強化により、企業が個人事業主との取引を行う際の「契約の設計」「実態運用」の重要性がこれまで以上に高まっています。形式上、業務委託契約を締結していたとしても、実態として労働者性が認定されれば、労働基準法などの適用を受けることになり、企業は未払賃金や残業代の支払い義務を負うリスクがあります。

そのため、以下のような工夫が有効です。
✓ 業務の受託範囲を明確化し、遂行方法についての裁量を持たせる
✓ 勤務時間や勤務場所を指定せず、自由度を確保する
代替業務従事者の起用を許容する条項を設ける
✓ 報酬支払いにおいて源泉徴収を行わず、事業所得として処理する

契約書だけでなく、日常のコミュニケーションや指示内容も含め、実態が契約に沿っていることが重要です。

安全指示や就業ルールが与える影響

厚労省は近年、安全確保や健康配慮のための指示・連絡について、それが直ちに「指揮命令」には該当しないとする一方で、実質的な拘束や命令に及ぶ内容であれば、労働者性を補強する要素となることを明示し始めています。

たとえば、
・ AIによるルート指示や行動の監視
・ 無断欠勤へのペナルティ
・ ユニフォーム着用の義務

といった措置が就業者の自由を実質的に制限していると判断されれば、「指揮監督下での労務提供」とみなされるリスクがあります。企業は、安全・衛生上の対応を行う場合でも、目的や内容が合理的な範囲にとどまるよう注意が必要です。

報酬体系(出来高 vs 日給)の設計における留意点

過去、貨物軽自動車運送事業の事例において、労働者性を肯定された要因の一つに「日給ベースの報酬設定」がありました。具体的には、1日あたり15,000〜20,000円の固定報酬が支払われており、報酬の労務対償性が強く認められたとされています。

これに対し、報酬を「出来高に応じて支払う方式」(例:荷物1個ごとの単価)であれば、労働の成果に基づく報酬であり、労働者性を否定しやすくなります。
ただし、出来高制にしていても、実態として長時間拘束・指示を行っているようであれば逆効果になりうるため、報酬体系と業務の運用をセットで見直すことが重要です。

まとめと企業へのアドバイス

「予測可能性の低さ」とどう向き合うか

最高裁判例や行政指針を見ても明らかなように、労働者性の判断は事案ごとの事実認定に委ねられており、一律の判断基準がないのが現実です。そのため、「どのように判断されるか分からない」「裁判官によって結論が変わる可能性がある」という声も少なくありません。

企業としては、この予測不可能性を前提にしつつ、不確実性に強い契約設計と運用を整備することが最大のリスク対策となります。

今後の法改正・指針整備の動向に注目を

2024年以降、厚労省はフリーランスやプラットフォームワーカーを念頭に、労働者性判断の新たなガイドライン整備や、相談体制の強化、AIやアルゴリズムを用いた管理に関する明確なルール化を進めています。今後、企業と個人との契約関係に大きな影響を及ぼす可能性があるため、最新の法改正や通達に継続的に目を配る必要があります。

自社の人材活用・契約の見直しを進めるタイミング

フリーランス新法の施行を間近に控えた今こそ、企業にとっては、自社の人材活用のあり方を見直す絶好の機会です。

✓ フリーランスと締結している契約が実態に即しているか
✓ 日常的な業務指示が「指揮命令」に該当しうる内容になっていないか
✓ 報酬体系や支払方法にリスクが潜んでいないか

など、契約書だけでなく、運用も含めたトータルな点検と改善が求められます。

特にスタートアップやベンチャー企業においては、柔軟な働き方を維持しながらも、法的リスクを最小限にとどめるバランス感覚が不可欠です。必要に応じて、弁護士等の専門家の助言を得ることもご検討ください。

フリーランス新法に関するご相談は、東京都千代田区直法律事務所の弁護士まで

直法律事務所においても、ご相談は随時受けつけておりますので、お困りの際はぜひお気軽にお問い合わせください。

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