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【書式付き】担保権行使による債権回収2 ~担保設定の方法と留意点~

会社や個人に対して融資をする場合、全額が返ってこないというリスクを避けるために、何らかの担保を設定するのが一般的です。
では、どのようなものに担保を設定すればいいのか、留意すべき点について説明します。


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 
代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。

本記事では、
「【書式付き】担保権行使による債権回収2 ~担保設定の方法と留意点~」
について、詳しく解説します。

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担保取得時の留意点

担保設定と利益相反

銀行がA社に融資をするにあたり、A社の代表取締役甲が、A社の関連会社B社が所有する土地建物に抵当権を設定することになった場合で、A社B社とも代表取締役が甲であるとします。

このケースでは、甲はA社にとって利益相反取引に該当します。甲は、その立場を利用して、個人的な利益を優先させてA社に損害を与える危険は否定できないからです。

他方で、A社にしてみれば、融資先をゼロから探すよりもB社に抵当権を設定してもらった方が迅速に融資を受けることができ、便宜的と考えることもあります。
そのような場合に、利益相反のおそれがある取引をすべて禁止してしまうのは、会社にとって必ずしも有益ではありません。

そのため、会社法は、一定の手続を行えば利益相反取引を行うことができるとしています。

Q.では、利益相反取引にあたる場合には、どのような手続が必要でしょうか。
➡A.会社法は、一定の利益相反取引を会社内部の容認手続(取締役会設置会社でない場合は株主総会、取締役会設置会社では取締役会による承認)に服させ(会社法356条1項2号3号・365条により読み替えられる356条1項2号3号)、取締役が契約内容を恣意的に操作することで会社の犠牲のもとに個人的な利益を追求することを防ぎつつ、取引自体は有効に行うことができることとしました。
ただし、取締役会設置会社における利益相反取引につき、株主全員が合意している場合には、そもそも利益相反関係にないとする判例(最判昭和45・8・20)や、利益相反規制は会社ひいては株主の利益保護を目的とする以上、もはや取締役会の承認の要しないとする判例(最判昭和49・9・26)があります。

Q.承認手続きは、どのように行われるべきでしょうか。
➡A.承認手続に際し取引に関する重要な事実を開示した上で承認を受け、取締役会設置会社では取引後遅滞なく重要な事実を取締役会に報告しなければなりません(会社法365条2項)。

Q.承認手続を経ていない利益相反取引の効果はどうなるでしょうか。
➡A.承認手続を経ていない、あるいは承認手続に瑕疵がある利益相反取引は一種の無権代理人の行為として無効になると解されており、会社は、直接取引の相手方に対し、取引の無効を主張して遡及的に原状回復を図ることになります。
なお、承認手続が取引後に行われた場合も、無権代理の追認と同様、無効の取引を遡ってはじめから有効にするとされています。

会社の利益相反取引

会社法では、取締役の個人的利益と会社の利益との衝突の可能性から、特別の規制が置かれています。

具体的には、

  • ①取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき
  • ②株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において、株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき

です。
前述した株主総会もしくは取締役会において当該取引につき重要な事項を開示して、承認を受けることが必要となり、これは、取締役が会社の利益を犠牲にすることによって自己又は第三者の利益を図ることを防止する趣旨で設けられています。

会社法上、利益相反取引に該当するとされる取引は、会社との間に利害を生じるもので裁量によって会社を害する恐れがある行為に限られ、会社に不利益を及ぼすおそれのない取引は除外されます。

会社法356条は、2つの類型を規定しています。
1つは、取締役が自己または第三者のために会社と取引をする「直接取引」(同条1項2号)です。
もう1つは会社が取締役の債務を保証する場合のように、会社が取締役以外の者との間で行う取引ではあるが、定型的に会社と取締役の利益が相反する「間接取引(同3号)です。

なお、形式的には上記の類型に当てはまりますが、会社に損害を生じさせる可能性がおよそない場合(取締役から会社への贈与や無利息無担保による融資の場合など)や、取引条件が一義的に決定されるために関与する取締役に裁量の余地がない場合(普通取引約款のある取引など)には、利益相反取引としての承認手続は不要です。

取締役会設置会社の利益相反取引承認機関

取締役会設置会社の利益相反取引承認機関は、取締役会です。
この取締役会決議は、議決に加わることができる取締役の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合はその割合以上)が出席し、その過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合はその割合以上)をもって行われます(会社369①)。
また、当該決議について特別の利害関係を有する取締役は議決に加わることができないとされています(会社369②)。

注意が必要なのは、特別利害関係を有する取締役は定足数の頭数に算定してはならないことです。

また、会社法に規定はありませんが、判例は、特別利害関係のある取締役が利益相反取引を承認する取締役会の議長になることはできないとしています。
したがって、特別利害関係のある取締役が利益相反承認に関する取締役会の議長となることは避けるべきです。

定款で監査役の権限が会計監査権限のみに限定されている会社でない場合には、監査役は取締役会に出席義務があります。
そのため、監査役は、この取締役会の議事録に署名又は記名押印しなければなりません(会社369③)。

利益相反取引に該当する場合の抵当権設定登記については、

  • 通常の抵当権設定登記に必要な書類
  • 利益相反承認に関する取締役会議事録及び当該書面に記名押印した者の印鑑証明書

が必要です。
取締役会議事録への押印は、記名押印者が会社の代表取締役であれば法務局届出印が、それ以外の記名押印者については個人の実印での押印が必要になります。

添付書類としての印鑑証明書については、記名押印者が会社の代表取締役であれば法務局届出印に関する法務局発行の会社の印鑑証明書が必要になり、それ以外の記名押印者については市町村役場発行の個人の印鑑証明書を用意することが必要になります。

取締役会設置会社は、定款で定めることにより、取締役が取締役会の決議の目的である事項につき決議に加わることができる取締役の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をなし、監査役が異議を述べなかった(ただし、定款で監査役の権限が会計監査権限のみに限定されている場合を除きます。)ときは、当該提案を可決する旨の取締役会の決議があったものとみなすことができます(会社370)。

この規定が該当する場合には、利益相反承認決議があったことを証明するため、

  • 定款
  • 書面決議に係る取締役会議事録及び記名押印者の印鑑証明

を、抵当権設定登記に添付することが求められます。

ただし、

  • 決議に加わることができる取締役全員の同意書及び印鑑証明書
  • 監査役が異議を述べなかったことを証する書面(ただし、定款で監査役の権限が会計監査権限のみに限定されている場合を除きます。)

をもって書面決議に係る取締役会議事録の代わりに提出することもできます。

取締役会のない株式会社の利益相反取引承認機関

取締役会のない株式会社の利益相反取引承認機関は、株主総会の普通決議です。特例有限会社についても同じです。

先ほどの取締役会決議の場合と違い、特別利害関係がある取締役でも、株主としてこの株主総会に出席し議決権を行使することができます。
ただし、この者(特別利害関係人)の議決権行使によって、著しく不当な決議がされたとき認められるときは、株主総会の決議取消事由となります(会社831①三)。

また、取締役会と違い、特別利害関係を有する者が株主総会の議長となったとしても、決議に瑕疵があるとはなりません。
ただし、特別利害関係がある議長のした議事運営が決議の方法を著しく不公正であった場合には、株主総会決議取消事由となります。

利益相反取引に該当する場合の抵当権設定登記については、

  • 通常の抵当権設定登記に必要な書類
  • 利益相反承認に関する株主総会議事録及び当該書面に記名押印した者の印鑑証明書

が必要です。
押印の種類、印鑑証明書については取締役会の議事録と同じです。

会社法では、取締役又は株主が、株主総会の目的たる事項について提案した場合において、当該提案につき議決権を行使することができる株主の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の株主総会決議があったものとみなされます(会社319①)。

取締役会決議と違い、これに関する定款規定は不要です。
この場合には、利益相反承認決議があったことを証明する書面として、

  • 書面決議に係る株主総会議事録及び記名押印者の印鑑証明書

を添付して抵当権設定の登記を行います。
株主全員の同意書及び印鑑証明書をもって、書面決議に係る株主総会議事録に代えることもできます。

【参考書式】

株主総会議事録


1 株主総会の決議があったものとみなされた事項の内容
当社代表取締役たる〇〇〇〇が株式会社〇〇銀行から金〇〇〇〇万円の融資を受けるに際し、その債務の担保のため、当社所有の下記記載の不動産に対し、下記のとおりの内容の抵当権を設定すること。


登記の目的 抵当権設定
債 権 額 金〇〇〇〇万円
利 息 年〇%(年365日割計算)
損 害 金 年〇%(年365日割計算)
不動産の表示 〔省略〕

2 1の事項の提案をした者の氏名又は名称
株主〇〇〇〇
3 株主総会の決議があったものとみなされた日
〇〇年〇〇月〇〇日
4 議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名
代表取締役〇〇〇〇

上記のとおり、株主全員から書面による同意を得たので、会社法第319条第1項の規定に基づき株主総会の決議があったものとみなされたので、本議事録を作成する。

〇〇年〇〇月〇〇日

株式会社〇〇〇〇
議事録作成者
代表取締役〇〇〇〇 ㊞

法定地上権の意義と成立要件

留置権

民法295条は、当事者間の公平を図るため、法律上当然生ずる担保物権として留置権を認めています。

これは、他人の物を占有している者が、その物に関して生じた債権を有する場合に、その弁済を受けるまでその物を留置することによって、債務者の弁済を間接的に強制することのできる担保物権です。

留置するとは、目的物の占有を継続することです。
ただし、目的物である土地の引渡しを拒むことは可能ですが、当該土地の登記の移転を拒むことはできません。

成立要件は以下のとおりです。

  • ①債権と物との間に牽連関係があること(「その物に関して生じた債権」)
  • ②債権が弁済期にあること
  • ③留置権者が他人の物を占有していること(「他人の物の占有者」)
  • ④占有が不法行為によって始まったものではないこと

先取特権

ある債務者に対する多数の債権者は、対等の立場で、平等に弁済を受けるのが原則です(債権者平等の原則)。
しかし、社会政策的考慮、公平の原則、当事者の意思の推測等から特定の債権者を保護すべき場合もあります。

そこで、民法303条は、法律の定める特殊の債権を有する者が債務者の財産から優先弁済を受ける権利たる先取特権を認めました(法定担保物権)。

先取特権は、一般の先取特権(306条から310条)、動産の先取特権(311条から324条)、不動産の先取特権(325条から328条)があります。

質権

質権は、債権者がその債権の担保として債務者又は第三者(物上保証人)から提供を受けた物を占有し、かつその物につき他の債権者に先だって自己の債権の弁済を受けることのできる約定担保物権です。

譲渡担保権

民法上の「担保物権」以外の非典型担保物権として重要なものに、譲渡担保があります。
これは、債権担保のため物の所有権(あるいはその他の財産権)を法律形式上債権者に譲渡して、信用授受の目的を達するもので、信用の授受を債権・債務の形式で残しておくものをいいます。

具体的には、債務者が債権者に対する債務の担保のために、自身の所有する財産の所有権を債権者に一時的に移転する担保形態で、債務者が債務を弁済したときは所有権を債務者に戻すことになります。

Q.債務者の土地に抵当権設定をしようとしたところ、当該土地の取得原因が譲渡担保として登記があることが判明しました。
このような場合には、何をしたらいいのでしょうか。

譲渡担保対象不動産に対する抵当権設定の可否

不動産について譲渡担保が行われた場合、譲渡担保権者に対する所有権移転登記を行い、所有権移転原因は「譲渡担保」として登記します
一方、譲渡担保が実行されて確定的に譲渡担保権者がその所有権を取得したとしても、改めて何らかの登記が行われることはなく、登記記録の記載からは譲渡担保が実行されて譲渡担保権者が確定的に所有権を取得しているのか、譲渡担保がまだ実行されておらず、債務者たる前所有者の弁済によって所有権が戻る可能性があるのかどうか、知ることはできません。

譲渡担保が実行済みである場合、譲渡担保権者がその所有権を確定的に取得したため、これに抵当権を設定することに問題はありません。
譲渡担保実行前であっても、担保目的とはいえ、譲渡担保権者がその所有権を有していることになるため、譲渡担保権者が当該不動産に抵当権設定を受けて登記することは可能です。

問題は、譲渡担保実行前に抵当権設定がなされた場合に、その抵当権は原譲渡担保との関係から何らかの制限を受けるのかどうか、という点になります。
この点については、譲渡担保自体がそもそも法律上明文がないもので、学説上も判例上も確定した見解は現状ありません。
したがって、実務上は安全策を選択する必要があるため、原譲渡担保関係の制限を厳しく受けるとする見解を基準に、慎重に対応するのが安全といえるでしょう。

譲渡担保実行前不動産に対する抵当権設定と原譲渡担保関係の制限

前述の原譲渡担保関係の制限を厳しく受けるとする見解とは、具体的には、次の見解になります。

  • ①判例上、譲渡担保の実行に際して、譲渡担保権者はその目的不動産を看過処分若しくは適正評価を行って算出された物件価額から債権額を差し引き、残額があるときはこれに相当する金銭を清算金として譲渡担保設定者に支払うことを要する、とされているため(最判昭和46・3・25)、この譲渡担保設定者の清算金請求権を保護する必要から、抵当権者は原譲渡担保の被担保債権の範囲内に限って優先弁済を受けることができるとする見解
  • ②抵当権の実行は、抵当権の被担保債権と原譲渡担保関係が消滅し、抵当権は原譲渡担保関係の制限から拘束されることになるとする見解
  • ③原譲渡担保権者が譲渡担保を実行すると、譲渡担保関係が消滅し、抵当権は原譲渡担保関係の制限から拘束されることになるとする見解
  • ④転抵当に関する民法376条1項及び377条の規定が類推適用され、原譲渡担保設定者に対する通知若しくは承諾がある場合は、原譲渡担保設定者は原譲渡担保権を消滅させてはならないという制限を受けるが、それがない場合は、原譲渡担保設定者は譲渡担保権者に対して弁済し、所有権の登記名義の回復を受けるとともに、抵当権の消滅及び抵当権の抹消登記請求をすることができるとする見解

譲渡担保対象不動産に対する抵当権設定の実務上の留意点

譲渡担保によって取得された不動産に対して抵当権を設定するにあたっては、まずは十分な確認・調査を行って譲渡担保がすでに実行されているか否か把握する必要があります。

譲渡担保がまだ実行されていない場合は、譲渡担保の内容をよく把握し、担保評価に当たって前述②の原譲渡担保関係の制限があることに留意した上で評価を行い、原譲渡担保設定者から転担保の承諾を取り付けて抵当権設定を行う必要があります。

法定地上権

民法388条には法定地上権が規定されています。
土地とその上の建物は別個の物とするのが日本の法律ですから、同一の所有者に属する場合にも、別々に抵当権の目的物となります。
そして、日本では自己借地権を認めていないため、抵当権の設定時に将来のために借地権を設定できないため、土地とその上の建物の所有者が、土地又は建物に抵当権を設定し、それが競売されてしまうと建物はその土地上に存続することができなくなってしまいます。

しかし、それでは社会経済上不利益であるし、抵当権設定当事者の意思にも反してしまうことになります。
そこで、同条は、建物のために法律上当然に地上権が発生するとしました。

成立要件は以下のとおりです。

  • ①抵当権設定当時に土地の上に建物が存在していたこと
  • ②抵当権設定当時、同じ人がその土地と建物を所有していたこと
  • ③土地・建物の一方又は双方に抵当権が設定され、競売の結果別々の所有者が両者を所有することとなったこと
Q.Aに対する融資の担保として、Aの所有している土地に抵当権を設定しました。設定時にはその土地は更地でした。
しかし、この間見に行くと建物が建っていました。
このような場合、法定地上権が成立するでしょうか。

➡A.法定地上権は、抵当権設定当時に土地上に土地と同一の所有者が有する建物が存在し、その後、競売が行われて土地建物の所有者が別の者になった場合に発生します。
したがって、抵当権設定当時に建物が存在していなかった場合、法定地上権は成立しません。

仮差押え・差押えのある不動産の担保取得

Q.土地や建物に抵当権等の担保設定をするために、不動産登記事項証明書を取得して確認したところ、既に他の債権者が仮差押えや差押えの登記がありました。
このような場合でも、抵当権等の担保設定登記をすることは可能でしょうか。

➡A.抵当権等の担保権設定登記をすることは可能ですが、あまりおすすめしません。
理由は以下のとおりです

仮差押登記のある不動産の担保取得

仮差押えとは、将来の金銭債権の執行を保全するため債務者の財産に対し行われる暫定的な差押処分をいいます(民事保全法(以下「民保」といいます。)20)。
これがなされると、これ以降なされた処分行為について、執行手続に参加する全ての債権者に対抗することができない、とする効力が生じます。

ただ、先に仮差押登記が入っている物件であっても、抵当権設定登記を行うことはできますが、仮差押えが抵当権に優先します。
そのため、仮差押権者が本案訴訟に勝訴して本執行に移ると、仮差押えに後れる抵当権は失効してしまいます。

一方で、仮差押えはあくまで暫定的なものです。仮差押権者が本案で敗訴したり、取り下げたりした場合は、仮登記に後れる抵当権は失効しません。
仮差押権者の敗訴や取下げ等、仮差押えの失効を期待・画策して仮差押えがある不動産に対してあえて抵当権を設定するということも可能ですが、仮差押えの失効について確実な見込みもなく、このような物権をあえて担保の目的とすることは危険ですから、避けるべきです。

もし先に仮差押えがあったとしても、他の債権者も仮差押えを行えます。
仮差押えを行った債権者は同順位債権者となり、先に仮差押えをした債権者と債権額に応じて、按分で配当が受けられます。

差押登記のある不動産の担保取得

差押えとは、債権者の債務者に対する金銭債権等を満足させるために、執行機関が債務者の特定の財産について処分行為を禁止する手続をいいます。
差押えの執行を受けると、その人は当該対象財産について、譲渡・売却など第三者への処分行為が制限されます。

仮差押えと同様に、不動産に対して先に差押登記がある物件であっても、抵当権設定登記は行えます。
しかし、先に差押えがなされた不動産に抵当権を設定して登記しても、執行手続に参加する全ての債権者に抵当権の効力を対抗することができません(民執59②)。

仮差押えの場合と同じく、差押えの失効の確証なく、このような物権を担保の目的とすることは避けるべきといえます。

買戻(かいもどし)特約付不動産の担保取得

Q.抵当権を設定しようとしたら、その土地建物に買戻特約の登記がなされていました。
このような場合に、留意しなければならないことはありますか。

➡A.買戻特約の内容について(年数など)を詳しく調べること、抵当権設定は買戻権者の承諾を得た上で行う必要があること、担保評価については不動産時価額ではなく売買代金の額を基準に評価することに留意が必要です。
以下で詳しく説明します。

買戻特約の意義

買戻とは、売買契約と同時になした特約に基づいて、一定の条件の下で買主が支払った代金及び契約費用を返還することによって、売主が留保した解除権を行使し、売買契約を解除するものです。
この特約は売買契約と同時に行う必要があります。
売買による所有権移転登記と同時に買戻特約の登記を行うことによって、買戻権を第三者に対しても対抗できます。

買戻特約については買戻期間を定めることができ、期間を定める場合は10年を超えることができません
たとえ10年を超える期間を定めても、すべて10年に短縮されます。
一度買戻期間を定めた場合、この期間を延長することができず、期間を定めない場合の買戻権の行使は5年以内に行わなければなりません(民法580)。

買戻特約後の抵当権設定の効力

買戻特約登記がある不動産に対して抵当権を設定する場合、当該買戻特約の買戻期間が既に経過している場合は、既に買戻権が消滅しています。
そのため、この場合は通常の不動産と同じく担保の目的として取得しても何ら問題ありません。

買戻期間が経過している場合には、通常、買戻権者も買戻特約の登記の抹消に協力してくれますので、抵当権設定登記と同時に買戻特約の抹消登記を行います

一方、買戻期間が経過していない場合は、抵当権設定のために買戻権者が買戻特約の抹消に応じることはないでしょう。
この場合は、買戻特約登記に後れて抵当権設定登記を行っても、買戻権が行使されてしまうと、買戻特約登記に後れる抵当権は買戻権に対抗することができず、抵当権は消滅してしまいます。
また、裁判例では買戻特約登記に後れる抵当権者は、設定者が取得する代金返還請求権に対して物上代位権を行使することができないとしたものもあります。

つまり、買戻特約付不動産に対して抵当権を設定したとしても、買戻期間中は解除権が行使されて抵当権が消滅し、かつ、代金返還請求権に対しても物上代位できない可能性もあるのです。

抵当権設定と質権設定の組み合わせ担保

買戻特約の登記がされている不動産でも、買戻権者が公団や地方公共団体等である場合は、買戻権が行使できる条件が限定されています。
このような物件は、その根拠法や契約書における買戻条件を検討し、よほどの場合でなければ買戻事由が発生しないと考えられる場合は、抵当権の目的としても実質支障はないと考えることができます。
この場合でも、契約条件において当該不動産の処分について買戻権者の承諾を要するとされている場合は、抵当権設定に当たって買戻権者の承諾を得た上で行う必要があることに注意が必要です。

また、万が一買戻権が行使された場合に備えて、設定者が取得する代金等返還請求権を併せて担保取得するといいでしょう。
代金等返還請求権は、契約解除によって生じる将来債権であり、質権を設定することによって担保取得することが考えられます。
なお、この場合でも、売買代金と不動産時価額は差があることも考えられますので、担保評価については不動産時価額ではなく、売買代金の額を基準に評価しなければならないことに留意が必要です。

借地権付建物の担保取得

Q.ある建物に抵当権を設定することになったところ、当該建物は借地上の建物であった場合、どのような手続が必要でしょうか。

借地上建物に対してなされた抵当権の効力と借地権自体の担保取得

借地借家法(以下「借借」といいます。)上、借地権自体が登記していなくても、借地上建物について所有権登記していれば、それをもって借地権を第三者に対抗できるとされているため(借借10)、借地権自体の登記がされていないことはよくあります。

そもそも、借地権が登記されていなければ、借地権に担保設定してもその登記ができません。
さらに、借地上の建物に対して抵当権を設定した場合、その抵当権の効力は建物の従たる権利である敷地利用権たる借地権に及びます。
したがって、借地権が登記されていない場合は、借地上建物に対して抵当権を設定するだけでよいことになります。

一方で、借地権自体が登記されている場合、借地権自体を担保取得し、その登記もできることになり、借地権自体の担保取得を行うかを検討することができます。
借地権が地上権として登記されている場合は、地上権は抵当権の目的物となり、地上権に対する抵当権設定登記を行えます。

借地権が賃借権として登記されている場合は、地上権は抵当権の目的物とできず、質権の目的物とすることはできるため、この場合は、賃借権に質権を設定することになります。

借地上建物に対する抵当権設定と地主の承諾の要否

借地上の建物は借地権者がその所有権を有しているため、その使用・収益・処分について借地権者は自由にこれを行うことができ、建物処分たる抵当権設定についても、地主の承諾を得ることなく行うことがきでます。
また、抵当権の効力は、建物の従たる権利である敷地利用権たる借地権に及ぶので、抵当権が実行されて買受人が建物を競落した場合、借地権も買受人に移転します。

一方で、借地権が自由に譲渡を許す旨の特約のない借地権である場合は、借地権の譲渡については地主の承諾が必要です。
つまり、借地上建物に対して抵当権を設定する時点では地主の承諾はいらないが、抵当権を実行して建物所有権が競落人に移転する場面では、基本的には地主の承諾が必要になるということになります。

抵当権実行の場面において地主の承諾が得られない場合は、裁判所に申立てを行い、承諾に代わる裁判所の許可を得ることで地主の承諾に代えることができます(借借20)。

借地契約の地代滞納による債務不履行解除と抵当権者の対応

借地上建物に対して抵当権設定を行い、その効力が借地権に及んでいても、借地権者が地代を滞納する等借地権者に債務不履行があれば、借地契約は解除されてしまいます。
こうなると、抵当権を設定した建物は無権限で土地上に存在することになってしまい、担保価値が大きく目減りしてしまいます。

地代の不払で借地契約が解除されそうな場合は、抵当権者は速やかに競売を申し立て、裁判所の許可を得た上で地代を代払することによって借地権の消滅を防ぐ必要があります(民事執行法56条)。

借地上建物を担保取得する場合は、借地権者が地代を遅滞なく支払っているかどうか、日頃から管理しておくことが肝要です。


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