澤田直彦
監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 代表弁護士
IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「【概要】上場準備(IPO)における内部管理体制1」
について、詳しくご解説します。
はじめに
近年、株式市場の信用を損なう不適切な事例が発生したことをきっかけに、上場会社に対して内部管理体制を整備することが求められるようになりました。
そこで、 金融商品取引法では、 上場会社その他政令で定めるものについて、2008年4月1日以後開始する事業年度から、経営者が作成する財務報告に係る内部統制の有効性の評価に関する報告書(内部統制報告書)の提出ならびに公認会計士による監査が義務づけられています。
内部統制の基本的枠組み
内部統制は、企業等の4つの目的である、
①業務の有効性および効率性、
②財務報告の信頼性、
③事業活動に関わる法令等の遵守、
④資産の保全の達成
のために、企業内のすべての者によって遂行されるプロセスです。
内部統制の基本的要素は、以下の6つです。
●統制環境
「統制環境」とは、組織の持つ価値基準や基本的な人事・職務の制度などを総称する概念です。
上述した4つの目的を達成するために、経営者はもちろん、すべての従業員が組織の価値基準や制度を認識していることが必要です。
●リスクの評価と対応
「リスクの評価と対応」とは、組織目標の達成を阻害する要因をリスクとして識別、分析及び評価するプロセスで、そのリスク評価を受けて、当該リスクへの適切な対応を選択するプロセスをいいます。
内部統制は、4つの目的を達成するための仕組みですので、違う言い方をすれば、その目的達成を阻害するリスクを回避したり低減したりすることに他なりません。このため、まずはどのようなリスクが存在するのかを把握する必要があります。
その結果、把握したリスクについて、優先順位を付け、対応策を検討していきます。リスクの対応策には、大きく分類して、受容、回避、低減、移転という4つの対応方法に分かれます。
●統制活動
「統制活動」とは、企業内のあらゆる取り決めを全ての社員が正しく守り、業務を遂行するために必要な要素です。経営者が適切な責任範囲と裁量権を定め、その規定に沿うように運用されているかを重視します。
●情報と伝達
「情報と伝達」とは、必要な情報が識別、把握及び処理され、組織内外及び関係者相互に正しく伝えられることを確保することをいいます。
内部統制を実施するためには情報を正しく管理・伝達する必要があります。
事業運営に関わる様々な情報が関係者に正しく伝達されることにより、企業の不正や事実誤認などの問題発生を防ぐことができます。
また、組織外に対しても情報は正しく適切に伝達する必要があり、外部からの情報も正しく伝達されることが必要になります。さまざまな情報の伝達に関して、仕組みを整備することが重要です。
●モニタリング
「モニタリング」とは、内部統制を継続的に評価するプロセスにおいて必要とされる要素です。
内部統制が機能しているかを継続的にチェックするために「業務にモニタリングが組み込まれているか?」、「その結果に対し、適切な検討を行なっているか?」などを把握します。
●ITへの対応
「ITへの対応」とは、組織目標を達成するために予め適切な方針及び手続を定め、それを踏まえて、業務の実施において組織の内外のITに対し適切に対応することをいいます。近年のIT環境の飛躍的な進歩によって、内部統制だけでなく様々な場面でITは登場します。このため、ITへの適切な対応を行うことは、内部統制上も重要なものとなります。
ITへの対応は、他の基本的要素の有効性を確保するために利用され、内部統制の他の基本的要素と必ずしも独立に存在するものではありません。しかし、現状のITの経営に対する重要性から、明示的に1つの項目としたことで、ITに対する十分な対応が求められるようになったのは間違いありません。
以上のように、 経営者は、内部統制の基本的要素が組み込まれたプロセスを構築し、それを適切に機能させていくことを求められています。
そのため、単に内部統制を整備するだけではなく、それを意図したように機能させていくことが重要です。
内部統制とは?意義とメリットをわかりやすく解説! の記事で解説しております。ご参照ください。
内部統制の具体的内容
内部統制のための組織
内部統制制度は、①内部牽制制度と②内部監査制度の2つの要素により、成り立ちます。
内部牽制制度について
内部牽制とは、1つの取引を複数の人および組織を介して処理することで相互に牽制し、不正や誤謬を未然に防止する仕組みを組織に内在化させることをいいます。
具体的には、業務分掌で職務権限を調整し、組織および職位に応じた権限を明確にすることが求められています。
上場審査上は、企業経営の安定性と投資家保護の観点から、内部牽制組織が整備されているかが、確認項目となります。
ただし、内部牽制は人や組織を介した仕組みであり、自ずと限界があります。その補完のため、経営者に代わり効率的な経営が行われているかどうか等を検証する内部監査制度の導入が必要です。
内部監査制度について
内部監査は、内部統制制度の中でも重要な役割を果たしています。
会社は財産の保全と経営能率の向上のため各種規程・マニュアルを整備し、これに基づいて業務遂行をしています。
実際の業務遂行がこうした社内ルールどおりに適切に行われているか、経営者に代わり効率的な経営が行われているかどうか等を検証するのが、内部監査です。
内部監査は、内部統制の目的をより効果的に達成するために、内部統制の基本的要素の1つであるモニタリング機能を担っています。
内部監査についてのポイントは、以下の通りです。
① 内部監査の範囲は、業務監査及び会計監査の双方に及びます。
- 業務監査
日常の会社業務が定められた諸規程、諸制度に従って合理的、効果的に遂行されているかどうかの監査および経営上の決定事項がその目的に従い正しく遂行されているかどうかの監査 - 会計監査
会社の会計処理が、会社の経理規程および一般に公正妥当と認められた会計処理の原則に準拠しているかどうかの監査
② 内部監査は、監査を受ける部署とは分離独立している必要があります。
また、内部監査担当部署に一定の権限を与える必要があることから、原則として取締役会または社長の直属の組織体で専従者が実施することになります。
③ 内部監査の対象は、会社全体であり、特定の部門を対象から外すことは適当ではありません。
また、財務報告に係る内部統制の評価は、財務報告に対する金額的および質的影響の重要性を考慮し、関係会社(子会社)も対象とすべきか検討が必要です。
④ 内部監査を効果的に行うため、監査遂行に関する特定の事項について、ある程度の強い権限を与えることおよび秘密保持等に対する責任を明確にすることが必要です。
⑤ 他の監査機関との連携が求められています。
経営者による財務報告に係る内部統制の有効性の評価は、その評価結果が適正であるかどうかについて、当該企業等の財務諸表の監査を行っている公認会計士等が監査することによって担保されています。
内部統制監査と財務諸表監査が一体となって行われることにより、同一の監査証拠を双方で利用するなど、効果的で効率的な監査が実施されることになります。
また、公認会計士等は、経営者による財務報告に係る内部統制の有効性に対する意見等を財務諸表監査における監査報告書とあわせて記載することとなります。
内部統制に関する上場準備段階での留意点
新規上場後初めて到来する事業年度末時点における、内部統制の経営者評価が必要となります。
経営者による内部統制の評価にあたっては、基本方針の決定、評価範囲の決定、整備・運用テストの実施、不備の改善およびこれらに付随する文書化といった作業が必要となります。
上場申請会社に内部統制報告書の提出は求められていないが、これらの作業には一定の時間を要するため、上場準備の早い段階から内部統制報告制度への対応を進めていく必要があります。
具体的には、上場申請直前年度においては、一定の文書化が終了し、評価方法・評価体制が確立されていることが望ましいでしょう。
また、内部統制報告制度への対応にあたっては一定の専門知識を要するため、専門の部署・担当者を早い段階から設置する必要があります。
なお、2014年に改正された「金融商品取引法等の一部を改正する法律」により、新規上場後3年間は一定の条件を満たす会社を除き、内部統制報告書に関わる監査を受けることが免除されています。
ただし、内部統制報告書の提出は必要ですので、注意が必要です。
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