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IPO(上場準備)における内部統制の留意点

Q
弊社では上場(IPO)を検討しているのですが、内部統制に関する事項が上場審査の対象になると知りました。
なぜ上場するにあたって内部統制に関する事項が審査されるのでしょうか。
また、上場審査にあたって内部統制に関して留意点があれば教えてください。

A
上場会社には財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するために必要な体制に関する内部統制報告書を提出する義務があるため、内部統制の整備が上場の際の審査事項となっています(下記1)。
すなわち、上場会社は、①内部統制の基本枠組み、②評価の範囲・基準日・手続、③評価結果の3点を記載した内部報告書を提出しなければならないとされています(下記2)。
そして、上場準備の段階においても上場後に内部統制報告書が提出できるように準備をする必要があります。
具体的には、「業務記述書」・「リスクコントロールマトリックス」・「業務フロー図」を作成したうえで、評価を実施して内部統制報告書を作成するといったいわばリハーサルをしておき、そのプロセスについて監査役のチェックを受けておくといったことが必要になります(下記3)。


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「IPO(上場準備)における内部統制の留意点」
について、詳しくご解説します。

IPOと内部統制

まず、IPOにおいて内部統制がどのように位置づけられているかを確認しましょう。
なお、内部統制に関する基本的事項については内部統制とは?意義とメリットをわかりやすく解説!の記事で解説しておりますので、そちらもご参照ください。

後述するように、金融商品取引法上、上場会社は内部統制報告書を提出する義務を負っています。
ここでいう内部統制は、会社法上の業務の適正を確保するために必要な体制とは異なり、財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するために必要な体制を意味します。
そのため、上場会社は財務報告の適正性を確保するための制度を内部統制として整備しなければなりません。

加えて、内部統制の整備は上場審査の対象となっています。
たとえば、東京証券取引所の定めた有価証券上場規程207条1項3号は「企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性」について審査すると規定しています。
従いまして、上場するにあたっては内部統制を整備しておかなければなりません。
また、上場後には内部統制報告書を提出しなければならないことから、上場準備の段階においても内部統制を整備しておく必要があります。

以下では、金融商品取引法の内部統制報告制度について説明したうえで、上場準備にあたって内部統制に関してどのような点に留意する必要があるかを解説します。

金融商品取引法の内部統制報告制度

内部統制報告制度の概要

金融商品取引法は、上場会社に対して内閣総理大臣への内部統制報告書の提出を義務づけています(同法24条の4の4第1項、財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するための体制に関する内閣府令3条)。
内部統制報告書とは、「内閣府令で定めるところにより、事業年度ごとに、当該会社の属する企業集団及び当該会社に係る財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するために必要なものとして内閣府令で定める体制について、内閣府令で定めるところにより評価した報告書」(金融商品取引法24条の4の4第1項)を言います。
つまり、上場会社は、財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するために必要な体制を整備し、それを評価した報告書を提出しなければなりません。

なぜ金融商品取引法は上場会社に対して内部統制報告書の提出を義務づけているのでしょうか。
それは、平成16年から17年にかけて複数の大手上場企業による粉飾決算事件が発生し、財務報告の信頼性が揺らぐ事件がきっかけになっています。
これらの粉飾決算事件の結果、企業内の内部統制が有効に機能するようにして財務報告の信頼性を高めるとの観点から、平成18年改正によって内部統制報告書の提出義務等の改正がなされました。このような経緯からも明らかなように、財務報告の信頼性を高めるという観点から内部統制を整備していくことが求められています。

なお、内部統制報告書には特別利害関係のない公認会計士または監査法人による監査証明を受けなければなりません(同法193条の2第2項)。
また、内部統制報告書に重要な虚偽記載のある場合は提出者が処罰の対象となり(同法197条の2第6号)、重要な虚偽記載のある場合または重要な事実の記載がない場合には発行者や役員等が民事責任を負うとされている点(同法24条の4の6)にも注意が必要です。

山内さん内部統制留意点 図形

内部統制報告書の記載内容と作成プロセス

最初に、内部統制報告書の記載内容について概観します。

内部統制報告書には、

①内部統制の基本枠組み、
②評価の範囲・基準日・手続、
③評価結果


の3点を記載することになります(財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するための体制に関する内閣府令の1号書式)。
とくに、③としては、

㋐内部統制は有効である、
㋑評価手続の一部を実施できなかったものの内部統制は有効である、
㋒重要な不備があるために内部統制は有効でない、
㋓重要な評価手続を実施できなかったので評価結果を表明できない旨


のいずれかを記載する必要がある点に注意を要します。
㋒でいう重要な不備とは財務報告に重要な影響を及ぼす可能性の高いものを言い、その内容および期末日までに是正できなかった理由についても記載しなければなりません。

次に、内部統制報告書を作成するプロセスについて説明します。

内部統制報告書は、まず、あらかじめ評価のための財務報告に係る内部統制の整備および運用の方針・手続を決めます。
そして、連結ベースでの財務報告全体に重要な影響を及ぼす内部統制が有効かを評価し、その結果を踏まえて業務プロセスに係る内部統制の評価範囲を決めたうえで有効かを判断したうえで、内部統制報告書を作成することになります。

具体的には、
❶内部統制の整備方針決定
→❷評価範囲の決定
→❸内部統制の評価
→➍有効性の判断・内部統制不備の是正
→❺評価結果の記録と保存、❻内部統制報告書の作成
といったプロセスになります。

上場準備における内部統制の整備

概要

上述したように、上場会社は内部統制報告書を提出しなければなりません。
そのため、上場準備にあたっても上場後に内部統制報告書を提出できるよう準備しておく必要があります。
たとえば、東京証券取引所の出している「2020~2021 新規上場ガイドブック(市場第一部編)」では次のように記載されています。

(2)新規上場申請者及びその企業グループが経営活動を有効に行うため、その内部管理体制が、次のa及びbに掲げる事項その他の事項から、適切に整備、運用されている状況にあると認められること。
a 新規上場申請者の企業グループの経営活動の効率性及び内部牽制機能を確保するに当たって必要な経営管理組織(社内諸規則を含む。以下同じ。)が、適切に整備、運用されている状況にあること。

ここでは、重要な審査項目として内部監査等の内部統制の運用状況があげられており、上場後に内部統制報告書の提出ができるような体制を構築しておく必要があるとされています。
従いまして、貴社が上場するにあたっても内部統制を整備しておくことが求められます。

具体的な留意点

上記の内容を踏まえたうえで、上場準備にあたって内部統制に関して留意すべき事項について具体的に見ていくことにします。

まず、貴社に係る株券等が国内の他の金融商品取引所に上場しているか否かに注意していください。
なぜなら、東京証券取引所においては、他の金融商品取引所にすでに上場している場合には、
①最近1年間に終了する事業年度に係る内部統制報告書に「評価結果を表明できない」旨の記載がなく、
かつ、
②内部統制監査報告書に「意見の表明をしない」旨の記載がされていないことが必要とされているからです。
すなわち、
内部統制報告書には財務報告に係る内部統制を評価した結果を記載しなければならないところ、
当該報告書に「重要な評価手続を実施できなかったので評価結果を表明できない旨」の記載があり、
加えて、内部統制に関する監査を行う公認会計士は内部統制監査報告書に「無限定適正意見」・「不適正意見」・「限定付適正意見」・「意見不表明」のいずれかで意見表明しなければならないところ、
当該報告書に「意見不表明」との記載もある場合には、審査が認められないこととなります。

要するに、他の証券取引所ですでに上場している場合には、
評価結果の欄に「評価結果を表明できない」という記載と内部統制監査報告書に「意見の表明をしない」という記載の両方がある場合には、上場審査が認められないこととなります。

したがいまして、他の証券取引所への上場の有無および上記のいずれかの場合にあたらないかを確認しておくことが求められます。
また、内部統制の評価体制や評価過程で把握されたよう改善事項等も上場審査の過程で確認される点にご留意ください。


次に、上場直後の決算で内部統制報告書を提出しなければならないことからすれば、直前期までには内部統制報告書の作成に至るプロセスの仮運用を行う必要があります。
なぜなら、東京証券取引所において上場審査の段階では内部統制報告書等に準じた書類の提出は要求されないものの、上場が認められればすぐに内部統制報告書を提出しなければならないため、先を見据えて事前に対応しておくことが重要となるからです。

具体的には、「業務記述書」・「リスクコントロールマトリックス」・「業務フロー図」も必要となってきますので、これらを作成したうえで、評価を実施して内部統制報告書を作成するといったいわばリハーサルをしておき、そのプロセスについて監査役のチェックを受けておくとよいでしょう。

そのほか、留意すべき点としては以下の4点があげられます。

  • 自社の会計処理基準・処理手順の理解が統一されるように経理規定等の周知の徹底
  • 売上計上や売り上げ原価計上等の日々の会計処理にミスがないようダブルチェックや上長による承認の体制の整備
  • 有価証券報告書や決算短信等の財務報告については何重ものチェックを行い、作成者・チェック者・最終承認者が誰かが特定できるようにするためのフローの明確化
  • 監査役や内部監査担当者等の客観的な立場にある者による定期的な会計処理方法・処理手続の妥当性チェック


また、内部統制に関係する者の役割と責任を明確化しておくことも求められます。
具体的な役割と責任については下記の表にまとめましたので、そちらをご参照ください。

役割・責任
経営者 最高責任者として社内組織を通じて内部統制を整備してモニタリング等の運用を行う
取締役会 内部統制の整備・運用の基本方針を決定する(実際の整備・運用は経営者の下で行う)、経営者の内部統制の整備・運用の監督
監査役等 業務執行の監査の一環として独立した立場から内部統制の整備・運用の状況を監視・検証する
その他の者 業務と関連する範囲で内部統制の整備・運用が有効になされるよう協力する

まとめ

以上を踏まえて、IPOにおける内部統制の留意点についてまとめます。

上場会社には財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するために必要な体制に関する内部統制報告書を提出する義務があるため、内部統制の整備が上場の際の審査事項となっています(上記1)。

すなわち、上場会社は、①内部統制の基本枠組み、②評価の範囲・基準日・手続、③評価結果の3点を記載した内部報告書を提出しなければならないとされています(上記2)。

そして、上場準備の段階においても上場後に内部統制報告書が提出できるように準備をする必要があります
具体的には、「業務記述書」・「リスクコントロールマトリックス」・「業務フロー図」を作成したうえで、評価を実施して内部統制報告書を作成するといったいわばリハーサルをしておき、そのプロセスについて監査役のチェックを受けておくといったことが必要になります(上記3)。

なお、上場審査における内部統制に関しては、東京証券取引所の出している「2020~2021 新規上場ガイドブック(市場第一部編)」の71頁以下および119頁でまとめられておりますので、そちらもご参照ください。


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