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自動車プローブデータと個人情報【活用する際の注意点を解説!】

Q 
自動車の運転データを収集して、ターゲティングや品質改善、道路混雑状況の情報提供サービス等に利用しようと考えています。
気をつけるべき点を教えてください。

A 
技術の発達により、自動車から得られるデータは多種かつ大量になっています。これらのデータは自動車に乗る個人に起因するデータであり、活用にあたっては個人情報やプライバシー保護とのバランスに気を付ける必要があります。
本記事で詳しくご説明します。


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 
代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。

本記事では、
「自動車プローブデータと個人情報【活用する際の注意点を解説!】」
について、詳しく解説します。

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自動車の運転データ状況

コネクテッドカーとは

インターネット通信技術を搭載した自動車を、コネクテッドカーと呼びます。
コネクテッドカーは、自動車を運転することにより、自動車プローブデータ位置、速度情報、車両コンディション、車間距離などの情報のこと)を収集することができます。そして、コネクテッドカーは、収集されたデータを用いて様々なサービスを提供することができます。自動車から得られるデータは多種かつ大量であり、自動車プローブデータの利用は無人運転の実現に向けて重要となっています。

自動車プローブデータは、通常、契約者個人と紐づく形で管理されており個人情報に該当するものが多いです。そして、位置情報と紐づくことで個人の現在位置を特定することができるため、保護の必要性が高いものといえます。

コネクテッドカーで実現できるものとして、

  • 経路案内や渋滞情報の通知のカーナビ機能
  • 音楽や動画の配信
  • 周辺施設の検索やレコメンド
  • SNSの使用

があげられます。
さらに、車体に決済機能を搭載する取り組みもあり、駐車場の料金等も自動的に支払うことが可能となります。

自動車の車体だけではなく、道路網や信号灯の交通インフラもインターネットとつながることができます(これをITSといいます)。
そして、交通ネットワークや他の自動車との通信により、事故や渋滞の発生予測や防止、災害天候、道路状況等を把握したうえで、最短ルートや燃費の良いルートの案内を行うことができるようになります。
こうした機能が搭載されることで、自動運転の普及が促進されると考えられます。

コネクテッドカーでは、テレマティクス技術を活用して車体の運行情報を収集し、ドライバーの運転距離・行動データを反映した保険料金を算出する、テレマティクス保険の提供が可能となります。テレマティクス保険の保険料は、車体そのものに関するデータも考慮したうえで算出することができます。
また、リアルタイムでサービスセンター等に提供し、不具合を検知した場合にはドライバーに通知する機能の搭載も考えられます。

コネクテッドカーの出現により、自動車メーカーは従来のような車体やエンジン等のハードの開発から、車体に搭載するシステムやソフトウエアへの投資にシフトしています。通信事業者と協業を進め、従来の自動車メーカーだけでなく、多くのテクノロジー企業もコネクテッドカーへ投資しています。

実例

コネクテッドカーの機能を有する自動車の導入は、少しずつ進んでいます。

自動車をスマートフォンのようなデバイスとして使用できるサービスとして、一部の対応車種においてApple Car PlayGoogle Android Autoが利用できます。

また、各自動車メーカーは、それぞれの車体に通信機能を搭載しています。
欧州では、2018年4月からは新型車には「eCall」という緊急通報システムの搭載が義務付けられています。「eCall」は特定の自動車メーカーに限定されるものでなく、交通インフラとして公共性を有する機能です。

テレマティクス保険については、走行距離に連動したPAYD(pay as you drive) と、ドライバーの運転特性に連動したPHYD(pay how you drive) 方式があります。

日本国内ではいずれの方式の保険プランも提供されています。

コネクテッドカーから取得されるデータに関する法律問題

データ利用における包括的な注意点

コネクテッドカーにより得られたデータについては、多くの使用方法が考えられることは先述の通りです。
では、データを使用するにあたってどのような点に注意すべきでしょうか

コネクテッドカーにより得られるデータは、必ずしも個人情報に該当するものとはいえません。
もっとも、自動車の所有者あるいはドライバーに関する個人情報と結び付く場合や同一の車両から収集されるデータを蓄積することで個人が特定することができる場合には、個人情報として取扱う必要があります。

また、個人情報でないとしても、位置情報等のプライバシー性が高いデータも含まれるため、プライバシーに配慮した措置が必要になります。
具体的には、取得の通知、利用目的の通知、同意の取得、第三者提供がある場合には、通知及び同意の取得を行うといった措置が考えられます。

広告利用の場合

例えば、自動車で訪れた飲食店に関するデータから、ユーザーの嗜好を推測し、その好みに合う飲食店付近で広告を配信するためには、ターゲティング広告についての利用に同意を得る必要があります。

第三者提供がなされる場合

テレマティクス保険プランにおいて取得される運転行動データを、安全な自動車開発に利用する場合や、行政機関において交通渋滞の予測に利用する場合には、取得する会社で利用するだけではなく、必要に応じて他の企業にも詳細な位置情報などを提供する必要があります。
そのため、第三者にこれらの情報を提供することについての同意を得る必要があります。

プローブデータについて第三者提供の同意を得る場合、通常の第三者提供の場合の問題(詳しくは「プライバシーと個人情報保護法【損害賠償の事例も紹介】」記事を参照してください)に加えて、以下の点が問題となります。

  1. 一台の車を家族や従業員と共同で使用することが多いため、誰から同意を取得するべきか。
  2. プローブデータは多種多様であり、個人が理解することは困難であるが、どのような方法であれば、適切に同意を取得できるか。
  3. 緊急時などに、生命・身体・財産保護の観点を考慮したうえで、第三者提供することが許されるか。
  4. 位置情報や速度の情報を含むことから、捜査上の必要性などを理由に捜査機関からデータの提供を要請された場合にどのように対応するべきか。

ステークホルダーが多く第三者提供先が多くなるような場合には、誰に対してどのような情報を提供するのかについて、ユーザーに情報提供することが重要です。
また、自らの情報を誰に提供するのかについて、ユーザー自身が決定できる仕組みを構築するべきでしょう。

車両の場合

車両の場合は、どのような場合に、誰からどういった方法で同意を取得する必要があるか、また、通知をする必要があるかについて検討が必要です。
「誰から」という点だけでも、車両の所有者、運転者、同乗者などが考えられます。

また、車両には多数のソフトウエアやシステムが搭載されると考えられます。ソフトウエアやシステムごとに収集されるデータ使用目的・提供先が異なると、それぞれについて同意を取得することは手間がかかります。

必要な情報を通知し、同意を取得するためにユーザーが理解しやすい仕組の検討が必要となります。

事故が発生した場合

事故発生時、コネクテッドカーにより取得した運転データを事故調査のために捜査当局へ提供できるか否かも、検討する必要があります。
この点、同意があれば可能と考えられますが、包括的な事前同意で良いか、個別の同意が運転者・所有者から必要かについては議論の余地があります。

契約関係の複雑化

一般的に、コネクテッドカーに提供されるサービスは、自動車メーカーが自社の自動車に搭載したシステムに、様々な事業者が提供するサービスが組み込まれています。

このような場合、各サービスを提供者する事業者から、直接ユーザーに各サービスが提供されることが一般的です。
各ユーザーは、コネクテッドカーシステムの利用規約一律に同意することで、第三者のサービスを含むサービス全体の利用に関して合意することになります。ユーザーには、コネクテッドカーのサービスと個々のサービスの区別が分かりづらいため、契約関係を理解することが困難です。

システム提供者やサービス提供者としては、ユーザーに対して分かりやすく利用条件等を通知し説明する必要があります。

特に、コネクテッドカーにより

  • どのようなデータが収集され
  • 取得されたデータは誰に帰属するのか
  • 誰がどのような目的で利用できるのか
  • 誰に対して、どのようにその取得を通知し、利用につき同意を得るのか

といった点について検討が必要です。

コネクテッドカーに関連するサービス提供者として、自社では得られないデータの取得を予定しているのであれば、必要なデータを希望する目的のために利用できるような契約条件となっているか確認する必要があります。

オープン化

コネクテッドカーの普及が進むと、ユーザーは自動車に使用可能な種々のサービスが選択可能となります。それに伴い、自動車市場では、コネクテッドカーにおいてより多くのサービスを提供し、より多種のデータを取得できることが求められるようになると考えられます。
そのため、車両に搭載するコネクテッドカーのシステムやプラットフォームに係る知的財産に関しても検討が必要となります。

自動車の価値や競争力が搭載しているシステムで決まるようになった場合、ユーザーによるサービスの入れ替えや新しいサービスの追加を可能とし、特定サービス事業者から乗り換えができないような状況とならないよう、検討する必要が生じます。

そこで、コネクテッドカーのシステムやプラットフォーム提供者 (主に自動車メーカー) は、より多くのサービス提供者の参入が可能となり 、マーケットを 拡大していくために、基幹となるシステム部分は権利化しない、または 技術をオープン化するという方法も検討していくことになるでしょう 。

まとめ

自動車から得られるデータには個人情報も含まれるのであり、個人情報とプライバシーに配慮した制度構築が必要となります。取得の通知、利用目的の通知、同意の取得、第三者提供がある場合には通知及び同意の取得等といった措置を検討しましょう。
特に、第三者にデータを提供する場合には注意が必要です。

こうした利用条件等をユーザーが理解できるように、分かりやすく通知・説明するように心がけましょう。


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