1. ホーム
  2. 債権回収

【債権回収】担保ってなに?基本をおさえよう

例えば、日々大量に行われる企業間の取引では、商品の引渡しを先に行い、売買代金を月末等の一定期日に一括して支払うという形態の取引が頻繁に行われます。
このような場合に、買主がきちんと代金を支払ってくれれば問題ありませんが、買主が売買代金を支払ってくれない、または、代金を支払ってくれるかどうか分からず不安であるといったことがあります。
このように、買主から売買代金を回収できない、あるいは、回収できないかもしれない場合に備えて設定するのが「担保」です。

本記事では、この「担保」の内容や設定方法について、解説していきたいと思います。


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 
代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。

本記事では、
「【債権回収】担保ってなに?基本をおさえよう」
について、詳しくご説明します。

弁護士のプロフィール紹介はこちら直法律事務所の概要はこちら「債権回収」に関して、お問い合わせはこちら

担保とは

XがYに対して債権を有している場合に、Yの経済状況が悪化して、Yが自ら進んで金銭を支払うことが見込めない状況になることがあります。
このような場合、Xとしては、Yに対して訴訟を提起した上で、Yの責任財産から強制的に債権を回収することが考えられます。

しかし、Xの他にAやBも、Yに対して債権を有していたとします。
このとき、Xの債権もAの債権もBの債権も、通常の債権であれば、債権が発生した前後等による優劣関係はなく、法的には全て同順位であるとされます。

したがって、XやA、Bは、それぞれの差押えが競合した場合や配当要求をした場合など、それぞれの債権額に応じて案分された金額について、Yの責任財産から強制的に回収することができるにとどまるのです。
もっとも、既にYの経済状況は悪化しており十分な財産がない状況では、結局Xは、債権全額について回収することができないことになります。

以上のように、債務者から金銭の支払いを受けることができないおそれ(債務者の無資力の危険)がある場合に、自己の債権を確実に回収するための制度が用意されています。
これを担保といいます。

「責任財産」とは
責任財産とは、債務者の総財産から、担保権により優先的に価値が把握されている財産を控除したものをいいます。
要するに、債権者の側から見たときに、債権の最終的な引き当てとなる、債務者の有する財産や権利のことです。

担保の種類

担保には、大きく分けて、人的担保物的担保が存在します。

人的担保

人的担保とは、債務者以外の者の責任財産から、優先的に債権回収を図る仕組みです。
連帯債務(民法432条以下)や保証債務(同446条以下)がその典型となります。
人的担保の特徴は、債権者と保証人との間の契約だけで成立するため、迅速かつ簡便であるという特徴があります。

他方で、人的担保それ自体からは、優先的に債権を回収する権利(優先弁済権)は発生しません。
例えば、保証人が債務者の家族であるような場合には、債務者と同時に保証人も経済的に破綻する危険があり、結局、債権を回収することができなくなってしまうという危険も存在します。

物的担保

これに対して、物的担保とは、債務者や債務者以外の第三者が所有する物から、優先的に債権回収を図る仕組みです。抵当権などがその典型とされます。
このような仕組みとして用意された各種権利を総称して、担保物権といいます。
また、他人の債務のために特定の財産を担保として提供した第三者のことを、物上保証人といいます。

担保物権には、人的担保と異なり、優先弁済権が認められます
担保物権が設定された物を競売手続によって売却し、その換価金から、他の債権者に先立って被担保債権の回収を図ることができるのです。
したがって、債権者としては、担保物権が設定された対象財産の維持にだけ注意をしておけば、確実に債権回収を図れるというメリットがあります(債権者のモニタリング・コストの節約)。

他方で、担保物権が設定されると他の債権者に不利となってしまうため、対象財産に担保物権が設定されていることを公示する必要があります。
このような公示を備えなければ、他の債権者等に対して、自分が担保物権を有していることを対抗することができません(例えば、抵当権の場合には登記を備えなければ、第三者に対抗できないとされます。民法177条)。

また、担保物権の実行には公的な競売手続を要することが多く、その設定や実行には時間と費用がかかるというデメリットも存在します。
このような特徴から、物的担保は、主に長期・高額の融資の担保に適するとされています。

担保物権の種類

法定担保物権と約定担保物権

担保物権は、その成立という観点から、法定担保物権と約定担保物権に分類されます。

法定担保物権とは、法律上の一定の要件を充たせば、当事者の意思とは無関係に、当然に成立する担保物権のことをいいます。
留置権や先取特権などがこれに該当します。

これに対して、約定担保物権とは、当事者の合意によって成立する担保物権のことをいいます。
抵当権や質権などがこれに該当します。

典型担保と非典型担保

⒜ 典型担保
このほかに、担保物権は、民法典に規定されたものかどうかという観点から、典型担保と非典型担保に分類されます。
典型担保とは、民法の物権編(175条以下)に定められた4つの担保物権のことをいいます。

  • ① 留置権
    他人の物を占有(事実上の支配)している者が、その物に関して生じた債権を有している場合に、その債権の弁済を受けるまで、当該物の返還を拒むことによって、債権の弁済を強制する権利のことを留置権といいます(民法295条1項)。
  • ② 先取特権
    一定の種類の債権について、債務者の財産から優先弁済権を受ける権利のことを先取特権といいます(民法303条)。
    先取特権には、債務者の総責任財産を対象とする一般の先取特権(同306条~310条)と、債務者の特定の動産および不動産を対象とするもの(同311条~328条)の合計15種類が存在します。
  • ③ 質権
    質権とは、債権者が債権の担保として、債務者または第三者から受け取った物や財産権を留置することによって、被担保債権の弁済を強制し、弁済がない場合にはその物や財産権の交換価値(売却代金)から優先的に弁済を受ける権利のことをいいます(民法342条・347条)。
    質権には、動産質・不動産質・権利質の3種類があります。
  • ④ 抵当権
    抵当権とは、債務者または第三者から特定の不動産(または、地上権・永小作)を担保にとり、被担保債権の弁済がない場合には、その不動産の交換価値から優先的に債権の満足を受ける権利のことをいいます(民法369条)。
    抵当権は、質権などと異なり、対象とされた財産の占有や使用を設定者である債務者や物上保証人のもとに委ねる点に特徴があります。

⒝ 非典型担保
非典型担保とは、民法典が担保物権として規定した権利ではありませんが、典型担保の不備を補うために、取引社会の中で新たに生成・発展してきた権利です。
このような非典型担保の例としては、仮登記担保・譲渡担保・所有権留保があります。
このうち仮登記担保については、「仮登記担保契約に関する法律」が制定され、法律上の権利として認められています。

  • ① 仮登記担保
    仮登記担保とは、金銭債務の不履行があった場合には、債務者や物上保証人に属する不動産所有権等の権利を債権者に移転する旨の契約を締結し、その契約に基づく権利移転請求権を仮登記により保全する仕組みです(仮登記担保法1条)。
    例えば、XがYに融資するに際して、「Yが借入金債務を弁済しない場合には、Xは、予約完結権を行使して、債務の代物弁済としてY所有の甲土地の譲渡を受ける」という内容の契約を締結し、この予約完結権の仮登記をすることにより保全する場合が、仮登記担保の典型です。
    もっとも、現在、ほとんど利用されることのない担保方法です。
  • ② 譲渡担保
    譲渡担保とは、債権の担保のために、債務者または物上保証人の有する権利を債権者に移転し、債権が弁済されればその権利を返還する旨の合意をする仕組みをいいます。
    例えば、XがYに融資するに際して、Yの所有する機械(甲)の所有権をXに移転する場合が譲渡担保にあたります。
    被担保債権の弁済がない場合には、甲の所有権はXに確定的に帰属することになります。
  • ③ 所有権留保
    所有権留保とは、売買契約において、買主に商品(物)を引き渡してその使用を認めるものの、買主が売買代金を完済するまでは、その物の所有権を売主のもとに留めておく旨の合意をすることによって、代金債務の弁済を促進する担保方法です。
    買主が代金債務を完済しなかった場合には、売主は、買主に対して、所有権に基づいて商品の返還を求めることができます。

担保物権の性質と効力

担保物権の性質

担保物権は、以下のような性質を有するとされています(なお、①~③は人的担保にも当てはまります)。
もっとも、すべての担保物権に共通するわけではありません。

付従性

担保物権は、債権回収という目的のための手段ですので、被担保債権が存在しなければ、担保物権も当然に存在しません。
これを担保物権の付従性といいます。
したがって、被担保債権が不成立または無効の場合には担保物権は成立しませんし、被担保債権が弁済等により消滅すれば、担保物権も特段の行為を要することなく当然に消滅します。ただし、確定前の根抵当権については付従性がないなど、例外もあります。

随伴性

債権者から第三者に対して被担保債権が譲渡されれば、これに伴い担保物権も当然に移転します。
これを担保物権の随伴性といいます。
この場合、被担保債権の譲渡について対抗要件が具備されれば、担保物権についての対抗要件は不要とされています。

不可分性

被担保債権の全額について弁済を受けるまでは、担保物権者は、担保物権の対象となった財産全体について担保物権を行使することができます(民法296条・305条・350条・372条)。
これを担保物権の不可分性といいます。
被担保債権の一部が弁済されたからといって、担保目的物の一部が担保の対象から解放されるということにはなりません。
ただし、留置権は代担保提供により留置権が消滅するため、不可分性が貫徹されてはいません。

物上代位性

担保の目的となった財産が売却・賃貸・滅失・損傷された場合、担保物権者は、担保設定者が取得する売買代金等の金銭その他の価値代替物に対しても、一定の要件を充たせば担保物権を行使することができます(民法304条・350条・372条)。
これを担保物権の物上代位性といいます。
なお、留置権には物上代位性は認められておらず、非典型担保については争いがあります。また、先取特権、質権及び抵当権も、全ての場合に物上代位が認められるわけでありません 。

担保物権の効力

担保物権には、優先弁済的効力留置的効力という2つの中心的な効力が存在します。
もっとも、すべての担保物権に共通して認められるわけではない点には注意してください。

優先弁済的効力

優先弁済的効力(優先弁済効)とは、担保の目的となった財産を公的な競売手続により売却し、その売却代金(換価金)から、他の債権者に先立って被担保債権の弁済を受けることができる効力のことをいいます。
優先弁済効は、担保目的物の交換価値を把握するという担保物権の性質に由来するものであり、先取特権や質権、抵当権における中心的かつ重要な効力です。
他方で、留置権には優先弁済効は認められていません(ただし、留置的効力により、事実上の優先弁済効が認められるとされています)。

留置的効力

担保物権者は、担保の目的となった財産を直接占有して、債務者等の使用を制限することにより心理的圧迫を加え、そのことで債務の弁済を間接的に促すことができます。
これを担保物権の留置的効力といいます。

留置的効力は、留置権や質権に認められます。

担保 図

※1 ただし、留置権は担保目的物を占有することが要件となっているため、被担保債権の譲渡と同時に、担保目的物の占有も新債権者に移転する必要があります。

※2 一般先取特権については、債務者のすべての責任財産を担保目的とし、特定の担保目的物を観念し得ないので、物上代位性は認められていません。

※3 ただし、権利質については、一般的に留置的効力を観念する余地はないとされています。

※4 所有権留保に物上代位性を認めるかについては、いまだ最高裁判例が存在せず、学説上の議論も分かれています。

担保権設定契約書の作成に際する留意事項

担保権を設定するにあたっては、その内容や条件が明確になるように担保権設定契約書を作成する必要があります。

担保目的物の特定

担保目的物について

契約書には、担保の目的となる財産を特定する事項を記載しなければなりません。
物的担保の目的となる財産としては、以下のようなものが考えられます。

  • ① 不動産
    不動産とは、土地およびその定着物をいいます(民法86条1項)。
    土地の定着物には、建物や樹木、塀、石垣、庭石などが含まれます。
    一般的に不動産は価額が高いうえ、登記簿が存在し、所在が不明になるリスクも少ないため、中心的かつ重要な担保目的物となります。
    不動産は、所在や地番・家屋番号、面積などの登記記載事項によって特定します。
  • ② 動産
    動産とは、不動産以外のすべての物をいいます(民法86条2項)。
    担保目的物となる動産としては、在庫商品や原材料、製造機械設備などがあり得ます。
    動産は、品目や型式・年式、カタログ番号などによって特定します。
    また、複数の動産をまとめて担保の目的とすることも考えられます。この場合には、担保目的物の種類を特定するほかに、その所在場所や量的範囲によって、担保権の対象範囲を特定する必要があります。
  • ③ 債権
    債務者が第三者に対して有する金銭債権を担保にとることも可能です。
    特に、債務者が銀行に対して有する預金債権は、現金と同様の価値を有し、換金の必要性もないため、最も有効な担保の一つとされています。
    債権の特定は、債権の種類や債権発生原因、債務者などを記載することによって行います。
    さらに、将来発生する債権(将来債権)も、現時点において担保目的とすることができます(民法466条の6第1項参照)。
    この場合には、債権発生原因のほかに、将来債権が発生する期間の始期と終期を明確にすることによって、担保目的となる債権を特定します。
  • ④ 知的財産権
    今日において、特許権や著作権、意匠権、商標権などの知的財産権は、企業の重要な財産を形成しており、これらの知的財産権を担保目的とすることもできます。

担保目的物の選択

以上のように、担保目的物はさまざま存在しますが、いずれを担保の対象として取得すれば良いのでしょうか。
これは、①担保価値、②担保取得の容易性・コスト、③担保実行の容易性・コストという観点を考慮する必要があります。

  • ①担保価値
    まず、担保の対象となる担保目的物が、債権を保全するのに必要かつ十分な価値を有しているのかを把握する必要があります。
    担保価値の把握に失敗してしまうと、担保権を実行したにもかかわらず被担保債権の全額を回収することができず、せっかく担保を取得した意味もなくなってしまいます。

    この点、一般的に不動産は、価値が高くかつ安定しているので、担保目的物としては優れているとされます。他方で、動産は、時間の経過とともに変質・陳腐化し、財産価値が低下しやすいというデメリットが存在します。

    また、不動産と異なり、ほとんどの動産では登記や登録制度 も存在しないため、担保の対象となった動産を第三者に即時取得されてしまうリスクも存在します。
    このほか、債権については、被担保債権の回収見込みが第三債務者(担保の対象となった債権の債務者)の資力に依存するため、担保価値が不安定であるというリスクが存在します。知的財産権については、担保の対象となる知的財産権が将来生み出す財産的価値の算定が予測困難である、という難点が存在します。
「即時取得」とは
民法192条は、「取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する」と規定します。これを即時取得といいます。民法がこのような規定を置いた趣旨は、動産取引が日常極めて頻繁に行われていることに鑑みて、買主に対象となる動産の権利関係について厳重な調査を求めず、安全かつ円滑な取引を実現する点にあります。したがって、このような規定の存在により、担保設定者が担保目的物である動産を売却した場合には、担保権が設定されていることを過失なく知らない買主が動産の所有権を取得し、反対に、担保権者はその動産に設定した担保権を失ってしまうのです。
  • ② 担保取得の容易性・コスト
    担保目的物の価値が高くても、その担保目的物を取得するに際して手間やコストがかかる場合があります。不動産の場合、その不動産に関する不動産登記簿上の記録を確認したうえで、実際に現地調査を行い、地形・形状が登記簿上の記録と一致しているか、土地上に建物や賃借人が存在しないのか等を確認する必要があります。
    また、通常は、債務者の取引金融機関が第一順位の抵当権を設定していることが多いので、担保としてとろうとしても担保価値に余剰がないといった場合も考えられます。

    動産については、債権者が動産を管理する場合、債務者による二重譲渡や二重担保設定の危険、他の債権者から差押えられるリスクは減少します。
    もっとも、担保目的物の管理責任が生じるため(担保価値維持義務)、対象となった動産の性質によっては負担も生じます。反対に、債務者が動産を管理する場合、動産は自動車等を除き登記や登録などといった 公示制度が存在せず公示方法が乏しく 、債務者が担保目的物の不適切な管理(二重譲渡など)をしないように監視する必要が生じ、モニタリング・コストが増加します。

    債権については、約束手形などの有価証券に債権が化体している場合には、担保取得が容易です。他方で、そうでない場合には、債権は目に見えないため、二重譲渡されていたり、先に担保権が設定されていたりしても容易に判断がつかず、被担保債権の回収が不安定になるというデメリットがあります。
    この点、債権譲渡(債権譲渡担保も含んむ)の第三者対抗要件は、確定日付のある証書による通知・承諾(民法467条2項)、あるいは、債権譲渡登記ファイルへの登記(動産債権譲渡特例法4条1項)とされているので、担保の対象となる債権の第三債務者への問合せや登記の確認などにより、二重譲渡の有無や担保権の設定の有無を確認することも可能性です。
    もっとも、第三債務者が債権の帰属について適切に情報提供をしてくれない場合も考えられ、また、債権譲渡登記に関しては、その適用について、譲渡人が法人である場合など一定の場合に限られている点(動産債権譲渡特例法1条)には注意が必要です。
    さらに、担保の対象となった債権に譲渡制限特約が付されていることもあります(もっとも、この点に関しては、平成29年の民法改正により、債権に譲渡制限特約が付されている場合であっても、譲渡自体は原則として有効とされました〔民法466条2項〕)。

    知的財産権のうち、特許権を目的とする担保権の設定については、特許庁への登録が効力発生要件とされています(特許法98条1項3号。なお、特許を受ける権利を質権の目的とすることはできません〔同33条2項〕)。
    著作権を目的とする担保権の設定については、担保設定契約により効力が生じますが、これを第三者に対抗するためには登録が必要とされています(著作権法77条2号)。
    また、対象となる特許権や著作権が共有に係る場合には、他の共有者の同意を得なければ、担保目的物とすることができません(特許法73条1項、著作権法65条1項)。
    このほか、知的財産権を担保目的とする場合、その専門性の高さから、担保担当者に正確な知識や経験がないと、適切に担保の取得・管理ができないといった難点もあります。
  • ③担保実行の容易性・コスト
    担保目的物の価値が高くても、その担保権を実行するに際して手間やコストがかかる場合があります。
    不動産の抵当権を実行する場合、裁判所に抵当権実行の申立てをしたうえで、公的な競売手続により目的不動産を換価します。
    ところが、この競売手続には時間とコストがかかり、被担保債権の回収までに1年以上を要することもあります。また、競売価格はいわば卸売価格となるため、換価金が少なくなるというデメリットも存在します。もっとも、任意売却により換価する場合や、不動産譲渡担保を活用すれば、私的実行により市場価格で売却できるため、このようなデメリットは小さくなります。

    動産や債権を担保目的物とする場合、通常は市場において処分することになるので、比較的短期間かつ簡便に被担保債権を回収することができます。
    また、債権者が動産を直接管理する場合には、第三者の差押えと 競合することがなく、担保権実行の手続的な負担も減少します。もっとも、担保の対象となった動産の種類によっては、市場での買い手がなかなか見つからず、保管料などの処分費用がかさむ危険性もあります。

    知的財産権を担保目的物とする場合、新しい技術の登場などにより担保目的となった知的財産権の価値が減少し、市場での処分が困難となる可能性があります。また、知的財産という性質上、市場での買い手が一定の事業者に限定されており、処分先を見つけることが困難なことも多いです。そのため、担保権の実行に時間を要した結果、その間に新技術が登場して担保目的物の財産的価値がなくなり、被担保債権を回収できなくなってしまうという最悪の事態もあり得ます。

担保設定契約における一般的な条項

期限の利益喪失条項

被担保債権の弁済期が定められている場合、債務者は、その期日までは債務の履行が猶予されています。
このように、債権の弁済に一定の期限が設けられていることによって、債務者が受ける利益のことを「期限の利益」といいます。

債権の弁済期以前は、当然に債権を行使することはできませんし、債権に付された担保権を実行することもできません。
ところが、相手方の信用不安など一定の事由が生じた場合には、債務者は期限の利益を喪失するとすることにより、債権者は債権全額の請求や担保権実行をすることができるようになります。このような期限の利益喪失条項を担保設定契約に規定しておくと有効です。

【条項例】

第〇条(期限の利益の喪失)
乙(担保設定者)は、以下の各号に規定する事由に該当した場合には、甲(担保権者)に対する一切の債務について当然に期限の利益を喪失し、直ちに債務を弁済しなければならない。

⑴ 債務の分割金もしくは利息金の支払を一回でも遅滞したとき
⑵ 支払不能もしくは支払停止の状態に陥ったとき、または、手形もしくは小切手が不渡りになったとき
⑶ ……

表明および保証

一定の重大な事実に関して、担保設定者に対して表明させ、その重大な事実に反することが判明した場合には、担保権者が表明保証 された事実を信じたことによって被った損害の賠償請求等の救済措置について、契約書上に規定しておくことも有用です。

【条項例】

第〇条(表明および保証)
1 乙は、甲に対して、本契約締結日および本件担保権設定日において、以下の各号に掲げる事項が真実かつ正確であることを表明し、かつ、保証する。

⑴ 乙が本物件の完全な所有権を有しており、本契約に従って設定される担保権を除いては、抵当権、質権もしくは先取特権その他いかなる担保権、または、地上権もしくは賃借権その他いかなる権利の設定、その他名目のいかんを問わず、甲の権利を阻害する一切の瑕疵または負担がないこと
⑵ ……

2 前項に定める表明および保証のうちいずれかが真実または正確でないことが判明したときには、乙は、直ちに甲に対して書面で通知するとともに、それにより甲に生じた損失、経費その他一切の損害を、甲の請求に従って、甲に対して支払う。

担保の保全

担保権者は、担保権設定当時の目的物を前提として、その担保価値を算定し、担保を取得します。
そして、抵当権や譲渡担保、所有権留保などの非占有型の担保では、担保設定者が担保目的物の占有・使用を継続します。
このとき、担保設定者が担保目的物の現状を変更することにより、担保価値が減少してしまう危険性が存在します。このような場合に備えて、担保設定者に対して、担保目的物の担保価値を毀損するような行為を禁止する条項を設けておくと安心です。

【条項例】

第〇条(担保の保全)
1 乙は、甲の事前の承諾なく、本物件を第三者に対して譲渡もしくは賃貸し、または、本件抵当権の円滑な行使を阻害するおそれのあるその他一切の行為をしてはならない。
2 乙は、善良な管理者の注意をもって本物件を管理する。また、乙は、甲の事前の承諾なく、本物件の現状を変更する行為または本物件の価値を減少させる行為、その他甲の権利を害するおそれのある一切の行為をしてはならない。
3 本物件について変更、毀損、滅失その他価値の減少が生じ、または、不利益を及ぼすおそれが生じたとき、乙は、その原因のいかんを問わずに、直ちに甲に対してその旨を通知しなければならない。

追加担保提供条項

担保設定者が、担保目的物の現状を変更し、あるいは、担保価値を毀損するような行為をしたような場合は、担保権者がそのまま担保権を実行しても、被担保債権を十分に回収しきれない可能性があります。
このような場合に備えて、担保設定者が目的物の価値を減少させるおそれのあるときには、担保権者は、担保設定者に対して、新たな担保の差し入れを請求することできる旨の条項を規定する必要があります。
なお、民法上、担保提供義務に違反した場合、債務者は期限の利益を喪失するとされているので(137条3号)、その意味でも、追加担保提供条項を設けておく意義があります。

【条項例】

第〇条(担保の保全)
本物件が滅失、損傷もしくは価値が下落し、または、そのおそれがある場合には、乙は、甲の請求により、新たな担保を差し入れ、または、被担保債権の全部もしくは一部を弁済しなければならない。

その他

そのほか、抵当権や譲渡担保権のように担保設定者が担保目的物を占有・使用する場 合、担保の状況や占有・使用状況について担保権者が確知できるように、担保設定者の報告義務や担保権者の調査権限を定めた条項を設けることも考えられます。

また、担保目的物が地震や火災などの災害に遭った場合、担保目的物が滅失し、あるいは、担保価値が著しく毀損されます。そこで、このような場合に備えて、担保権者は、担保設定者に対して、地震保険や火災保険などの各種保険に加入することを契約上義務づけることもできます。

さらに、契約当事者の一方が外国国籍の場合や担保目的物が国外に所在する場合には、担保設定契約の準拠法を明らかにしておく必要があり、契約をめぐって当事者で紛争が生じる場合に備えて、第一審が係属する管轄裁判所を定めておく必要もあります。


【関連記事】
【書式付き】担保権行使による債権回収1 ~不動産競売の申立ほか~
【書式付き】担保権行使による債権回収2 ~担保設定の方法と留意点~

直法律事務所では、IPO(上場準備)、上場後のサポートを行っております。
その他、プラットフォーム、クラウド、SaaSビジネスについて、ビジネスモデルが適法なのか(法規制に抵触しないか)迅速に審査の上、アドバイスいたします。お気軽にご相談ください。
ご面談でのアドバイスは当事務所のクライアントからのご紹介の場合には無料となっておりますが、別途レポート(有料)をご希望の場合は面談時にお見積り致します。


アカウントをお持ちの方は、当事務所のFacebookページもぜひご覧ください。記事掲載等のお知らせをアップしております。

債権回収に関するお悩みは、
弁護士に相談して解決

売掛金、貸金、業務委託料…こういった債権があるのに、債務者が支払ってくれなかったという場合には、債権回収を迅速に、また、戦略的に行う必要があります。債権回収に関するご相談は、なるべく早めに弁護士に相談、解決しましょう。

クライアント企業一例