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【書式付き】担保権行使による債権回収1 ~不動産競売の申立ほか~

本記事では、

●債権回収の実行手続
●担保取得

についてご説明します。


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 
代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。

本記事では、
「【書式付き】担保権行使による債権回収1 ~不動産競売の申立ほか~」
について、詳しく解説します。

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債務不履行があった場合の実行手続

ある会社に対して期待して出資をし、その担保として土地や不動産に担保権を設定したとします。
しかしながら、期待はずれで売上がよくなく、その会社が返済を滞納し続けた場合は、担保実行による競売をもって回収するということになるでしょう。

このようなケースにおいて、どのように債権回収するのかについて説明します。

抵当権・根抵当権の実行

抵当権は、債務者または第三者から特定の不動産(または地上権・永小作権)を担保にとり、被担保債権が弁済されない場合には、その不動産の交換価値から他の債権者に優先して自己の債権の満足を受けることができる物権をいいます(民369条)。

つまり、貸したお金が戻ってこない場合に、担保として抵当権を設定していた土地などを売却し、お金に代えて、誰よりも先に借金を返済してもらうという権利です。これを抵当権の実効といいます。
抵当権は、特定の債権ごとに成立・消滅における付従性の原理に支配されているため、その主たる債務がなくなれば、抵当権もなくなる、という関係にあります。

根抵当権とは、設定行為で定められた一定の範囲に属する不特定の債権を、極度額の限度において担保する抵当権のことです(民398条の2第1項)。

前述の普通の抵当権では、実務に適合しないことを理由に承認された権利です。
銀行取引(手形割引・当座貸越契約など)や、商社・メーカー間の継続的物品供給契約など、債権が絶えず発生・消滅を繰り返すという取引関係などは、その都度、抵当権を設定するのは、お互い迂遠になってしまいます。

そのため、抵当権とは異なり、「特定の債権」との関係で付従性を否定したうえで、将来発生する不特定の債権をも含める形で一括して1つの抵当権で担保する形態での根抵当権が誕生しました。

それでは、以下で、これらの担保権の実行について具体的に説明していきます。

担保権の実行の基本的な流れ

申立て
(必要書類は下記に記載)

競売開始決定

差押え登記の嘱託

調査

決定

期間入札

落札

納付

登記手続

配当

担保権の実行手続は、債権者が申立てることから始まります。
目的所在地を管轄する地方裁判所に対し、抵当権の実行を申立てます。
これが認められると競売開始決定が出され、差押えの登記がなされます。

債務名義(判決等)は特に必要なく、担保権が登記されている登記事項証明書等必要書類を提出して申立てをすれば、競売手続が開始されます。

登記がされた後、裁判所は執行官や評価人に調査を命じて、当該不動産について調査をし、売却基準価額が決められます。

その価額で競売が実施され、買受人が現れて売却許可決定がなされると、買受人が代金を納付して当該不動産の所有権を取得します。

《売却の方法》
裁判所書記官が売却方法を定めます。
通常は、一定の期間内に入札を行う「期間入札」で行います。
入札は、保証金を納付した上で売却基準価額からその10分の2相当額を差引いた買受可能価額以上の金額で行わなければなりません(民事執行法(以下「民執」といいます。)60)。

最高値で落札して売却許可を受けた買受人は、裁判所が指示する期限までに、入札金額から保証金を引いた残りの代金を納付します。
なお、所有権移転登記手続は裁判所が嘱託で行うことになります(民執82)。

売却が実施された後、裁判所は、買受人が納付した代金を債権者に配当します。
配当の順位は、

  • ①競売手続費用
  • ②登記された不動産保存の先取特権等
  • ③公租公課に優先する抵当権等
  • ④公租公課
  • ⑤公租公課に劣後する抵当権等
  • ⑥未登記の一般先取特権の被担保債権
  • ⑦優先権のない一般債権

となります(民執85)。

配当の額は、まず、第一順位の競売手続費用を代金から差し引いた後、配当順位に従って配当が割り当てられます。

競売による売却価額が想定より少なく、完済できなかった場合でも、弁済を受けられなかった部分についての債権は当然、存続します。
しかし、残りの債権については、無担保債権となってしまいます。

不動産競売の申立手続

前述のとおり、不動産競売申立ての管轄は、不動産の所在地を管轄する地方裁判所です(民執44①)。

不動産競売は、

  • A.抵当権がある
  • B.被担保債権がある
  • C.履行遅滞の状態が生じた

ということが必要になります。
債権者が、履行遅滞であること、つまり、履行期の到来を主張する必要がなく、債務名義はいりません。

担保実行としての競売申立てに必要な書類は、次のとおりです。

①申立書
申立書、当事者目録、請求債権等目録、物権目録を綴じたものが必要になります。
なお、各目録についてはその写し1通も別途必要になります。

【参考書式】担保不動産競売申立書

担保不動産競売申立書

〇〇地方裁判所第〇民事部 御中

〇〇年〇〇月〇〇日
申立債権者 株式会社〇〇〇〇
代表者代表取締役〇〇〇〇 ㊞
電話 〇〇―〇〇〇〇―〇〇〇〇
FAX 〇〇―〇〇〇〇―〇〇〇〇


当 事 者 別紙目録のとおり
担 保 権
被担保債権 別紙目録のとおり
請求債権
目的不動産 別紙目録のとおり

債権者は、債務者(兼所有者)に対し、別紙担保権・被担保債権・請求債権目録記載の債権を有するが、債務者がその弁済をしないので、別紙担保権・被担保権・請求債権目録記載の担保権に基づき、別紙物権目録記載の不動産の担保不動産競売を求める。 本件不動産につき、入札又は競り売りの方法により売却を実施しても適法な買受けの申出がなかったときは、他の方法により売却することについて異議ありません。

添付書類

1 不動産登記事項証明書 〇通
2 固定資産公課証明書 〇通
3 代表者事項証明書 〇通
4 住民票 〇通
5 不動産登記法14条の地図の写し 〇通
6 現地案内図 〇通



【参考書式】担保権・被担保権・請求債権目録

担保権・被担保債権・請求債権目録

1 担保権
(1)〇〇年〇〇月〇〇日設定の抵当権
(2)登記 〇〇地方法務局
〇〇年〇〇月〇〇日受付第〇〇号

2 被担保債権及び請求債権
(1)元金 〇〇円
ただし、〇〇年〇〇月〇〇日の〇〇契約による〇〇金(弁済期〇〇年〇〇月〇〇日)
(2)利息 〇〇円
ただし、上記元金に対する、〇〇年〇〇月〇〇日から〇〇年〇〇月〇〇日までの、約定の年○○%の割合による利息金
(3)損害金 〇〇円
上記元金に対する〇〇年〇〇月〇〇日から完済まで約定の年〇〇%の割合による損害金


②担保設定の登記がされた対象不動産の全部事項証明書(共同担保目録付のもの)
原本1通及び写し2通が必要です(民執規則23一、四)。
発行後1か月以内のものに限ります。
ただ、後述の通り、譲渡担保の実行時点では他の債権者との競合が想定されるため迅速性が重要なため、登記事項証明書は譲渡担保設定時点で入手しておくことが望ましいです。

③申立手数料
担保権1個につき、収入印紙を4,000円を申立書の冒頭に貼付することになります(民事執行費用3①・別表1⑪イ)。

④資格証明書及び住所証明書(各原本1通)
㋐申立債権者
 法人の場合:代表者事項証明書若しくは履歴事項証明書
 個人の場合:不要

登記上の住所と現住所等表記が異なる場合は、住所移転の沿革の記載のある履歴事項証明書あるいは住民票若しくは戸籍の附表等が必要になります。

㋑債務者及び所有者
 法人の場合:代表者事項証明書若しくは履歴事項証明書(原本及び写し各1通)
 個人の場合:住民票もしくは戸籍の附表(原本及び写し各1通)

登記上の住所と現住所等表記が異なる場合は、住所移転の沿革の記載のある履歴事項証明書あるいは住民票若しくは戸籍の附表等が必要になります。

⑤委任状
代理人による申立ての場合のみ必要となります。
なお、申立債権者が法人で、従業員を法人の代理人とする場合には、代表者作成の代理人許可申立書及び従業員証明書も必要です。

⑥最新年度分の固定資産評価・公課証明書(原本及び写し2通)
評価額、固定資産税額、都市計画税額の全部が記載されているものが必要です(民執規23五)。

⑦意見書
期間入札できなかった場合には、他の方法で売却を実施することについての意見書が必要になります。

【参考書式】意見書

事件番号 〇〇年(〇)第〇〇〇〇号

意見書

〇〇地方裁判所第○○民事部 御中

〇〇年〇〇月〇〇日
申立債権者 株式会社〇〇〇〇
代表者代表取締役〇〇〇〇 ㊞


本件不動産につき、入札又は競り売りの方法により売却を実施しても適法な買受けの申出がなかったときは、他の方法により売却を実施することについて異議ありません。



⑧続行決定申請書(正本・副本各1通)
対象不動産にすでに滞納処分による差押がされている場合に必要です。

【参考書式】続行決定申請書

事件番号 〇〇年(〇)第〇〇〇〇号

続行決定申請書

〇〇地方裁判所第〇〇民事部 御中

〇〇年〇〇月〇〇日
申立債権者 株式会社〇〇〇〇
代表者代表取締役〇〇〇〇 ㊞


上記事件について、下記理由により続行決定をされたく申請します。

上記事件の目的不動産中、〇〇年〇〇月〇〇日受付をもって、〇〇〇〇が、滞納処分による差押えをしている物件がありますが、いまだ公売その他滞納処分による売却がされませんので、本件手続を続行する旨の決定を求めます。


⑨対象不動産の各図面(各原本及び写し2通)(民執規23二ロ・ハ・23の2一・三)
㋐住宅地図等現地案内図
㋑公 図
㋒地積測量図
㋓建物図面及び各階平面図

法務局に各図面が備え置かれていない場合、その旨の上申書の原本及び写し2通が必要になります。
また、対象不動産が更地の場合は、その旨の上申書の原本及び写し2通が必要になります。

⑩はがき2枚
申立債権者又はその代理人の宛名を記入したもの。

⑪返信用封筒
申立債権者又はその代理人の宛名を記入したもの。

⑫登録免許税
請求債権額の1000分の4(ただし、債権額は1000円未満切り捨て、登録免許税は100円未満切り捨て)となります。
30,000円以下の場合は収入印紙でも納付は可能ですが、原則は、銀行あるいは郵便局に備え置かれている国庫金納付書を使用して納付します。

⑬民事執行予納金
裁判所によって異なる可能性がありますので、管轄裁判所に問い合わせることをおすすめします。

担保不動産収益執行手続

お金が返ってこない場合としての手段の一つに担保不動産収益執行制度があります。
不動産質権の場合には、競売のほか、担保不動産収益執行を申立てることによって、裁判所により選任された管理人による目的不動産の管理のもとで得られた収益から優先弁済を受けることができます(民執180条2号)。
具体的には、債務者が賃貸人として有している賃料債権から貸したお金を回収するというものです。

同じような制度として物上代位があります。
これは、担保不動産がそれぞれ売買代金、賃料、火災保険金などの請求権となった場合に、これらの請求権に対して、担保権としての効力を及ぼすことです。平成から抵当権者による賃料債権に対する物上代位が認められました。

ただし、こちらの制度は、債権者が賃料を払うべき人を見つけ出さなくてはならず、その特定は難しいため、実効性を欠きます。
また、賃料回収を債権者が自ら行う必要があります。

それに対し、担保不動産収益執行の申立ては、賃料支払義務者を見つけ出す必要はなく、物上代位より簡便です。
また、集金から配当、担保物権の維持管理まで管理人に任せることができます。

集合譲渡担保の実行

ある会社が行っている事業から生じる売掛債権について、その売掛債権を担保設定し、事業融資を行っていたとします。
しかし、返済の延滞が続き、ついに担保実行を行って債権回収することを決めました。

この後の流れはどうなるのか、説明します。

登記された債権譲渡担保権の実行の流れ

通常、債権譲渡担保契約書には期限の利益喪失条項が定められています。
この期限の利益の喪失事由が発生した場合に、担保の実行を行うかを検討することになります。
登記された債権譲渡担保の場合、第三者対抗要件は登記時に備えていますので、第三債務者対抗要件として、登記事項証明書を交付した上での債権の譲渡を受けたことの確定日付のある通知を行うことになります(動産債権譲渡4②)。

また、この第三債務者に対する登記事項証明書の交付と債権譲受通知によって、債務者に対する対抗要件も備えたことになります。(同③)。

そして、裁判例では、この第三債務者に交付する登記事項証明書は原本であることが必要であるとされています。

なお、譲渡担保の実行時点では、他の債権者と競合している状況が想定されますので、実行から回収まで迅速に進める必要があります。そのため、登記事項証明書は譲渡担保設定時点で入手しておくことが好ましいといえます。

また、通常の債権譲渡の通知は、譲渡人から行う必要があるとされていますが(民467)、債権譲渡登記を具備した譲渡担保の実行としての債権譲渡を受けたことの通知は、譲受人たる債権者からこれを行うことができるとされています(動産債権譲渡4②)。

債権譲渡を受けたことの通知は配達証明書付内容証明郵便で行うことになりますが、登記事項証明書の原本は内容証明の様式に適合していないことから、内容証明郵便に同封することはできません。
したがって、実務上、債権譲受通知と登記事項証明書は別便で郵送することになります。
ただ、双方が関連していることを示すために、通知書に別便で登記事項証明書を発送する旨記載し、登記事項証明書の郵便には債権譲受通知書のコピーを同封する等の対応をすることになります。

上記通知と登記事項証明書が第三債務者に到達後、債権者から第三債務者に対して直接支払の請求を行うことによって債権回収を行うことになります。

【参考書式】債権譲受通知書

債権譲受通知書


拝啓、時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
さて、当社は、株式会社〇〇〇〇が貴社に対して有する下記記載の債権を、〇〇年〇〇月〇〇日付をもって同社から譲り受けましたので今後のお支払は当社宛に行っていただきますようご通知申し上げます。
なお、本件債権譲渡につきましては、〇〇年〇〇月〇〇日付をもって動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律に基づく債権譲渡登記を完了しています(登記番号:第〇〇〇〇―〇〇〇号、登記年月日時:〇〇年〇〇月〇〇日〇〇時〇〇分、債権通番〇〇)。本書と別に配達証明郵便で登記事項証明書を送付いたしますので、ご確認ください。
なお、譲渡債権のお支払につきましては、下記当社銀行預金口座にお振込みくださいますよう本書をもってお願いいたします。

(譲渡債権の表示)
本通知書の貴社への到達日現在、株式会社〇〇〇〇が貴社に対して有する〇〇の商品売買代金債権一切及び上記到達日から〇〇年〇〇月〇〇日までの間に発生する株式会社〇〇〇〇の貴社に対する〇〇の商品売買代金債権一切

(今後の支払に関する振込先の表示)
銀行口座 〇〇銀行〇〇支店
口座種類 普通預金
口座番号 〇〇〇〇
口座名義 〇〇〇〇株式会社

〇〇年〇〇月〇〇日

〇〇県〇〇市〇〇町〇ー〇ー〇
〇〇〇〇株式会社
代表取締役〇〇〇〇 ㊞

〇〇県〇〇市〇〇町〇ー〇ー〇
株式会社〇〇〇〇 御中

登記されていない債権譲渡担保権の実行の流れ

登記されていない債権譲渡担保の実行については、債権譲渡担保設定時に譲渡人から第三債務者に確定日付のある債権譲渡通知を行う必要があり、その時点で対抗要件を備えたことになります。

この時点での譲渡通知では、通常、担保目的の譲渡であるため、譲受人からの担保実行通知があるまでは支払は譲渡人に支払う旨の内容の通知がなされます。

したがって、登記のない債権譲渡担保の実行は、譲受人から債務者に対して譲渡担保を実行する旨の通知を行った上で、第三債務者に対して、譲渡担保を実行したため以後は譲受人に支払うよう要請する旨の内容の通知によって行うことになります。


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