澤田直彦
監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所
代表弁護士
IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「債権が回収不能になったら?貸倒損失の計上と税務上の処理について」
について、詳しく解説します。
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貸倒引当金とは
前提として、どのような場合に貸倒引当金を計上できるかについて説明します。
貸倒引当金とは、将来債権が回収不能となり貸倒損失を被るリスクに備え、あらかじめ回収不能となる見込み額を引当金として計上するものです。
税法上、貸倒引当金を計上することが認められているのは、
・資本金の額もしくは出資金の額が1億円以下、または、資本もしくは出資を有しない法人
・公益法人、協同組合、人格のない社団、銀行法に規定する銀行や保険業法に規定する保険会社、及びこれに準ずる法人
です(法人税法52条1項)。
法人税法上の貸倒引当金には
①一括評価金銭債権
②個別評価金銭債権
の2種類があります(法人税法52条1項及び2項)。
①一括評価金銭債権は、端的に言えば貸倒の懸念が低い債権(売掛金、貸付金その他これらに準じる金銭債権で個別評価金銭債権を除きます)です。
一括評価金銭債権については、法定繰入率または過去の貸倒損失発生額に基づく実績繰入率に基づいて貸倒引当金を算出します。
②個別評価金銭債権は、貸倒等による損失が見込まれる債権であり、債権ごとに個別に評価して貸倒引当金を算出します。
1 更生手続開始の申立て等
更生手続開始の申立て等の事由が生じたとき、すなわち、当該法人が、当該事業年度終了時において有する金銭債権に係る債務者について、次に掲げる事由が生じているとき(法人税法施行令96条1項3号、法人税法施行規則25条の3)は、当該金銭債権の額の100分の50に相当する金銭の額を貸倒引当金として計上することができます。
①更生手続開始の申立て
②再生手続開始の申立て
③破産手続開始の申立て
④特別清算開始の申立て
⑤手形交換所による取引停止処分
⑥電子債権記録機関による取引停止処分という事由が生じた場合
2 一定の事由が生じ、取立等の見込みがないと認められること
債務者につき、債務超過(債務者の負債の総額が資産の総額を超えること)の状態が相当期間継続し、かつ、その営む事情に好転の見通しがないこと、災害、経済事情の急変等により多大な損害が生じたことその他の事由により、当該金銭債権の一部の金額についてその取立て等の見込みがないと認められる場合には、当該一部の金額に相当する金額について貸倒引当金を計上できる(法人税法施行令96条1項2号)と、されています。
ここでいう、「相当期間」とは「おおむね一年以上」をさし、債務超過に至った事情と事業が好転する見通しの有無を考慮したうえで「事由」が生じているかどうかを判断します(法人税基本通達11-2-6)。
同号に規定する「その取立て等の見込みがないと認められる」金額とは、当該回収できないことが明らかになった金額、または当該未収利息として計上した金額を意味します。
「その他の事由により、当該金銭債権の一部の金額についてその取立て等の見込みがないと認められる場合」には、次に掲げる事実が含まれます(法人税基本通達11-2-8)。
1 法人の有するその金銭債権の額のうち担保物の処分によって得られると見込まれる金額以外の金額につき回収できないことが明らかになった場合において、その担保物の処分に日時を要すると認められること
2 貸付金又は有価証券に係る未収利息を資産に計上している場合において、当該計上した事業年度(その事業年度が連結事業年度に該当する場合には当該連結事業年度)終了の日(当該貸付金等に係る未収利息を2以上の事業年度において計上しているときは、これらの事業年度のうち最終の事業年度終了の日)から2年を経過した日の前日を含む事業年度終了の日までの期間に、各種の手段を活用した支払いの督促等の回収の努力をしたにもかかわらず、当該期間内に当該貸付金等に係る未収利息(当該資産に計上している未収利息以外の利息の未収金を含む)につき債務者が債務超過に陥っている等の事由からその入金が全くないこと
「当該金銭債権の一部の金額につきその取立等の見込みがないと認められる」場合の「当該一部の金額に相当する金額」とは、その金銭債権の額から担保物の処分による回収可能額及び人的保証に係る回収可能額などを控除して算定しますが、次に掲げる場合には、人的保証に係る回収可能額の算定上、回収可能額を考慮しないことができます(法人税基本通達11-2-7)。
① 保証債務の存否に争いのある場合で、そのことにつき相当の理由のあるとき
② 保証人が行方不明で、かつ、当該保証人の有する資産について評価額以上の質権、抵当権が設定されていること等により当該資産からの回収が見込まれない場合
③ 保証人について更生手続申立て、再生手続申立て、破産手続申立て、特別清算申立て等の法人税法施行令96条1項3号に掲げる事由が生じている場合
④ 保証人が生活保護を受けている場合(それと同程度の収入しかない場合も含む)で、かつ、当該保証人の有する資産について評価額以上の質権等が設定されていること等により当該資産からの回収が見込まれないこと
⑤ 保証人が個人であって、次のいずれにも該当する場合
(1) 当該保証人が有する資産について評価額以上の質権等が設定されていること等により、当該資産からの回収が見込まれないこと
(2) 当該保証人の年収額(その事業年度終了の日の直近1年間における収入金額のこと)が当該保証人に係る保証債務の額の合計額の5%未満であること
なお、当該保証人に係る保証債務の額の合計額は、当該保証人が他の債務者の金銭債権につき保証をしている場合には、当該他の債務者の金銭債権に係る保証債務の額の合計額を含めることができます。
また、⑤(2)の当該保証人の年収額については、その算定が困難であるときは、当該保証人の前年(当該事業年度終了の日を含む年の前年をいう)分の収入金額とすることができます 。
3 更生計画の認可決定等
債務者について、次に掲げる事由に基づいてその弁済を猶予され、または不払いにより弁済される場合には、当該金銭債権の額のうち当該事由が生じた日の属する事業年度終了の日の翌日から5年を経過するまでに弁済されることになっている金銭以外の金額(担保権の実行その他によりその取立て又は弁済の見込みがあると認められた部分の金額を除く)について、貸倒引当金を計上できる(法人税法施行令96条1項1号、法人税法施行規則25条の2)とされています。
1 更生計画認可の決定
2 再生計画認可の決定
3 特別清算に係る協定の認可の決定
4 債権者集会の協議決定で合理的な基準により債務者の負債整理を定めているもの
5 行政機関、金融機関その他第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約でその内容が④の債権者集会の協議決定に準ずるもの
回収不能の場合の税務処理
債権が回収不能となった場合の税務上の処理はどのようにすべきでしょうか。
A
自社が債権を回収できないこと自体は損失になります。もっとも、その損失の額は「貸倒損失」として一定の要件を満たせば、損金に算入することができ、節税が可能です。
そこで、回収不能となった債権については、貸倒損失を計上したうえで損金処理をすることとなります。
貸倒損失には、法人税基本通達9-6-1から9-6-3の定める要件に該当する必要があります。
具体的には、
①法律上の貸倒
②事実上の貸倒
③形式上の貸倒
のいずれかに該当する必要があります。
法律上の貸倒(法人税基本通達9-6-1)
法人の有する金銭債権について、以下4つに該当する事実が発生した場合、その事実の発生した日の属する事業年度において、記載の金額についてを貸倒として損金の額に算入します。
1 更生計画認可の決定又は再生計画認可の決定があった場合
これらの決定により切り捨てられることになった部分の金額
2 特別清算に係る協定の認可があった場合
この決定により切り捨てられることとなった部分の金額
3 法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定で次に掲げるものがあった場合
これにより切り捨てられることとなった部分の金額
(1) 債権者集会の協議決定で合理的な基準により債務者の負債整理を定めているもの
(2) 行政機関又は金融機関その他の第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約で、その内容が(1)に準ずるもの
4 債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合
その債務者に対し書面より明らかにされた債務免除額
なお、4の「相当期間」とは、債権者が債務者の経営状態をみて、回収不能かどうかを判断するために必要な期間をさし、個別の事情に応じて異なります。
また、「書面」により債務免除額が明らかにされる必要があるため、実務上は、債務者に内容証明郵便で債務免除の通知書を送付する方法がとられています。
事実上の貸倒(法人税基本通達9-6-2)
法人の有する金銭債権について、債務者の資産状況、支払能力から、全額が回収できないことが明らかになった場合には、その事実が明らかになった事業年度において損金処理をすることができます。
この場合に、当該金銭債権について担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ貸倒れとして損金処理をすることはできません。
ここで、次の4つの条件が満たされる必要があります。
- ①債務者の資産状況、支払能力等からみて回収できないことが明らかであること
- ②全額が回収できないこと
- ③その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をすること
- ④担保物があるときは、それを処分した後に貸倒れ処理すること
①「債務者の資産状況、支払能力からみて回収できないことが明らかになった場合」に関しては、債務者の資産状況や支払能力のみならず、債権回収に必要な費用・労力や債権回収を強行することによって生ずる他の債権者等との軋轢などの事情も踏まえ、総合的に判断されるべきとされています。
具体的には、債務者の破産・民事再生・強制執行等の手続きに入った場合、債務者が死亡・失踪した場合、債務超過の状態が相当期間継続し事業再起の見通しが立たない場合などがあげられます。
貸倒損失は全額の回収が不可能であることが明らかになった事業年度において計上できることになります。当該事業年度において損金処理を行わなかった場合、翌年度以降に損金処理を行うことはできないため注意が必要です。
形式上の貸倒(法人税基本通達9-6―3)
債務者について以下の事実が発生した場合、債務者に対して有する売掛債権について、法人は売掛債権の額から備忘価格(実質的な価値を失った資産を帳簿に記載する際に用いられる価格)を控除した残額を貸倒として損金処理をすることができます。
1 債務者との取引を停止したとき(最後の弁済期又は最後の弁済の時が当該停止をした後以後である場合には、これらのうち最も遅いとき)から、一年以上経過した場合(当該売掛債権について担保物のある場合を除く)。
「取引の停止」とは、継続的な取引を行っていた債務者につき 資産状況や支払能力等が悪化したことにより、その後の取引を停止するに至った場合 をいいます。例えば一回だけの不動産取引のように、たまたま取引を行った債務者に対して有する当該取引に係る売掛債権については、この取扱いの適用はありません。
2 法人が同一地域の債務者について有する当該売掛債権の総額がその取立てのために要する旅費、その他の費用に満たない場合において、当該債務者に対し支払を督促したにもかかわらず弁済がないとき。
債務免除に伴う会計・税務処理
債権回収が困難になっていた債務者について債務免除した場合に、会計上・税務上はどのような処理をすべきでしょうか?
A
債権回収が困難になっていた債務者について債務免除した場合には、会計上は貸倒損失として当期の費用に計上され、税務上は損金に算入されることとなります。
その際、法人税法基本通達で定める要件を満たさない場合には寄付金として扱われることとなり、損金への算入が一定額に制限されます。
会計上の処理
債権者が、回収が困難となっている債務者に対し債務免除を行った場合には、通常は貸倒損失として当期の費用に計上されます。
売掛金等の営業取引に基づく債権であれば、損益計算書の販売費および一般管理費に計上されます。
また、貸付金等の営業外の取引に基づく債権であれば、営業外費用の中で貸倒損失として計上されることとなります。
税務上の処理
法人税法上、貸倒損失として損金に算入されるためには、法人税基本通達で厳格な要件が課されています。
通達上の要件を満たさず、回収可能性が残された段階で貸倒損失として処理した場合には、贈与として扱われることとなります。つまり、税務上は寄付金として処理され、損金への参入が一定額に制限されてしまうので注意が必要です。
貸倒損失とされる要件
債務免除は、法律上の貸倒(法人税基本通達9-6-1(4))にあたるため、貸倒損失を計上することができます。
同号では、「債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合に、債務者に対して書面で通知した債務免除額」について、貸倒損失としての損金の算入を認めています。
つまり、債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、債務者からの弁済がなく、担保や保証による回収が得られない場合には、書面による債務免除の意思表示をすることが必要となります。
ここでいう「相当期間」とは、債権者が債務者の経営状態をみて回収不能かを判断するための合理的期間をさすとされていて、個々の事情を考慮したうえで「相当期間」といえるか判断されます。
また、回収が得られないかどうかは債務超過の事実をはじめ、債務者の資産状態、経営状態等の事情を考慮して、総合的に判断されます。
回収が可能でも貸倒損失とされる場合
回収が可能なときでも、業績不振の子会社等を整理する場合や、経営危機に陥った子会社等の倒産を防止して再建しようとする場合、災害を受けた得意先等を支援しようとする場合などに、債務を免除する場合があります。
これらの場合にまで寄付金として課税の対象とするのは妥当ではありません。
そこで、法人税基本通達は、子会社等の整理・再建の費用として認められるものについては寄付金に該当しないとの扱いや、取引先の災害復旧の支援を目的とする売掛金等の免除も寄付金に該当しないものと取り扱う旨を定めています(法人税基本通達9-4-1、9-4-2、9-4-6の2)。
債権譲渡に伴う税務処理
債権回収が困難になっていた債務者に対する債権を第三者に譲渡した場合に、税務上はどのような会計処理をすべきでしょうか?
A
債権回収が困難になっていた債務者に対する債権を廉価で譲渡した場合、譲渡の価格が時価相当の適正な価額(回収が困難な債権としての適正な価額)であれば譲渡損(債権の帳簿価額ー譲渡価額)は全部損金に算入されることとなります。
他方、時価よりも低い価額で譲渡した場合には、時価と譲渡価額の差額は寄付金として扱われ、課税の対象となります。
債権譲渡による譲渡損が計上できる要件
債務者からの回収が困難な場合、債権者が債権を他に廉価で売却して譲渡損を計上することで、税務上の負担をなくすことができます。
譲渡損を計上するには、
①譲渡した事実があること
②譲渡の価格が適正価額であること
が必要です。
金銭債権の移転について、以下の要件のすべてを満たすときには、その売却による損益を認識するものとされます(法人税基本通達2-1-44)。
A 売却等を受けた者は、次の要件が満たされていること等により、当該金融資産に係る権利を実質的な制約なしに行使できること
(1) 譲渡人は、契約又は自己の自由な意思により、当該売却等を取り消すことができないこと
(2) 譲渡人に倒産等の事態があっても譲渡人やその債権者(管財人を含む)が売却等をした当該金融機関を取り戻す権利を有していない等、売却された金銭債権が譲渡人の倒産等のリスクから確実に引き離されていること
B 譲渡人は売却等をした金銭債権を当該金融資産の満期日前に買い戻す権利及び義務を実質的に有していないこと
②譲渡の価格が適正価額であること
譲渡価額が適正であるといえるためには、価額が「時価」であることが必要です。時価よりも低い価額で譲渡した場合にはその譲渡価額と時価との差額を相手方に寄付したものと扱われます。
「時価」にあたるか否かは、債務者の財務状態、今後の経営予測等を踏まえ総合的に判断します。
国税庁の法令解釈通達によれば、計算の基礎となる収支予測額及び割引率が適正であれば、税務上も時価と認められるとされています。
なお実務上は、譲渡価格の適正さを判断するために、複数の債権の買取業者から見積もりを取っています。
まとめ
税務上の処理をするにあたり、法人税法や法人税法基本通達の定めるどのケースに該当するのか、要件を満たすのかの判断は困難です。
そのため、顧問弁護士などの税務専門家にアドバイスを求めるとよいでしょう。
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