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債権回収のための調査と仮差押え ~未登記建物 / 売掛債権~

Q
取引先から売買代金の支払いが滞っています。
そこで債権回収のために、相手方の資産調査をしているのですが、登記されている不動産以外に未登記建物があるかもしれません。また、取引先は他社とも取引をしているので売掛債権があると思われます。

未登記建物があれば、当社の売掛金の担保にするか、仮差押えをしたいと考えています。
そこで、未登記建物があるかどうかを、どのように調べれば良いのでしょうか。

また、取引先は、すでに当社が販売した商品を他社に転売しているようなので、取引先が他社に有する売掛債権を仮差押えしたいと思っています。その転売先はどのように見つければ良いでしょうか。

A 
未登記建物があるかどうかを調べるには、

①債務者に対し情報提供を求める
➁現地訪問をして、登記済み物件を確認することで、登記されていない建物を見つける
➂債務者から固定資産税納付通知書を提出させ、同通知書に記載されている各建物が登記済みか確認する
④市販の住宅地図・グーグルマップ等で未登記建物を見つける

という方法があります。


また、売掛債権の債務者(自社からすると第三債務者)である転売先を調べるには、

①取引先のホームページを確認する
➁信用調査報告書を信用調査会社(帝国データバンクや東京商工リサーチ等)から取得し得意先欄を確認する
➂会社法442条3項に基づき債権者として、計算書類等の閲覧や謄写をする
④(すでに債務名義を有しているような場合)
 民事執行法に定めのある財産開示手続や、第三者からの情報取得手続を用いる

という方法があります。


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。

本記事では、
「債権回収のための調査と仮差押え ~未登記建物 / 売掛債権~」
について、詳しくご説明します。

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情報収集のポイント

取引先の概要を知る

はじめに、情報収集のポイントとして、 取引開始前に信用調査・情報収集をすることが不可欠です。情報収集の目的は、取引先の実態を明らかにして、取引を開始するかどうか、与信の決定を行うことにあります。

情報の質が高く、量が多いほど情報の信頼性が増します。
取引開始後は、この情報に基づき、与信管理、取得した担保の評価・再評価による担保管理、必要に応じた追跡調査をしていくことが必要です。

まず、取引先の概要としては、個人なのか、法人なのか、組合なのか、という点を確認しましょう。
会社名のみでは判断ができないため、注意しましょう。

個人事業者であれば、個人の住所・氏名を確認しましょう。
また、ジョイントベンチャーなどの民法上の組合は登記されないので、場合によっては、ジョイントベンチャー契約の概要を開示してもらいましょう。

法人には、会社だけでなく、一般社団法人・一般財団法人・公営社団法人・公益財団法人・医療法人・社会福祉法人などがあります。 法人登記や、商業登記の登記事項証明書を確認することでどれに当たるのかを把握しましょう。

仮に上場会社であれば、「有価証券報告書」や「会社四季報」などで情報を得ることができます。
また、近年は、各社のホームページでも沿革や事業内容を載せている会社が少なくありません。

一方で、未上場の場合は、信用調査会社の信用情報を入手することや、企業情報提供サービス会社を利用することが考えられます。 未上場会社では、インターネットで社名検索をするだけでは、実態を把握することが困難なことも多いため、代表者や役員名で検索することもしてみましょう。
また、最新の法人または商業登記の登記事項証明書(まずは履歴事項全部証明書)を入手しましょう。
本店所在地と実際の本社機能のある場所が異なっていることや、取引先から聞いていた本店が、定款変更により変更されていることもあるためです。

法人または商業登記の登記事項証明書は、有事の際に仮差押えや担保権実行のために裁判所での手続を執るためにも、不可欠です。

また、取引先から定款も入手しましょう。

全ての事項が法人または商業登記簿に登記されているわけではありませんから、機関設計などを把握するために有用です。

さらに、取引先が売掛債権や在庫につき、他の債権者のために譲渡担保を設定している場合があります。

その際には、債権譲渡登記や動産譲渡登記をしている可能性があるため、取引先の本店所在地を管轄する法務局で「概要記録事項証明書」を入手するなどして、その存在を調査することが考えられます。

また、譲渡担保の目的となっている動産について、契約上、保管場所で譲渡担保の目的となっていることを明示するよう譲渡担保権設定者(債務者)に義務付けられている場合もあります(明認方法)ので、取引先を訪問して確認することも考えられます。

本店(本社)所在地の不動産を調べる

本店(本社)所在地の不動産登記の登記事項証明書を入手しましょう。
取引先が本店所在地の不動産を所有している場合には、担保に供されているか否かも確認できます。

また、共同担保目録を確認することで、一緒に担保に供されている不動産を把握することもできます。

また、仮差押えを申し立てる際には、裁判所から、本店所在地の土地・建物の登記事項証明書の提出を求められることが多く、事前に確認しておくことが重要です。

なお、不動産登記事項証明書により、本店所在地の土地または建物が取引先の所有物件ではないとわかった場合、賃借物件である可能性が高く、その場合、取引先が敷金・保証金を差し入れている可能性も高いです。そのため、敷金返還請求権などを担保にとることや、仮差押えすることが考えられます。

※住所表示と地番の対応関係を調べるには、

・法務局への地番照会
・民事法協会の登記情報提供サービスの利用者に無料で提供される地番検索サービス
・ブルーマップ(ゼンリンホームページ参照)

を使用します。

経営や財政の状態を知る

取引先から、直近3期分ほどの計算書類(貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書。)の提出を受けましょう。
また、できれば勘定科目明細についても確認したいところです。

なお、上場会社であれば、EDINET「⇒金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム」で有価証券報告書などを閲覧できます。

これらの書類で、取引先の経営状況・財政状態を確認することができます。
また、貸借対照表及び勘定科目明細を確認することで、担保権を設定できそうな財産の調査に役立ちます。

さらに、取引金融機関が分かることも多く、預金債権の仮差押えをする手がかりとなります。

また、可能であれば、キャッシュフロー計算書も入手したいところです。なぜならば、経営状況・財政状態は、資産の評価や売上原価の評価によって左右され、実態をそのまま示しているとは限らないからです。
キャッシュフローが確認できれば、より精度の高い与信管理ができます。

取引先を訪問する

書類等の調査だけではなく工場や倉庫に実際に足を運び、その雰囲気を押さえることは重要です。

在庫状況を確認できれば、集合動産譲渡担保権を設定する場合や、動産売買先取特権を行使する際にも役立ちます。

また、取引前の段階でも代表者や役員と面談するなどして、書類では分からない生の情報を得ておきましょう。その際に主要な取引先が確認できれば、売掛債権の担保取得の可否を検討でき、仮差押えや動産売買先取特権の行使にも役立てることができます。

商流・物流を知る

商流や物流(商品の流れや金銭の流れ)を聴取し、把握することも重要です。

特に在庫商品の保管場所が自社の倉庫であるか、第三者が営業する倉庫であるかを聴取しておくことが大事です。

商社や問屋であれば、仕入れた商品を在庫とはせずに転売することもあります。
動産売買の先取特権が行使できる場合もあり、債権保全や回収のために重要な情報となります。

経営者の財産状況を知る

代表者の家族関係や個人資産の状況も把握しておくのが望ましいです。

代表者個人による保証や代表者個人の財産による物上保証により、さらなる取引の安全を図るために重要な情報だからです。

しかしこのような情報は、会社の経営、財産状況に比べ、プライベートな情報のため、開示を求めても拒まれることも考えられます。

商業登記の登記事項証明書には、代表者個人の住所が登記されているため、最低限、判明した住所地の土地建物について不動産登記の登記事項証明書を取得し、財産状況を調べておきましょう。

収集した情報を整理、保存する

こうして得られた情報は、事前の与信判断の材料になり、取引後の債権回収の段階でも役立ちます。

過去の情報にも価値がありますので、取引先ごとに、時系列に情報を整理するなどして、情報を管理しましょう。
取引が継続する間は、常に新しい情報を取得するように心がけていきましょう。

未登記建物について

未登記建物の調査方法

なぜ未登記建物が存在するのか

不動産登記法47条1項において、「新築した建物又は区分建物以外の表題登記がない建物の所有権を取得した者は、その所有権の取得の日から1月以内に、表題登記を申請しなければならない」と定められているため、通常は建物につき、登記簿が作成されます。

新築時に融資を受ける場合には、抵当権設定登記をするために建物の登記が不可欠ですので、必ず登記簿が作成されますが、融資を受けずに新築したような場合、未登記のままであることがあります。

また、増築した部分や、車庫等が未登記のままであるというような場合が考えられます。
さらに所有者が、登記できない物件であると誤解しているために、未登記になっている場合もあります。

とはいえ、所有者自身はその物件の存在を認識・管理しているのであり、課税庁も固定資産税徴収のために、資産台帳を別途整備していることも多いです。

しかし、特定の土地上に存する建物という形での検索を実施しても未登記建物は表示されません。そのため、債権者が、登記情報から未登記建物を探索することは困難です。

具体的な調査方法

未登記建物の調査方法としては以下が考えられます。

●債務者に対し情報提供を求める

●現地を訪問し、登記済みの物件を確認し、残った未登記建物を見つける
※法務局には、登記記録だけではなく、公図や地積測量図、建物図面なども備えられているので、登記事項証明書に加えてこれらの図面を取得することで、調査の手がかりとすることもできます。

●債務者から、固定資産税納付通知書(納税通知書)を提出させて、同通知書に記載されている各建物(未登記建物も記載されています)が登記済みかどうかチェックする
※納税通知書に
①「未登記」と記載がある場合
②家屋番号が空欄の場合
は、未登記である可能性が高いです。
また、建物面積と登記の面積の記載に相違がある場合は、建物の付属建物の表題登記が欠けている可能性があります。家屋番号があっても未登記だったという場合もあるので、納税通知書に記載のある各不動産について、登記情報を確認する必要があります。

●市販の住宅地図・グーグルマップ等で未登記建物を見つける
※まず、住宅地図やグーグルマップで建物名を把握しましょう。さらに、住宅地図には、住所だけでなく、居住者名が表示されています。なお、表示されている居住者が所有者であるとは限りませんが、所有者が誰であるかの一応の目安をつけることができます。
所在地が判明したら、所在地の管轄の登記所に全部事項証明書を請求します(オンラインでの取得も可能です)。その結果、全部事項証明書が取得できなかった場合には、その情報を登記所が持っていない、つまり、未登記建物ということになります。

未登記建物に対する抵当権設定登記は可能か

未登記建物を発見できたとしても、登記簿がない状態では、抵当権設定登記をすることができません。
このため、債務者(=所有者)を説得して、表題登記所有権保存登記をさせ、同時に抵当権設定登記をする必要があります。

なお、債務者(=担保設定者)が真の物件所有者かを調べるため、市町村役場が発行する固定資産税納付通知書を提出させ、確認しましょう。

そのほか、建築確認通知書建物建築請負契約書建築請負代金領収書も所有権の帰属を示す資料となりますので、提出を求めるとよいでしょう。

未登記建物に対する仮差押え

債務者が抵当権設定登記手続きに協力しない場合は、仮差押えも検討しましょう。

ちなみに、仮差押えとは、裁判所の判決が出ていない段階で、債務者の財産の処分を禁止する裁判所の決定のことをいいます。
→仮差押えについての動画説明はこちら

また、取引先に対して、契約上、抵当権設定義務を負わせている場合、民事保全法53条2項の抵当権設定登記請求権保全のための併用型の処分禁止の仮処分をすることも考えられます。

売掛債権について

はじめに

支払遅滞になっている取引先が、大口の売掛先(得意先)を有している場合には、得意先から売掛金が回収できれば、その資金で任意の支払をしてくれることが考えられます。

仮に、取引先から売掛金が支払われても取引先から支払いがなされない恐れがある場合、得意先に対する売掛債権に対して強制執行を検討する必要がありますが、売掛債権の場合、不動産などと異なり、換価の必要がなく回収が容易です。

取引先の売掛債権の調査方法

取引先の売掛債権等の債権の存否は、通常、公開されていませんが、以下の方法によって推知することができます。

①取引先のホームページを確認
多くの企業では、自社企業の良好な経営状況を示すために、優良な納品先を率先して得意先として記載している場合があります。そのような得意先は、上場会社や地方公共団体など、支払能力が高く、法的な対応に慣れているところが多いです。
よって、そのような得意先を第三債務者とする債権の仮差押えや差押えをした場合、この第三債務者から円滑に支払いを得られる可能性が高くなります。

➁信用調査会社(帝国データバンクや東京商工リサーチ等)からの情報を確認
信用調査会社の信用調査報告書には、取引高順位等のような詳細情報が記載されていることもあります。そこで、このような情報があれば、仮差押え等の対象となる売掛債権等の有無を調査することができます。

➂会社法442条3項に基づき債権者として閲覧または謄写した計算書類等を確認
会計帳簿・計算書類等・法人税申告書はそれぞれ別の書類ですが、中小企業では、法人税申告書に添付する資料として一体で保管していることが多いです。
そのため、計算書類等の閲覧をする過程で、計算書類には含まれないはずの売掛金の附属明細書等にある顧客名を、事実上知ることができる場合があります。

④民事執行法上の財産開示手続や第三者からの情報取得手続による確認
すでに債務名義を有しているような場合には、民事執行法に定めのある財産開示手続(民事執行法196条以下)や第三者からの情報取得手続(民事執行法204条以下)をとることも考えられます。
ちなみに、財産開示手続とは、債権者が債務者の財産についての情報を取得するための手続です。手続が行われたからといってすぐに債務者の財産一覧表が手に入るわけではなく、債務者が自己の財産状況を裁判所にて述べるものです。債権回収のためには、その手続きによって取得した財産の情報を基にして、別途、強制執行手続(債権差押えなど)をすることが必要になります。

また、不動産・給与・預貯金・株式(国債等を含む)に関する情報は、第三者からの情報取得手続によって取得することができます。この「第三者」はその情報を有している者を指します。
例えば、不動産情報なら法務局、給与情報なら市区町村や日本年金機構、預貯金情報なら銀行や信用金庫、株式情報なら口座を管理している証券会社などです。

なお、 ➂・④の方法については、債務者に差押え等の措置に出ることを予告することになるので、まずは、 ①・➁のような任意での情報取得を試みた上で、それでも情報取得が困難な場合に行うことが望ましいです。

さらに、取引先が商社のような場合で、自社の納品先が転売先である第三債務者の倉庫となっている場合には、最終的な納品先として、転売先である第三債務者の名称と所在地を把握していることから、転売先への売掛債権と金額を容易に把握できるでしょう。

この場合、自社としては、動産売買の先取特権に基づく物上代位権の行使として、取引先が第三債務者に対して有する売掛債権を差し押さえます。

動産売買の先取特権(民法311条5号)とは、物の売買があった場合に取得する、特定財産への優先的な債権回収の権利のことです。この権利を行使することで、売買された商品が別の第三者に対してすでに転売されている場合にも、債務者の転売代金を動産の代わりに差押えて(=物上代位)、債権回収を行うことができるのです。

調査に当たっての注意点

債権が実在するか否かの確認

売掛債権は、不動産や動産と違い、目に見えないため、本当に有効な債権があるか否かを確認することが困難です。決算書や勘定科目内訳書に一定の売掛金が計上されていたとしても、粉飾決算が行われており、売掛金が実在しないという場合や、債権額が実際には帳簿価格より少ないという場合も考えられます。

そのため、確実に売掛債権を把握するためには、自社の取引先が債権を有する相手、つまり第三債務者に問い合わせて、取引の実態や内容を確認することが考えられます。

その結果、過去に取引はあったが現在は取引がないことや、第三債務者が倒産又は財務状況が悪化しており売掛債権が回収不能であることが判明する場合もあります。

ほかにも、債権の存否を確認するために、取引先から債権の発生原因となる契約書類の開示を受けることも考えられます。

また、債権が取引先から他の第三者に譲渡されている場合もあります。
その場合、取引先(譲渡人)から当該債権の債務者(第三債務者)に譲渡通知がなされていることが通常なので、第三債務者に確認することにより、債権譲渡がなされているかどうかを知ることができます。

なお、法人がなす金銭債権の譲渡等については、債務者以外の第三者に対する対抗要件を簡便に備えるための制度として、「債権譲渡登記制度」があります。

そのため、特に法人の金銭債権を対象として担保を設定するような場合には、債権譲渡登記の有無を確認することも必要です。

債権の変動の把握

債権の性質として、その存否や額が常に変動しうるものである点に注意が必要です。
例えば、取引の増加により売掛債権の額が増えたり、一方で、取引の減少により額が少なくなったりすることもあります。

まとめ

このように調査方法を見ていくと、未登記建物・売掛債権ともに、その存在や内容を取引先に直接聞くことが一番早急な方法とも言えます。

しかし、売買代金を支払えないような財務状況が悪化した状況で、少しでも資産や債権を保全したいと考え、正直に答えてくれないという場合も少なくありません。

そのため、上記で述べたような、客観的な資料を参考にするなど、自らの行動だけで完結できるような方法を組み合わせることで、未登記建物・売掛債権の存在や内容をできるかぎり正確に把握しましょう。


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